第76話『帰還と一悶着』

◇◇◇


ネズミオッサンには転移の魔法でダンジョンから出た時に報酬を渡した。

流石にこんな騒動になったので少しは報酬に色をつけた私だ。


具体的にはこの迷宮都市で稼いだ金から私の小遣いから多めに出して、前の世界から召喚したお酒のツマミ(コンビニとかの袋入りのアレ、チーズとジャーキー)を渡しておいた。


お金よりもツマミに目の色を変えたネズミオッサンは本物の飲んべえだと私はにらんだ。

まぁ数日間とはいえ共に旅した中だし、もちろん知ってはいたけどな。


「いや~これは楽しみですよ。それじゃあ蒼騎士の……おっと今は普通の冒険者でしたね、それじゃあアオノの旦那、報酬は有り難く頂戴します」


「はいっそれとダンジョンから報酬を支払う目処がついた時はその連絡役まで頼んでしまって申し訳ありません」


「ハハハッ!そんな雑用も含めてアッシの仕事ですから気にしないで下さいよ」


「あっそれと夜叉桜さんの方はお酒は用意でき次第私から直接渡しますのであの『落命の秘酒』もこちらに持って来て下さいね?」


「………旦那も気づいてたんですね~~なんか秘密とかを隠して仕事する地神が無くなってきました」


ごめんね、私のは心意看破で心を読んだからだから、別に顔に出てたとかじゃないから……。


あっちなみにこのネズミオッサンはあの黒髪美人の使いっ走り見たいな感じの人である。

なんか私がダンジョンに行かずに迷宮都市であさっての方向にアルコールクエストを進めていたら接触してダンジョンにあるお酒に導くのも仕事だった様だ。


そこは精霊幼女がネタバレ幼女になったせいで色々と超特急でクエストが進んでしまったので、迷宮都市に来てまだ接触するタイミングでもないし商売でも~っとしてる時に中年の襲来を受けたのだ。


そりゃあビビって一旦は逃げるよな、もの凄い早さで逃げてたし……。


しかし道理であんないきなりな頼み込みで素直にダンジョンの裏口まで案内してくれた訳である。普通なら途中で1度くらいはトンズラしようとするだろ、私ならする。


だってオヤジと2人旅とかイヤだから、自分から言い出しといて内心ストレスフルだった私だ。きっと彼もそうだったろうに……。


それとお酒を持って来てっと言うのはアレだよ……万が一あの美女が現物を持ってトンズラとかしたら………私は怒ってしまうかも知れないからな。


そうならない為の保険である、ちゃんとクエストの報酬は……一緒に酒の席を囲んでパァーーッとすると言う約束を果たしてもらわなければ。


「それじゃあアオノの旦那、アッシは一足先に行きます」


「はいっそれではまた今度……」


ネズミオッサンを背中を見送りながら、ようやく人心地ついた私だ。


そうっアルコールクエストのクエスト達成は目前である、やっとだ……なんか思い返すと余計な事と関係ない事を沢山した気もするけど、今となってはどうでもいいのだ。


(お前よ、私もあの魔法部屋に戻ってるからな?さらばだ!)


(はいっ私は冒険者ギルドに魔法で異空間に放り込んでいる冒険者達とギルドマスターを起こして連れて行くのでまだ時間がかかると思います)


(分かった)


言うと精霊幼女の姿が消えた。

まぁ元から魔法か何かで私以外には見えない様にしていた精霊幼女である。


さてっそれじゃあ私は異空間の冒険者達とギルドマスターのアホをここに出して、一応気絶の魔法を解く前に別の魔法でダンジョンの下層に行った記憶を書き換えるか。


私は異空間から気絶している人々を地面に出現さける、私の魔法で気絶しているので私が魔法を解かない限り目覚める事はない。


【我が力を持って、記憶を自由に書き換える。記憶操作メモリー・コントロール


これは記憶をちょちょいと書き換える魔法である、記憶を消したり、存在しない記憶を捏造したりも出来る。無論好き勝手に使えば碌な事にならない魔法の代表格でもある。


まぁあの僅か間の出来事を忘れてもらうだけなので大した書き換えはしない、思い出そとしても思い出せなくてそもそも大して気にならなくなる様にするだけさ、何も問題はない……事にする。


