第72話『バカと何とかは使い用』

そして数分後、ダルロスによる転移の結晶石を使った転移魔法が発動される。

魔法等使った事がないダルロスは何となくで片手を突き出したポーズを取った。


「………よしっこれでいいんだな?ハアァッ!」


ダルロスが気合を込めて転移の結晶石に魔力をニョンニョン込める。

ダルロスの手から流れる魔力、それが白い光の流れとなって地面に転がる転移の結晶石に注がれた。


「わっバカ!魔力を込めすぎるなよ!?魔力の操作は繊細にだ!失敗すると地面の中とかに転移するかも知れないんだぞ!」


「俺に繊細な真似なんて期待するな!ウオオオオッ!」


「なっちょっこの筋肉バカが……ああああっ!」


その時、転移の結晶石が砕けた。

するとその破片が散らばった地面に紫色の魔法陣が展開し、その中心にラバスが現れた……簀巻きで。


「…………ふぅっ何とか、成功した見たいだな」


「オイッラバスよ、お前……」


「……………僕のこの縄を解けダルロス、話はそれからだ」


「………………………ハァッ分かった」


イケメン故にその無様は実に惨めである、もしもどこぞの中年が見たのなら心からのニンマリとした笑顔を向けた事だろう。


数十分前まではイケイケだった厨二の使途ユボリスなる邪教の戦士達は未だかつてここまでコテンパンにされたのは初めてだった。


直ぐにラバスの縄は解かれ、2人はダンジョンコアを目指して進み出した。

しかしそのラバスは気づかなかった、自分のローブの中からが転がり落ちていた事に。


2人が立ち去った後、その小さな玉は発光しだしてその形を変えていった。

その形は徐々に人間の、それも女性の姿をかたどっていく。


「………フウッこれで大分ご主人様の元へのショートカットになった筈でしょう」


そう言うのは黒いシャツの上に白のスーツを着用する、黒髪をポニーテールにした青い瞳の美女であった。


それは美人秘書をイメージしたゴーレムツインズの片割れ、リエリである。


◇◇◇


私はリエリ、ご主人様の手により創られたゴーレムであり秘書でもある者です。

まぁご主人様は社長ではなく冒険者で魔法使いですから秘書が必要かは謎ですが。


私達の作戦は無事に成功しました、それは先程このダンジョンを襲った魔力の波動が原因です。


私達はその魔力が直ぐにご主人様の物であると分かりました、何故ならリエリとユーリはそのご主人様に創られた存在ですからね。


イオも分かっている様子でした、恐らく以前の魔神イシュリアスとご主人様の戦いが余程印象に残っているんでしょう。


まぁアレは殆ど神話の再現と言える物でしたからね、彼女の記憶に刻まれるのも仕方ありません。


むしろご主人様ならそれを喜びそうですしね、ただ他にもいたあの鬼人族の男の部下達からあの戦いや魔法について質問をされたりたかられてる時は心底イヤそうでしたが。


おっと話が逸れましたね、それから魔力の波動を感じたリエリとユーリは全力で魔力感知をしました、すると直ぐにご主人様の魔力の反応は分かりました。


しかしそれは私達がいる場所よりも遥か下層からのものでした、本来なら私達も転移の魔法で移動をしたいのですがこのダンジョンと言う場所では転移等を始めとした幾つかの魔法に制限が掛かってしまうのです。


つまりご主人様の元に行くにはダンジョンを踏破するしかない、しかしそんな事をすればどれだけ時間が掛かる……そう悩む私達でしたがそこに使えそうな簀巻きがあったのです。


