第43話『女神エレナちゃん』
私の本当の名はエレンナリアと言います、原初の女神の1柱にしてこの世界を創った偉い女神様なんですよ?エッヘン。
……けど実はそこまで凄い神様ではありません、何しろ創った世界を別の世界から来たよく分からない連中、神を名乗る竜とその眷属に乗っ取られてしまいましたからね~。
私を含めた5柱の原初の女神と他にもいた様々な神々に天使や使徒による全力攻撃でも全く歯が立ちませんでした、トホホ……。
お陰で我々神々は大半が消滅して残りは封じられたりヤツらの僕に造り変えられたりしてしまい世界は正に地獄絵図になってしまいました。
しかしそんな世紀末の世界はまたもや別の世界からヒョッコリ現れた謎の魔法使いによって救われたのです。
青色の膝まである長い髪と同じ色の瞳、群青色のローブ、手に持つ杖の先には青く輝く銀河の様な光の螺旋が渦巻いています。
とても美しい女性でした。
歳は十代中頃で、私より少し子供ですね。
しかし胸の膨らみは私以上です。異常ですね。
彼女は自身を青天の魔法使いと名乗りました。
何故青天の魔法使いなのでしょうか?気になったので聞いた私です。すると彼女はこう答えました。
『もちろん、私の凄さと強さが青天井だからですよ!』
………もしかしてボケたのでしょうか?。
◇◇◇
フフフッ古い知り合いの事を思い出してしまいましたね。
私は今アオノさんやイオさん、それに2人のメイドさんやビンゴさんと言う鬼人族の方と向き合っています。
私が……私達が既に死んでしまった事を今話しています。
20年前の戦い、私達はあの悪神竜の眷属と戦いました、しかし時間を越えて現れたあの存在の力は私の予想を遥かに上回るものでした。
私達は必死に抗ったのですが、全く歯が立ちませんでした。そして勝てない事を理解した私達は倒せない時の為に長い時を掛けて編み出していた特級の封印魔法を使ってあの存在を封印しました。
「……しかしその結果、魔力を使い果たした私達の命は尽きてしまいました。そして今の私達は私の魔法で魂を現世に留め、仮の肉体を与えているに過ぎません。全てはあの存在の封印を見守る為に…」
「そっそんな……嘘ですよね?エレナさん……」
「…そうか、では不老不死の正体とはそう言う事だったのか」
「そうです、魔法で創った肉体ですから。歳を取ることもありません、ただ魔力が尽きれば消え去る事になりますが…」
「………………」
ちなみにですが、青天の魔法使い様は私達が勝てない事や多分死ぬ事もとっくにご存じでした。何ならあの存在を封印した魔法って彼女から教えてもらったものを元に私達でも発動出来る様にした物だったりします。
彼女からはこの世界が幾つもの時代を経て行き、やがてあの存在が時を越えて現れる事、その頃には私の女神としての力も殆ど無くなってしまう事、戦えば死ぬが封印魔法なら成功する事を話されました。
そして……その封印魔法が破られた時にあの恐るべき存在を完全に滅ぼせる者が現れる事を。
流石に最後のは本当に?ってなった私ですよ。
そして現れたのが……。
「アオノさん?私達はあの存在が倒されるところまで見れれば、後は黙って消えて行くつもりだったんですよ?」
「エレナさん、それはいけない。別れの言葉は……誰もが必ず交わせる物ではないんですよ?」
「……そうでしたね」
そうでした、彼には別れ言葉も言えなかった経験があったと言うのに……。
そして気づきました、本来なら私達の身体はとっくに消滅していてもおかしくありません。それなのに未だにこうして皆さんと会話が出来ているのはこの美しい景色の空間に秘密があるのでしょう。
あの存在の力を封じて追い詰めるだけの物ではなかった、この世界に満ちた静かな魔力が私達の身体の崩壊を一時的に抑えてくれているんですね。
「こんな魔法、私でも知りませんよアオノさん、貴方は本当に青天の魔法使い様の弟子じゃないんですか?」
「………まさか」
私の言葉に彼は、少々面食らった様な顔をしています、そして何故が嫌そうな顔になりました。
片手で世界を救える様な方の弟子扱いされて何で嫌そうな顔をするんですかね?………あっそういえば……。
『……と言う訳であの連中の中には倒しても何度でも転生して復活するのがいるんですよね、それで海にいたのと砂漠にいたのとには逃げられて……さらには自らを完全に封じて気配を隠したヤツや。時間を越えて未来に逃げたアホまでいましたよ』
「そっそんな事まであの存在達は出来るですか!?……では私達はあの存在には勝てないと?」
『いえっ普通に転生すると分かっていれば対処のしようはありますよ?それ以外の連中もやりようは幾らでもありますから』
「………あるんですね、凄いですね」
『ハハハハッ私が凄いのは当然ですよ……しかしその手段を取るともうこの世界に干渉すら難しくなるんですよねぇ~』
