第15話 松下 奈美のクリスマス

「こんにちわ、奈美さん」

「こんにちわ、ヒロくん。今日もいるのね。」

松下奈美は昼ごはんを食べたあと、交差点に来た。

そこの手すりにいつものように少年が座っている。

奈美はペットボトルの温かい日本茶を2本持ってきている。

そのうちの1本を少年に渡した。

「ありがとう、奈美さん」

お茶を飲みながら聞く。

「ヒロ君はクリスマスの予定ってあるの?」

「もちろん」

キシシと笑って言った。

「ここに来るに決まってるじゃない。」

ブレない少年であった。

「ふうん・・」

「奈美さんは予定あるの?」

「なあんにも・・・」

奈美は困っていた。

彼氏と別れた奈美にとって、クリスマスまで新しい彼氏はできそうもない。

友人たちは、それぞれ彼氏と過ごすらしい。

このままでは、クリスマスはボッチ。

一緒に過ごしてもいいと思える異性なんて・・・

ちらっと、少年を見る。

一緒に過ごす異性・・・

「ヒロ君、クリスマスはここにいるのは昼間よね?夜・・もしよかったら、一緒にご飯食べない?」

「夜は大丈夫だよ?」

「ほんと!?」

自分でも驚くほど、嬉しくなった。

顔がほころんでしまう。

「じゃあお店どうしようか?」

「知っているところに聞いてみるよ。でも、後ろのお姉さんの許可がいるかもね?」

「後ろのお姉さん?」

そこには、婦警の制服姿の榊 怜子がいた。


ーーーー

「ちょっと、あなたこっちに来なさい。」

怜子は奈美を少し離れた場所に連れて行く。

「あなた、何しようとしているかわかってるの?」

「え・・何って?」

とまどう、奈美。

「例えば・・25歳の男性が中学生の少女を家に連れ込んだら犯罪でしょ?」

「もちろん、そんなことするような男は下劣な犯罪者ね。」

「それ、男女が逆でも犯罪だからね?」

キョトンとする奈美・・・

が、すぐに理解した。

「やだなぁ、ご飯食べるだけよ。ヒロ君にはお世話になったから。あはは・・」

「本当でしょうね?」

「もちろんよ!」

かなり慌ててうなずく奈美であった。


ちょっと離れたところにいる少年は、キシシと笑った。

ーーーー


今日はクリスマス。

街は賑わっている。カップルや家族連れが行き交っている。


今日も奈美は仕事であったが、18時30分に職場を飛び出した。

向かうは、いつもの交差点。

そこには、やはり少年がいた。

白いダウンに赤いマフラー。

なんとなくクリスマスっぽい服装である。

「こんばんわ、奈美さん」

「こんばんわ、ヒロくん。今日・・大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。レストランも予約しておいたよ?」

「レストラン?すごい!ありがとうね。」

中学生に予約させてしまって、奈美は反省した。

「じゃあ、ちょっと早いけど行こうか。こっちだよ。」

にっこり笑って、手すりから降りた少年は奈美をエスコートする。

「はぐれないようにしないとね」

と手を握ってくれた。

奈美は、その手の暖かさにドキッとした。



「え・・うそっ・・ここって、最近人気のレストラン・・・」

レストラン『レガーロ』。

最近は、とても人気で平日でも予約が取れないと噂のレストラン。

その扉を少年は開けて入っていく。

「ここだよ、さあどうぞ」

「え・・予約、大丈夫なの?」

半信半疑で入る奈美。


「いらっしゃい!」

店員が声をかけてくる。

「こんばんわ、ごめんなさい無理言っちゃって。」

少年が、旧知のように店員に言う。

「なあに、ヒロ君の頼みなら無理矢理にでも席を用意するとも。なにせ、うちの恩人だからね。」

え・・・?え・・・?

奈美は驚くばかりである。


ウェイトレスに案内してもらい席につく。

「今日はクリスマスのコースです。ゆっくりしていってください。」

「じゃあ、飲み物を注文しようよ。僕はもちろんジュースだけど。奈美さんはワインとか頼んでいいからね。」

「あ・・じゃあ、おすすめのワインとかありますか?」

「はい、こちらのイタリアの赤ワインがきょうの料理におすすめですよ」


「奈美さん。メリークリスマス。」

ジュースとワインで乾杯する。


すると、少年はガサゴソとデイバッグから紙包みを出してきた。

「奈美さん。大したもの用意できないけれど、クリスマスプレゼント・・受け取ってもらえる?」

「え・・・プレゼント?いいの?」

「うん、開けてみて。」

そこから出ていたのは、毛糸でできたあたたかそうな手袋。

奈美はとても嬉しくなった。

「ヒロ君・・ありがとう。嬉しいよ」

「どういたしまして」


やがて運ばれてくる料理。

どれも、とても美味しかった。


奈美は、いままでこんなに素敵なクリスマスディナーを経験したことがなかった。


ーーーー


食事も終わって、店を出た二人。

「デザート・・とても美味しかった。ヒロ君今日は本当に、ありがとう。」

会計しようとしたら、店の人が気にするなと言って受け取らなかった。

奈美は、ヒロがとてもすごい人のように思えてきた。

ワインで少し酔っている奈美。

”あぁ・・幸せだなあ”

こんな幸せな気分は初めてだ。


ヒロと二人、歩いて駅にまで来た。

奈美は自分のアパートまでタクシーで帰るつもりだ。

駅のタクシー乗り場は混んでいた。でも、もう少しで乗れそうだ。

奈美は、酔った頭でふと思った。

”帰ったら・・アパートで一人かぁ・・

それは寂しいなぁ・・・”

一緒に待ってくれていた、少年を見る。


思わず、口にしてしまった。

「ひ・・ヒロ君、一緒にタクシーで帰らない?」

すると、少年はキシシと笑って言った。

「でも、そのお姉さんが許してくれないと思うよ?」

え?

っと振り返ると・・・

そこには憤怒の形相の婦警怜子がいた。


ーーーー

涙目になってタクシーから手を降る奈美を見送ってから、ヒロは怜子にお礼を言った。

「怜子さん、ありがとう。奈美さんも酔ってただけだから許してあげてね。」

「ほんと、気をつけなさいよ。変なお姉さんについていっちゃだめだからね」

「うん、大丈夫だよ。」

と言ってキシシと笑う。

「怜子さん、クリスマスなのにお仕事大変だね。お疲れ様。」

「まぁ警官には年末年始関係ないからね。」

肩をすくめる怜子。

すると、少年はデイバッグからガサガサと包みを取り出して怜子に渡した。

「勤務時間中にごめんね。怜子さんにクリスマスプレゼント。」

「え?」

思わず受け取ってしまった怜子。

「メリークリスマス!じゃあまたね!」

と言って少年は駅の人混みに消えていってしまった。


後ほど、仕事が終わってから包みを開けた怜子。

それは、あたたかそうな白いマフラー。

怜子は、嬉しく思うと同時に考えた。

”これは、惚れてしまいそうになるわね

。ヒロ君は女たらしの才能ありそうね・・”


◇◇◇◇◇

クリスマスネタは以上です。

10月にクリスマス終わってしまった・・・

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