第10話 本庄 武史

本庄 武史は悩んでいた。

もうすぐクリスマス。クリスマスプレゼントに何を選ぼうか・・・・

同級生に相談したら、おしゃれな雑貨屋だったらこのT通りだ!と聞いてきたがピンとこない。


「困ったなぁ」


途方に暮れてしまった。

駅前の近くに戻り、交差点の脇のスペースに立って町を見渡す。

どの店に行けばいいのか・・

思わず、大きなため息をついてしまう。


すると、よく通る声で話しかけられた。

「こんにちわ、おにいさん」

突然、話しかけられてびくっとしてしまった。

横を見ると、中学生くらいの少年が手すりに座っていた。

少年のすぐ隣では、ペットボトルのお茶を飲んでいる手すりにもたれるOLらしき女性もいる。姉弟なのだろうか?

「・・・あ・・・あぁ、こんにちわ」

思わず素直に挨拶を返してしまった。

「どうしたの?大きなため息をついて」

その鳶色の瞳に見つめられ、なぜか素直に話す気になった。

少年の隣に移動して、手すりにもたれた。

「いや・・プレゼントを探しに来て色々店を見たんだけど、何にするかわかんなくなっちゃって。」

「へぇ・・彼女にでも贈るの?」

「いや、母親なんだけど・・・」

「母親?」

「ちょっと・・・事情が複雑で・・・」



武史の家は、シングルファザー。中学生の妹との3人暮らしだった。

武史の産みの母親は、妹が生まれて間もなく亡くなってしまった。

それから、父親は一生懸命2人の子供を育て上げる。

ところが、その父親に結婚話が持ち上がった。そして、この夏にめでたく結婚した。


つまりプレゼントの相手は、今年の夏に義母になった人に向けてであった。



「俺は・・その人には感謝してるんだ。うちの親父は子育てと仕事にとても苦労していたのは分かってたから。

 でも、・・・」

「でも?」

「まだ、俺も妹もあまりうまくいっていないというか・・ぎこちなくて・・

 俺もどういう距離感で話せばいいかむずかしくて・・」

いきなり、他人が家に来るのだ。

子供に対する距離感をつかみかねているのだろう。

「クリスマスプレゼントを贈ることできっかけになるかなぁ‥って・・」

「ふうん、どんなものを考えてるの?」

「それがわからないんだ。何が喜んでもらえるのか・・・」

「ちなみにお母さんは何歳なの?」

「28歳だって。」


すると、お茶を飲みながら聞いていたOL風の女性が”ブフッ”と吹きだしせき込んだ。

その背中をさすってあげながら少年が聞いた。ニヤッといたずらっ子みたいに笑いながら。

「奈美さん。同年代としてアドバイスとかあるかな?ほしいものとか。」

「あ・・アドバイス? あ・・アクセサリーとかいいんじゃないかしら。」

どもりながら答える。

武史は困った顔をして眉をひそめた。

「アクセサリーかぁ・・お小遣いで買えるかなぁ・・」

その向こうでは女性がつぶやいていた。「おかあさん・・?・・母親?・・・」ちらちらと少年を見ている。


「お母さんはどんなものを普段つけているの?」

「うーん、あまり見たことないなぁ」

またため息をつく。

「困ったなぁ・・」


そんな武史に少年は言った。

「素敵な悩みだよ。なにを喜ぶのかな、とか何が似合うのかなとか考えるのは。

 そして、そのためにはその人のことを普段から見ていないとね。

 その人のことを知るために、その人といろいろなことを話して、聞いて・・・

 そういうことを積み上げることで、だんだん親しくなるんじゃないかな。」


武史は唖然として、少年を見た。

「そ・・・そうか・・・そうかも」

少年は、キシシと笑う。

「まぁ、まずは何が似合うか想像してみて、それを買うのがいいんじゃない?」


「ちなみに、アクセサリーなら・・・渋谷のXXXXっていうビルの〇〇〇〇〇っていう文房具屋さんに行ってみてごらん?」

「文房具屋?」

「そ・・・リーズナブルだけど素敵なアクセサリーも置いているよ。」

「そ・・そうか、ありがとう。行ってみるよ」


そうして、駅に向かう武史。やがて人込みで見えなくなる。


昼休み、少年と世間話をしに来ていたため松下奈美はその場に立ち会わせたのだった。

「ヒロ君。親切だね・・・ため息ついている人に声をかけるなんて。」

すると意外な答えが返ってきた。

「いやあ・・邪魔だったんだよ、そこに立たれるのは。」

「あ・・・そうだったんだ。」

「ところで・・奈美さんはクリスマスプレゼント欲しいものってある?」

「へ?プレゼント?ええっと・・考えてなかったなぁ」

聞かれて慌ててしまった。


それにしても、さっきの話。

奈美と少年と同じくらいの年の差。

母親?親子?私の年齢で?

まさか、少年にそうみられてたりしないよね・・・


----

(後日)


年末のあわただしいときに再び武史は交差点に行ってみた。

やはり、この間と同じように少年が手すりに座っていた。

「こんにちわ、おにいさん」

「こんにちわ。おかげでプレゼントを買えたよ。」

買ったのはガラスでできたネックレス。

「喜んでもらえた?」

「すごい喜ばれたよ。ありがとう」

「よかったね、仲良くなれそう?」

「そうなんだけど・・・」


武史は困ったように言った。

「あまりにも義母が喜んじゃって、抱きしめられたりしたんだけど。

そのせいで・・・親父が拗ねちゃってね・・どうしたらいいかな?」


少年は、キシシと笑って嬉しそうに言った。

「そこまでは、責任を持てないなぁ」

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