第94話『奴隷とモンスターの連合軍(2)』
いきなりのエンカウントだった、しかし交渉をまだ諦めた私じゃない。
だって転移魔法まで使えるとか危険だからな、下手をすると相手さんはいつでもアルバトラスに乗り込んでハッスル出来るんだからな。
ここは何とか穏便に解決策を探すのだ。
「私達は争いに来たのではありません、どうか話し合ってはくれませんか?」
おっと自己紹介を忘れていた。
「……それと私は青野と言います」
フードは鼻をフンッとならす、声がこもっているけど多分女性だ。
「お前達人間と交渉などするわけがない、どう転んでも碌な事にならないからな」
……やっぱこの世界でも人間って交渉しても、した約束事をまともに守ろうとしないのかね?。
相手さんは全く人間を信用していない、その気持ちはまぁ分からなくないけど。
「何とか穏便に事をおさめたいんですが……」
「ならば今回の騒動を起こした人間の代表を連れてきて我々の前で土下座でもさせるんだな」
取り付く島もないな、仕方ない、ここは中年の頑張り所だ。
「ほうっそんな事で良いんですか?」
「………何?」
「先程の人間の代表を土下座させると言う話ですよ、それなら何の問題もありません」
「……………」
「私は事を穏便に解決するためにここに来ましたが、別にアルバトラスの人間の部下と言う訳ではないんですよ。正直この現状を土下座1つで終わらせてくれるのならありがたい話ですよ」
普通に本音でもある、もちろん土下座するのはマーガレットちゃんではなく、あのジニスってオッサンだけどな。
彼の土下座で問題が解決するとか安いもんである、まぁ本当にそれで全てが解決するとは思えないけど。
こう言うのはまず相手の気を引けるかどうかだ、そして交渉の糸口を見つけるしかない。
情報収集する時間とかあればもう少し何とかなるんだけど、殆ど当たって砕けろの精神である。
「……………フッ中々面白い事を言うな、お前」
「お褒めにあずかり光栄ですね」
「本当に人間の代表を連れて来る気か?」
「必要ならば縄で縛っても連れて来ますよ、私の目的は争いの回避であって安全な場所でそれを眺めるだけの愚か者を守る事ではありませんから」
あまり露骨にすり寄りすぎかな?けど何とか話し合いになってきたぞ。
「………よしっわかった、ついてこい。我々のリーダーに合わせてやる」
「ありがとうございます」
内心では『え?いきなり大将に会うの?』って思わなくもない、なんか急展開過ぎだと。
しかし話がどんどん進むのは中年的に悪くない、事が進むスピードがあまりに
その余計な会議をはしょれば直ぐなんですけど?っとか舌打ちした過去がある中年的にはウェルカムですな。
(ご主人様、これはついて行くべきなのでしょうか?)
(リエリ。全てを力で解決と言うのは危険な癖を持つことになりかねません)
(危険な癖ですか?)
(そうですよ、何でも力で脅して終わらせるとか私の故郷ではチンピラや半グレと呼ばれますからね。そんな連中と同類になるのとかゴメンでしょう?)
(…………分かりました、しかし相手の出方次第では)
(その時は対処を2人でする事になりますね)
まぁ戦って負ける事はないだろう。あくまでもこの交渉は観光客の人々の安全さえ確保できればそれ以上に多くを求めるつもりはない。
争うのなら離れた所でお願いしますって事だ。
私達はただ黙々とフードさんについて行、あっ!また虫が出て来やがった!。
ブーンっと羽音を立てる大きめの虫をリエリが魔法で瞬殺する。
この夏本番の時期、木々が生い茂る森に突撃するのがここまで恐ろしい事になるとは思わなかった。
だって結構な頻度で虫が現れるんだよ、私は
何しろこの世界じゃあ森に出る虫も中々にアレだ、カラフルだったり、大きめだったり、足が多くて動きが妙に速かったりと、そのあり方は中年の心をザワつかせる。
この気持ち悪すぎるインセクト共を滅ぼせと心が囁く。暗黒面に落ちそうになりますな。
くっ!今度は真っ赤なバッタか、私が知るバッタより一回りはデカイな。これがモンスターサイズの化け物ならむしろ冷静に対処出来るってのに。
リアルに近いサイズにキモいカラーリングするなよ。
(…………………)
リエリがまた無言でインセクト共に対処してくれるのがとても助かります。
そんなアホな攻防を後ろで繰り広げられてるとは気付きもしないで無言で突き進むフードさんだ、あのフードの中に真っ赤なバッタを放り込みたくなる。
そして森の中を探索する事暫く、私とリエリはフードさんのお仲間がたむろっている場所に到着した。
皆布で身体を覆っているから人間なのかモンスターなのか、はたまた男か女すら分からん。
まぁ声を聞けば分かるだろうけどな。
「……ん?その人間達は何だ?」
「ああっ何でもリーダー、つまりボスに会いたいんだと言うので連れて来た」
「そんなヤツら連れてきて大丈夫なのかよ?」
「俺の目の効果は知ってるだろう?コイツらはウソを言っていない」
「ちなみにどんなやり取りを?」
「争いを回避出来るなら責任者を引っ張って来て土下座させても構わないそうだ」
フードさんの言葉に、その場の全員が同時に吹き出して笑った。
(リエリ、あのフードの方の目というのは一体何の話だと思いますか?)
(恐らくは目に関係する
魔眼か、確か目を介して発動する魔法に近い能力を持った目のことだな。
その能力は多岐に渡るとか、見るだけで敵を石に~っとか出来る感じのヤツだ。
まぁ魔眼1つにつき1つの能力が限度らしいので、あのフードさんの能力は見た相手が嘘を言ってるのかを見抜く能力って所だろうか?。
私の心意看板もそうだが、人の内面を見通す魔法って細かな調整が難しいんだ。
加減すれば嘘を言ってるかどうか、相手にどんな感情を持っているかをフワッと知る程度の事が分かる。
しかし一方で私の魔法は本気を出すと、当人も忘れてる過去の言動や行い、その時に頭の中で何を考えていたのか、過去の全てを知ることが出来る。無論本人以外の登場人物の事は知れないけどな。
どの道プライバシー?なにそれ美味しいの?って感じの魔法なので私も本気では殆ど使わない。
スーツイケメンの時は何かお困り事があるのかを確認した程度だったし、ジニスですら何か後ろ暗い事をしてるのかな?って特定の過去を覗いたまでだ。
………それでも十分やられた側は不快になるレベルの話である、絶対にこの魔法は存在を明かせいな。
そして結局なにが言いたいのかと言うと、あのフードさんだ。
その手の能力を持っていても周囲の者達から忌避されていない。
それはフードさんがその場でその人となりをかなり信用されているからではないだろうか?。
私達が問答無用で攻撃されないのもこのフードさんの案内だからっと言う部分が大きいのかも知れないって話だ。
そんなフードさんが口を開いた。
「ついたぞ、あそこに見える家が我々のボスの家だ」
え?ボスってここに住んでるの?。
見ると森の木々が形を変えて丸いドーム型になっている。
ファンタジー的な木の家である、木事態がその形に自然となったかの様な光景である。
「ここは皆さんのアジト何ですか?」
「……あ?ここは我々が生まれ育った村だ」
「このアルバトラスからそこまで離れてない場所に住んでたんですか?」
私の疑問に答えたのは、その家の奥から現れた者であった。
「と言うよりも、元から此処に住んでいる我々の集落の近くまで。人間達が領土を開拓して来たんじゃよ」
現れたのは全身長めの白い体毛で覆われたマントヒヒの様な顔をした方であった。
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