第24話 榊 和葉からの依頼

バレンタインデーの次の日の午後。

その交差点に現れた男性の異様な雰囲気。

みな、その男性を避けて通る。


二十歳くらいの年齢。

山伏のような道着。足元は足袋に草履。

頭の毛が坊主でない所を見ると、お坊さんでもないようである。

その男性はきょろきょろと交差点を見まわしながら渡ってくる。


交差点脇の手すりの上に座る少年。しかめっつらで見ている。

少年は、ため息をついて声をかけた。

「こんにちわ、おにいさん」

男性はちょっと、ひるんだ表情をしたのちに聞いてくる。

「こんにちわ。少年。つかぬことを聞くが、ここらにヒロという人物がいると聞いたがご存じないか?」

少年はあきれたように言う。

「なんで、そんな目立つ格好してるの?それに寒くない?」

男性はムッとした表情になる。

「ヒロは僕だよ。おにいさん、和葉さんの知り合いだよね?」


その男性、楠 一重は、榊 和葉より命じられて東京までやってきた。

曰く

・ここに来ればヒロという人物に会える

・ヒロという人物に、榊 和葉が助力をお願いしたいと伝えること

 京都まで来てほしいと依頼すること

・くれぐれも失礼のないように 礼を尽くすように


しかし、まさかこのような子供だとは思ってもいなかった。

「おぬしが、ヒロであるという証拠はあるのか?」

「証拠なんかないよ?」

「信じられぬ、和葉殿がまさかこのような子供に助力を願い出るなど」

「なんか時代劇臭いよ、その話し方」

「なにい?」

もはや、怒りを抑えきれない。

「和葉さんに聞いてないの?僕は夜まで動けないよ。

 もう、京都に帰ったら?」

「ぐぬぬ・・・、なんて失礼な奴だ」

顔を真っ赤にして怒る。

どうみても、こんな子供が役に立つとは思えない。

「もういい、話にならん」


一重は、京都への新幹線の中で榊 和葉にどういうかを頭を悩ませた。

今回の案件は非常に重大で危険と聞いている。

あんな子供が役に立つはずはない。

そもそも、夜にならないと動けないとは・・京都に来る気がないではないか。

京都に戻るまで、怒りで思考ができず、言い訳も思いつかなかった。



京都の山にほど近い榊家の邸宅。

東京から戻ると、すでに夜になっていた。

門をくぐり、和葉へ報告のために案内を願った。

すぐに榊 和葉がやってきて言った。

「遅いぞ。もういらして居るわ。」

「は?」

「何を呆けておる。もう来てはるがな」


案内された部屋のふすまの向こうに、和葉は声をかけた。

「すんませんなぁ。そんなものしか用意できへんさかいに」

「大丈夫。和服なんて久しぶりに着たよ」

東京で聞いた少年の声。

自分より先に着けるはずがない。

ありえない。


すぐにふすまが開いた。

そこにいた人物の姿を見て、一重は絶句した。

見たものが信じられず、なにも言葉が発せられない。

「な・・・え・・・いったい・・?」

「ほんま、よう似合いはりますなぁ・・」

ほれぼれした顔で和葉はその人物を眺める。

「じゃあ、行きましょうか?彼と会うのは久しぶりだ」

「ほれ、一重 何を呆けておる。はようせい!」


あまりのことに硬直して身動きできない一重を和葉は蹴とばした。


その夜、京都ではひそかに鬼退治が行われたらしい。

強大な鬼の封印が解けたにもかかわらず、ある青年の活躍によりいかなる怪我人も死人も出なかったという。




◇◇◇◇◇◇

もともとは、鬼退治メインの話だったんですが、かなり割愛し短い話にしました。

理由については、近況にでも書こうと思います。


鬼退治の話などがもっと読みたい!ってい人がいたらコメントに書いてください。

要望があれば書いていこうと思います。

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