第8話 山崎 純子
山崎 純子は駅を降りて、早速後悔した。
ものすごい、人混み。
純子は人混みが好きではなかった。
高校1年生の純子は、数人の友達に誘われて来たのだった。
「ファッションのお店もいっぱいあるし、流行りのデザートもあるんだよ。」
「行こうよ、きっと楽しいよ。」
熱心な誘い断りきれず、来たのであったが・・・
15分もしたら人混みに酔って気持ち悪くなってしまった。
「ごめん・・ちょっと気分悪くなっちゃった・・。駅の近くで休憩しているね・・・」
そう言って、駅の方まで戻ってきた。
はぁ・・・
何が楽しいのかさっぱりわからない。
自販機で買ったミネラルウォーターを少しずつ飲みながら、駅のそばの交差点の手すりのところに座り込んで、休憩していた。
「こんにちわ、お姉さん。顔色悪いけど大丈夫?」
突然声をかけられた。
そちらを見上げると、中学生くらいの少年が手すりに座っている。
「ありがと、大丈夫。少し休んだら治るから。」
「そう?あまり調子が悪いなら、交番に行くと休ませてくれるよ。」
なるほど、その選択肢は考えなかった。
「うん、ありがと。大丈夫だから。」
しばらくしたら、少し気分の悪さが改善してきた。
すると、隣りにいる少年のことが気になった。
ちらっと・・見る。少年は街の人混みをずっと見つめている。
何をしているのかはわからないが、真剣な眼差しだ。
”目がきれいだな・・”
その時、交差点を渡って老婆がやってきた。
キョロキョロとあたりを見回している。道に迷っているのだろうか・・・
すると、少年が声をかける。
「こんにちわ、お婆さん。どうしましたか?」
「こんにちわ。いえ・・道を探していてね。」
「どこに行きたいの?」
「O美術館がこの近くと聞いてきたんだけど・・・」
「あぁ・・O美術館ならこの道の先の最初の路地を左に曲がってしばらく行ったところだよ。」
「あぁ、ありがとう。助かったよ。」
「そういえば、O美術館では、今は応為の絵が展示されてるらしいですね。」
「そうなんだよ。それが見たくてね。」
「そうなんだ、気をつけてね」
「ありがとうね。」
老婆は感謝しながらそちらの方に去っていった。
「ねえ。この近くに美術館があるの?」
純子は、絵が好きだった。
祖父が絵が好きでよく描いていた。
その影響か、純子も絵を見ることが好きだった。
印象派などの絵画を好んで見ている。
でも、”おうい”という画家を聞いたことはなかった。
「うん、結構有名な美術館だよ。」
少年は人混みを見つめながら答えてくれる。
「”おうい”って有名な画家なの?」
「そうだよ、葛飾応為。葛飾北斎の娘で浮世絵を描いている有名な画家さ。」
そっか・・浮世絵はあまり知らない。
「応為は・・天才だよ。見たこと無いなら見てみたら?めったに公開されない絵だから。」
純子は友人たちにSNSでメッセージを送ってから、その美術館に向かった。
めったに公開されない・・という言葉が気になったのだ・・
結果・・・
純子は、その絵に衝撃を受けて戻ってくる結果になった。
「こんにちわ、お姉さん。どうだった?」
「すごかった・・」
「それは良かった。」
「あれ・・・浮世絵のイメージと全然違った・・・」
「ね・・・言ったでしょ。天才だって。」
「ねぇ・・他にもあんな絵があるの?」
「愛知県にも応為の絵はあるらしいよ」
そうなんだ・・・
この少年・・・詳しいな・・・
もっと教えてほしいな。
その後、その絵に衝撃を受けた純子は美術部に入り、真剣に絵の勉強を始めることになる。
才能があったのか、程なくして賞をもらうほど頭角を表していくのだった。
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