第21話 松下奈美の同窓会

年が明けて数日後。

松下 奈美は高校の同窓会に出席していた。

少年のアドバイスにより、参加で返事をしていたのだ。

同窓会の会場は、ホテルの立食形式。思っていたよりも、かなり豪華である。

今回の幹事はかなり頑張ったようだ。


当時の担任(寿退職済み)の挨拶が終わると自由時間となった。

「奈美~久しぶり!元気だった?仕事忙しいらしいわね~」

「楓~久しぶり!元気だよ~」

「奈美に楓!久しぶりだね!」

久しぶりに会う友人たちと旧交を温める。

しかし、友人と話しながらも、奈美は男性陣をちらちらと横目で観察するのだった。


あそこにいるのは、当時サッカー部のキャプテンでモテモテだった榊原君だ。

「それでさ~店やってるんだけど、チョー大変でよ」

噂で聞いた話では、実家のラーメン屋で働いているそうだ。

それにしても・・もう頭頂部が怪しくなっている・・

当時は女性の人気No.1。かなり好きだったんだけどなぁ~


「今は、俺は雌伏の時なんだよ。ぜってービッグになってやる。」

あっちで大きな声で話しているのは、当時バスケ部で人気のあった土方君。

今はフリーターらしい。

当時、告白して振られたんだっけ・・・


その向こうで、にこにこと笑っているのは福山君。

当時から癒し系で人気があった。その癒し度に、ますます磨きがかかったらしい。

パンダそっくりに丸々となっている。

赤ん坊を抱いている。すでに結婚しているらしい。


はぁ・・

当時私が気になってた男達って・・


「あ・・ところで私、今年結婚するから結婚式に出てね。

 案内出すので、よろしく!」

「か・・楓、裏切るの?」

「へえ・・楓もかぁ。私は今年の後半で考えてるんだけど」

「真奈美まで!?」


----


「って、感じだったのよ」

正月休みが終わった仕事始めの昼休み。

交差点にやってきた奈美は少年に同窓会の様子を語っていた。

その横には、遅番のためバイト前に交差点に寄った山田耕助もいる。

二人とも少年のところによく来るので顔見知りである。

「当時好きだった男たちはみんなダメ男になってたのよ!」

興奮気味に話す奈美。

耕助は無言で思う。

”俺は、将来そういわれないように頑張らないとな・・”


「へえ、でも友達と話せてよかったじゃない」

「そうだけど、みんな裏切り者よ」

キシシと笑う少年。

「奈美さんは高校の時って恋人はいなかったの?」

「告白は何度もしたわ!」

「それで、結果は?」

「全敗だったけどね!」

「あらら・・」

「今回わかったこけど、付き合わなくて正解だったってこと!それが救いよ」

「全員だめだったの?」

「そ!若いころの私って・・・ほんっと男を見る目がなかったのね!」


目をまん丸にする耕助。

少年も思わず人混みから目を離して耕助を見あげる。

少年と耕助はアイコンタクトで意思疎通した。





”若いころだけ?・・・今もでは?”




「で、奈美さんは同窓会で収穫はなかったのかい?」

耕助が奈美に聞く。

「え?収穫って?」

明らかに動揺して聞き返す奈美。

「男だよ。いい男はいなかったのか?」

「え・・?まぁ・・かっこよくなってた人は何人かいたかな・・」

ちゃんとした仕事についてる上にかっこよくなっていた男性は何人かいた。

当時は、みんな地味だったりガリ勉丸眼鏡だったりで気にもしなかった。

それが、今ではすっかりあか抜けて・・・


「若い女性って、ちょい悪とかにあこがれるって聞いたよ。そうだったの?」

少年が言う。

「ちょい悪か・・・俺はどう見える?」

「耕助さんは、優しくて誠実に見えるよ」

「う・・それじゃ、もてないじゃん」

「素敵な彼女がいるからいいでしょ」

「まぁそうなんだけどな」

キシシと笑う少年。


話がそれて安心してた奈美。

しかし、耕助は忘れていなかった。

「で、奈美さんはかっこよくなってた男と連絡先の交換とかしたんじゃないの?」


急に話が戻ってきて虚を突かれた奈美。

「え?・・・・あ・・・その・・・」

ちらちらと少年を見る。

「その様子だと、図星みたいだね?」

少年も見透かしてニヤッと笑いながら言う。

「いや、あのね。知ってる相手が幹事でね。あまり話せなかったからってね・・」

しどろもどろで、白状する。


----


”みんな結婚するのかぁ・・・”

かなり落ち込み、重い足取りで会場を出た時

「松下さん、ちょっと待って!」

後ろから呼び止められた。

振り向くと、さわやかな青年が走ってくる。

”誰だっけ・・・?”

「久しぶりです、松下さん。山下です」

「え?山下君?」


当時は、背が低く童顔だった少年。

地味な作業が得意だったので、みんなから雑用や委員を押し付けられていた。

体の良い雑用係。そういう存在であった。

奈美は、学祭の委員を一緒にやったので話をする仲ではあった。

恋愛対象には全く考えてはいなかったが。


「ごめんなさい、幹事をやってたんで全然話す時間がなかったんです。

 高校の時は一緒に委員をやってくれてたので話したかったんだけど」

「そ・・そうね、学祭で一緒にやったものね」

当時の面影で残っているのは童顔なところ。それが今では年齢よりも若々しく見せている。

本当に、さわやかな好青年って感じだ。

「もしよかったら、連絡先を渡すので今度話しませんか?」

「え?・・ええ!?」

奈美に紙片を渡してくる。

思わず受け取ってしまった。

「ごめんなさい、この後も後片付けがあるので。

 じゃあ、よかったら連絡ください!」

そう言って、足早に会場に戻っていく。

今回の同窓会は、内容も立派でそつなく進行していた。

きっと、山下君が幹事だったおかげだろう。

当時もまじめだったが、今もまじめなんだなぁ・・


奈美は渡された紙片を見る。メールアドレスが書いてある。

”ど・・どうしよう!?・・・”

気づかぬうちに、奈美の心臓はドキドキと鼓動を速めていた。

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