第71話『一方その頃的なヤツ』

◇◇◇


宙にブゥウンっと浮かぶ映像を見ながら、口をあんぐりとしている美少女と中年オヤジがいた。


美少女が台無しなのは仕方ない、何故なら彼女は今。青野が蒼騎士として暴れている映像を見ているのだから。


そして画面が青い光一色になったと同時にダンジョン全体が揺れた。

そして中年騎士の放った斬撃っというか魔法の魔力はダンジョン全域に広がる。


無論青野の魔力はラグナのみに向けて放たれた物なので、ラグナ以外が感じた魔力は本来放たれた魔力の何百分の1以下の微かな物だ。


問題があるとすればそれでも暗夜皇女を始めとしてダンジョンにいた者達にとっては恐ろしく強大な魔力である事は変わらなかった事だ。


暗夜皇女はあの蒼い騎士が途方もない力を持ったモンスターだと考えた。真実は途方もない力を持ったオッサンである。


そして蒼騎士とラグナの最後の一撃が放たれ画面は真っ青に染まり、その光が消えた後には2人ともその姿はなかった。


「きっ消えたわよ?あの蒼い騎士、一体どうなっているのかしら、貴方には分かるかしら?」


「イヤイヤッアッシにも何が何だか……」


2人は青野の戦いに理解が追いつかないでいた。

しかしダンジョンマスターである暗夜皇女は直ぐに冷静になり口を開く。


「まっまぁこれで?ダンジョンの危機は去ったと言う事かしら?けど。貴方が連れてきた騎士は消えてしまったわよ?それともこれも貴方のの目的かしら?」


「……目的かって話は否定しますが、暗夜皇女様、やはり気づいていましたか?アッシの正体に……」


「それはそうでしょう?そうじゃなければダンジョン専門のモンスターの商人の紹介があっても、その日にダンジョンに来た者をこの私が出迎える事なんてないわよ…」


暗夜皇女はギストの方に視線を向ける。


「貴方は……あの夜叉桜に雇われてるんでしょう?」


「…………そうです、アッシは夜叉桜様からの使いです。あくまで金での契約ですがね」


「あの風来坊で自分の管理するダンジョンをずぅっと放置してる気紛れ者が、何を目的に私のダンジョンにあんな化け物を送り込んだのかしら?返答次第では………分かるわよね?」


「もちろん夜叉桜様に喧嘩を売る意図はありませんよ、その目的の1つは正に今、蒼騎士の旦那が達成したダンジョンを潰そうって輩の排除ですから」


「………何であの女に私のダンジョンの情報が?貴方が集めたの?それにしたって……」


「アッシも詳しくは分かりませんよ?けど以前教えてくれたのは、夜叉桜様は占いが得意らしくて、その結果がこの迷宮都市のダンジョンが近々危険に陥るって結果を示したらしいですよ?」


(…………占い、確かに以前ダンジョンマスターが一堂に会した会合でそんな話を聞いた事があるわね。何でも百発百中だとか)

「けど、それであの騎士が来るって事は、あの騎士はあの女の手駒なのかしら?アレだけの手駒を失った補填なんてダンジョンのモンスターの大半を失ったアタシとダンジョンではどうしょうもないわよ?」


「……いえっ蒼騎士の旦那は夜叉桜様から別の依頼を受けてこのダンジョンに来ただけです、その依頼ってのが」


「あの『落命の秘酒』と言う事?けどっその為にダンジョンを守ったと言うの?ダンジョンの騒ぎに乗じて盗んでしまえば良いじゃない」


「う~んそれはアッシからは何とも、多分ですが夜叉桜様はそんな真似を蒼騎士の旦那はしないと分かっていたから、今回の件に関わらせたのかと思いますよ?」


「………ふ~ん、それも占いの結果だと言うの?」


「……………………たっ多分そうだと…」


「けど、その占い1つのせいであの騎士は死んでしまったわよ?」


「え?……ああっそれについては心配ありませんよ」


「?」


不思議そうな顔をする暗夜皇女に対してネズミオッサンことギストは平然と答える。


「夜叉桜様曰く、あの蒼騎士の旦那が今回の事件で死ぬ可能性なんて皆無だそうなんで。恐らく旦那は生きてますよ?その内ひょっこり出て来るとアッシも思います」


「………………は?どこからそんな自信がくるのかしら?」


「ハハハッ!あの蒼騎士の旦那と数日の間共に行動すれば、そんな気持ちにもなりますよ」


一見脳天気なギストの言葉、しかし青野と共にこのダンジョンに向かう道すがら色々あったようだ。

少なくともこのオッサンは青野が死んだとは本気で思っていない、その事を暗夜皇女は察した。


オッサンによるオッサンへの揺るぎなき信頼、青野的にはマジでキモいから勘弁な代物である。


(……まぁあの魔力はただ事ではなかったわ、あんな力を持ったモンスターが早々死ぬとは考えられないわね)

