第89話『オッサンの夏休み(5)』

こんな時って魔法が使えてよかったって心底思うわ。


マリンロブスターに敵意といった物は感じられなかった、無論近づき過ぎれば警戒されるので遠すぎず近すぎの距離で回復魔法を発動した。


まあ呪いも傷もなくなったけどお礼を言われる訳でもなし、何となくで回復させた私だ。


しかしその効果か、マリンロブスターはこちらに向き直る、まぁその後はただジッとこちらを見てるだけだけど。ジ~~っと見てきてるわ。


「なっなにか悪い事でもしてしまいましたかね?」


「いえっそんな事はないかと……」


少し戸惑っている我々、すると近くの海底の砂がブワッと舞い上がった。

え?モンスター?っと身構えると、今度は白くてこれまた大きなカニが現れたのだ。


そのカニはいわゆる前にも動ける方のカニだ、ズンズンって感じでこちらに接近してきた。

しかしユーリは身構えていたのを解除した、つまりこのカニもモンスターとかではないって事か。


カニは私の前に来るとクルッと身体を回して背中を見せた。………あっロブスターと同じ様な呪いの傷を発見した。


「……治してほしいって事ですよね?」


「多分……そうかと思われます」


背中を見せたカニはまるで催促するかの様に背中を左右にフリフリしてる。なんか可愛い。


まぁ回復が必要だというのなら回復しましょうかね、私は回復魔法を発動した。

カニさんの傷も呪いも跡形もなく消えた。


「ご主人様、このタナンクラブもまた魔素を浄化する事で生活する生き物です。しかしマリンロブスターよりも警戒心がとても強い筈なのですが…」


「まぁあの呪いって結構厄介な代物でしたからね」


一体どこの誰があんな物をエビさんやカニさん達に使用したのか、それとこの白いカニさんも治したらこちらをジ~~っと見てきてるのは何なの?。


「ご主人様、取り敢えずもっと先の方に進んで見たいです」


「分かりました、しかしあまり沖に出るとモンスターが出て来ると聞いたので気をつけて行きましょうね」


何でもこのアルバトラスの海にはモンスターが近付いて来れなくする魔道具ってのを海面に浮かべて並べてるらしい。


それのおかげで本来なら海からも現れるモンスターが侵入出来なくしてるのだそうだ。

どんなアイテムか知らないけど便利なアイテムがあったもんだな。


無論その効果の届く範囲は数キロ程なので沖に行こうとする人には注意を促す仕事の人もいる、私達は事前に魔法で姿を隠してるのでバレてないだけである。


ずっと海底に潜ってるってのも普通なら余計な心配をかけてしまうからな、普段の私ならやらない、しかし今はユーリと海の散歩をしたい気持ちが優先なのだ。


ユーリは泳ぎながら前を進む、全身運動だ、色々躍動感があって中年の心は満たされた。


………ん?何だあれ。


ユーリも泳ぐのを辞めて、私と同じ方向を見る。

何故ならそちらの方向から……様々な海の生き物がゾロゾロと泳いで来たからだ。


「……ユーリ?アレは一体何ですか?」


「分かりません」


大きな魚にタツノオトシゴ、デカいウミガメや他にもマリンロブスターやタナンクラブも見かけた…っえ?まさかだけど。


それらは何故かユーリと中年を包囲、見ると皆どっかしらにあの呪いの傷を受けていた。


「…………これは治してって事で良いんでしょうか?」


「おっ恐らくはそうだと思います」


流石のユーリもこれだけの海の生き物が自分から現れる事にビビってる。

私もビビってる、だって表情とかよく分からない海の生き物達がいきなり現れてこっちをジ~~っと見てきてるんだぜ?。


普通に怖いわ、まぁそれでも回復はしますけど。


こんな呪いが海の生き物をむしばんでるなをて、気分悪いから。

回復魔法を連発して治していく、途中から広範囲への回復魔法を使えば良かった事に気づいた私はまとめて回復させる様にする。


それでも結構な量の生き物が来ていたのでその全てを治す頃には時間もかなり経っていた。


「ふうっこれで最後ですね…」


なんとか全ての回復と呪いの除去を完了した、すると魔法のお礼だろうか、海の様々な生き物がまるで踊る様に海中を動き始めた。


「……これは」


「綺麗ですね、ご主人様」


ユーリが笑っていた。


