第44話『夢から覚めた島ラブーン』
◇◇◇
エレナちゃんが消えてしまった。
喪失感が半端じゃない、やはりこのラブーンっという島で1番関係を強く持ったのは彼女だったのだ。
「アッアオノさん!どうにもならないんですか!?」
イオちゃんの言葉も最もだ、しかし……。
「………………………どうにもなりません、これはエレナさん達自身が決めた、旅の終わりなんです」
「しかし………ッ!」
イオちゃんが私の顔を見て驚愕している、何故か?。
そんなの私がガチ泣きしてるからだよ、当たり前じゃん。
目からは涙がボロボロ、鼻からも若干鼻水出てるし。とても人様に見せれた顔じゃない。
それでもどうしょうもない。
本当はマンガの主人公みたく涙を堪えきって別れをしたかった…けど中年はもういい歳をこいたオッサンなので涙腺が超緩いんだ。
両親の時もそうだったが、エレナちゃんや島の人々との別れはそれに輪を掛けて辛く、悲しい。
ならばちゃっちゃっと死者蘇生させてしまえば良いじゃんっと言える程、私は子供でもないんだよ。
出来るんだからやれば?じゃないんだ。
何故なら島国の人間は相手の意思を尊重する事を学んで大人になるからだ。
ぶっちゃけるとエレナちゃん以外の島の人々には結構な頻度で心意看破の魔法を発動した、誰かしらは生きれるのなら生きたいで~すっという人が1人でもいればっとか浅はかな考えがあった私だ。
しかし結果は、皆別れを悲しみ自身の最後に様々な感情はあれど生にしがみつく者はいなかった。
全員が随分と長い事を生きてきたらしい、そして自分達の生きた証である魔神イシュリアスの討伐は成された。
であれば彼らは大手を振ってこの世界を去る事に誇らしさすら覚えている。
そんな人々に下らない真似は出来ないんだよ。
何よりエレナちゃんが言った『ここまでです』っという言葉にはそんな意志が込められていた。
少なくとも私はそう感じたんだ、だから決めたんだよ。私達は……いやっ私達が見送るべきなんだと。
「それでも…それでも私はこんな別れは……!」
それでもイオちゃんが食い下がる。まるで駄々をこねる子供だ、しかしその気持ちは痛い程に分かる。
更に女性が涙を見せている、仕方ないな…。
ならば……この青い世界の本当の姿を見せるしかないじゃないか。
「別れではありませんよ、それを証明しましょう」
「………え?」
「…………
私が言葉を紡ぎ、指をパチンとならす。
その瞬間この青い世界に劇的な変化が訪れる。
青空の時間が突然早送りの様に流れ出した、青空は直ぐに夕焼けに染まり、そして紫に…やがて真っ黒な夜空へと……。
「見て下さいイオリアさん、アレを…」
「…………あれは?」
我々が見上げた視線の先には夜空に広がる天の川すら比べ物にならない程の規模の星の川、夜空を横断する巨大な光の道があった。
すこし天の川と違うのはそれを形作る光が、まるで流星の様に同じ方向に流れているところだ。
正に流星の大河とでも言える幻想的な物である。
この果てしない光の先には何があるのかっとか考えてしまう自分がいるな。
「アオノさん、あの空の光の流れは一体何なんですか?」
「あれは私達が輪廻の輪と呼んでいる物の正体ですかね、生命の大河とでも言いましょうか…」
「せっ生命の大河?」
そうっアレは私達が生きるあの世界だけじゃなく、数多の異世界と呼ばれる全ての世界で死した者の魂はあの光の流れに還り、やがて新たな生命として新たな世界に生まれ変わるのだ。
そんなタイミングで私達の足元から光が立ち上り始めた、イオちゃんや他の人々も怪訝そうな顔をする。
ユーリとリエリはいつも通り冷静に立っている。
やがてその光が丸みを帯びる、数は数十程でその光の玉の輝きは赤、青、黄色とそれ以外にも様々なカラーリングをしている。
中に一際大きなのがあった。アレはきっと…。
そうっここは……。
「まっまさかあれは島の人々の魂ですか?」
「その通りです、私が創り出したこの世界は生と死の境界と言える世界なんですよ。ですから魂だけの存在となったエレナさん達の姿を私たちでも見ることが出来ます」
「なっ何という魔法を貴方は……」
そしてあの一際大きいのがエレナちゃんだ、ここまで来れば私でも分かる。彼女は本物の女神だったのだ。
……だってイシュリアスに心意看破の魔法を使ったらそんな情報があったからな、確か原初の女神とか言うのがいたと話をしていたけど、恐らくだが、その女神当人だったんじゃないかと思う。
本当に私は、君の事を碌に知らないままだったね、エレナちゃん。
しかし彼女達には中年魔法使いの事をいつの間にか知られていた、恐らく最初からだ。
だってその原初の女神様は青天の魔法使いとやらと直に会っていたとか言ってたしな……もうあの青い星はクロだよ、青だけど真っクロだな。まぁいいけどさ。
やがて幾つもの輝く魂は引っぱられる様に空に向かって上がっていく、そのスピードは徐々に上がりやがて空に駆け上る流星へと姿を変えた。
それを見送るイオちゃんも何かを察した様だ。
「……本当に行ってしまうんですね」
「はいっあの生命の大河に合流して次の転生に備える、それは数多ある様々な世界の理です」