「そうっ貴方の言いたい事は分かったわ、それじゃあこれからあの女にこのダンジョンに起こった事を話しに行くの?」


「う~ん、蒼騎士の旦那を心配してはいませんけど、無視して置いて行くと流石に怒られそうなんですよね……しゃーない、アッシは蒼騎士の旦那が消えた階層に向かいます」


置いてけぼりにしたらまず間違いなく青野はヘソを曲げる。その事を理解しているネズミオッサン。


別に道中に青野がヘソを曲げるイベントがあった訳ではない。ただこれまでモンスターの商人として数多くの者を相手にしてきた経験がギストに語るのだ。


このオッサンは細かい事をネチネチと根に持つタイプだと。


「………まっ好きにしなさい、ダンジョンのモンスターの遺体はこっちで埋葬するからほって置いて良いわよ」


「分かりました、では……」


(ふんっあの女の事だし、どうせ魔法でこの騒動を見ているんでしょうね。お母様もあの女は嫌いって言ってた理由がなんか分かった気がするわ)


そんな女に助けられたと言う事実に、暗夜皇女は内心プリプリと怒る。青野が見たらニッコリな光景である、ダンジョンのモンスターが見たら顔面蒼白な光景である。


そしてギストは部屋から出て行き、暗夜皇女は嘆息しながら今回のダンジョンの被害を調べる為に生き残ったモンスターを集めて指示をしょうと行動を始めた。



そして青野がノリと勢いでドーンとかました階層にて、青野の雲外蒼天は意味のない破壊はしない仕様であったらしく、その階層自体に深刻な被害等は出ていない。


青野の攻撃は基本的に効率重視、確実に狙った相手や対処したい集団だけを葬る仕様の物が多いのだ。


もしも被害上等!と言う仕様だったならばダンジョンも迷宮都市もその他色々な物がこの大陸から消えてしまっていただろう。


当人が『手加減はちゃんとしました』っとのたまうレベルの攻撃でもそうなるのだ。


しかしそんな魔力とアホさを合わせ持つ希代の迷惑中年青野が暴れた場所に、一体の動く存在がいた。


「………ぐっ!ううっ……おっオレは生きているのか?」


ダルロスである、青野にぶちのめされて伸びていたワニ頭のモンスターである。


大柄のワニ頭は頭を抑えながらも立ち上がった、鱗に全身を覆われた見た目通り頑丈な男だ。

直ぐに回りを見回して周囲に青野とラグナの姿がない事を理解した。


「くっ!まさかあんな手合いが現れるとはっ!おのれぇぇっ!」

(だがっ…あの鎧もラグナの気配もないだと?まさかりラグナもやられたのか?そしてあの鎧は下の階層に戻った?もしそうならオレ1人でヤツをどうにかしなければならないのか?)


流石のダルロスもあの中年騎士には勝てる気がしない、するとダルロスは自分の手に何かが握られてる事に気がついた。


「……ん?これは、ラグナがラバスから渡されたと言う転移の結晶石じゃないか?何で俺の手にあるんだ?」


「………それは僕の力でお前の元に移動させたからだよ」


ダルロスの疑問に、その紫色の水晶が答えた。


「なっ!その声はラバスか!?お前は今どこで何をしているんだ!?こっちは大変な事になっているんだぞ!」


「うっうるさいよ!僕の方だって色々あって……いやっまずはそっちはどうなっているんだよ!さっき上の階層にいても分かるようなとんでもない魔力を感じたぞ!?」


現在ラバスはイオ達に負けて魔法を封じられた上で簀巻きでダンジョンの隅に転がされている。


ラバスの魔法でどこぞに消えた冒険者の探索を行っていたイオ達だが青野の魔力をダンジョンの遥か下層から感じたので急いでダンジョンの下層に向けて移動を開始した……っと気絶したフリをしながら聞き耳を立てていたラバスは判断した。


そしてイオ達はラバスを簀巻きのままダンジョンに放置した、ラバスの怒りは激おこプンプンにまで高まった。


そんな酷い仕打ちに甘んじる現状を一切伝えることなくダルロスを使い簀巻きを脱出する手筈を整えようとするラバスだ。


「ダルロス!お前は魔法は全くだが魔力は大量に持っているんだ、転移の結晶石を発動して僕をそっちに転移させる事位は出来るよな!?こっちは妙な魔法で転移魔法も使えないんだが、お前の魔力と転移の結晶石があれば転移が出来る筈だ!」


「ん!?あっああ、それは問題ない。しかしさっきそっちも何かあった様だな、こっちはラグナと共にとんでもない強さのダンジョンモンスターに会ってだな……」


「ダンジョンモンスター?そんなのが何だって言うんだよ……分かった、なら本来の作戦に戻せば良いだろう?」


「………何?元の作戦にだと?」


「そうだ、準備はまあ完璧とはいかないが八割方は用意出来た。なら後はダンジョンコアにさえ辿り着く事が出来れば………分かるだろ?」


「……………たっ確かに、アレならば或いは」


ラバスの言葉には絶対の自信があった、そしてその作戦を知っているダルロスもまたアレならあの騎士にも勝てるのではと考えた。


「そうだよ、どんなに強力なダンジョンモンスターだろうが関係ない。あの儀式魔法が成功すれは僕達の勝ち。このダンジョンも迷宮都市も終わりだ!」

(クククッそれどころか下手をすればこの大陸自体が………あの半端者とその取り巻きにも地獄を見せてやるぞ!この僕を簀巻きにしやがって、殺してやる殺してやる殺してやるぞぉーーーっ!)


簀巻きのダークエルフの指示に従いダルロスは直ぐに簀巻きのダークエルフを転移させる準備を始める。


後に簀巻きを召喚したダルロスは召喚に失敗したのかと慌てる事になるだろう。


青野が『青き境界』にてなんやかんやとしている間にダンジョンのピンチは着実に近付いていく。












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