第95話『夏の楽園とその裏側』
この集落とやらの責任者的な方の登場に普通に驚いた私だ。
けど取り敢えず挨拶である。
「こんにちわ、私は青野と言います」
「ワシはドムル族の族長、皆からボスと呼ばれる者じゃあ」
ボスって名前だったのか。
けどこんなアッサリ会って良いのかよって話である、いくら何でも話がうますぎるのでは?ってさ。
けどまぁピンチは大抵魔法で何とかなる、そう言う風に考えて落ち着いて話をするのだ。
「つまり後から来たのは人間の方であると…」
「当たり前だ、そもそもこんな近くに我々が好んで集落を作るか。貴様らが奴隷としてこの森に放置した連中の世話も我々がしているんだぞ」
「……落ち着きなさい、お前は口調が少しは厳しいぞ」
「…………分かりました」
「………………」
え?話に聞いた獣人達の介護をしているの?確かにジニスの記憶によれば途中から奴隷達を襲うのは辞めてジニスの部下だけを襲うようになったって話だったけど…。
その報告を受けてジニスが激怒する記憶なら私も覗いたが、やはり現場にいなかった人間の記憶には穴があるな。
「済みませんがその方達は今はどちらに?」
「この家の前に集まっていた布を被っている連中の大半がそうだ、我々の同族は夜の見張りとお前達がきた街の方の警戒をしている。万が一森に入り込まれたら直ぐに分かる様にな」
なる程、このフードさん少し切れ気味で話をするけどこちらの知りたい情報を的確に教えてくれる。
普通に根はいい人なのかも、そしてやはり話し合いを全くする気がない訳ではなさそうだ。
「では話を戻して、何故争うことになったのかを教えてくれませんか?出来れば何があったのかを詳しく」
「あん?そんな事も知らずにお前達は……」
「私が聞いたのはあくまでもアルバトラス側の話だけなんです、片方だけの話ではやはり信用に欠けますからね。話を聞いて事の詳細を知るべきかと」
「………ッ!」
「ホッホッホッ!これはまた、実に愚直な人間じゃのぉ~そんな考えでは人の世は大層生き難かろうて」
「ハハッその通りです」
こんな性格で世の中楽に生きていける訳がないじゃん、けど………。
おっと今はそんな事を考えてる場合じゃない。
「分かった。ならワシがあの場での出来事を話そう、先ずは………」
そして話されたのはこの森での争いについてであった。
元からこの森に住んでいた彼ら、しかし後から来た人間はこの森は自国の領土だからとその森に住む者にはまるで関係ない事をのたまって森を切り開いて行った。
「……まぁ問答無用と言うだけでは無かったのだがの~」
ん?何か含みのある言い方だ、心意看破を使うつもりは無いから分かないが何か別に森を切り開いた理由が?。
いやっ今は後回しだ。
そしてつくられたのがアルバトラスである、彼らは別に森は自分達の物ではないからと好きにさせていたらいきなり大勢の獣人を連れて森の奥にまで踏み込んできたのだそうだ。
やむなく追い払うつもりで戦うと、獣人と共にいた人間達は武器も何も持っていないボロ布だけを身につけた獣人達をけしかけて来たのだ。
最初は警戒して対処をしていたが、直ぐに獣人達に戦う意思などなく、無理矢理戦わされている事も分かったので戦場での定石として指揮を執る人間だけを狙い出すといきなり人間側は総崩れ。
さっさと逃げだしたのだそうだ、獣人達は全て置き去りにして……。
概ねジニスが受けた報告の通りである。これに加えるならジニスは仕事の失敗がバレるのを恐れてその逃げだした人間達をも処分した、その結果余所から私兵を借りる手間を自分から作る事になった。
何というかなオッサンですな。
「あの者達はそこまでしてあの街を広げたいのかの?アレだけ栄える街でも満足出来何だか…」
「人の欲には限りがありませんから」
「しかしのぉ………」
ボスの視線がどこかに向かう、見るとその視線の先にはボロっちぃ布をまとった子供が何人もいた。
「………まさかあの子供達も奴隷ですか?」
「ワシらが来るまではこの炎天下で伐採された木を運ばされとった、獣人は力も体力もあるがあんな事は子供やらせる事ではないじゃろうて」
「………その通りですね」
(ご主人様、子供の奴隷に重労働は当然ですが犯罪です)
(はいっ恐らくは奴隷の主はジニス本人ではなく、既に処分された人間達だと言い訳を用意していますよ)
(…………………)
こりゃあ正規の手続き云々って話も怪しくなってきたな、あのジニス、もしかしてつまらない子悪党じゃなくてもっとゲスな……。
「1つ聞こう。お主はどうやって事をおさめるつもりなんじゃ?」
「私が提案するのはボスさんと事を計画した張本人との話し合いで決着をつけたいと思っています」
「バカな事を言うな、そんなの罠に決まっているだろうが」
「場所は皆さんが指定する場所で構いませんよ?」
「フンッそれで結局争うことになったらどうするつもりだ?」
「そうですね………その時は私が双方を止めますよ」
私の言葉にフードさんが声を上げて笑った。
「ハッハッハッ!お前に何が出来ると言うんだ?俺達の力を見くびっているのか?我々が本気を出せば人間の群れを圧倒する事など造作もないんだぞ?」
「……それに人間達も黙ってはいない。争いになれば双方にもかなりの被害が出る程の争いになる、それを止める手立てがあるとでも?」
「?………もちろんありますよ?だから私が動いているんですから」
「………………ッ!?」
フードさんの肩が震えた、自慢の魔眼とやらで何か見抜いたのかね?。
「…………本気じゃと?」
「はいっ取り敢えず私はその男を連れてきますね、もしかしたら他にも2、3人くらい連れて来るかもですが、話し合いに影響が出る様な真似はしません」
「ちなみに聞くが、もしも万が一の時はどう止めると言うのじゃ?」
「私の魔法に、相手を問答無用で気絶させる魔法とかありますし、身体の自由を奪う魔法もありますから何とでも出来ますよ」
「………ワシらは転移魔法も使うが?」
「はいっその時は魔法は無効化しますから、魔法を使うことは出来なくなるので注意して下さいね」
「………………」
うん?さっきからフードさんとの視線のやり取りが行われている。
きっと何かしらの意思疎通が行われたのだろう、まあ私は話が前に進めばいいからその辺りにはノータッチである。
「………分かった。ワシが行こう」
「………ボス!?」
「分かりました、ですがもう時間が時間です。明日の昼頃にどうでしょうか?」
時刻は只今深夜である、ってかもう流石に眠い。
「もちろんアルバトラス側が何かしてきたら私は貴方達を守ります」
「分かった、その言葉を信じよう」
やった、何とか話し合いの場に来て貰えそうだ、後は向こうだけどあっちは別に何を言っても引きずってでも連れて来るつもりだからいけるな。
正直こちとらここには夏休みで来てるんだから、こんな危なっかしい案件はとっとと済まして夏休みに戻りたいのである。
中年の平和な夏休みにはアルバトラスの平穏がないと困るんだよ。
だからジニスには彼らの要求を直で突きつけて貰おう、そして私達は高みの見物である。
そしてその日は何とそのボスさんの家に泊めて貰う事になった。
虫に関しては魔法で全て排除する心意気で寝床を借りる事にした私だ。
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