魔法を気絶してる全員にかけてからみんなを起こした、……何やら目覚めた冒険者達がギルドマスターを囲んで騒ぎ出した。


あーだこーだと五月蝿い事である、まぁ冒険者と言う名のゴロツキと碌でなしのギルマスのケンカだ、私には何の興味もない。

ギルマスを中心に出来る人垣の後ろからついて行く私だ。



それから暫くして、私と冒険者一同とギルマスは冒険者ギルドに到着していた。


そこでは今……。


「こんのぉっ!アホタレがぁああああっ!」


「ヒィイイイイッ!」


赤い髪のドワーフらしきオヤジがギルマスのオヤジに、そのムキムキの腕を振り上げて顔面ストレートをかましていた。


バギィッ!っと言う重めの音が一撃の威力を物語るっあギルマスが壁に吹っ飛ばされて叩きつけられた。


「……………」


既に心意看破を使って事情は把握済みである。


どうしてこうなったのかと言うと、冒険者達に連行される様にギルドに連れて来られたギルマス。


するとその冒険者ギルドには以前会った時はビシッとした秘書スーツを着用してい筈のシュレスちゃんが普通のギルド職員の服装をして忙しそうに働いていたのだ。


そのシュレスちゃんを発見したギルマスがいきなり『こっこの薄汚い泥棒猫がぁっ!』って吠え始めてシュレスちゃんを指さして『この女がギルドの金を持ち逃げした張本人だ!』っと言い始めた。


シュレスちゃんは無言でギルマスを見ていた。ギルマスは気持ち悪い笑みを浮かべてペラペラと喋りまくった……正直内容は殆ど記憶にない、余程つまらない内容だったのだろうな。


そして散々喋りまくったギルマスは気づく、何故かさっきからシュレスちゃんが悪いとずっと言ってるのに冒険者もそしてギルドの職員もシュレスちゃんではなく自分をにらみつけていることに……。


ここで心意看破で知った情報をまとめるとこうだ。


シュレスちゃんがお金を盗んだのは本当である、但しそれは元々ギルマスが持ってどこぞに夜逃げしようとした金をである。


私にケンカを売って返り討ちされて大金巻き上げられた直ぐ後の事、やはりあの騎士の人達は冒険者ギルドとギルド職員(私を騙した受付のオッサン)と冒険者(私を騙した外道な冒険者パーティー)について話をされた様だ。


