第5話 山田 耕助

”あぢい・・・”

山田 耕助はバイトが終わり、外に出た。

季節は夏。

今日は早番だったので、まだ午後の3時である。

”こんな日はビールが飲みてぇな・・”

とはいえ、まだ3時だ。

途中での自販機でペットボトルのコーラでも買おう・・・。


そう思って駅近くの交差点まで来た。

”あれ?”

この炎天下、待ち合わせをする人は日陰に避難しているが、交差点の手すりに子供が座っている。

白いTシャツにジーパン。白いキャップをかぶっている。

そういえば、あの少年はよく見かける気がする。

”まったく・・・”

耕助は自販機でペットボトルを2本買った。




「おいこら、こんなところにいたら熱中症になるぞ。」

ペットボトルを差し出した。

「こんにちわ、お兄さん。・・・もらっていいの?」

「ガキが遠慮するんじゃねえ。」

そういってペットボトルのスポーツ飲料を渡した。

「ありがとう。お兄さん優しいね。」

そう言って受け取ると、蓋を開け飲み始める。

耕助もなんとなく隣でコーラを飲み始めた。

「おめえ、こんなところで何してんだよ。」

「人を探してるんだ。」

「じゃあ、こんなところじゃなくて日陰にいけよ。」

「お兄さんは、バイトが終わった帰りとか?」

「あぁ、そうだ。よくわかったな。」

「あそこのスポーツ用品店で見かけたことあるからね。」

と言って、ニッと笑った。

「じゃあ、あちぃからもう行くぜ。お前も早く日陰にいけよ。」

「お兄さん、飲み物ありがとうね。」


そう言って手を降る少年。

なにかいい事した気になって、耕助は心がこそばゆい感覚を覚えた。

「まぁ、気にすんなよ、じゃな」




ーーーー


数週間後。

耕助はバイトが終わって帰路についた。

”ふぅ・・”

思わずため息をつく。

最近、バイトでミスが多くて店長に叱られた。

他にもいろいろあって、絶不調。


足取り重く、駅の方に向かう。

交差点に近づく。

また、あの少年がいる。耕助を見ると手を振ってきた。

そして、手招きをする。

なんだよ・・・

と思いながら、そちらに行く。

「こんばわ、お兄さん。この間のお礼だよ。」

そう言って、背中に背負っていたショルダーバッグからコーラを出して手渡してきた。

持つと、キンキンに冷えている。

もう晩夏とはいえ、まだ暑さが残っている。ちょうどのどが渇いていたところだ。

「サンキュ。すまんな。」

そう言って、栓を開けて飲んだ。

炭酸が体に染み渡る。思わずため息をつく。

手すりに持たれかかり、もう一口飲む。

「なにか悩み事?」

「ん?」

少年が見つめてくる。

その鳶色の瞳に見つめられ、なんとなく話し始めた。

「まぁな、バイトでミスして怒られたとこだ。彼女ともうまくいってなくてなぁ・・」

「うまくいってないの?」

「まぁな。と言っても、俺が一方的にイライラしてるのが悪いんだがな。」

最近、ちょっとなにかあると怒ってしまう。どうしちまったんだろう。

おかげで、彼女を泣かしてしまった。


「ふうん・・・。ところで、お兄さんゲームとかやるの?」

「へ・・・お前もゲームやんのか?俺は結構やるぜ。最近ハマってるのはRPGの・・・」

2週間前に全世界で発売になったゲーム。

結構夢中になっている。


すると、少年はニッと笑って言った。

「やっぱり?そうだと思った。」

「やっぱりってなんだよ。」

見つめてくる鳶色の瞳。

「お兄さん、かなり寝不足だね。目の下に隈ができてるよ。それでイライラしているんじゃない?」




寝不足なのは自覚していた。

だけど・・ゲームが面白くて、ついつい深夜までやっていた。



「今日は早く寝てみたら?なにか変わるかもよ?」

少年の瞳に見つめられて・・つい

「あ。。。あぁ・・・」

と言ってしまった。




家に帰った耕助は、ゲーム機の電源を入れようとした。

だけれども、ゲーム機に触った瞬間にあの少年の瞳を思い出してしまい、結局ゲームをせずに寝た。

次の日の朝。耕助は久しぶりにスッキリと眼を覚ますことができた。



ーーーー


1週間後、耕助はまた交差点にやってきた。

いつものように少年が手すりに座っている。

「よお。」

「こんにちは、お兄さん。」

耕助はペットボトルを差し出した。

「これはお礼だ。」

「お礼?」


あれ以来、ゲームをしなくなった。

すると、イライラも収まった。

彼女にはちゃんと謝り、関係が修復されたと思う。

バイトでミスもしなくなった。

「へぇ、良かったね。」

「うーん、まぁなあ・・・」





「で・・・だなぁ・・・全くゲームできないのも困るんだが、なんとかならないか?」

それを聞いた、少年はいたずらっ子のように、キシシと笑った。

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