花火の祝砲―あの花火はやはり彼女の仕業だった―

琉水 魅希

第1話 夏祭り初日ー受け継いだたこ焼き屋ー

 今日から三日間夏祭りがある。

 父がトラックに撥ねられて大怪我して入院しているため、父がやるはずだったたこ焼き屋を私がやることになっている。

 何が異世界転生だ、何がエロフだ。

 こっちは救急車で運ばれたって聞いて冷や冷やしていたっていうのに。

 

 もしかすると父なりの照れ隠しだったのかもしれないけど。

 この年で両親がいなくなるかもしれないという恐怖を味わったというのに。


 学校も父がこんな状態だから6月から行っていない。

 学校側の恩恵で別途追試を受ければ構わないとは言われている。

 父の事故の事は伝えてあるし、温情なのだろう。


 実際まだ一人で歩行するのは困難だと思う。

 本当によく生きてたよ。


 そういやなんでトラックに轢かれたかは聞かなかったな。

 赤信号を渡ったり車道を渡ったりするような父ではなかったはずだ。

 

 小さい頃から夏祭りの時は父がたこ焼き屋を出していた。

 商工会に知り合いがいて、出店を頼まれて始めたのがきっかけで現在まで続けていた。

 父と商工会の手助けにより、例年通り出店する事になっている。


 商工会がきっちり味と安全と衛生について確認をした上でOKを出したので私でも良いらしい。


 伊達に幼少から手伝っていただけはあるのかな。

 いざとなれば隣の屋台が先輩である恵さんと七虹さんだから相談すればいいと商工会の人も言っていた。


 だから怖いものはほとんどない。

 あるとすれば、それは全てを一人でやらなければならないという不安だ。


 最初のうちは常連ばかりのため問題なく過ぎたが、2時間を超えると流石にそうもいかなくなる。


 だんだん知らない人ばかりが買いに来るようになる。

 そんな時ふと目に入った少年。

 どこかで見た事あるんだよな……

 でもあんなに暗い感じだっけ?

 

 見た事ある少年が頭の中で一致しなかったのは学校に顔を出していなかった事により思い出せないのと、少年が絶望に覆われたように暗かったため、結び付かなかったためである。

 声掛けてみよう。

 

 「ヘイ、そこの間違ってレアドロップを売ってしまってショボーンとしている表情をした少年!」

 彼は自分が声を掛けられている事に気付かずスルーしているように見える。

 

 「ヘイ、そこの新雪にダイブしたら犬のフンにダイブしちゃったような表情をした少年!」

 いや、なんだよその例え話。女子がこんなところで犬のフンて何だよ。


 「ヘイ、そこの好きな子に振られてこの世の終わりだ~って思いこんじゃってる少年!」


 「なっ、どこの誰だか知らないけど好き放題適当な事ばっか言ってんじゃ……」

 あ、これは本当の話だったみたいだ。

 なんか悪い事言っちゃったな。


 「あれ?もしかして本当のことだった?なんか悪い。傷を抉っちゃったお詫びに出来立て1パック受け取ってくれよ。」

 謝らないといけないよな。

 頭の中でもう少しで出てきそうなこの人が同じか確かめたかったんだけど。


 「ほい。本当は買って欲しくて客引きのつもりで声をかけたんだけどさ、父親譲りなのかセンスのかけらもなくて。美味かったら今度は買ってくれよな。」

 私は淡々と作業をし、出来立てを1パック彼に手渡した。

 その時触れた彼の手は夏だというのにとても冷えていた。


 たこ焼きを受け取った時、彼はなぜか涙を流していた。

 でも私はその涙の理由を聞くわけにはいかない。


 「美味い。」

 「つか、あちあちっあぢぃ。」

 そう言いながらも美味しく食べてくれた。

 やっぱり作り手としては美味しいと言って貰えると嬉しいものだ。


 「何があったか知らないけど、美味いもん食ったら少しは元気出た?」

 ニッと歯を見せて笑顔を向けると彼もぎこちないながらも笑顔になっていた。


 「まぁ、確かに。」

 そう言った時の彼は少し安堵したように見えた。

 「君にとってはどうでも良いかも知れないけど、聞いて欲しい。こういうのは初対面の人の方が話し易いし。」


 重い話になると思ったので、休憩中の札を掲示し椅子を用意して座った。

 彼にもそこに座ってと椅子を差し出した。 


 彼は椅子に座ると告白の時の話とその翌日からの話を始めた。

 話を聞いているとその幼馴染とクラスの連中に対して怒りが湧いてくる。

 誰が誰を好きでも嫌いでも良いけど、彼の話に出てきた振り方や翌日映像で誰もが見れるような事をした事、クラス全体で彼を腫物のように扱った事。

 

 どれも許せるものではなかった。

 相槌を打ちながら聞いていたが、握る拳で爪が食い込んで痛い。


 「そっかー。がんばったんだなー。でも頑張らなくても良いんだよ。学校も行きたくなければサボれば良いとは言えないけど、センコーに言うなり何かしら出来るだろうし。」

 鬱の人にがんばれとか言ってはいけないと聞いたことがある。

 それと似たようなものか。

 そうでなければあんな表情で夏祭りになんか来ないだろうね。


 「そいつらを見るのも嫌ならそれこそ転校したって良いと思うし。まぁ編入の事とかはよくわからないけど。それって別に逃げでもなんでもないし。」


 「かくいう私も殆ど学校行ってないしね。一人呼び出されて追試で誤魔化して来てるけど。」

 思わず自分の身の上を話してしまった。

 

 「君はなんで学校行かないの?コミュ難とかじゃなさそうだけど。」

 普通気になるよね、こんな事を言ったら。

 でもまだ教えてあげない、私はミステリアスを装い答えた。


 「それを聞きたければ、明日はたこ焼き買って?みたいな。」

 あざとく首を傾げて可愛く見せる仕草が、似合ってないことは自分でよくわかってる。

 

 「商売上手じゃん。でも毎日食べても飽きない美味さだったけどね。」


 「お、おぅ。ま、まいにち……」 

 あれ?なんで私は照れてるんだ?

 私ってこんなにちょろいんだったのか?


 父以外に言われた毎日食べてもって言葉にKOされちまった?

 この日はこれで彼と別れた。


 彼は明日も来てくれるようだ。

 何故か私は彼が訪ねてきえくれるのが楽しみに感じていた。

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