「いっ一体何をするつもり何ですか!?」
『それは秘密です、しかし私がこの世界からいなくなった時の為に新たな人材をスカウトして来ましょう!』
「人材?スカウト?あの~貴女が認める様な人材が見つかるのにどれくらい時間とか掛かったりするんですか?」
『数万年程ですかね』
「………長過ぎますよ!?」
『いやっ私は未来とかも覗けるんですけど、どうやら未来に逃げたヤツとかはそれくらい遥か未来に現れる様ですから間に合いますよ……多分』
「多分って何ですか!?本当に世界を救える様な真っ当な人を弟子にして下さいよ!」
『………弟子?』
「え?違うんですか?私はてっきり貴女がこれはって方を見つけて育てるつもりなんだと思っているんですけど…」
『ん~それはどうですかね?私、その弟子とか師匠ってのが嫌いなんですよねぇ~』
「師匠や弟子が嫌いって…ちょっと意味が分かりませんよ」
『だって師匠とか弟子とか言いたがる子は目上の人の言うことは聞くけど、自分が勝手に格下と決めつけた相手からは、たとえ正しい言葉を掛けられても聞こうとはしないんですよ、師匠や弟子と言うと何か特別な事のように勘違いしてるんですよね~。
学ぶ意思があればたとえ相手が尊敬出来る相手以外の、子供や若輩者であろうと嫌っている相手であろうとちゃんと相手を見る。そうすれば学ぶ事は幾らでも出来るんですからぁ~』
「あっけらかんと言いますね、そんな相手が見つかるとは思えませんよ?」
『ハハハッ要はつまらない所で自分の成長を邪魔するタイプのプライドを真っ先に捨てられる相手が良いなって話ですよ』
……フフッそれから何故か私があの魔神を何とか封印してそのスカウトした相手が来るまで時間稼ぎをしてとか他にも色々とこの世界でする羽目になった私です。
本当に大変で……楽しい旅でしたね。
「……あの方は、見つける事が出来たんですね」
「はい?」
目の前のアオノさんの頭に?が浮かんでいますね、彼のあの表情はきっと彼女と同じ様な考えだからでしょう。
だってあの方が相手を妥協するとは思えませんからね、この世界の事を私や他の女神に丸投げしたときも、幾つもの課題っと言うか注文がモリモリありました。少しは手加減して欲しかったです。
「……もう時間はありません、皆。ちゃんと別れの言葉を言っておこうよ」
私は後ろの皆、ずっと長い間共に歩んだ人々に話し掛けます。
私の眷族として力を分け与えた人々、途方も無く長い旅もこの子達がいたから歩いてこれました。
あの者との戦いで肉体を1度失っても、私と共にこのラブーンでその封印を見守り続けてくれた大切な皆です。
本当は私だけでラブーンには残るつもりだったんですけどね、そんな事は出来ませんって怒られたり。
島を開拓して村を作ったりと忙しい日々を思い出します、そして平和な島で日々を過ごした事も全て大切な記憶です。
皆はそれぞれが別れの言葉を交わします。
あの鬼人族の男性とその部下と言う人々の元には村長や島の大人達が話し掛けてます。
「貴殿達の事情を何も知らず、不老不死と言う言葉に踊らされた愚か者に命じられこの島の平穏を乱した。本当にすまない事をした!」
「気にしなさんな」「平穏も良いけどたまには魔法を使うのも悪くなかったぜ?」「貴方は私達を捕まえたりしようとしなかったじゃない」「そうそうっ確か何年か前のがそうだったよな」「返り討ちにしたけどな!」
「ワシ達も人様より随分と長い時を生きた、似たような愚か者も何人も見た。だからそんな愚か者の事で、アンタみたいな若者が気に病むんじゃないよ」
「………ッ!、俺の名はビンゴ……貴方達の事を悪魔などと言う悪評は必ず正す。そしてその栄誉を回復する事をここに誓おう」
「……フッ程々にな」
うんうんっ話がまとまりそうですね。
そしてイオさんの元にはやはり島の子供達が押し寄せていますね。
「みっみんな……本当に、みんなもそうなの?」
「うん、ゴメンね?」「私達本当は島から出られなかったんだぁ」「お父さんとお母さんも無理だって言うしかなかったの~」「けど魔法の授業は楽しかったのは本当だよ!」「イオちゃんの魔法も凄かったよ!」
(……もう、この子達は……)
「……イオちゃんじゃなくてイオリア先生でしょ?」
イオさん、ずっとイオちゃんと呼ばれていたんですよね、最初のうちは何度も彼女が訂正してました。
先生をちゃん付けするのはいけませんって、けど彼女は実際に受け持つ生徒にもイオちゃんとよく呼ばれるそうで自分に先生として見て貰えてないのかって愚痴をこぼしてたりします。
そんな彼女に子供達がイオちゃんイオちゃんっと抱きついてます。
っあ狙ってイオさんの胸に向かった男子が女子の連携ではじき出されましたよフフッ……。
皆がそれぞれに別れの時を過ごします、私は自然と彼のところに向かいました。
