第23話 バレンタインデー

2月14日は日曜日ということもあって、街はにぎわっている。

バレンタインデーの贈り物はすでに購入済みではあろうけど、デートと思われるカップルたちが多く行きかっている。


少年は、交差点近くの手すりの上からその様子を見つめている。

すると、ちょっと険しい顔になりため息をついた。

そこへやってきたのは婦警姿の榊 怜子。

にっこり笑い怜子に声をかける少年。

「ナイスタイミング、怜子さん。一緒に来て」

というと、自ら手すりを降り歩いていく。

「またぁ?」

怜子も一緒に歩いていく。

向かう先は交差点の反対側で、待ち合わせをしているらしい少女。

高校生くらいだろうか?

怜子もようやく気が付いた。


「こんにちわ、お姉さん」

少年が声をかける。

少女はゆっくりと振り向いた。

顔が赤い。目つきがとろんとしている。

そして、ふらっと・・ふらついた。

慌てて怜子が抱き留める。

額に手を当てる怜子。すごい熱である。

「怜子さん、あとお願いしていい?」

「えぇ、交番に連れていくわ」

少女を抱きかかえるように怜子は交番のほうに歩いて行った。

それから、ほどなくしてそこに現れた高校生くらいの少年。

きょろきょろとしている。

「こんにちわ、お兄さん」

ぎょっとする少年。そこにはヒロが立っている。

「さっき、ここに高校生くらいの女の子がいたけど具合が悪いみたいで

 お巡りさんがあっちの交番に連れて行ったよ」

「え?マジ?行ってみるよ。さんきゅ!」

走っていく少年。

ヒロは交差点を渡っていつもの手すりに戻っていった。

そして、ため息をつく。


30分くらいして怜子がやってきた。

「本当にありがと。またインフルエンザみたいだったわよ」

「怜子さんもお疲れ様。もうここで見張ってたほうが良いんじゃない?」

「そうしようかしら」

こんなことが、今日はすでに3件目。

インフルエンザが大流行している。

「具合が悪いのに、チョコを渡しにわざわざ来るなんて。うつすかもしれないのにね」

「ほんとうね」

目の前はカップルか待ち合わせの若い男女が行きかっている。

「怜子さんは誰かに渡すの?」

「そんな相手いないわよ。ヒロ君は誰かにもらったの?」

「うん、佳織さんとかりんちゃんにもらったよ」

「なあほど」

67歳の喫茶店の店主とヒロを慕う小学生。

幅広い年齢の女性に慕われてる。


すると、交差点を渡ってこちらに向かってくる女性。

ヒロと怜子はちょっと驚いてキョトンとした表情になる。

「こんにちわ、ヒロ君」

「こんにちわ、奈美さん。今日は仕事じゃないよね」

やってきたのは松下奈美。

しかしながらいつもと違って、着飾っており。化粧もばっちりである。

「どうしたの?デート?」

「やだなぁ、ヒロ君にチョコを渡しに来たに決まってるじゃない。はい、これ」

バッグから包装されたチョコレートをを出して渡す。

「ありがとう、奈美さん」

ヒロは気づいていた。バッグの中にもう一つチョコがあったことを。

にやっと笑って言った。

「それで、同窓会の時の彼氏とはどこでデートするの?」

すると、急に慌てだす奈美。

「え?いや、そんなんじゃないわよ。一回会って話そうってだけだから。デートなんてそんな・・」

あたふたとして、慌てている。

「あら、ようやく犯罪から足を洗うのかしら」

「いや、もともと犯罪なんてしてないし」

そんな奈美を見てキシシと笑うヒロ。

そこへ・・

「こんにちわ、ちょっといいかな?」

「こんにちわ、純子さん」

そこにやってきたのは山崎 純子。

「あ・・これ、世話になったから」

ヒロに包みを渡す。

「え?いいの?ありがとう!」

「いや、こちらこそ世話になってるし」

それを見て怜子が奈美をさらにからかう。

「ほら、ヒロ君はちゃんと同年代にみたいよ。あきらめなさい」

「ぐぬぬ・・」

自分はこれからデートだというのに、悔しそうな奈美。

”それにしても、この子本当にもてるわね~”

実は怜子も職場のバッグにチョコを入れている。仕事帰りにヒロに渡すつもりだったのだ。

「ところでさ、このおばさん達なんなの?」

いきなり爆弾を投下する純子。

「「お・・おばさん??」」

奈美も怜子も、この瞬間から純子のことを嫌うようになった。



岸野 佳織は喫茶店でミルクが不足したため買い物に出た帰り。

交差点では、少年の周りにいる数人の女性が楽し気に話している。

”最近、にぎやかになったわね”

通るたびにいつも少年が一人ポツンと手すりに座っていたのが気になっていた。

それが、だんだんと少年の周りに人が集まるようになってきている。



「あ・・ごめんなさい。怜子さん、またみたいだよ」

「また?しょうがないわね」

「え?なになに?なんなの?」

手すりを降りた少年は怜子を連れて歩いていく。

その先には交差点で座り込んでしまった女の子。

今日も相変わらず人助けをしているのだった。

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