あの気持ちの悪いロン毛の一部を吸収して記憶を読むのはイヤでしたなんかキモイので。そこで心意看破の魔法で心を読んだ私です。


するとあのロン毛はどうもダンジョンの下層に用事があるらしく、そして一瞬で下層まで行く手段を持っている様でした、そこで利用しました。


そもそもあんな危険な男をダンジョンに放置して何処かに行くわけがありません。

バカと何とかは使い用と言う訳ですね、どうやら事は上手く運び無事にダンジョンの下層に到着した様です。


あの2人を追う前に私はユーリとイオを喚ぶことにします。


ダンジョンは転移魔法には制限を掛けますが、あのロン毛とその仲間らしきワニ頭がしたように何らかのアイテムを使えば案外どうにかなります。


私の場合は1人が先行し、後の2人を転移魔法ではなく召喚魔法で喚ぶことにしました。

私とユーリだからこそ出来る裏技です、ご主人様なら普通に転移魔法を使って移動してるかも知れません。


そしてユーリが来るのに便乗する形でイオもこちらに来る事が出来ると言う算段ですね。


「………そろそろあの者達も十分に離れましたかね?流石に私も召喚の途中で攻撃されるのは不快ですから」


リエリは召喚魔法を発動します、地面に四メートル程の魔法が現れてその中心にユーリとイオが現れました。


この様に先行した者がダンジョンの奥で召喚魔法を使って万全の状態の他のパーティーメンバーを召喚するなんて言うのは、召喚魔法の本来の使い方とは全く違います。


召喚魔法はモンスターとか精霊を召喚する魔法です、こんな使い方は普通はしませんししょうとも思わないです。


ダンジョンでは転移魔法が使えないならとご主人様が考えた方法ですね、ただご主人様本人は普通に転移魔法を使えたので実演はしなかった物です。


しかしこれが案外使えるのではとリエリは考えていたので試してみると本当に成功しました、やはりご主人様は凄い方です。


「リエリ、あのロン毛のダークエルフはどこに?」


「私の魔力感知で居場所は追えますので泳がしている最中です」


「こっここが迷宮都市のダンジョン『地下廃道の迷路』の下層ですか。迷宮都市の凄腕の冒険者達が何十年掛けても辿り着けずにいた場所に召喚魔法でこれるなんて……」


普通の召喚魔法で知り合った者を自由に呼べたりしませんし、ただの魔法使いの召喚魔法ではこんな真似をすれば失敗するのが関の山です。


「イオ、これはあくまでもご主人様から与えられた魔法の力があったからだと言うことを留意しておくように」


「……そう言えば、この方法もアオノさんが思いついたんでしたっけ。本当にあの人は……何といいますか……」


「ムッイオご主人様が考えた方法に文句でもあるんですか?」


「まさか、無事に成功もしましたし文句なんてありません。ただ本当にあの人は世の中の常識と言う物が通じない人だと……」


「フフッそれがご主人様ですからね!」


「……そろそろあのダークエルフの後を追いますよ?それともう1人この場にいたワニ頭のモンスターについても話します」


そして移動を開始する私達です。


あのダークエルフのお陰でご主人様がいる階層まで一気に行くことが出来ました、あんな転移出来るアイテムがあるとは驚きです。


心意看破の魔法で連中の目的もほぼ確認済み、後は勝手に自体は進むでしょうが、ご主人様ならどうするのかを知っている私達はあのダークエルフとワニ頭を追います。


恐らくご主人様はあの連中を追っていけば必ずどこかで現れるでしょう、何故なら連中は危険ですからね。


何しろ心意看破の魔法で確認した事ですが……。


「これはっまるで長年の時を超えた遺跡の様な場所ですね、このダンジョンは元は遺跡か何かだったのでしょうか?」


「……イオ、こんな時にダンジョンの考察はやめてくれませんか?」


イオは魔法以外にも過去の歴史やダンジョンにも強い関心を持っている事は知っていましたが今はご主人様と合流するのが先決です。


私の言葉にイオは少し恥ずかしそうに話を変えてきました。


「そっそうですね、実は私は、もしかしたらアオノさんはあのラバスやその仲間と私達が知らない所で戦っていたのかもと……もしそうならそれを知らずに私はって考えてしまって、とてもまともに顔を見れる気がしません」


「……フッ大丈夫ですよ、ご主人様はそんな事を気には」


「これだけダンジョンの下層に来ればご主人様が喜ぶ宝とか有るかも知れませんね、リエリ何かご主人様への手土産になりそうなお宝を探しませんか?」


「探しません」


ユーリ、空気をアレな感じにするのはやめて欲しいんですが。

手土産とか言っている場合ではないんですよ?下手をすればダンジョンどころか上の迷宮都市が大変な事になるんですから。


「…………ん?」


「どうかしましたかリエリ?」


あのダークエルフの魔力の反応がかなりの速度でダンジョンの更に下層に移動していますね。


恐らくは飛行の魔法だと思われます、恐らくダンジョンに仕掛けられた罠を警戒してですかね。

普通ならモンスターが生息するダンジョンで下手に動けば多数のモンスターから襲われる危険があります。


しかし不思議な事にこのダンジョン下層にはモンスターの気配が殆どありません。

まさかモンスターが殆どいない?いやっまさか…。


「……フウッ本当はダンジョンコアと言う物に辿り着く前に叩いてしまおうと思っていたのですが」


「ダンジョンコア?ダンジョンコアとは何ですかリエリさん!」


「少し静かにしなさいイオ、今のリエリは少し物を考えているのですよ」


少しって何ですかユーリ?まさか……まさか貴女は私よりも知性があるとでも言うんですか?もしそうなら戦争ですね。


コホン……恐らくご主人様ならそうしたでしょうからね。面倒な事は起こる前に対処する、リスクヘッジとか何とかと言う物です。


そしてイオとユーリに構っていたらいつの間にか距離を離されてしまいました、取りあえずユーリのせいという事にしてご主人様には話しますか。


転移魔法が使えないのでこちらも飛行して行くとしましょう、まぁダンジョンにはダンジョンマスターいるので自分でどうにか……出来ればご主人様が動く訳ないですよね。


「2人とも、今は時間がないかも知れません、ですから飛行の魔法で一気に移動します」


「え!?ダンジョンで高い場所を移動すれば下手をするとモンスターの魔法で集中砲火ですよ!?」


「いえっ恐らく今このダンジョンの下層には殆どモンスターがいません、だから今あのダークエルフ達は飛行魔法で移動しています」


「わっ分かりました……」


「はいっ手土産はまた今度ですね」


……手土産はいりません。さっさと行きますよ。


「……あのー先程のダンジョンコアとは一体何なんですか?」


「……………分かりました、道中で説明します」



















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