第28話 とうとう親友に幼馴染のことがバレてしまう

 それからというもの、僕らはほとんど何も変わらない生活を過ごしていた。毎朝日立さんは僕を起こしにやって来たし、朝も一緒に登校した。昼は光右と過ごすことがほとんどだったけど、放課後はほぼほぼ図書室に寄って、日立さんと共に帰る。そんな、春の出会いから続けていた日々を送っていた。


 けれど。人は知っているものと知らないものでは、知っているもののほうが目に入ったとき認識しやすくなるもので。

 何が言いたいかというと、僕と日立さんが幼馴染である、ということがクラスメイトに周知されたことによって、必然的に一緒にいると気づかれやすくなっていたんだ。

 そして、僕は、そのことを把握するのに時間がかかり過ぎていた。


 テストまで一週間、体育祭の余韻が完全に冷めきった頃の朝の出来事だった。

 日立さん、小木津さんと別れてひとりで教室に入ると、いつもよりちょっと騒がしくなっている教室が僕のことを出迎えた。

 ……何だろう、何かあったのだろうか。


 騒ぎの中心は、どうやら男子生徒の間で作られているようだ。その輪には、佐和君も、苦々しげな様子の光右も混ざっていた。

 ……なんか、嫌な予感がする。


 光右の、まるで虫でも踏みつけてしまったかのような表情を見て、僕は額に汗を浮かべた。

 もしかしてだけど……。ば、バレた……のか?


 肩にかけていたカバンを、思わず自分の机に思いきり落としてしまったことで、教室の注目を集めてしまったみたいだ。輪を作っていた生徒たちの目線が一気に音を立てた僕に集まりそして、


「なっ、なあ高浜っ。今日の朝、家の前で立っている例のほわほわ系の女の子を見つけたんだけど、表札に高浜ってあったから、高浜と待ち合わせしてたってことなのか?」「それに俺、この間、高浜たちらしきふたりが駅のショッピングモールに一緒に入っていくところも見たし」「なあ、お前らって、本当にただの幼馴染なのか?」


 僕にとっては、致命的とも取れる言葉を、次々に並べたてた。

「……えっ、あっ……そ、その……」

 僕は当然答えに窮し、ふらふらと視線を宙に彷徨わせる。迷い込んだ先には、険しい顔の光右が。


「……どうなんだ、廻」

 ここで光右が問題にしているのは、僕と日立さんが付き合っているかどうかではない。周りの論点はそこなのかもしれないけど、光右はもっと線引きは厳しい。


 そもそも、会うことすら、禁じているのだから。


 だから、付き合っていないよ、ただの幼馴染だよって答えたところで、クラスメイトはそれでいいかもしれないけど、彼らがまくしたてた事実を認めた時点で、もうアウトなんだ。


「……え、えっと……」

「高浜の家、一軒家だろ? いつも使っている自転車も見たし」

 もう家まで割られているんだ。誤魔化したところで、きっと光右は気づく。


 ごめん、日立さん。……これ以上は、隠せない。


「そ、そうだよ……。で、でも、付き合ってはいないよ。ほんと、ちょっと仲が良いくらい、だから……」


「本当かあ?」「東京から戻ってきたうえに、ただでさえ少ない女子の牌を奪うなんて、事実だとしたらけしからん……」


 などと、周りは半信半疑といった感じ。そして、光右と言えば、

「……やっぱり、ちゃんとわからせないと駄目か」

 無表情でぼそっとそう呟いた。わからせる相手が誰かくらい、僕にはすぐわかる。


 光右の一言に、体を震えさせた瞬間、ホームルームの予鈴が鳴り響いた。それとともに教室にできていた輪は解け、先生が教壇に上がってきた。

 ……とっ、とりあえず、日立さんには伝えておかないと。不意打ちになってしまう。


 焦るあまり、別にホームルームが終わってからの休み時間でもよかったはずなのに、先生の目を盗みながら、日立さんにラインを打ったのは、少し反省している。

 ただ……急を要することなのは、確かだから。


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