第74話『ボスバトルは終わってますから…』

◇◇◇


何これ?それが私の正直な感想であった。


だって私が少しの間、あの『青き境界』にて酒屋のオヤジとその家族達やら故郷の人達とアレやコレやして戻ると、何故か当たり前の様にダンジョンのピンチである。


ネズミオッサンが私の元に現れて合流、そして雑談をしているとダンジョンの更に下層で大きな魔力を感知した。


急いでネズミオッサンとともに転移するとこんな感じである。しかもその場にいる人々ときたら…。


リエリもユーリもイオちゃんまでいる。


あのロン毛のダークエルフとワニ頭もいる。


ダンジョンマスターの金髪ボブちゃんもいる。


そして見知らぬ冒険者らしき連中とギルドマスターが空中に魔法か何かで浮いている。


……もう本当に意味が分からない、分からないので。


【世界よ、その歩みを停めよ。時間停止タイム・ストップ


取りあえず、時間を停めよう。

これで落ち着いて対処が出来る、先ずは心意看破の魔法でこの場の連中から強制事情聴取だ。


もちろん金髪ボブやユーリやリエリには現状何が起きたのかを調べる程度であのロン毛とワニ頭には洗いざらい吐いてもらう。


イオちゃんには使わない、だってその事を知られたら嫌われそうだからね。


「…………………」


ほうほう、ほほう?ほほほう!。


そして大体の事情を理解した。


先ずは金髪ボブちゃん事ダンジョンマスターね、彼女は敵を私が全滅させたと思っていた。

残ったダンジョンのモンスター達に指示を出しているとダンジョンコアのある場所に侵入する者が現れる。


ダンジョンコアのあるこの広間まで一瞬で移動出来るのは彼女だけだった(なんかこの子は転移が普通に出来るらしい、理由は不明)、急いで行くとあのロン毛とワニ頭がいたわけである。


