第45話『迷宮都市ラビリントル』

時を遡り、迷宮都市に向かう時の事……。


私達は角イケメンと別れた港町から乗り合いで次の街に向かう馬車に乗っていた、勿論有料なのでお金を払っての乗車である。


広さは馬車一台に10人ちょっとの人数が乗るのが精々の広さだ、しかしラノベでよく聞く震動でケツが痛いとか荷台に直で尻もちついて待機とかではなかった、金を取るだけあって座る場所はあった。


しっかりした作りをしているので揺れる心配もなさそうだ、そしてケツが痛くなる対策として羽毛か何かを詰めたクッションが敷かれている。


ちなみにこの世界のお馬さんは2頭で馬車をグイグイと引ける馬力の持ち主だ、モンスターが現れたらそのモンスターを蹴散らす程に好戦的でもある。

首を振ってモンスターを薙ぎ払う所を見た。


そんなモンスター馬車に平然と乗れるイオちゃんが凄かった、私は歩きで良いよとか思いながら乗ったわ。


しかし馬車の旅は思いのほか快適だった。そして馬車の中で私達は今後の話を始めたのだ。


「なるほど、つまりその迷宮都市から出ている飛行艇と言う物に乗って行くと言うわけですね?」


「はいそれに乗ってこのパイルラ王国領から出ますそれから……」


イオちゃんの話を聞きながら私は考える。

飛行艇何それメッチャファンタジー……っと。


空を飛ぶ乗り物は私が前にいた世界でもそりゃあ勿論あった、しかしこの飛行艇なる物は正にその手のゲームに出て来る様な感じで滑走路なんて必要無し、ヘリコプターみたく騒音が凄い事にもならずに空に浮いて飛んで行ける代物らしい。


その外見は底が平たい木製のガレオン船みたいのからファンタジー仕様のドラゴンの翼みたいな物を取り付けた様な物。それに数こそ少ないが機械的な飛行艇もあるとかないとか…。


そんなのが客を乗せて大陸の端から端まで、場合によっては幾つもの大陸を越えた先まで大空を飛んでいる様だ。


この世界の文明レベルが中世とか考えてた私はビックリだよ、流石は魔法の世界って訳だ。

この世界の文明レベルは魔法によってパッと見では分からないが結構高いのだ、例えば宿のトイレも水洗式だった。ポットンじゃなかった。


何でも人々の生活にも魔法を活用出来る様に魔石とかを用いた電化製品成らぬ魔石製品的なのがあるらしくコンロから湯沸かし器、後は冷蔵庫と冷凍庫代わりの生活道具も普通にあるらしい。


異世界の人類も文明の利器を求めてそれぞれの世界のルールを土台にした発展をしてきたって事か。凄いな異世界人類。


そしてそんな風に様々な事に詳しいエルフ美女のイオちゃんの知識の広さにも感服である(この手の話は全て彼女から聞いた物です)、そしてイオちゃんは地図を広げて細々とした目的地までの道程を説明してくれている。


「……しかしそこで問題なのが実はこの魔法学園都市に入るには……」


「………………」


ふと気づいた、イオちゃんさっきからチラチラと地図のある場所を見ていた。


「イオリアさん、その迷宮都市から行く空路の途中にあるアルバトラスと言う場所がどうかしたんですか?」


なんか赤い線で丸を書いている。


「ッ!いっいえ。何もありませんよ?」


「……そうですか?」


「はいっそうなんです!」


私達のやり取りを見ていたリエリが口を開いた。


「アルバトラスはこのパイルラ王国領で最も有名な夏のリゾート地ですね、ご主人様に分かりやすく伝えるなら……ハワイとかタヒチやバリと言えばわかりませんか?まぁ勿論アレらとは別物のリゾート地ですが……」