アオノさんは左右にメイドさんを待機させてこちらを見ています。
「島の皆を代表して……あの存在を打倒してくれた事に心から感謝を、ありがとうございますアオノさん」
「……どういたしまして、エレナさん」
………………本当は分かっています、彼なら私達を生き返らせる事も容易だと言うことも。
もしも私達が望めば彼は容易くそれを成せる力を持った魔法使いです、しかし彼はそれをしない。
何故なら私も皆もそんな事は望まない事を彼は知っているからです。
女神として生まれた私も、この世界を旅をして分かった事があります。
それは、終わりがあるからこそ出会いにも別れにも意味があり、そして素晴らしいと言う事です。
永遠に存在し続ける事には、実は大した意味はありません。それはこの世界が生まれる前から私が存在していたからこそ言えるものなのかもですね。
そして……同様に長い時間を存在し続けた果てに、あの不死の怪物が生まれたのも自明の理なのかもしれません。
「フフッアオノさん、貴方は世界を救ったと言っても過言ではないんですよ?もっと偉そうにしてもいいのでは?」
「私は偉そうにするのが苦手ですから、それにこの魔法は貰いものの様な物です、それで胸を張るのはあまり好きではありません」
むむ~アオノさんは魔法使いとして力をそう考えるんですよね、正直同じ力を持ってもそれをどう使うのかを考えて使う事が出来るアオノさんなら遠慮なく誇っても良いと女神的には思うんです。
けど……やっぱりそれが貴方らしいですよね、アオノさん。
そんな貴方だから、私もあの約束を守ろうと思うんですよね。
「あっアオノさんこれを……」
「これは。貝殻のペンダントですか?」
私が見せたのは青色の貝殻のペンダントです。
「そうですよ!それは私が手作りした物です。実は私が浜辺に行ってたのはそれの材料を集める為だったんですよ?」
「そんな趣味が…知りませんでした」
「フフッまだまだ私の事でアオノさんが知らない事は沢山あるんですよ?」
私が料理が得意だとか、釣りは苦手だとか…。
本当は話したい事やアオノさんの事も沢山知りたいんです。
「………けど、ここまでです」
私の身体が崩れてきました、両足や手が少しずつ塵のようになっていってます。
それでも私は貝殻のペンダントを彼に渡す為に数歩前に出ます。
「エレナさん、貴女は……いえっ貴方達と出会い、そして過ごした島での日々は。私にとって大切な…ッ!」
彼の手にペンダントを渡すタイミングで更に接近しました、そして唇を一瞬だけ重ねます。
「……ならそれをもっともっと増やして下さい、アオノさんは冒険者なんでしょう?それと!いい
「…………ッ!?」
ビクッとなる彼です、まさか気づかれないとでも?フフフンッ貴方がどれだけ私の胸やお尻をチラ見したと思ってるんです、そして私が貴方をどれだけ気になっていたと思ってるんですか。
けど……アオノさんと共に生きるのは私ではありません。残念ですけどね。
そっそれはともかく……アオノさん。この世界は、本当に広いんです。
私も世界中を旅したトラベラー女神だから知ってるんですよ。
貴方は知っているんですかね?この世界にいる獣人は耳や尻尾が生えてる獣人だけではありません、獅子の頭をそのまま乗せた様な獣人や動物がそのまま立って歩く様な感じの獣人もいることを。
古代のエルフ達が住む神秘森や海の上に浮かぶ大貿易都市、ドワーフが霊峰の地下に作った王国。別の大陸には砂漠地帯を支配する大国や火山地帯を縄張りにする炎の精霊達がいたりします。
鋼鉄の住人が住む古代の超文明が残した謎多き遺産都市、かつてこの世界を統治したと言う天帝の宮殿。空にモリモリと浮かぶ浮遊群島。
魔境と呼ばれる未開の大陸、この世界の月の秘密や最果ての地に空いている言われる深淵の大穴。話したい事は本当にいっぱいあります。
しかしそれはきっと彼自身が歩み、やがて知って行くことになる事の筈。だからここは口にチャックと言うヤツです。
何故ならアオノさんは冒険者なんですから。
自らの手で知ることでその分だけこの世界を好きになってくれると信じています。
「エレナさん……」
「フフッ約束ですよ!」
「……はいっそれもまぁ…頑張りますね」
あっ彼の目尻に涙が…もうっ私までつられてしまいましたよ?どうしてくれるんですか。フフッ…。
「アオノさん、島に来たのが貴方で良かった…」
貴方は回りに気をつかう人で少しスケベで凄い魔法使いで……誰かの為に戦える優しい人。
アオノさんになら私が愛したこの世界の未来を託せる、信じれる……だって。
「………さよなら」
「…さよなら、エレナさん」
私は貴方が大好きだから。
………そして彼女は消えていった。
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