第99話『話し合いをしましょう(2)』

「だっ!黙れ黙れ黙れぇーーーーっ!!」


うるさいよ、いい歳こいたオッサンがわめくんじゃない。

ツバを飛ばしまくるジニス、彼に所見であった筈の上流階級の風格は皆無だった。


元から私に見る目がないだけの話だけどな。


「ハロルド!そんなモンスターの戯れ言を信じると言うのか!?私とお前がどれだけの付き合いだと思っている!」


「ジニス、私もお前を信じようと努力はした、しかしお前のこれまでの動きを調べれば調べる程に黒だと判断するしかないと、私とマーガレット様は考えている」


「なっ何故だ!?私には何も後ろめたい事などない!私が罪を犯した証拠などなかっただろう!?何も罪を犯していないのだからな!」


「………ジニス、証拠も何も」


そのタイミングで動いたのはボスさんの隣にいたフードの片割れ。


「ボッボス様の言う事は本当です!そしてその男は私達が人さらいにさらわれた獣人だと分かっていて格安で買えるからと私達を奴隷として大量に買っていました!」


見ると二十歳くらいの獣人の女性ってかララシュちゃんだ。


着てる服がボロボロなのは頂けないけど、この場に置いてその姿が、彼女が奴隷として連れて来られた獣人だと強く主張している。


何故ならここで獣人の無理矢理奴隷にされた人を出せば逃げ場なんて皆無だ。


「ふっふざけるな!貴様を買ったのは元は部下だったヤツだ。その奴隷を自分が仕事を楽にする為に酷使しただけだ!むしろ私はその事実を知りその元部下と同じような真似をした元部下達を自発的に粛正したのだ!分かったか?私は潔白なのだよ!」



「ッ!?こ、この人でなしが!」


「落ち着け」


「……………」


「……………」


「……………」


ちなみに怒ったのはララシユちゃん、いさめたのはシアちゃんで黙ってるのは私とボスさんとスーツイケメンである。


私はまさかここまでこちらの想定通りの言い訳を並べて来ることに驚ろきを通り越して呆れている。

2人もきっと似たようなものだろう。


「ジニス、そんな話が通ると思っているのか?」


「アァッ!?当たり前だ、私は商人貴族だぞ!この私の言葉が通らないとでも!?」


「この場にお前の肩を持つ者がどこにいる?まさか真っ当に法の裁きが受けられるとでも思っているのか?」


「………………ッ!?」


まっここはあの島国でないし、彼らのアルバトラスの商人の流儀に乗っ取って対処して貰っても私は構わないのだが……。


「ボスさん、何か彼に聞いておくことでもありますか?折角この場に来て貰いましたし、もう向こうは自分達の事で騒がしくなりそうなので1度お開きになるかも知れません」


「………そうじゃのぉ、それじゃあ。おいっそこの馬鹿者よ」


「ツ!?まっまままさかその馬鹿者とは私の事か?!このモンスター風情がぁっ!」


「そうじゃよ?お主、まさかとは思うがマジナスの死について何か人には言えない事を知っていたりせんか?」


「アッ!?しっ知るか!」


するとボスさんはシアちゃんを見た、そして彼女は首を左右に振った。

おや?おやおや?まさか………。


「…………ハァッお主がマジナスを殺したのか?それともまた人を使ってか?」


「なっなにをさっきから言っているんだ!?私が先代に何かする訳がないだろう!?」


またシアちゃんが首を左右に振った。


………仕方ない、心意看破だ。


「…………………」


はいっ黒で~す。


「このシアは相手が嘘を言っているのかを見れば分かる魔眼を持っておるんじゃよ」


「ハッ!?魔眼だと!?バカな、モンスター風情がそんな代物を……」


スーツイケメンのお付きのスーツが、スーツイケメンにボソボソと呟く、呟き女将?。


そして今度はスーツイケメンが喋る。


「私の部下は共に上級魔法使いです、魔眼の事が本当かは本人を見れば一目で分かるそうだ、そして彼女の言葉は全て事実だそうだ」


「………何だと!?」


「詳しく聞くのは……、ジニス……」


「ッ!?」


これは怖い事になりそうな予感、スーツイケメンの非情な表情がこれからのヤツに何が待っているのかを物語っている。


スーツイケメンが右手を上げるとお付きの2人が転移魔法を発動、ジニスの左右に現れてヤツの肩や腕を掴んで拘束する。


「ハッ離せ!私は!私はーーーッ!!」


「………もしかしたら何か知っているかもとカマをかけただけのつもりじゃったんじゃがのぉ…」


「確かに、アレだけ好き勝手な事をしていればもしかしたらって気持ちにもなりますよね……」


「ホッホッホッ……まさかあの様なヤツに……」


「人間はわりとあっさり死んでしまうものですから……」


「そうじゃのぉ、その通りじゃ……」


「「「………………」」」


ん?イオちゃんとゴーレムツインズが何故か微妙な視線を私に向けている。まさか貴方は早々死にそうにありませんね的な視線じゃなかろうね。


こんな、いたいけな中年を捕まえてなんて酷い事を言うんだって、被害妄想が膨らむね。


「………ご主人様?これで終わりなのですか?」


「ユーリ、毎回我々が出張った所に大きな戦闘があるとは限りませんからね?」


「むぅっ……残念です、折角ユーリとリエリで新たな魔法を生み出しのに……」


ほほうっ何気に精進してるゴーレムツインズだ。頼りになるね。

リエリも心なしか活躍の場が無くて残念がってるような。


「それは頼もしい、いつかその魔法で私を助けて下さいね」


「………はい」


イオちゃんは事が大きくならなくてホッとしてる様だ。

しかし今の私とユーリのやり取りを耳にしてなにやらその瞳に強い決意が宿った様に感じたのは気のせいだろうか?。


取り敢えずジニスはこれでお終いって事ですな。


そんな風に私がこれからお昼ご飯を食べたらまた4人でアルバトラスの何処かに観光でもと考えていた時である。


「この私が、こんな所で……ふざけるなぁああーーーーーーーーっ!!」


突如叫ぶジニス、本当にうるさいオッサンだなとかって思っていたら……なんかヤツの胸ポケットから赤い光が。


するとスーツイケメンの部下スーツが2人とも吹き飛ばされた。

そしてジニスはポケットから赤く光るペンダントらしき物を取り出す。


そして、笑い出した。


「はっはははっ!ハハハハハハハハハハハハッ!やはりそうだろう!?この私を見捨てるなど出来る訳がない!このジニス=バフールこそ選ばれし者なのだ!」


ジニスが何かバカな事を言ってるんですが、するとペンダントの輝きが更に増す。


ジニスの周囲に赤色の魔法陣が多数展開された。


そしてその魔法からドーベルマン的な感じの大型犬に赤色の刺青のような模様と赤色の瞳が実に凶悪そうなワン公である。


更にジニスまでその双眼を赤く輝かせだしたぞ。


「ハッハハハハハハハハッ!そうだ!この場のゴミ共を全て始末すれば何の問題もなくなるのだ!ハロルド!モンスター共!冒険者共!この私を怒らせた事を後悔するが良い!」


ジニスの豹変を見ていたリエリが冷静に言った。


「……ご主人様、恐らくあれはいずれかの悪神竜の眷属を信仰する邪教に染まっているかと思われます」


「……………………でしょうね」


軽い気持ちで面倒事に首を突っ込んだら、事がドンドン大きくなって草~~~…………ってか?。


本当。冗談じゃないよな。







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