リエリの説明を聞いていると何故かイオちゃんの顔が真っ赤になっていく、何がどうしたって言うんですかな?。


「いやっあのっええと………まっ魔法学園都市は出るのも戻るのも割と大変な場所にあるので、なっ中々こうやって他国に行くのも経験が無いんです……」


「ああっなるほど……」


私も経験がある。


要はアレだ、パンフレットでしか知らないリゾート地に寄ろうと思えば寄れるもんだから色々とお年頃な彼女も多分に興味を引かれたんだろう。


私もリエリが例に挙げたリゾート地とかネットで景色の画像とか検索してさ、こんな場所が地球にもあるんだなぁって感慨にふけていた事があるから分かるんだ。


こんな綺麗な場所、人生で1度は訪れて見たいってヤツ、まぁ私は結局の所死ぬまで行けなかったけどな。


………やっぱ行きたかった、死ぬまで社畜してたとかふざけるなよって思った事もある。


「もしかしてラブーンでのスカウトを無事に終えたらそちらに行くつもりだったのですか?」


「スカ……っまっまぁそうですね、あそこは夏のリゾート地です、そして魔法学園も夏には長期休暇を取れるんですよ、それで……」


………なっ何だと?。

教師が……夏休みを取れるって言うのか?。


「ご主人様?どうかしました?」


「………いえっ何もありませんよ?」


流石はファンタジーな世界だ。マジでファンタジー。

そしてイオちゃんはあのラブーンで会った島の子供達を魔法学園に入学させる前にリゾート地へ下見とか考えてたらしい。


いつもはカタいイメージがあるイオちゃん、本人にもその自覚があるのだろう、こんな風に休みの時の話をする時のイオちゃんは少し恥ずかしそうにしていた。


冷静で大人びた彼女のそう言う仕草に中年冒険者はもの凄く弱い。尊いってヤツだ。


「今はまだ詳しくは言えませんが、魔法学園都市はです。それが長期で学園が休暇となる季節です。

我々は丁度春の長期休暇明けの時期に魔法学園都市に入ろうして旅をしているんですこれを逃すと後は夏の終わりの時期しか……」


はっははは春の長期休暇!?。どんだけファンタジーなんだよ魔法学園都市!。

春にも夏にも長い休みがあるとか社会人だった私にはもの凄い羨ましい。


「……ちなみに何日位なんですか?その長期休暇の期間とは」


「え?まぁ春は30日間、夏は50日間位ですね」


(………ご主人様、ちなみにその間も給与は発生しています。故に魔法学園での教師とは選ばれた者として世間で認知されます)


凄すぎるな魔法学園。休んでも金が出続けるとか正に最強職だよ、魔法学園の先生は。羨ましい過ぎて死んでしまいそうだ。


(このオッパイ女が選ばれた者?冗談ですかリエリ…)


このゴーレムツインズもそれぞれに性格や好き嫌いに違いが表れてきてる、最初はどっちがどっちだか碌に判断もつかなかったのにな。

とても良いことだと思う私だ。


それとイオちゃんが割と急いでいる理由も分かった、出入り出来る時期なんてのがあるなら仕方ないよな。


「イオリアさん、もしかしてラブーンで子供達が魔法学園に来た時の為に?……」


「……はいっ出来れば魔法学園での生活を少しでも良い思い出にして欲しくて色々と考えていたんです、それで夏の長期休暇にでも、とっ……」


……そっか、まさかあんな風にお別れするとは思わないもんな。彼女なりに本気であの子達の学園生活とかを考えていたんだろう。


それならまぁ、あの子達はいないけど。イオちゃんにも何か楽しい思い出が必要じゃないかな?学園の外での思い出ってヤツがさ。

イオちゃんも外に出るのは滅多にない感じ見たいに言ってたし。


ここは私が一言声を上げるか。


「……イオリアさん、それなら是非とも行って見ませんか?その夏のリゾート地に今の時期を諦めて夏の終わりの時期に行くことになっていいのでは?」


「そっそんな!そもそも私には貴方を魔法学園都市に連れて行くと言う仕事が……」


イオちゃんには確かに魔法学園都市に共に行かないかと誘われた。私は美女との旅の魅力に瞬殺されて速攻でイエスと答えた。


「別に仕事ということ程カタッ苦しい物ではありませんよ、私はただイオリアさんの招待を受けて魔法学園に観光にでも行こうって気になっただけです。それならその前に多少の寄り道くらい構わないでしょう?」


