第33話 幼馴染の異変について話し合う

 翌日、土曜日。その日僕は、基本的に机にかじりついてテスト勉強に励んでいた。ただ、窓越しに見える日立さんの部屋のカーテンが、開くことはなかった。

 寝坊……とか、そういうレベルではない。正午を過ぎてもカーテンが開かないんだ。さすがに普段からだと考えにくい。


 やっぱり……風邪引いたのかな。

 そう思って、僕は日立さんにラインを送ってみたけど、既読のサインすらつかないまま時間は経過。

 結局、日立さんと何も連絡を取ることができないまま、土曜日は終わっていった。


 動きがあったのは、次の日の日曜日。勉強をしているお昼過ぎに、何の前触れもなく僕のスマホがブルブルっとバイブした。通知を確認すると、小木津さんからのラインだった。

「……やっぱり、風邪か……」

 内容を見て、僕は勉強机の前でため息をつく。


 ……そりゃそうだ。あんな大雨のなか自転車で無理に帰ったら、十中八九風邪を引くに決まっている。

 かといって……どうにかできたわけでもないし……。

 避けられている、のかなあ……。


 一昨日の日立さん、半ば僕と関わることを嫌がっているようにも思えた。

 だって、光右に関わるな、と言われても、それを言い返そうとするメンタルを持っている子なんだ。体育祭のときのように。


 それなのに、光右に釘を再び刺された程度でこうまでなるか?

 絶対、何か他の要因が絡んでいる。

 だけど、僕は何も情報を掴んでいない。


 僕が二年前、この街を一度離れるに至った経緯も、光右がなぜあそこまで執拗に僕と日立さんを引き離したがるかも、そしてどうして今日立さんがおかしくなっているかも、何ひとつわからない。


 せめて、手がかりがあるとしたら……、

「一昨日持っていた、絵馬……?」


 その考えに到達したとき、にたびスマホがバイブした。通知の主は、さっきと同じ小木津さん。

 それを確認した僕は、手にしていたシャーペンを机に放り出して、早足で部屋を出た。


「どこか出かけるのー? 廻―」

 階段を降りた僕に、リビングから母親のそんな声が聞こえる。

「ちょっと散歩してくる、気晴らしに」

「気をつけるのよー」

「うん、いってきます」


 少しよれたスニーカーを履いて、僕は玄関を開けて家を出る。すぐ目の前には、神妙な面持ちで僕を待つ小木津さんの姿が。

「……すみません、休みの日に呼び立てて」


 サマードレスと呼ばれるワンピースを身に纏った小木津さんは、申し訳ないというように頭を下げる。


「……いや、全然。ちょうど外歩きたい気分だったから」

 散歩するには、ちょっと暑すぎる気もするけどね。風があるだけ、まだマシかもしれないけど。僕は敷地の外に立つ小木津さんの横に立って「暑いね」とパタパタとTシャツで扇ぐ真似をする。


「……茉優、夏風邪、なんですけど……。理由、わかったりしますか……?」

 彼女は、単刀直入に話題を切り出した。小木津さんらしい。


「……理由はわかるよ。でも、原因は知らない。……金曜日、大雨降ったでしょ? あの日、日立さん自転車で帰って、雨に打たれて、それでだと思う」

「あの雨のなか帰ったんですか?」

 僕がそう伝えると、間髪入れないタイミングに甲高い声で小木津さんが問い返した。口は半分開いたままだし、表情も驚愕している。


「……僕は折り畳み持ってるから、一緒に入って帰ろうって誘ったんだけど……。僕が濡れるのが嫌だって言って、逃げるように行っちゃって……」

「それは……理由はわかるけど原因は知らない、とも言いたくなりますよね……。茉優、どうしたんだろう……」


「日立さん、風邪はどうなの?」

「熱は大分下がったみたいで、明日からはもう登校できると思います。テストも問題なく受けられるはずですけど……」


 そこまで話して、小木津さんはどこか憂うような面持ちに。心配そうに日立さんの家の二階を見上げては、しかし処置はないと諦めるように視線を戻して、首を横に力なく振る。


「……でも、茉優、全然元気なくて……。いえっ、風邪とかそういう問題じゃなくて……。なんていうか、身体だけじゃなくて、心も、落ち込んでいるような、そんな気がして……」

「小木津さんがそう言うなら……間違いないんじゃないかな。……僕も、どこかおかしいとは思っているんだ」


「……テストが終わったら、一度茉優とちゃんと話してみようと思っているんです。でないと……全部駄目になっちゃうかもしれないですし……」

「……ありがとう」

「そ、それでは私もこれで。すみませんっ、高浜さんもテスト前なのに、時間取らせて。ありがとうございました」


 そうやって、小木津さんは曇り気味だった顔色をきっちりと整えて、真面目な表情で僕に軽く一礼をして家に帰っていった。

 僕は、そんな彼女の後ろ姿を眺めながら、ポケットに入れておいたスマホで時間を確認する。

「……ちょっと、調べるか」


 あの絵馬、気になってしまう。……そもそも、何度も何度も頻繁に神社にお参りしに行く日立さんだ。もしかしたら、以前にも絵馬を書いていたかもしれない。

 外に出たことだし、神社に行ってみようと、僕は決めた。

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