第18話 本庄 瑠璃子

元旦。

まだ夜が明ける前。

その小さな神社は人が少なく、近所の人が何人かお参りしているくらいである。

神社が祀っているのは少彦名神。医薬や農業の神様だ。


少年が柏手を打ってお参りする。

手を合わせ・・・小さく声をかける。

「ねぇ、君が亡くなってかなり立つよ。

 だけど、君たちといっしょに旅したこの国の人たちは君のことを忘れていないよ。すごいよね。」

そして頭を下げる。

小さく・・「じゃ、またね・・・カイ」とつぶやき、少年は境内を後にした。



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「あけましておめでとう、怜子さん」

「あけましておめでとう。やっぱりこっちにいたのね」

いつもとは違って、反対側の駅のそばのフェンスにもたれかかっている少年。

「正月から仕事大変だね」

「ヒロ君も相変わらずね、もうお参り済ませたの?」

「そこの神社じゃないけどね」

指さした先には、大勢の人が並んでいる。

みんな参拝しようとしているのだ。

「すごい人だよね」

「そうねえ・・じゃ、仕事だから行くね」

「うん。またね・・・今年もよろしく」

手を振って見送る。


それと行き違いで、高校生くらいの少年と中学生くらいの少女が、ヒロのところに急いでやってきた。

「こんにちわ、武史さん。あけましておめでとう」

「そんなことより助けてくれ!!」

「どうしたの?」

「どっかにトイレないか!?」

なるほど・・かなり焦っている様子だ。

「駅の向こうのお店が開いてたので借りれると思うよ。」

「さんきゅ!瑠璃子、ちょっとここで待ってろ。」

そう言って、早歩きで行ってしまった。

走ると危険なのであろう。


「こんにちわ、初めまして。」

少女に挨拶する少年。

少年と少女は、ほぼ同じくらいの年齢に見える。

「・・・こんにちわ。お兄ちゃんと知り合いなの?」

「うん、そうだよ」

少年はキシシと笑った。


「今日は、家族で初詣?」

「ううん、お兄ちゃんとだけ」

「お父さんとお母さんは?」

「二人で家にいる・・・」

「一緒には来なかったんだ。」

「一緒じゃない方がいいから。」

「一緒じゃないほうが良いの?」

「だって・・・お母さん、本当のお母さんじゃないし。」

「うん、武史さんから聞いてるよ。でも仲いいんじゃないの?」

「お父さんとお兄ちゃんはね・・・」

「君は違うの?」

「だって・・なんか気まずくない?」

「まぁ、いきなり仲良くなるのは大変だけどね。」

「うん・・それに・・」

「それに?」

「お父さん・・お母さんにデレデレで見てらんなくて。」

少年は、キシシと笑って言った。

「それが気に入らないんだ」

「やだ!嫉妬とかじゃないわよ。でも、お父さんも男だったんだなぁって・・」

「なるほどね・・まぁ、男だからしょうがないけどね」

「わかってはいるんだけど・・」




「じゃあ、お父さんからお母さんを奪っちゃえば?」



驚く少女。

「奪うって・・・?」

「お父さんより仲良くなっちゃえばいいんじゃない?」

「・・なにそれ」

「そしたら、お父さんといる時間より君が一緒にいる時間のほうが長くなるし」

「なにそれ」

「いいと思ったんだけどなぁ」

「バカじゃないの?」


その時、ようやく本庄 武史がやってきた。

「ふぅ・・助かったぜ。サンキュ」

「よかったね。間に合わなかったら大変だ」

キシシと笑う。

「じゃ、これからお参りだから。」

そう言って、妹の手を握る兄。

「人が多いから気を付けてね」

その時、少女が聞いてきた。

「あんた・・名前は?」

「ヒロだよ」

「ふうん・・・私は瑠璃子。」

「瑠璃子ちゃんね。じゃ、またね」

「また会うかはわからないけどね」

兄妹は神社に並ぶ列の最後尾に向かって行った。



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(後日)


正月も終わってしばらくして、再び武史は交差点にやってきた。

「こんにちわ、おにいさん」

「こんにちわ。お前、瑠璃子に何を言ったんだよ」

首をかしげる少年。

「変なことは言ってないよ?」

武史は困ったように言った。

「あれから瑠璃子は義母さんとべったりで・・お菓子とか一緒に作ったりしてさ。」

「いいんじゃない?」

「そのせいで・・・親父がますます拗ねちゃってね・・どうしよう?」


少年は、キシシと笑って嬉しそうに言った。

「もう、責任を持てないなぁ」

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