あの光の大河は世界を越えてあらゆる命が存在する世界に流れている、無論誰にも認識などされない物だ。本来は、こんな世界を創らなければまずお目に掛かれない代物だ。
「イオリアさん、私達はただ別れる訳ではありません。あの光の先にエレナさん達の道は続いているんです。消えてなくなった訳ではない、だから……」
私の言葉にイオちゃんは少し沈黙する、しかし…。
「………はいっもう……大丈夫です、大丈夫な……気がします…きっと」
君は本当に優しくて強い女性だね、その強さを私も見習おうと思う。
まっ恐らくはあの青い太陽から転生受付されると思っているけどな。
ちなみに私にインストールされた知識によると禄でもない魂は地獄やら冥府やらに直行で、神に仕えたいってヤツは天国で色々なお仕事に就く事になるらしい。死んで社畜とかマジか。
そんなどうでもいい事までは教えない私だ。
私は言葉を続けた。
それは私がエレナちゃん達に死者蘇生の魔法を使わなかった理由についてだ。
「エレナさん達は魔法で仮の肉体を用意していました、しかし本物の肉体ではないので我々が魂と呼ぶ自身の存在の根幹にあるモノは少しずつ劣化をしていたんです……」
それが自然の理から外れた命に干渉する外法の対価なのだ、いくら死んだ人間を好きに生き返らせる魔法があっても、当の魂があの生命の大河に還ったあとなら無意味だ。魔法は発動しない。
輪廻転生があるのなら自然とそんな感じになるんだろう。
「…………」
「たとえ私の魔法で肉体を再生し、蘇生をしてもその肝心な魂の欠損は補えない。そんな魂を持つ者が再び死を迎えた時、次の転生に耐えきれずその魂は完全に消滅してしまうでしょう、それをどうにかするにはやはり自然の流れに任せ、あの大河に還すしかありませんでした」
或いは賢者の石を召喚すれば……っと考えてしまう私も未練たらたらだ。目元の涙と鼻水がいまだに残る。
「イオリアさん、エレナさん達は他の誰でもない私達に多くの物を託して逝ったのだと私は考えています」
エレナちゃんとの会話を思い出すと、そんな感じだっのが幾らか思い浮かんだ、中年の過去話の時の問答とかまさにそうだろう。きっと彼女達は最初から世界とか海の向こうの人々とかではない、島にいる私達の為に全てを賭けるつもりだったんだ。
本当にどこの英霊英雄の類だよと思う、格好良すぎるんだよ。
確かに私はエレナちゃん達を生き返らせる事はしないと決めた。
……………けどな。
「しかしそれ故に、恩返しくらいはしませんとね」
「……アオノさん」
【気高き魂に、大いなる祝福を。
空に昇っていく流星の束が青い光を纏った。
やがてその流星は空の向こう、光の大河へと真っ直ぐに向かって消えていった。
「まさかとは思いますが……今のは輪廻転生に干渉する魔法だったりしますか?」
「ハハッまさか…」
あれはただの願いと祝福の魔法である。
あの青い太陽さんには騙されてこの世界に放り込まれたからな、何が私の行動を制限したり指示したりしないだ、どうやったか知らないが完全に何かしらの不思議パワーて導いてるだろ。
っま私は別に他者に良いように使われるのはとにかく嫌だ嫌だと拒否反応を示す子供ではない、私が納得出来る報酬があれば何も問題はないのだ。
要はさっきの魔法は、今回の報酬としてエレナちゃん達の転生云々の際には何かしら色をつけてよってお願いする魔法である。
輪廻転生に干渉するとかはしないよ、デキないとは言わないけどさ。
私達はエレナちゃん達が飛んで行った夜空に流れる光の大河を見上げる。
「……さてっそろそろ帰りましょう、私達の世界に」
イオちゃんにリエリやユーリは黙って頷く、ビンゴとその部下達もだ。
ここは生と死の境界だ、死者が現世に留まるべきではない様に生者が長居するべき場所でもない。
別れの言葉は既に贈った、なら後は去るのみだ。
私は光の門の魔法『
◇◇◇
移動した場所はあの魔神の空間魔法を喰らった時の場所、つまり浜辺である。
そこの景色が一変していた。
「………これは」
何と島が真ん中から吹き飛んで大きなクレーター宜しく、巨大な円形の湖見たいになったいた。
島自体がドーナッツ状になっているんじゃないか?そしてあの湖は先ず間違いなく海水だな、何故なら砂浜の数メートルから先はその湖になっているからだ。
恐らく今まで生活していたあの島が何かしらの魔法でカモフラージュされた物だったのだ、私の
ならこの光景は……。
「………ご主人様、これは」
「ええっ恐らくはエレナさん達の戦いの後だと思います」
きっと壮絶な死闘だったのだろう。
流石に狼狽えるイオちゃん達を横目にしていると何処からともなく1冊の魔導書が現れた。
いきなりボンッて現れた。そしてフヨフヨと宙に浮いている。
ん?これ私のガイドブックじゃん。
ビックリしていると宙に浮いたままのガイドブックが勝手にパラパラとめくり始める。
そしてとあるページを開いた。
「…………!」
『夢から覚めた島ラブーン』
『この島は夢を見ていた、善なる者達が生きて平穏に暮らし続ける、ただそれだけの夢を……やがて時は来た。島は夢から目覚めた。』
(ご主人様、どうしました?)
