第17話 それぞれの年の瀬

クリスマスが終わって街を行き交う人の数はかなり減った。

他の街ならば年末の買い出しで賑わうのだろうけど、ここは食料品の店などはあまり無い。

まぁ、正月になれば初詣や初売りでまた賑わうことになるだろうけど。

「こんにちわ、ヒロ君」

「こんにちわ奈美さん」

「ようやく仕事納めが終わったよ〜」

「おつかれさま、今年一年大変だったみたいだからゆっくり休めるね。」

「ありがとう〜」

松下 奈美は、優しい言葉に思わず少年を抱きしめたくなった。

手を広げ、少年の方に歩み寄る・・・

「ちょっと、何してるの?」

背後から、刺々しい声をかけられて静止する。

振り向くとそこには険しい顔をした婦警さん。榊 怜子だ。

「ちっ・・いいところだったのに」

「あなた、まだ懲りてなかったの?だいたい法律のことわかってるの・・」

「こんにちわ、怜子さん。お仕事おつかれさま。」

少年に挨拶されて、怜子も思わずほっこりしてしまう。

「こんにちわ、ヒロ君。変な人についていっちゃだめよ。」

「変な人って・・誰のことかしら。」

そのやり取りをみて、少年はキシシと笑う。

怜子が去っていった後も、奈美は世間話を続ける。

「ヒロ君、年末年始の予定は?」

「もちろん、ここにいるよ。でも、元旦はあっちかな。」

駅の反対を指差す。

「あぁ、なるほど」

そちらには、有名な神社がある。そこに行くのだろう。

「奈美さんは帰省するの?」

「帰省と言っても、近くだけどね。埼玉だから。実家でゆっくりして・・同窓会にでも行くわ。」

「そういえば、同窓会に行くって言ってたね。」

「そう、高校の同窓会。」

「どこだったの?」

「埼玉のW高校よ。」

「・・・・」

あれ?

返事がないので、少年を見ると驚いた顔で奈美を見ていた。

「・・・奈美さんて、W高校だったの・・・?」

なんだろう、信じられないものを見たような眼で見てくる。

「そうよ、知ってるの?」

「・・あはは・・・かなりの進学高校だって聞いてるからね。」

「なあるほど、さすがに知ってたかぁ。」

「じゃあ、奈美さんは勉強できたんだね。」

「うーん、そうなのかな?高校のときは結構遊んでたけどね。」

「そうなんだ」

「まぁ、3つ上の先輩はもっとすごかったって聞いてるけどね。」

少年は、顔を引きつらして聞いた。

「すごいって?」

「なんか、すごい人がいっぱいいたらしいわよ。」

「ふうん、進学校でもそうなんだ。」

あはは・・と笑う少年の顔はまだ引きつった表情のままだった。

”親戚でも通ってたのかしら?”と奈美は思ったが、それ以上は聞かないことにした。

なんとなく、少年が聞いてほしくなさそうだったからである。

「じゃあね、ヒロ君。いいお年を。」

「奈美さん、良いお年を。」

手を振る少年。


夕方、少年のところに缶コーヒーをもって耕助がやってきた。

「こんにちわ、耕助さん」

「よう!これ奢りね」

と言って缶コーヒーを少年に渡す。

「ありがとう!耕助さんは年末もバイトなのかな?」

「まだまだバイトだよ。稼ぎ時だしね。」

まだ、忙しいらしい。

「大変だね、バイトしたお金で欲しいものでもあるの?」

「バイクが欲しいんだよなぁ。まずは免許からだけど」

「へえ、すごいね。」

「まぁ、年末年始は学校もないのでバイトし放題だから頑張るよ」

「うん、頑張ってね」


そろそろ夜になる時間。

榊 怜子が私服でやってきた。仕事が終わったらしい。

「こんばんわ、ヒロ君」

「こんばんわ、怜子さん」

「このマフラー、ありがと。暖かくて、気に入っているわ。」

「いえいえ、どういたしまして」

にっこりと笑う少年。

「年末年始もここにいるの?」

「元旦はあっちの神社のほうにいると思うよ。」

「なるほど、あっちの方が人多そうだね。」

「うん、怜子さんは年末年始は?」

「この仕事、年末年始の方が忙しいわよ。」

「そうだよね、今回は渋谷にはいかないの?」

「もう、渋谷は勘弁して~」

うんざりしたように言う怜子。

それを見てキシシと笑う少年。

「そういえば、お婆ちゃんがヒロ君はまだここにいるかって電話で聞いてきたわよ。」

「ふうん、なんだろう?」

「さぁ・・わからないけど。じゃあ、そろそろ帰るね。ヒロ君も早く帰ってね。」

「うん、そろそろ僕も行くよ。」


手すりから降りる少年。

じゃあね、と手を振ったあと人込みに消えていった。


それぞれの年末。穏やかに過ぎていくことだろう。















「さて、向こうは朝になってるなぁ。急がなきゃ。

 それにしても奈美さんが、W高だったなんて・・

 多分、会ってないと思うけど、彼女にも聞いてみよう。」

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