……これは私の完全な落ち度だ。

私もワニ頭の頑丈さを舐めていた、まさかあそこまで殴っていたのに復活するんな……早過ぎだよ。


あのロン毛のダークエルフもだな、まさかあの状態からダンジョン下層に現れるとは。まぁそれは私の存在に感付いたリエリ達が泳がせた結果らしい。


そのリエリ達とイオちゃんにしても私がこのダンジョンの下層にいるのをあの酒屋のオヤジとの戦いで私が調子に乗って魔力を解放したのが原因である。


………アレ?まさかこの状況って全て私の……いやっ気のせいだなうんっ。


「……取りあえずあの生贄になりそうな冒険者達とギルマスは助けますか」


私は転移の魔法を発動、空中の生贄連中はここに残すとアレなので別の空間へ消えてもらおう。

一応気絶の魔法で意識を奪っておこう、後で記憶を魔法でイジっておけばダンジョン側が困る様な事は起こらない筈だ。


あっちなみにあのロン毛の狙いは上層でイオちゃんと魔法で戦っている時に確認済みである。


その目的とは生贄を捧げて召喚した謎存在にダンジョンコア、つまりこのダンジョンをエサとして食わせてしまおうって作戦だった。


ダンジョンコアにはダンジョンが持つ莫大な魔力が溜め込まれている。

その魔力をエサに召喚した化け物をモリモリと成長させて強化しようとしたのだ。


あとその化け物はイマイチどんなのか不明だけどリヴァイアサンよりも遙かに強大な存在らしいのでワザワザ召喚させる前に手を打つ事にした私だ。


………………って言うか。


「そもそも……もうボスバトルは終わってますからね、これ以上は結構ですよ流石に……」


そうっこれが私の本音である。

正直私はこのダンジョンでの騒動は、あの酒屋のオヤジ事ラグナとのバトルがボスバトルだと思っている。


こんな人型のボスの次は異形の謎モンスターとの連戦ボスラッシュがお約束だろ!っという感じのは要らないんだよ。そもそも生贄になる人達が可哀想だろ?。

どのみち現れた謎存在とか魔法でワンパン出来る程度の雑魚なのは秘密だ。私以外だとほぼ勝てない位には強いのだけどね。


私がこの場にいるので言うだけ無駄な話である。


って訳で、こんな物騒な魔法は……こうだ!。


「…………ハァッ!」


中年が片手をかざして魔力を放つ。


ガッキャアァアンッ!グシャアァアンッ!。


するとダンジョンコアを守る結界だろうか?それとロン毛が生み出した紫色の魔法陣が殆ど同時に粉々に砕けた。

尚これは魔力除去の魔法ではない、単に私の魔力をぶつけて力ずくで破壊しただけである。


あの魔法陣は以前かなり似たようなのをナトリスで見た、今の私は1度見た魔法陣を忘れないんだよ。

そして1度見た魔法なら私は魔力だけで大半の魔法は消滅させる事が出来るのだ。


………嘘だよ、始めて見る魔法でも力ずくで破壊する事は普通に出来ます、だってどのみち魔力で押し潰すだけの単純作業である。


魔力ってそれ単体でもとても便利だよね。


よしっこれで終わりだな、次はリエリとユーリ、それにイオちゃんに発動している時間停止の魔法を解除する。


私は指をパチンとならす。


するとついさっきまで静止画像の様になっていた3人がハッと気がついた様に動きだした。


「「ご主人様!」」


「アオノさん……まさか本当にこんな所にいるなんて」


「……心配をまたかけてしまってすみません」


取りあえず頭を下げる。

だって私はイオちゃんに1人で好き勝手に行動し過ぎだと真面目に怒られた翌日にドロンした前科者である。


特にイオちゃんはこの中年に爆発するビンタをお見舞いしようも意気込んでおられたのだ、ここは何とかへりくだって減刑を懇願する構えである。


するとイオちゃんから予想外の言葉が出て来た。


「そんなまさか、頭を上げて下さいアオノさん。私こそ浅慮な事を言った事を謝らなければなりません……貴方はこのダンジョンの上にある迷宮都市を守る為に必死に行動をしていたのに私は……本当にすみません!」


……え?迷宮都市を守る為にって何が?私はお酒を求めるアルコールクエストの最中に起こったダンジョンピンチイベントを達成しただけであるんだけど……っと思ったけどここは自然に話に乗る私だ。


するとユーリとリエリが話をしてくれた。


「ご主人様と私達が捕縛した連中はあのダークエルフとワニ頭の男、それともう1人いたヤツらの仲間が用意した組織だった様です」


そのもう1人はラグナか、彼は既に倒した事も後で伝えるとしょうか。

ってかあの犯罪者連中がコイツらの関係があったのは心意看破の魔法で知っていた、まぁもう終わった事だと思っていた私だ。


「ユーリと私もあの者達に心意看破の魔法を使って知りました、そしてご主人様は先んじてダンジョンの下層に向かっていた。あの者達が来ることを察して……」


「……………」


………なる程、ただの偶然もここまで重なると私が前もって連中の行動を把握した上で動いていた様に見えたのだろう。


ゴメン、完全にたまたまですってか夜叉桜って言う黒髪美人の仕込みである、けどそれを素直に言うとアレだよな……仕方ない、ここは。


「はいっその通りです。イオリアさんやリエリとユーリには観光でもと言った手前、あまり危険な事には巻き込みたくなかった。だから今回出来るだけ私が1人で動きました」


ほら吹き中年、ここに爆誕。

ホントに最低だよな。死ねよほら吹き野郎っとか自分で自分に幻滅してる私だ。


「そんな、アオノさん……私達は…」


「勝手な真似をしてすみません、しかし詳しい話は後にしましょう。ここはダンジョンの最下層に近い、すみませんがイオリアさんとリエリとユーリには急いでここを離れて欲しいんです」


「それは何故ですかご主人様?」


「ユーリ、実はダンジョン側とはある程度話は済んでいます。しかしここで他の者を入れるとその話がこじれる可能性が高い、だからここは私に任せて欲しいんです。それかさっきまで使っていた異空法衣の魔法を使ってここから少し離れたところで待っていてくれませんか?」