これは久しぶりの思念会話だ。
「別に隠すような事はないよユーリ、ただ気づいただけさ……予想でしかないけど」
「予想、ですか?アオノさん」
イオちゃんやリエリはこちらを見てくる、
「この島のダンジョンにはダンジョンマスターがいませんでしたが、もしかしたらそのダンジョンマスターと言うのはこの島、ラブーンの事だったのかもしれません」
「「「!?」」」
イオちゃんもリエリもユーリも驚愕の表情をしている。
だってここは剣と魔法のファンタジーな世界だ、生きている島があっても不思議じゃないだろう?。
正直疑問はあったんだ、どうしてあの魔神イシュリアスはこの島に現れたのか。エレナちゃん達の封印魔法はどうしてこれだけ長い時間あの魔神を封じる事ができたのか。
そもそもエレナちゃんやお付きの島の人々が生前は更に強かったとしても、数十人であの魔神を相手に封印魔法を成功させるとか無理があると思う、更なる助力がなければね。
それはもしかしたらエレナちゃんや島の人々でも気づく事がなかった存在だったのかも知れない。
どうせあの青い太陽みたいなのが何かしたんだろう、この島には何かあるんだ。
それがあの魔神がこの島に待ち構えていたエレナちゃん達にやたらと都合良く働いたんだろう。
もしかしたら封印魔法にしろ彼女達の魂を保護した仮の肉体を創る魔法にしろその姿なきダンジョンマスターの力添えがあったのではないかと思う。
その理由はきっとエレナちゃん達の人となりが所以だと思う、皆に愛される系の女神だと思うだよね彼女は……。
「このラブーンと言う島もエレナさん達と共に戦ったのではないかと思います。それにダンジョンを生み出し操るくらいの力がなければ、この島をこうなる前の状態で維持する様な魔法は扱えませんからね」
正に夢を現実に投影する様な大魔法、私も感服するほどに強力な魔法であった。全く気づかなかった。
……そしてその姿なき何ブーン氏は恐らくこの勝手に動き出したガイドブックに…。
まぁその辺りは後で言いだろう。
そう言えば随分と時間が経っていたようだ、夜だった空の向こうから夜明けを告げる暁が……。
「私は……この島での出会いも別れも決して忘れない、この記憶はわたしにとってかけがえのない宝なんですから」
「私も同じ気持ちです、このエレナさんや島の子ども達、それ以外にも多くの人々から得た学びを私も忘れません」
「………当然です、貴女はご主人様に対する非礼も忘れてはいけませんよ」
「………ユーリ貴女は、ハァッ……」
別れの時に言えなかった言葉を言った。
イオちゃんは妙なイチャモンをつけられて片方の眉をヒクヒクしている。
「ご主人様、あの鬼人族の男が島の端に用意しておいた船をこちらに寄こすそうです、それに乗って島を出ますか?」
「………はいっそうしますか」
エレナちゃんと新たに交わした約束がある、それはこの世界を旅して様々な出会いやら何やらをする。要はお宝ハンターだ、冒険者らしくな。
私達は朝日を受けながら船が来るのをしばし待つ。
「………っとあれは」
「ご主人様どうかしましたか?」
そう言えばこの砂浜にはアースって獣人の死体を放置してたんだ、そしてその死体の側に……なんかいるな。アレって……魂だな。
私はその気になればこの世界でも魂くらい見えるのだ。
なんか焦げ茶色の小汚い魂がアースの側に所在なさげに彷徨っていた。
やれやれっ果たしてあれはエレナちゃんの置き土産か。それとも姿の見えないダンジョンマスターだかラブーンの意思的な存在の仕業か。
それとそもそも私のガイドブックは
まっ今はそれよりあの小汚い魂である。
エレナちゃん達を見送っておいてあの小汚い魂を助ける羽目になるとは、世の無常を嘆くばかりだ。
まっこれは良いこれはダメだと決め付けすぎるなって事だろうさ、そう言う事にしておこう。
「……行きますか」
死体は無傷、魂も未練ありまくり。これなら簡単に生き返らせられるな、モブは扱いが雑すぎて逆にありがたい。
そんなことを考えながら、私は一歩を踏み出した。
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