8 食事と覚悟
体を拭いてワンピース型の寝巻に着替えると、わたしはまたダイニングに戻った。朝と同じメニューがテーブルの上に乗っている。
「さすがにパンだけじゃ足りないか……」
冷蔵庫からウインナーと卵を出し、それらをフライパンで炒める。味付けは塩とコショウだけ。お昼は工房で食事が出されるから助かっているのだけれど、朝と夜だけはどうしてもこんな簡単なものになってしまう。
いい匂いがしてきたので火を止めるとわたしはそれを皿に乗せた。さっそくダイニングのテーブルに運ぶ。
「いただきます!」
フォークを持って、まずはプリッとしたウインナーにかぶりつく。あふれでる肉汁。んー、美味しい! 続いてふわっふわの卵焼き。半熟気味にしたのは我ながら最高だと思った。ぶどうジュースを一口。そしてしけったパンを少々。最後にビタミンのサプリを数種類水で飲み下し、席を立つ。
「ごちそうさまっ!」
流しで食器類を洗いながら、わたしは少なくなった食材のリストを頭に思い浮かべる。
「あれとあれ、それからあれも買い足しておかなきゃなあ……」
そろそろ、ウインナーも卵も、それから魚の缶詰類も底をつきかけていた。
明日あたりいろいろ買い出しにいかないといけないかもしれない。
蒸気の国でもわずかながら栽培をしているが、耕作面積がかなり狭いために国民に行きわたるほどの数は生み出せていない。しかもその温室栽培食品はとても高いのでなかなか手が出ないのだ。かといって農園の国の食材も輸送費がかかっているため、少し割高となっている。
ゆえに、わたしは一日の栄養のほとんどを、工房でのお昼に頼ってしまっていた。
生肉や生野菜、生魚なんていったいいくらくらいするのか見当もつかない。
かといってサプリや固形食品は味気なさすぎるし……。一番価格的にも味的にもベストなのが「加工食品」なのだった。わたしはそれらを買うための給料を前借りしないといけないかなと思いながら、洗い終わった食器を拭く。
食器を片付けると、わたしはさっそく歯を磨いて寝る準備をした。部屋の明かりを消し、ベッドにもぐりこむ。目を閉じると今日のことがいろいろと思い出されてきた。
「クロード様……」
あの方は、とても綺麗な方だった。ちょっぴり強引で、そしてなんだか得体のしれない方でもあった。生まれながらにして呪われた、右腕が義手の王子様――。
あの方は、わたしを必要とされていた。
でも……と思う。
わたしなんかがあの方の専属技師になっていいのだろうか。王様よりも呪いの進行が遅いとはいえ、まだまだ未熟なわたしには荷が重すぎる。いつか重大な不具合が発生しても、なんとかできる気がしない。
「……」
でも、挑戦してみたいと思わないでもなかった。
師匠はわたしに期待してくれていた。あんな一芝居までうって。その期待に応えたいという思いも、少なからずあった。それに。
あのお顔を、もう少し近くで見てみたい――。
そう思う気持ちが、あの方と出会ってからずっと消えずにいる。
わたしは、覚悟を決めた。
そして翌朝。わたしは師匠に、クロード様の専属技師になってもいいと報告をしたのだった。
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