第82話『お酒最強伝説(4)』

時間を少し巻き戻す。


魔王軍はパイルラ王国がある大陸とは別に存在する、雪と氷に閉ざされた大陸にある、とある国の軍である。

魔王軍の目的は豊かな土地を手に入れてそこに新しい国を作る事なのだが今はそれは関係ない。


魔王軍兵士五千人で今回の指揮を任されたフリーレンスは、進軍する兵達を最後尾から見ながら思案していた。


(今回の任務……迷宮都市ラビリントルへ行きその都市を占領する。そして大量のモンスター抱えるダンジョンの支配権を奪い、そのモンスターを従えてこの大陸でも強国とされるパイルラ王国を攻め落とせ、か……)


軍の上層部からの話では何でも軍を動かす前にスパイ達を迷宮都市に潜入させてあり、その者達が作戦を成功させていればダンジョンを制圧されており、魔王軍は戦力を保持したまま拠点を手にできると説明された。


(あの規模の都市をどうやって?そもそも今回の任務には胡散臭い何かを感じるのよね)


フリーレンスは今回の任務を回してきた幹部の男が何故か信用出来なかった、そしてその男こそ邪教一派のスパイだったりする。


女の勘というヤツである、しかしその勘もこの道の先に現れる奇想天外な中年野郎のワンマンライブステージへの警鐘を鳴らすことはなかった……。


そして時は現在に戻る。

青野の水攻めによって魔王軍の兵士は大変な事になっていた、ある者は波にさらわれ、ある者はサーフィンをするブラック君とかいう全身真っ黒助の青野が召喚したモンスターにぶっ飛ばされていた。


現場は阿鼻叫喚、フリーレンスにも何が何やらといった所である。

フリーレンス自身は戦場で1番高い場所に移動して大量の水に洗濯されるのを回避していた。


しかし現状を高い位置から把握すればするほど、自軍がメチャクチャにされている事を嫌でも理解してしまう。

流石のフリーレンスも毒づいた。


「クソッ!何なんだあの魔法使いは!?こんな大規模の魔法を1人の魔法使いが自在に発動しただと!?そんなバカな事があるか!」


フリーレンスは青野が周囲の視線を集め、結界外に隠れ潜んでいる無数の魔法使いが何百人も協力してこのふざけた茶番を演出しているのではと一瞬考える、しかしこんなアホな事を魔王軍相手にするなんて有り得ないと結論を否定した。


(しかしそれなら、本当にあの岩の上の魔法使いが?有り得ん、この私が直々に化けの皮を剥いでやるぞ魔法使い!)


フリーレンス自身も青野の魔力除去の魔法で魔力は殆どカラである、しかし魔王軍の兵士を何千人も束ねる女傑の負けん気は大した物である。


その時、青野がまた別の歌を歌い出した。すると結界内を物凄い勢いで荒れ狂っていた大量の水が一瞬で消滅する。


フリーレンスは訝しげが視線を岩の頂上に向けたがこれはまたとないチャンスだと考えて一気に青野に接近しようとした。


「……………アレは何?」


フリーレンスは気づく、自分達魔王軍が挟まれる様に左右それぞれに1列に幾つものかなり大きな魔方陣が並んで出現した事を。


どこからか指を鳴らすパチンと言う音がした。


青色の魔方陣が発光する、するとその魔方陣から見上げる程に巨大な鎧を纏った竜が現れた。


「なっななななんだとぉオオオオオオオおっ!?」


絶叫するフリーレンスを召喚された巨竜の騎士は静かに見下ろしていた。


◇◇◇


既に楽しさがマックスになった私は、最早歌いたい歌を適当に歌っている。


前に見たドラマの主題歌から令和から平成に昭和で記憶にある歌を、歌詞を覚えていない歌も多いので魔法で記憶を思い出しながら歌う私だ。


夏を思い、海を召喚したら魔王軍が壊滅しちゃいそうな感じになっていてウケた(酔っぱらってる)、サーフボードを召喚したブラックダイバー事ブラック君達に貸したら物凄く美味いサーフィンを披露されて、私もサーフィンを始めたくなったぜ。