ギルドから一気に大金がなくなり次から次へと犯罪者が出る不祥事の嵐、ギルマスは速攻でギルドを捨てて逃げる選択をした。


その時に当面の生活資金を用意する為に手をつけたのが、ギルドがこれから各所に支払いをする為に用意していた金である。

例えば職員への給料、例えば冒険者のクエストの達成報酬、ギルドと繋がりがある各種組合への支払い金等である。


当たり前だがそんなバカな真似をするギルドマスターとか有り得ない、組織の頭が組織も雇った人々も捨てて金だけ持ってトンズラとかな。本当に有り得ないよ。


それにギルドの事情を理解してくれるのはギルドに近しい人達だけだ、残念ながら冒険者はそれに当たらない、しかもゴロツキと大差ない様な短気な者も多い連中だある。


この迷宮都市は冒険者を呼ぶことで経済が回る都市だ、その冒険者達が報酬を出さないギルドに対して暴力で答える可能性もあった。

そうなれば………殆ど戦争である、血を見る事になりかねなかった。


シュレスちゃんはそこまで考えて、ギルマスを見限る事に決めたのだ。


そして夜逃げで当てにしていた秘書に裏切られた間抜けなギルマスはあのロン毛の怪しさマックスな依頼を受けた。直ぐに逃げれる大金が欲しかったんだってさ……。


ちなみにシュレスちゃんはあの赤い髪のドワーフらしきオヤジ、名前はアガストって言うらしいが彼にかくまわれていたらしく、あの赤髪は事情を把握している様だ。


ってかこの冒険者ギルドの職員も多くの冒険者もギルマスが金を持って逃げようとしてた事を知っていた、そりゃあしらけた視線を向けるよな。


回りからすればシュレスちゃんに感謝をする人はいても非難する人はいる訳がないってか泥棒猫呼ばわりが完全にブーメランだなギルマス。

赤髪のドワーフ事アガストとやらに殴られるのも自業自得である。


「モーガン!このアホンだらがっ!先代のギルドマスターの親父の顔に泥を塗るような真似しおって!今まで散々バカな真似も見過ごして来たが今回の事は許されんぞ!」


「あっあああ、わっ私は……私は……」


キレまくりの赤髪ドワーフだ、迷宮都市の騎士団に突き出すとかブーブー言っている。

他の冒険者達もギルド職員も頷きまくりだ、どれだけこのギルマスは嫌われてんだよ。


シュレスちゃんも呆れ顔だ、まぁあのギルマス、ギルマスとしての仕事も全て秘書であるシュレスちゃんを始めとしとギルドの幹部的な人達に全ての仕事を丸投げして完全にお飾り社長として放置経営していた様なので下の人間からすれば蛇蠍だかつの如く嫌われて当たり前だよな。


上の人間なら組織内の危機管理然り、働く人間の職場環境やらに労力を割くべきだったな。


……確かに私を冒険者を使って脅したりしてきた様な男だ、ハッキリ言って私もコイツは大嫌いだ。しかしこのギルマス、人を殺したりとかはしていないのだ。


要は良くも悪くも小物だったから、人の命を奪う様な真似をする事もビビって出来なかったのだ。


親がギルマスだったから、そして今の生活水準を落とすような選択なんて出来なかった故に大してギルドマスターになんて興味もないのになってしまったのだ。


当然能力がない事も早々にバレ始める、実力のある冒険者なんかはそれを見抜き早々にこの冒険者ギルドは傾くと判断し迷宮都市を去って行った。


外見こそとても仕事が出来るエリートビジネスマン然としているのはまさに見た目を『取り繕う』事だけが得意だった幼少時代が故である。


心意看破を強めに発動すると、本当に余計なことまで知ることになるので困る私だ。


本当にこんな奴嫌いだ、ブタ小屋でも牢獄でもどこにでも勝手に行って欲しいと素直に思う。

思うのだけども……。


「………すみません、少し良いですか?」


けどやっぱ…人を殺した訳でもないのなら、1回はチャンスをあげても良くないか?。

バカをするのもミスをするのも人間だからな、仕方ないじゃん?って事にしといてやるわ…ハァッ。


ここで見捨てたら、このオッサン本当に終わるだろうなって何となく私には分かるんだもん、それを知ってて見捨てる真似をするのは、今晩の私のご飯を不味くする。だから仕方ないのだ。


「うん?なんじゃお主は?」


「………貴方は」


赤髪のドワーフとシュレスちゃんがこちらを見る、すると冒険者ギルドの職員も冒険者も、そしてぶっ飛ばされたギルマスの視線までこちらに集まった。


そんな中で私は片手をかざす、ギルドの床に魔法陣がブゥンッと現れてその魔法陣の中から1つのアタッシュケースが現れた。


このギルドでギルマス相手に一悶着あった時にゲットした数億円の大金である。

このファンタジー世界特有の組織、冒険者ギルド。


その詳しい契約方法やら周囲の組織との繋がりやら全く分からない私だが、1つだけ分かっている事がある。


金さえあればそう言う問題は何とかなるって事だ。


…………多分だけど。












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