私はイオちゃんに誘われてついて行くにしたけど、別にその旅の行程まで全て管理されるいわれはないからね。


……それに、イオちゃんもラブーンでの一件で島の子供達と辛い分かれがあったんだ。

少しくらい仕事から離れて息抜きをしてもバチは当たらないだろう?。


私は有給を取る時や数日間の連休を取る時にネチネチと言外に小言を言うオバサンとは違うんだよ。


何より夏のリゾートと言えば……水着だ。


イオちゃんの……ユーリの……リエリの水着。


ボッ!(私の身体からうっすらと青いオーラの様な魔力が溢れた音)。


これは何としてもその場所に。たどり着かなければいけない理由が出来たな、今年の夏は楽園に行くと決めたぜ。


「……それに私もそのアルバトラスと言う場所に興味が湧きましたから」


「しっしかしですね……」


「何か問題でも?」


するとイオちゃんが少し気まずそうに話を続けた。


「そのリゾート地は……色々とお高いんですよ?」


「……………」


なるほど、確かにリゾート地に金も掛けずに楽しめるもんじゃない。

そして中年野郎の外見は何処からどう見ても金を持って無いヤツである。


その辺りを加味してイオちゃんはこちらに気を遣っていたのか……。


しかしねイオちゃん。私を舐めてはいけないよ。


「それならやはり1度迷宮都市ラビリントルに向かいましょう、そこでなら……」


「………そこでなら?」


フフフッと私は若干溜めて言った。


「私が今まで倒したモンスターの素材を換金してもらえる筈です。それに迷宮都市なら金を稼ぐ方法なんて幾らでもありますから」


「…………!」


その手のファンタジー世界のお約束、デカくて怖いモンスターの素材がビックリするくらい高く売れるってヤツである。


この世界、マジでモンスターの死骸が高く売れるのだ以前ナトリスではリヴァイアサンの鱗とか牙が金貨数万枚とか言ってたから。


そして金を稼ぐ方法なんて幾らでもある。こんな若いキャリア組とかが言いそうなセリフを私が言う時が来るなんてな。


それにモンスターの素材っというか死骸だな。ラブーン島やダンジョンとかでは倒したモンスターの死骸って全部私が魔法で回収はしてたんだけど、金に換える所を探してたのも事実だしな。


………まっお金が無くてもマジで問題なく暮らせるのが今の私だ、だから横着してお金にする方法とか考えなかった私だ。


今回はその溜め込んだモンスターの死骸を金に換えてイオちゃんに良い格好をしたい。


「リエリ、ユーリっという訳でこれからの旅を進めようと思うんですが。どうですか?」


「勿論ユーリはご主人様の意見に賛成です」


「はいっ私もユーリと同じ意見です」


「それでイオリアさんもそれで構いませんか?」


「ほっ本当にそんな理由で迷宮都市に行くんですか!?あそこは冒険者にとって世界でも有数の一線級が集う場所ですよ!?そんな場所に冒険者のアオノさんは……」


「う~ん、その辺りについては私も迷宮都市に詳しい訳ではないので知らないんですよね」


「何で冒険者なのに知らないんですか!」


まあまあ、それより冒険者がいっぱいいる都市ならモンスターの死骸もそれなりで買い取ってくれるかもと期待してしまうな、魔法で時間を停めてるから劣化とか腐ったりとかしてないし。



この時私は時期的に見ても夏本番までは数ヵ月は先であると、何ならまだまだ雨期すら先の話なので大金を手に入れたら魔法部屋のカレンダーとにらめっこしながら悠々自適な成金ライフとか夢想していた。


この世界の梅雨とかはリゾート地の近くの街で良い宿でも取ってのんびりしたいなぁ~っとか考えていた。


…………しかし現実は。


「う~んコイツらを買い取る?せめてモンスターの売れる素材だけに事前に解体してくれないと困るよ?そもそも数が多すぎるし金になるのか分からないモンスターの解体とかさ……モンスターの解体業者もタダじゃないんだからね?その金を立て替えるのも冒険者ギルドなんだよ?」


「すっすみません……」


「「「……………………………………」」」


それから迷宮都市に到着して早々に冒険者ギルドの職員のオッサンに頭を下げる私だ。


やっぱゲーム見たいに全て丸投げでお金だけ頂戴っとか都合が良すぎた様です。

普通に呆れられた、この中年冒険者はそんな常識もないのかよと言う視線が冒険者ギルドのそこかしこから飛びまくる。


最高にかっこ悪いよな。


……しかしまだだ、まだ夏のリゾート地。あの楽園への道は閉ざされた訳ではない!。


「正直これだけのモンスターを狩った事は評価するけど金になるかは確約は出来ないよ?業者に解体して貰ってプラマイがプラスになるかは正直な話、運次第だからね?」


「そっそれなら……」


そして私はそれならこの迷宮都市のモンスターの素材なら問題無く買い取ってもらえると聞いた。


私達はモンスターを狩るマシーンになることにした、何故かイオちゃんもついてくる事になった。


中年冒険者、ファイト一発である。





















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