……ってそんな事を言ってる場合じゃないな、なんか向こうさんも騙されてかなんかでワザワザ迷宮都市まで軍を出してきたんだろう?。


流石にそれで全滅させるのは可哀想である。


【我が力を持って、水を統べる。水支配アクア・ルーラー


だから私は召喚した海(要は物凄い量の海水)を魔法で消してあげる事にした、召喚してたブラック君達には退場してもらおう。


海もブラック君も一瞬で消えた、溺れたり茫然自失となった魔王軍の連中が助かった?って顔をしている~~~。


…………フッフフフッ。


そぉ~んなぁ~訳があるかっ!アホッ!(酔っぱらってる)。


お楽しみはこれからだ!。


魔法を発動!。


【我が力を持って新たな僕を此処に。創造生物召喚サモン・クリエイトモンスター


30メートルサイズ位の大きく青色の魔方陣が魔王軍の連中を左右で挟む様に列を成して数十個現れる。


私はパチンと指をならした。


そして召喚された者、それは巨竜騎士である。


ドラゴンライダーの方じゃなくてまんまドラゴンが二足歩行の上にカッコいい鎧を着込んでアホみたいにデカイ槍を装備している、正にドラゴンナイトだ。


ちなみに青い鱗のドラゴンで身体の見た目は西洋の四足歩行でお腹が出ているズングリムックリなあの感じではない、人間タイプの逆三角形のいい感じのマッスルボディである。羨ましい。


そのマッスルボディにドラゴンの頭と尻尾をつけて身体全体を鱗で覆った感じだ、そんなドラゴンが自分の身体のサイズに合った鎧とか槍とかを装備してくるなんて、魔王軍からすれば地獄であろう。


すると早々に魔王軍の兵士から悲鳴が巻き起こる。


「もっもう沢山だぁああっ!」「助けてくれっ!助けてくれぇぇええっ!」「逃げろ!逃げるんだよぉおおおおっ!」「どこにだよ!まだ結界すら破れてねぇんだぞ!?」「もうダメだぁ………」


