第11話 榊 和葉
”やっぱし東京はせわしなくてあかんなぁ”
榊 和葉はタクシーの中から通り過ぎていく街の景色を見ながら思う。
クリスマス、そして年末に向けて街はとてもにぎわっていた。
人混みがすごいことになっている。
"どれどれ、まずは孫娘の働きぶりを離れたとこから観察しよかね"
「運転手はん。そこの交差点のところでええどす」
交差点でタクシーから降り立った和装の老婆。
あたりを見て、ため息をつく。
やはり、東京はなじめない・・と思う。
すると、突然声をかけられた。
「こんにちわ」
見ると、近くの道路の手すりの上に少年が座っている。
白いダウンに赤いマフラー。
不審げに和葉は少年を見た。
すると、少年はもう一度声をかけてきた。
「こんにちわ、和葉さん。久しぶり。」
久しぶり?
この少年に会ったことはあったであろうか?
まじまじと顔を見る。
整った顔立ち、白い肌に鳶色の瞳。
・・・・鳶色の瞳!?
次の瞬間、榊 和葉のとった行動に交差点は騒然となった。
「ヒ・・・ヒロ様! 大変!大変、失礼いたしました!」
と叫び、その少年の前に平伏したのである。
どう見ても、少年に土下座をさせられている老婆。
ザワザワと周囲が注目する中、少年は慌てて叫んだ。
「和葉さん!やめてください!お願いだから顔を上げてください!!」
どうにか、和葉を立たせた少年は手すりのところに並んで話し始めた。
周囲も、”なんだ知り合いか”と納得したようで通り過ぎて行った。
「申し訳あらしまへん。びっくりしてもうて」
「いえいえ、こんな子供相手なんだからもっと雑な対応でいいんだよ」
「そんなこと、できしまへん」
「それで、和葉さんは怜子さんに会いに来たの?」
「やはり、怜子のことご存じでおましたか」
老婆がスッと手を上げる。
二人の会話は、周囲には聞こえなくなっていた。
「TVで怜子のことを見ましてなぁ。おそらく、術を無意識に使ったのかと」
「そうだね、その場にいたけど・・・ちょとだけ漏れてたよ」
和葉はため息をついた。
「やはり、そうどしたか。あの子の父親はうちの三男坊でしてな。才がなかったさかい修行させへんかったんどすけどなぁ」
「怜子さんは?」
「子供のころ会ったんですけど、やはり才を感じへんかったんどす。
油断やったんやろうなぁ」
「怜子さん、僕の言霊を一度はねのけたから、そこそこの才はあると思うよ」
和葉はちょっと驚いた。
「ヒロ様の言霊を・・・それはなかなかどすなぁ」
「で・・どうするつもりなの?」
「まぁ、二通りしかないと思います。修行させるか、封印するか。」
和葉はため息をついた。
「まぁ封印するしかおまへんなぁ」
少年は首をかしげて言う。
「でも、刺青を使う封印は使えないんじゃない?警察官なんだし」
すると、和葉はニヤッと笑って言う。
「今どきの封印は透明なものがおましてなぁ。あっという間に封印できるさかい簡単どす。」
「ところで、ヒロ様はこちらで何してはりますのや?」
「人を探してるんだ」
「人探しどすか?」
「大切な友人に頼まれてね」
「お・・おばあちゃん!」
振り向くと、交差点から走ってくる制服姿の榊 怜子。
「こんにちわ、怜子さん」
「こんにちわ、ヒロ君。お婆ちゃん、こんなところで何してるの!?」
「来る言うたやろ。年末も年始も来ないいうさかい、来てやったんやろ」
「和葉さんって怜子さんのお婆ちゃんだったんだね。京都から会いに来たって聞いたよ」
「お婆ちゃん、寒いから暖かいところにいなきゃダメじゃない。」
「そうかい、わかったよ。それじゃあ、ヒロ君、楽しい話おおきに。ありがとうな」
「じゃ、ヒロ君ごめんね」
「またね。和葉さん、怜子さん」
手を振る和葉に対し、少年も手を振り返した。
その夜、怜子は和葉がとったホテルの部屋に泊まることなった。
二人でディナーを食べて、祖母に近況を話した。
ワインも少し飲んで、軽い酔いと仕事の疲れで怜子は早々に就寝した。
そして、深夜・・・
熟睡した怜子に対し、封印の儀が執り行われた。
和葉と京都から来た術師が二人。そしてヒロも立ち会った。
「本当にあっという間だね、まったく見えない」
首元に施された封印は、まったく見ることができない。
「よっぽど寒い時だと、うっすら出るかもしれへんけど。
ふつうは見ることができへん。これで安心どす。」
「じゃあ、これで解決だね」
あっという間に終わり、それぞれ部屋から姿を消した。
後には、なにも知らないで熟睡する怜子とそれを見つめる和葉のみ。
翌朝、怜子は出勤の準備をしながら和葉と会話する。
「えー、もうこれで帰るの?ゆっくりしていけばいいのに」
「年末で忙しいさかい、すぐに帰るわ。あんたの顔も見れたしなぁ」
「そういえば、ヒロ君と話してたようだけど何話してたの?」
「普段のあんたの様子を聞いてたのさ」
「えー、なんて言ってたの?」
「それは言えないさ」
「もう・・・ところでお婆ちゃん、ヒロ君と話しているときなんか様子違ったね」
「違うって、なにさ」
「なんか、優しかった?」
「バカいうんじゃないよ」
そうか・・知らず知らず、態度に出ていたのやろか。
もうそんな思いは忘れたと思ったんやけどなぁ・・
墓場まで持っていくと心に誓った秘密。
もう、昔のこと
和葉の初恋。その相手はヒロだったのだ。
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