第2話 風見 雪子
今日は天気予報は晴れであったはず。
しかしながら、雲行きは怪しくなってきている。
”まったく、困ったものね”
風見 雪子は彼氏と待ち合わせしていた。
駅前の交差点で待っているって言ったのに・・
とはいえ、30分遅刻したのは雪子の方である。
交差点には、彼・・・高田健吾の姿はなかった。
でも、しばらく待ってみることにした。
彼からのメール・・・”大切な話があるから来てくれ”・・
思い当たることはあった。
ここ数ヶ月、雪子は仕事が忙しく健吾とはなかなか会えていなかった。
健吾の”会いたい”という連絡に対しても、”忙しいから無理”と返すことが多かった。
また、たまに会っても仕事の愚痴。
幼馴染の彼に甘えていたのだろう。
”大切な話”と連絡が来た時・・・正直不安になった。
最近の自分の行いを反省した。
もし別れ話だったら・・・どうしよう。
幼馴染の健吾と離れるなんて想像したこともなかった。
”今日会ってあやまろう・・・”そう思っていたのに仕事で遅くなって遅刻。
最悪である。
やがて・・・ポツポツと雨が降ってきた。
彼はやってこない。
雨粒に混じって、涙がこぼれた。
「お姉さん、傘がないなら貸すよ。」
突然、声をかけられてびっくりした。
見ると、中学生くらいの少年。
水色の折りたたみ傘を差し出している。
「ありがと・・・でもいいの?」
「うん、僕はもう一本あるからね。」
「そう・・・」
なんとなく素直に受け取った。
その少年は、にっこり笑って。
「そう・・・それからね」
「?」
「この駅にはあっちにもう一つ改札があるんだよ、あの坂を下ったところにね。」
と、通りの先を指差す。
あぁ、そういえば向こうにも改札が会ったなと思い出す。
ぼおっとそっちを見る雪子に少年は言った。
「お姉さんの待ち合わせしている人は、あっちで待っていると思うよ。
きっとあの人はお姉さんのことを待っているよ。ずっとね。」
はっと我に返ると、そこに少年はいなかった。
通りの先を見る。
雪子は藁にもすがる思いで、坂を下って行った。
坂の途中の改札。
そこに、健吾はいた。びしょ濡れで雪子のことを待っていた。
雪子は健吾のもとに駆け寄った。
”健吾に謝ろう”
それだけを思いながら。
ーーーー
結局、健吾の大事な話とは、プロポーズであった。
健吾も不安だったのである。
「仕事が落ち着いたら結婚してほしい」
そう言われて雪子は涙を流し、了承した。
あの時、少年にアドバイスしてもらえなかったら・・・
きっと別れてしまっていたかもしれない。
でも、雪子は健吾と会うことができた。
すぐに健吾とは同棲を始めた。
相変わらず忙しい仕事。でも一緒に住むことでお互いのことを理解し合えることができた。
雪子は時々思い出すのだ。
”きっとあの人はお姉さんのことを待っているよ。ずっとね。”
健吾は私のことを待っていてくれた。そしてこれからも待っていてくれる。
もう雪子に不安はなかった。
そして数年後・・・雪子と健吾は結婚式を挙げることになった。
ーーーー
もうすぐ結婚式。
今日はウェディングドレスを選ぶために雪子は健吾と待ち合わせをしている。
”あの当時、携帯を持っていたらなぁ”
今は携帯を持っているのだが、当時は持っていなかった。
”時代は進んでいるなあ・・”ひとりごちる。
「おまたせ!」
時間通りに健吾が来る。
まぁ、事前に駅についたとメールを受信していたのだが。
「さぁ、行きましょうか。」
健吾の腕を組み、交差点を渡っていると・・・
交差点の横の手すりに少年が座っている。あのときの少年に似ている。
「あれ?・・あの子・・」
3年も経っている。
でも、その少年は中学生くらいのまま・・・
「どうした?」
「いえ、なんでも無いの」
そんなはずない、と思い。雪子は健吾とともに街に消えていくのであった。
「うまくいってよかったね。」
少年がつぶやいた言葉・・・それは雪子に聞こえないほど小さな声。
少年は微笑んで、2人を見送るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます