第77話『夕食の時間』
そして時間が多少過ぎた頃合にて。
冒険者ギルドでの一悶着は私が用意したお金でまぁ何とかなった。
別にあの大金はあげたのではなく、投資である云々と伝えた。
これは貸しです的なヤツである。
要は前の世界で言うと会社の大株主とかに近い立場に私がなり、代わりにこの大金をそちらに渡しますので上手いことマネーパワーで頑張って下さいと言う話をしたのだ。
無論金だけで得られる組織への発言権なんてどの程度の物になるのか、社畜だった私には分からない。
けどどうにかギルマスのヤツをブタ箱送りだけは回避出来た。
『なんでそんなヤツを助けるの?』って視線が当たり前だが私に突き刺さりまくった、しかし次の私の言葉がその張り詰めた空気を変える。
私が言った言葉とは、このギルドマスターをその座から降りてもらい、代わりの方を冒険者ギルドのギルドマスターに据える事。
無論そのギルドマスターはこのギルマス以外なら誰でも良いのでそっちで決めて欲しいと伝えた。
そして……この元ギルドマスターを新しくなる冒険者ギルドで……下っ端社員として雇う事を注文したのだ。
その瞬間、ギルマスの顔は真っ青、私と赤髪のドワーフ、それと冒険者達とギルド職員はニンマリした。シュレスちゃんはヤレヤレって感じであった。
自分が散々好き勝手やった組織で下っ端社員として働く。
それは簡単に言って地獄である。生き地獄だ。
私はそれを分かって提案した、この小者は人殺しはしていないが割と禄でもない男である事は心意看破の魔法によって確認済み。
ならばこれくらいの地獄は見てもらわないとな、ハゲにしないだけ有り難いと思って頂きたい。
当然万が一逃げたりなんかしたら……その時はどうぞお好きな様に料理して下さいと伝えてある。元ギルマスの怯えきった顔を見ればバカな考えはしないだろう。
何故に怯えるのかと言うと、それは彼を見る冒険者達とギルド職員達の目がとても力強い輝きをたたえていたからだ。きっと世の中の厳しさってのを手取り足取り教えてくれるに違いない。
私の足取りはとても軽くなった、これでもうこの迷宮都市で変なイベントとかは無いだろう。
私はシュレスちゃんに今後も大変な事はあるでしょうが頑張って下さいとエールを贈った。
好感度稼ぎである、私はシュレスちゃんに興味津々であった。始めて会った時から……。
しかしそこで赤髪のドワーフが私を捕まえて何やら語り出しやがった。
なんか私が持ち込んだ諸々のモンスターの素材を金に換えてくれたのはこのアガストであるらしい。
早くシュレスちゃんとの会話に戻りたかったけどあの量のモンスター素材を捌いてくれた事には感謝しているので会話に応じる私だ。
しかしそっからが長かった、他のギルド職員も冒険者達も自分の仕事に戻っても時間が軽く1時間は過ぎても喋る喋る。
正直話半分で聞いていた私だったが、その会話の途中でこのドワーフがとんでもない事を言った。
『あのシュレスが事を起こした時は驚いたわい、しかもワシと息子が住んどる家に匿って欲しいと言ってきおってなぁ……その時初めてワシは自分の息子とシュレスの嬢ちゃんが付き合っとる事を知ってのぉ~~~』
……………………。
ほっほう?ほうほう…………マジかよ。
まっまぁ私はシュレスちゃんとそこまで深い仲って訳でもないし?別に深い仲になりたい訳でもないし?。
…………嘘だよ。
深い仲になりたいに決まってんじゃん、じゃなけりゃあ誰があんな元ギルマス何ぞを
そうっ全てはシュレスちゃんとの交流を持つために、そして好感度稼ぎの為だったんだよ。
しかしその作戦は脆くも崩れ去った。
ゲームオーバーってヤツである。
私は軽くなったが一気に重くなった足取りを進めて、魔法部屋を使える人目がない場所までトボトボ移動して転移した。
………チクショウ。ドワーフの息子め。
顔も名も知らない(アガストが言ってた気がするけど忘れた)赤髪ドワーフの息子にメラメラとした嫉妬を覚える私だった。
そして魔法部屋に転移した私は目を見張った。
何故ならリビングのテーブルにはかなり美味しそうな料理が並んでいたからだ。
今日の夕御飯は洋食系、コーンスープにハンバーグ、それにサラダとパンである。
こう言う一般家庭の料理って良いよね、まるでこの場の人達と家族になった様に感じる。
ゴーレムツインズはともかく、イオちゃんにはキモ~いって思われるかな?。
しかしどれも温かく。冒険者ギルドで荒んだ私の心がホッコリするのを感じる。
ただ問題はそんなキラキラと輝く様な料理ではない、そうっやっぱりそのテーブルに着く美女達であろう。
ユーリは当たり前の様に私が座る席の隣で胸の谷間がこんにちわって感じのミニスカメイド服を着ている。
リエリは美人秘書の様なスーツとスカート姿である、しかして胸の谷間はちゃんとこんにちわである。きっと私の好みを熟知してるが故の仕様だ。流石はゴーレムツインズである。最高です。
そしてイオちゃん、彼女はいつものファンタジー仕様の教師スーツとスカート姿ではなく、恐らく迷宮都市で買ったであろう少しラフな格好をしていた。
胸の谷間とかはないけど、よりその巨乳がハッキリと……ありがとうございますっと幸せをかみしめる私だ。
「今晩の料理もとても美味しそうですね」
「フフッアオノさん、今日は私達3人で料理をして待っていたんですよ?私はそのハンバーグを作りましたね」
え?このハンバーグとかってイオちゃんの手料理でもあるの?……全て平らげなければ。
「無論魔法でご主人様の帰りを確認しながら調理を進めましたから、完成のタイミングも配膳のタイミングも完璧です」
え?魔法で?いつから覗いていたの?まさかダンジョンであのイケメンをハゲにした時からなんて事は……。
「ご主人様、ユーリの暴走はユーリの単独犯です。そしてイオ、貴方はハンバーグの空気を叩いて抜いただけですよね?」
「そっそれでも料理を手伝った事実は変わりませんから!」
「それは厚かましいとユーリも思います。それとリエリ?単独犯と言うのはおかしいです、ご主人様への監視は私ではなくリエリが言い出しっぺですよね?」
美味しい料理に囲まれて、綺麗な女性とテーブルを囲んで、彼女達の会話に耳を傾ける。
なんかアレだな、とても幸せでございますね。
そんなキモい事を考えながら私はゴーレムツインズとイオちゃんと会話をしながら料理を頂いた。
もちろんダンジョンについては向こうさんの困る内容は避けて、私があの厨二の使途達とやり合う事になったいきさつや……。
あのネズミオッサンについても……少しは話した、その正体がモンスターで人間に化けて迷宮都市に入り込んでいる商人とかはあまり話せる内容じゃなかった。
後あの黒髪美人のパシりである事も言わない、だってそこを言えばこの素敵な食事の雰囲気がどうなるかって話である。
アルコールクエストの報酬については、全て貰った後に話そうかな……話すかな?私が……。
それからも中年的には天国の様な食事タイムはつつがなく進み、私へのなんやかんやなんて何も無かった様に楽しいひとときであった。
◇◇◇
それから2週ほどこの迷宮都市で過ごした。
既に十分な金を稼ぎ、さらにダンジョンからも途方もない額の収入が期待できる現状でワザワザ冒険者なんてしない私だ。
殆どタダの観光客として過ごした、と言うのももう雨期に入ったらしくシトシトと雨が一日中降る日も増え来たからだ。
誰も雨の日に外に出てモンスターと戦いたくはない、ダンジョンに行く気も失せるのも仕方ない事だ。しかし金がない貧乏な冒険者は雨除けの外套を着て今日もパーティーを組んで出掛けているのを見掛けた。
………がんばっ。
ユーリは私が出した料理の本を読んで日々料理のスキルを磨いている、冷蔵庫は中の物は開けた者の意思に応じて変わるので減る事がないからな、毎日様々な料理を振る舞ってくれる。
イオちゃんは結構部屋にこもりがちである、どうやら研究に没頭出来る個室を与えた事でここ何ヶ月か碌に出来なかった魔法の研究を再開し出したらしい。あの美女をお目にかかれないのは残念である。
そしてリエリはユーリが以前していたゴーレムソードに化けて私の腰の所に装備している。やはり私の単独犯としての犯行に、あの3人は満場一致で否定的であるっまそれは仕方ないよね。
後あの精霊幼女は何故か当たり前の様に私の部屋に居座り黄金の魔神像にヤクザキックをかましていた、やはりあの魔神には並々ならない怒りがあった模様だ。
そこは理解出来る。けど私の部屋に居座るのは辞めて欲しいよ、だって1人の時間が取れないじゃないか。ムラムラを解消出来ないじゃないか。
仕方ないのでその度に時間を止めてスッキリすると言う手間をかける私だ。
……そして私は雨が降る迷宮都市で観光をしながらもこの静かな雨音に前の世界での梅雨を思い出したりした。
「……この雨期があければ、いよいよですか」
何がいよいよかと言うと……夏である。
そうっ色々あって忘れてたけど、私達は夏のリゾート地に向かって夏を思いっきり楽しむ為にこの迷宮都市でモンスターを倒して素材を換金してお金を稼ぐ為にきたのだ。
まあそれも全ての問題は解決、後は大金が入って来るまでのんびりとこの雨が降る都市で待つだけで良いのだ。最高だな。
降りしきる雨と雨雲を見上げる。
以前の、社畜だった頃の私は雨が降る日は決まって憂鬱であった。
だって靴もズボンも汚れるのが決まってるからだ、故に仕事の日に雨が降ると嫌な気分になった。
週明けに降るなよって思った……けど休みの日にも降るなよとも思ってしまうのが私だった。要は余裕と言う物が無かったのだ、狭量の極みである。
そんな私がこれ程心穏やかに雨の日を過ごせる。全てはお金があり日々の時間を思うままに使えると言う余裕があるからに他ならない。
正に異世界で送る第2の人生を謳歌している、最高のスローライフ(?)をしている。
そして………。
「旦那、随分と待たせてしまってすいやせん、ダンジョンからの報酬。全てここに……」
現れたのはネズミオッサン。
そして差し出した右手の手の平には金色の綺麗な装飾が施された指輪があった。
……これは恐らく
「……なる程、これは指輪をつけた物が魔力を流し、指輪に付与された魔法を発動する事でその報酬が取り出せる力を持つ指輪、ですね?」
「お見それしました。その通りですアオノの旦那、まさか一目で見抜くとは流石です……」
「フフッ魔法にはそこそこの知識があると自負してますから」
むしろ魔法に関する知識しかありません、この世界の知識は穴だらけでございます。
そしてネズミオッサンに指輪を渡された。
「アオノの旦那の魔法知識なんて、そこそこで済むレベルとは思えませんけど。それと夜叉桜様からも連絡がありました、今日の深夜頃に宴の準備は完了する。『落命の秘酒』を持って人目のない所で
「はいっ分かりました」
いよいよか……。
アルコールクエストの報酬を頂く時が……来たぁああああああああああーーーーーーーーーーー!。
私は心の中で歓喜の絶叫をした。
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