第12話 山崎 純子のクリスマスプレゼント

”相変わらず、人が多いわね”

山崎 純子は駅から外に出た時点で、もう人混みに酔ってしまいそうだった。

”はぁ・・・一応は来てみたけど、やっぱり帰ろうかな?”

純子は人混みが好きではない。

ここに来たのは、クリスマスプレゼントを探すため。

といっても、恋人がいるわけではない。

両親と姉のためのプレゼントだ。


人混みが嫌いではあるが、この街に来た理由は・・

以前、来たときに少年と出会うことで、絵に目覚めることができた。

もしかしたら、あの少年にまた会うことができるのでは、と思ったからである。

会えたら、お礼が言いたかった。

その少年は、交差点を渡ったところの手すりに・・

「やっぱり、いるんだ・・・」

「こんにちわ、お姉さん。久しぶりだね。」

少年は、キシシと笑った。

「こんにちわ、私のこと覚えている?」

「覚えてるよ。美術館に行ったんだよね」

「あのときのお礼が言いたくてね。その後、絵を描くようになったんだ。君のおかげだよ。ありがと。」

「お礼してもらうほどのことはしてないよ。絵を描くんだ。どんな絵?」

「まだ、静物画かな・・でも結構楽しい。春になったら風景画を描いてみようと思う」

「じゃあ、駅の反対のところなんていいかもね。」

そちらには、神社があり公園もある。

「そうかも・・ありがと」

「今日は、何しに来たの?」

「家族にプレゼントを探しに来たんだけど・・・ね」

そう言って、少年の隣で手すりにもたれる。

「人混みで、嫌になるなあ。もう帰ろうかな」

「年末が近いからね。人は多いよ。」

人混みをじっと見ながら少年は言う。

「あんた、寒くないの?」

少年は白いダウンを着ているとはいえ、寒空の中ずっと外にいるのは寒いだろう。

「カイロを持ってるから平気だよ。」

「そう?」

「プレゼント、何か決めているの?」

「いや、全然。何にしようかなぁ」

「何か、共通の趣味とかはないの?」

「そんなものはないかな。でも、手袋とかマフラーとか、暖かくなるものがいいかも」

少年を見て、そう考えたのだ。

「それじゃあ、あそこのビルなんかお店が多いかな。」

「へえ、そうなんだ。行ってみるよ。」



少年はあいかわらず、街を行き交う人々をじいっと見ている。


「人混みを見てて楽しい?」

思わず聞いてしまった。

「うーん、人を探してるんだ。」

少年は、優しく微笑んだ。

「でもね、やっぱり人を見るのは好きかな。みんな、それぞれ同じようで違うからね。一人一人、色々考えてるし、色々悩んでるし。だからこそ、人間って好きだな。」

「ふうん」

純子はそういうふうに思ったことはなかった。

人混みなんて・・みんなおんなじようにしか見ていなかった。

一人一人、違うのか・・・



そういう目で見ると、群衆も違って見えるのかな。



「じゃあ、もう行くね。春になったら、絵を描きに来てみるよ。」

「へえ、それは楽しみだなぁ。描いた絵を見てみたいね」

「わかった、約束するよ。」

「うん、約束だね。」





そして、春になったら約束通り純子が少年の隣でスケッチを描くようになる。

それはまだ、今後の話。




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