第92話『商人貴族』

場所はこの観光都市アルバトラスでも1等に豪華な建物が並ぶ区画。


その区画の中でも特に目立つ建物に私達はスーツイケメンから案内された、その建物って殆ど神殿見たいな入口をしていたよ、やたらと白を基調としてる感じである。


そしてその内部もかなり豪華絢爛で、とても私の様な小市民がいるべき場所じゃない感がひしひしと。


本来なら権力とかお偉いさんとかに自分を売り込む様な真似はしたくない。

だってただの根無し草上等な生活をよしとしている私にはその手のしがらみとか勘弁だからだ。


「…………………」


まぁ面倒事と分かっていて首を突っ込んだのは私の意志だ、だってオッサンの夏休みをエンジョイするこの舞台、アルバトラスが火の海になるとか勘弁だからな。


そんな風に決意を新たにした私はスーツイケメンの案内に従いかなり広い部屋に通された。


部屋にあるのはデカイ円卓と椅子が十数個だけだが、ひかれた絨毯とか壁にかけられた絵画とか普通に高そうに見える。


そんな部屋で椅子に腰掛けるのは数人の人間、服装から見てもかなりの成金臭が……いやっ小太りなオッサン達がお高そうな服を着てるからそう見えるだけか?。


スーツイケメンが私達に向き直る。


「こちらにいるのが事の対処に当たっている者達です、皆このアルバトラスでも立場のある人間で、他国では商人貴族などと呼ばれたりしています」


「……なる程」


商人貴族って何だよっとか考えていると部屋にいたうちの1人が話かけて来た。


「ハロルド、何故ここに我々以外の人間を……ん?人間?……を連れて来た?、万が一話が外に広まったりしたら……」


今の変なは、まさか私の顔立ちがこの大陸の人達と違うからってヤツか?。

今まで何度も人外扱いされてきたけど、それ普通に傷付くんだからな?泣くぞ?中年がさ。


「ジニス、彼は我々が直面している問題を何とか出来るかも知れないのだよ」


「…………何?」


「アオノ殿、先ずは自己紹介をお願い出来ますか?それからこちらの事情を詳しく話します」


「分かりました、私は青野と言います、こちらの女性はリエリです」


私が軽く自己紹介を済ませると、次は商人貴族とやらが名乗った。

きっとスーツイケメンに殿とか呼ばれたのも効果があったのだろう。


普通なら私の様な中年には自分から名前なんて名乗りそうもないお偉いさん……だと自分達を分類してそうなタイプの人達だからな。


えーっと……全部で5人のオッサン達が……ジニス、ダナムス、コード、アビル、ゾスと言う名前の高そうな服を着ているオッサン達である、以上。


細かい顔立ちや髪型とか……興味もないので解説しない。


それよりも奴隷とモンスター達の話を優先だ。


私達はスーツイケメンも含め変わらず突っ立ったまま(椅子に座る様に言われないんだよな……)で話を聞く。


「元々はこちらのジニスが仕切っていたアルバトラスの領地拡大事業です。ですのでジニスに事のあらましを説明して欲しいのですが」


「……分かった、その男に話して何になるのか分からんが話してやろう」


「お願いします」


結構な上から目線、しかしファンタジー世界の勝ち組商人とか貴族とかってのはこんなイメージがあるからある意味テンプレな感じが中年のラノベ好きな心を刺激する。


魔法部屋マジック・ルームの本棚に置いてあってまだ読んでないラノベを読みたい。


「先ずハッキリ言っておくが、私の方に落ち度等ない。正規の手続きを行い奴隷を奴隷商から大量に購入し、それらに東の森を開拓させていただけだ。

それなのに反乱などと、ふざけた奴隷達が……買った奴隷商には抗議をしているよ」


奴隷商とかアンタに落ち度があったとかどうでもいいんだよ。

それより現場の現状を話せってば。


「……それで、その奴隷達は何をして、現状このアルバトラスにどれだけの危険が迫っているんですか?」


「フンッこの場にいる他の商人貴族達からも私兵を借りて近々決着をつける。それで終わりだ、奴隷達も森のモンスター達も皆殺しだよ」


「……………」


私の横のハロルドの目つきがどんどん鋭くなっていく、何だその説明はふざけているのか?って感じであろう。


私も同意見なので心意看破を発動する、話が前に進まないからね。