そう言うユーリが綺麗である、もちろん目の前の光景も、カラフルな魚達やカニやらエビ、それにクラゲまでがまるで流星の如くビュンビュンと。


それらは和達を中心に螺旋を描き、虹色の渦の中にでも放り込まれた様だ。


私の横のユーリをチラ見、思えば彼女がここまで自然な笑顔を出来る子に成長していたんだね。

中年は、嬉しい様な悲しい様な……やっぱ嬉しいわな。


やがて海の生き物達はそれぞれの元いた場所へと帰っていった、後には私とユーリだけが残る。


海面から顔を出すと夕方であった。


「ユーリ、もうそろそろ海から上がりませんか?暗くなると流石に危険ですから」


「分かりましたご主人様」


なんか少し申し訳ない気持ちだ。折角海に来たのにあんまり泳げなかったから。


「あまり自由時間がありませんでしたね、ユーリ、すみませんでした」


「え?私はあれだけの種類の海の生き物を観察出来た事でとても満足出来ましたけど……」


ああっなる程、確かにあの光景は水族館でも見れない物だった。

良かった、ユーリもちゃんと夏の海を楽しんでくれている様で安心した私だ。


「そうですか、それは良かった」


ユーリの言葉に一緒に行って良かったと思った。


◇◇◇


私は借りている宿の個人にいた、空は紫色になる頃合である。


そして回復魔法ばっか使った私は疲れた、魔力とかじゃなくて海に長居し過ぎたからだ。

無論その疲れも回復魔法で消せるが、私はこう言う疲労感って実は嫌いじゃない。


「なんか今ならよく眠れそうだな」


ユーリを部屋まで送って今は1人な私だ。

このまま少し寝て夜のリゾート地を観光するのも悪くないだろう。


結果としてリエリとイオちゃんを放置してしまった訳だし、何か埋め合わせを………っあ。


そう言えば、ラビリントルで貰ったダンジョンの宝から彼女達へのプレゼントを餞別する事も渡すこともしてなかったぞ?。


「…………………ヤバいな」


まぁ私が勝手に以前怒られた時にジュエリー的なのでご機嫌を取ろうとしていただけで、何かをあげるとか話した訳じゃないのだけど。


しかし今更そんな理由であれらを渡すのも違うだろう、ここは………更にプレゼントを用意する作戦だな。


あのダンジョンの財宝の一部から3人が喜びそうなのをピックアップ、さらにこの観光都市で3人が喜びそうな物をセットで渡すのだ。


そうすればプレゼントが遅れた事実なんて無いも同然、むしろ中年の好感度は天元突破間違いなしだ。


私は新たにこのアルバトラスでのミッションを発令した、フフフッて事で少し寝ます。


「…………………」


ん?ドアの外に誰かの気配が?。


「どうしたんですか?早く行きなさいイオ…」


「いっいやあのですねリエリさん……」


なんか話してる?聞こえない、ってか眠いな。


…………寝よ。



そして起きた時には………夜であった。

完全に寝過ぎてしまったわ、リエリとユーリに念話で聞くと既に晩御飯も済ませてしまったとか。


そりゃそうか、既に時刻は深夜になる一歩手前である。

この時間じゃあ、どこもお店は閉まってるだろう。24時間経営なんて概念なんて無さそうだし(まぁ必要とも思ってないが)。


流石に夜のリゾート地って言っても時間が過ぎてるよな、バーとかあったら空いてるかな?って時間帯である。


バーとかどこにあるかも知らないけどな。


まぁ寝起きであり大して食欲もない、その内お腹が減ったら魔法部屋にでも行って何か探せばいいよな。


「……夜の散歩でもしてみるか」


それは単なる気まぐれ、寝過ごしただけだが折角起きたんだ。

滅多にしない事でもしてみる価値はある、誰もいない夜の砂浜とか、波の音を聞きながら歩くってのも悪くない気がしてる私だ。


昨日の晩御飯の時の美しい夜の海と星空と月が記憶に新しいのも理由である。


「よしっ行くか」


そうと決まれば早速出掛けるとしよう。

そしてドアを開ける。


「……………リエリ?」


「こんな時間にどうかしましたか?ご主人様」


黒髪秘書からラフスタイルの黒髪のおねぇさんにクラスチェンジしてるリエリが現れた。






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