「………分かりました」


「ご主人様、ダンジョン側と言うのはモンスター達ですよ?話が通じるのですか?」


「フフッこれが案外通じるんですよ?まぁ私もモンスターに化けてたのが幸いしたのかも知れませんが、大丈夫でしょう」


「アオノさん、後でちゃんと詳しい話を聞かせてもらいますよ?良いですね?」


「もちろんです」


ダンジョン側の事を詳しく聞かれたら流石に金髪ボブちゃん事、暗夜皇女様に悪いのでその辺りはボカしまくるけどね。


流石にダンジョンの組織運営についてとかは話したりすると彼女に命を狙われそうなのでノーコメントだ。リエリ達が異空法衣の魔法で姿を消しといてくれて助かった。


下手をすると私もネズミオッサンまでダンジョン側から裏切り者扱いを受けるから。


話を終えると3人はその姿が消えた、完璧な異空法衣だ。恐らくイオちゃんはまだまだ扱えないからリエリやユーリがかけてあげたんだろう。


よしっこれで大方の準備は整った後は残った悪者2人の退治と暗夜皇女様との交渉である。


「あっあの騎士の姿にならなくては……」


って訳で中年蒼騎士形態モード・ブルーナイト発動!。


そして蒼い騎士に変身した私は時間停止の魔法を解除した。


静止画像の様に固まっていた世界が動きだした。

真っ先に私に気づいたのはダンジョンマスター様である。


「ッ!?アンタ生きていたの!?」


勝手に殺さないでほしい、けどいきなり光と共に消えたからな、そう考えるのも仕方ないか。


ネズミオッサンは直ぐに6広間の出入口の向こうに逃げて行った、こんな時の行動が早いヤツは助かるね。変に魔法に巻き込む心配が要らないからね。


「もちろん、あの方達の処理は私の仕事ですからね」


私と金髪ボブちゃんの会話に割って入る声がした、あのロン毛のダークエルフである。


「なっなななっ!?何だこれは!どうなってんだよ!僕の用意した生贄が……儀式魔法の魔法陣が、無くなっているだと!?しかもダンジョンコアの結界までなくなった!?」


それは悲鳴にも似た慟哭だった、イケメンって叫ぶ姿も絵になるよな。滅べ。


それと私の姿を見たワニ頭事ダルロスとかいうのは絶句しております、こちらがなんか悪い気がしてくるレベルで顔が真っ青になってる。


後金髪ボブちゃんが結界まで破壊したのアンタ?って視線を向けてくる、ごめんなさい。


「やっやはりラグナは……くっ!おのれぇ……!」


「元は貴方達の行動が原因です、逆恨みをされても困りますよ?」


「ダッダルロス!何だあの鎧は!まさかアレがラグナと戦っていたって言う騎士なのか!?」


「………ああっそして恐らくお前の魔法を阻止したのもあの騎士だ、ヤツはおよそこちらの攻撃が何も通じない、オレの斧もヤツの一撃で破壊された」


「なっ!?あの斬魔の戦斧を!?」


吠えるロン毛と敗北を悟ったワニ頭である、まぁ召喚魔法を私が阻止した事を分かったと言う事はあのワニ頭、案外こちらの戦力を理解したのかも知れないな。


「ふざけるな!ふざけるなよーー!?この僕の魔法があんなガチガチに鎧を着込んだモンスターに破られる筈がないだろう!?」


「落ち着けラバス、この戦いオレ達の完敗なんだ。最早足掻くだけ見苦しいだけなんだ……」


「くっこの腰抜けが!そんなわけがあるか!」


吠えるロン毛がこちらをにらむ様にして構える。


「こんな、こんなヤツに僕が勝てないだと!?」


「本来貴方達が予定していた生贄となる者達の組織は私が潰しました」


「なっなんだと!?」


「無論それはただの偶然ですよ?このダンジョンに私が居合わせた時に貴方達が来たのはどうか知りませんが……」


その辺りについては……あのネズミオッサンにでも聞いて見れば分かる事だ。

彼の素性は心意看破を何度か発動した時点である程度把握していたりする私だ。


「キッキキキキ貴様は何者なんだよぉおおおおおっ!」


奇声を上げながら魔法を発動するロン毛、その魔法もイオちゃんとの戦いで見たよ?魔力除去すら使う必要もない。


私は片手をかざしてダンジョンコアの結界やらロン毛の儀式魔法の魔法陣やらを破壊した容量でヤツの魔法を魔力だけで消滅させていく。


「なっ何で僕の魔法が勝手に消えていくんだよ!?まさか……まさかお前!」


そうっ実はこの方法ってこの世界って相手を圧倒する時や大人の魔法使いが子供の魔法使い見習いの魔法を未熟だと《・教える為》》にワザとかき消したりするのだ。


ロン毛はその事を知っていた、子供の頃にやられていた様である、だから私はそれと同じ事をしたのだ、理由?ヤツが憎むべきイケメン故に他ならないからですが何か?。


「くっ……くそくそくそくそくそーーー!」


吠えたロン毛、その全身に紫色の魔法陣が展開した。アレは……マジかいな。


「ウソ!?あのダークエルフ自分にあの生贄が必要って言う魔法を……」


「なっなにをしてるんだラバス!?」


「アッ!がぁあっ!グォアアアああうアアアッ!」


ハァッ……自尊心が高すぎて理性をぶっちぎってしまった様だ。


みるみるうちにイケメンが醜い肉の塊となり、更に膨張しようとうごめいている。

最早アレにロン毛の意識なんて残ってない、儀式魔法を碌な生贄もなく発動したんだからな。


身体を奪われて魂も喰われたと見るべきだろう、まぁそれは当人の考え無しな行動の結果だから仕方ない……ってかさ。


大体さっきも思ったけど、あのラグナとの戦いでボスバトルは終わっているんだって。

それじゃあちゃっちゃと終わらせるよ~。


【災厄をも焼き払う青き浄化の火をここに。蒼空天火フレム・ブルー


私の放った青い色の炎が紫色の肉の塊をを一瞬で包み込んだ。












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