………なる程、大体分かった。


要はこのジニスってオッサンが原因だ。


奴隷達を正規の手続きとやらで買ったとか知らないが、その奴隷達に碌に休みも与えずに森を切り開かせる。


更に森から出て来たモンスター達の対処を……素手でさせてたんだぜ?。

奴隷達に武器を与えるなんて有り得ない、だから素手で何とかしろ、出来なきゃ死ね、新しい奴隷を買うから平気で~すってさ。


お偉いさんらしいっちゃあらしいけど、普通に引くわ~~お前が死ねよ。


おっと勝手にプライバシーを無視してるのは私だ、あまり露骨に態度を顔に出すのはいけないな。


……そんで最初はモンスターにコテンパンにされた奴隷達だった、すると1人の獣人の少女がモンスターと接触を持ったのだ。


するとモンスター達は奴隷達を攻撃するのを辞めてジニスの部下やその私兵をコテンパンにしだしたのだ。

当のジニスは現場に顔も出した事すらないって話。


ってか少女にまで重労働とかマジかよ、異世界だからって言われればそれまでだけども……流石に無くね?有り得ないよ。


憮然ぶぜんとした態度のジニスに内心イラッとする私だ。


そこで私は一言申し上げる事にした。


「皆殺しとは穏やかではありませんね」


「………何だと?」


「ジニス様は商人であるのですから利益も上げずに人を切り捨てるのは早計ではないかと、それならば……」


「人?奴隷達は全て獣人だぞ?」


「……?、それが何か?」


「あ?獣人が人間の訳があるまい?あれらは我々人間に使役される為に神々に創られた人間の僕だよ」


「…………」


この手の思想も異世界のお約束だ、しかしいい歳こいたオッサンが真顔で言ってのけるか。普通にドン引きである。


まぁ回りのオッサン商人達も普通に引いてるから、あのジニスってのが普通じゃないんだと思いたいな。


ここは一つ、このジニスから黙らせるとしようか。


「たとえ神からそう創られたからとしても、仕える者が仕えるに値しなければ、その者の元を去る者もいるかと」


「ッ!?貴様!平民風情が今何と言った!?」


アンタも平民だろ、商人貴族とか呼ばれるからって本物の貴族でもないくせに。


私の暴言……普通に正論のつもりだけど、その言葉を聞いてキレるジニス、そして私に視線を集中する他のオッサン商人達だ。


私は話を続ける。


「正規の手続きを踏んで買った奴隷でも、労働をさせるなら休息はあって然るべきかと、それとモンスター達を相手に素手でどうにかしろっと言うのは奴隷達からすれば死刑宣言も同じでは?」


ジニスがガタッと音を立てて椅子から立ち上がった……さっきまでは真っ赤だった顔が今度は青くなってるぞ。


スーツイケメンをはじめとした商人達もジニスの反応に何やら思うところがある様な態度を取っている。


ちなみに奴隷システムなんてものがあるこの世界でも奴隷をそんな扱いをすれば、その主人が罰せられる。ってか下手をするとその主人が奴隷にされるのだ。


それを分かっていてそんな真似をする辺り、コイツは自分のする事がバレる訳がないと言う謎の自信があったのかね?悪事はバレるよ、アホか。


「キッキサマ!?どこでそん……そんな話を聞いたか知らんが、そんなのはデタラメだ!」


何とかボロを隠そうと必死だな。しかし甘い、私の追撃は基本的に相手のアキレス腱を抉るのが殆どだ、覚悟しろよ。


「そういえば。貴方が他から私兵を借りるのは何故ですか?自分の私兵とやらはいないのですか?」


「……ジニスの話ではその多くがモンスター達と奴隷達に殺されたと……」


私の言葉に、スーツイケメンが答えた。


「それはおかしいですね?ジニスさん、貴方の部下を殺したのは貴方の部下で……」


そのタイミングでの事、我々のいる部屋の扉がバンッと開いた。


現れたのは金髪を長いロールにした、青い瞳の美女であった。

歳は二十代中頃、赤を基調とした貴族スタイルのドレス姿をしている。スタイル抜群である。


「無駄な議論はそこまでにしなさい!いい加減現場の人間だけでは対処出来なくなっていると……ん?」


「こっこんにちは…」


美女が相手だ、取り敢えず挨拶をしとこう。






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