おうおうっ本格的に絶望ムード全開だな。

そりゃあそうか、巨竜騎士達の身長は50メートルを超える、まともに喧嘩しょうとすら普通は思わないだろうなぁ……。


後は後ろの方の結界を解いてやれば魔王軍は全力で撤退するだろう、それでミッション完了ってヤツだ。


………しかし私は。まだ歌いたい!。


「~~~~僕たちピク~~~貴方だけに~ついて行く~~」


社畜の鏡の様なとある存在に捧げる歌だ。

私の歌に呼応する様に巨竜騎士が持っている槍の持つ部分の柄を地面に全員が合わせて突く。


ズンズンズンッ!ズンズンズンッ!。


結構な数の巨竜騎士が名瀬かそんな事をするもんだからその度に結構な地響きがして魔王軍の連中が更にビビるのだ。


更に行くぜ!魔法で再びブラック君を召喚!召喚されたブラック君達は夏祭りの衣装を思わせる出で立ちをしていた。


更に私は特殊召喚スペシャル・サモンの魔法で……今度はみこしを召喚する!。

みこし、あの夏に野郎が担いで合戦したり練り歩いたりするヤツだ。


私が召喚したみこしには青い龍がとぐろを巻いてるのが乗っかっている、それを担ぐのはブラック君、そして私はみこしの1番上にピットイン(酔っぱらってる)。


そして中年のテンションは限界突破。


行くぜ。


そいやー!そいやー!そいやー!そいやー!。


ズンズンズンッ!ズンズンズンッ!。


そいやー!そいやー!そいやー!そいやー!。


ズンズンズンッ!ズンズンズンッ!。


楽しい~~超楽しい~~わ。


しかし今度は令和の曲でもっと歌おうとしたら、くらっと足に来た、ヤバっ流石に飲んでカラオケボックスごっこと更に夏祭りごっこはやり過ぎたか?。


元々あまりお酒を飲めるタイプじゃない、酔うほど飲んだ経験も碌にないのだ(酔っぱらってる)。


「う~ん、仕方ないか。お開きにしよう……」


何時までも2次会とか3次会って長引かせる上司は嫌われる、そして酒の席で自分だけが気持ち良くなる話(愚痴と説教)しかしない人間が好かれる道理はない。

だから終わらせる時はキッパリと終わらせるのが私だ。


社員に自分と飲みに来る事をしつこく強要する名も無き上司を蛇蠍だかつが如く嫌っていた、同僚の佐藤君、私と同じおっぱい星人の系譜である彼の事を思い出した。


彼は元気かな~。


そんな事を考えながら発動した結界の1番後ろっ側にトンネルの様に穴を開けて出口を用意する。


「魔王軍のみなさ~ん、後方の結界に穴を開けましたから出て行くのならご自由に~。もしもまた攻めて来たら本当に全滅させますからね?」


【我が力を持って、全ての敵を打ち砕け。破壊閃光デストラクション・レイ


高い所から立つ私の右手から青い光がカッ!と広がる、それは魔王軍全体を一瞬で包みこんだ。

そしてその光が消え去った時………。


「「「「なっ何だこれはぁああああっ!?」」」」


そこには全ての装備を失い、裸一貫の姿の魔王軍がいた。


私の全てを破壊するオーバーキル気味の魔法、その力を持って彼らの防具や武具だけを塵すら残らず破壊したのだ。


野郎はパンツすら残さなかった、マジかよ、パンツ位残してやれよ私の魔法。

魔法のコントロールがバカになってる、さっさと追い返そう。


そんな事を考えながら眼前の魔王軍を見下ろすと。


……………………あっ。


……実はステージで歌っていた時にとびきり綺麗な美女を魔王軍の中に発見していた。

エロゲーに出てきそうな露出度が高い女物の軍人服みたいなのを着ていた彼女、名をフリーレンスとか言うらしい。


魔法で彼女の事を調べたら分かった。


そんな彼女も全ての武装を失って全裸である、ヤッベーそう言や1人だけ美女が混ざってたわ、ごめんなさい。……けど。

………最高かよ(酔っぱらってる)。


「クッ!この様な……クソッ!撤退!撤退だぁぁっ!」


彼女の鶴のひと声でボケッとしていた魔王軍の兵士達は直ぐに行動を開始する、必死に逃げていく。

心意看破の魔法による情報ではあのフリーレンスと言う女性があの魔王軍で1番偉い人なんだとか。


取り敢えず私に追撃の意思はない、逃げる彼らを見送るのみである。


ちなみにあの魔王軍とやらは別の大陸にある国の軍隊らしく、かなり大掛かりな集団転移を行う魔導器と言う道具を使ってこの大陸に来てるんだとか。


そして心を読むとその魔導器を使って故郷の国、要は魔王様とやらが治める国に全力で逃げ帰る気マンマンの様だ。


その魔導器とやらも何度も使える代物ではないらしく、当面は迷宮都市で何事か起きる心配はないだろう。

私は黙って逃げる魔王軍を見ていた。


主に全裸で背中見せて逃走するフリーレンス殿のお尻とか太ももにチラ見ではなく、熱視線を送る。


ジ~~~~~~~~。


「!?」

(何………この粘っこい視線は……ッ!)


あっフリーレンス殿が此方にバッと振り返ってきた………もしかしてこの中年魔法にホレ。


「この黄色いドスケベ野郎が!この借りは必ず返す!必ずだ!死ね不細工!」


「……………………………」


そう、捨て台詞を吐いて彼女は部下達と共に逃げて行った。

無傷で圧倒したけど、心に傷を負ってしまったな。泣いてしまうよ。


頬に一筋の涙を流す私だ。


「ご主人様、追わなくても?」


「構いません、元から追い返すだけのつもりでしたから。もうあの方々が此処にまた攻めて来る事はありませんよ」


まぁ無傷とはいかなかったが、死傷者を1人も出さずに事を収められた事に安堵した。

するとそのタイミングでふらっと。


ああっやっぱり中年は、相当に酔っていた様だ。


緊張の糸が途切れたタイミングで私は寝落ちしてしまった。





















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