第42話『青き星に願いは届く』
『なっ何者ダ!?あの魔法使いが新たに召喚したモンスターか!?』
大きいだけのファイアーボールだと思っていた物が声を発した事に心底驚く魔神。
しかし驚くと同時に極大の魔法陣が展開、様々な大規模の破壊魔法がビームの様に発射された。
しかし全ての魔法は青い星の発する光によってかき消えた……様に見えた。
何が起きたのかイシュリアスには全く理解出来なかったのだ。
当たるとか外れると言う話ではない、『届かない』のだ。
相手の大きさがまず有り得ないサイズなので距離感もおかしな事になっているのでそもそも距離的に届かない魔法だった可能性も高い。
しかし問題は距離だけの話ではなかった。
彼我の力の差は生半可のものではない。
完全にレベルが、格が、次元が違った。
『こんな事が……!』
声の主はそんな魔神の言葉に答える。
『………モンスターって、随分と酷い物言いですね、未来への時間跳躍の影響で記憶にまで深刻な被害を受けましたか?』
『…………クッ!』
(この声には覚えがある、だがっ誰だ!?この私の事を知っていると言うのか!?)
『まぁお前の記憶力に興味はありませんよ。私は彼女、エレンナリアの旧友です。ああっ確かにあの世界ではエレナと名乗ってましたね』
(エレナ……あの私が時間跳躍で現れた先に待ち構えていた女か。確かにヤツも人間にしては魔法の腕は大した物だった。何よりこの私を本当に封じたのはヤツだからな…)
しかしっと内心で魔神イシュリアスはほくそ笑む。
(貴様らは何も理解していない、この魔神イシュリアスが何故不死なのかをな……あの魔法使いもこの青い星の様な者も。私を滅ぼそうなどいうのは全て無意味なんだよ……)
『エレナ?あの愚か者共のまとめ役だった女の事か?』
『……彼女が愚かですか?』
『その通りであろう?自らが救われ、守られている事すら理解出来ずにあのラブーンと言う島の住民達を悪魔だ何だのと。無知は罪だな、度し難いにも程がある。そんな者達を長年全てを掛けて守り続けたバカ女を愚かと言わずになんと言うのだ?』
魔神イシュリアスは青い太陽の様な存在を煽った、何故そんな真似をするのかと言うとこの魔神はたとえ滅ぼされても何も困りはしないからだ。
この魔神を含め神話の時代に存在していた邪悪な存在のごく一部の者は死んでしまいその魂が輪廻の輪に帰ってもその意思と記憶、それと力の一部を保ったままで転生が出来るのだ。
何処ぞの中年風に言うなら強くてニューゲームと言った所だ、しかもその転生に回数の制限はなく何度でも、そして数多ある異世界のある程度選んだ世界の選んだ種族に転生出来ると言う物だ。
イシュリアスはその能力を持つごく一部の存在であった、その能力をさして魔神は自身を不死であるとのたまっていたのだ。
(どれだけ強大の力を持っていようと関係は無いんだよ。この世界のオモチャを壊して回る事が出来なくなるのは残念だが……なら別の世界に転生すれば良いだけの話だ、あの魔法使いと言いこの存在と言い、こんな連中に付き合う義理は無い。さっさと死んで新たな世界を蹂躙して回る方が……)
『ラクだし楽しそうだ……ですか?』
『…………ッ!?』
『貴女の心の声くらい聞こえますよ、魔法を使うまでもありません。そして愚かなのは貴女だけですよ?彼女達が悪魔呼ばわりされたのも貴女が手を回しただけでしょうに……』
図星をつかれたイシュリアスは舌打ちをした。
『チッそんな事マデ……なら貴様は結局ナニガ……イヤッまさか…!?』
『フフフッ確か海と砂漠の悪神竜でしたね?ヤツらにはその逃げ方でものの見事に逃げられました。しかし同じ手が私に通用するとでも?』
『ッ!?まさかとは思ったが……貴様なのか?アレから何マンネン経ったと…』
『今の私はあらゆる世界の輪廻転生を見守る存在、けどっ実は少しは手出しとかもしてるんです……』
青い太陽の輝きが増した。
『つまり、貴女に次の輪廻など来ませんよ。ココでお終いと言う訳です』
『ふっふざけるなぁあアアアアアアアアアアアアッ!』
イシュリアスは巨大な口を開き、赤い光を発射した。魔神の正真正銘の全力攻撃だ。
しかし魔神イシュリアスの全身全霊の一撃すら青い星に届く事はなかった。
赤い光も先程の魔法同様、青い星に届く事なく消滅した。
『全てが無意味です』
『そんな…………バカな……』
恐ろしい程の巨躯を誇る真紅のシャレコウベ、しかし青い太陽に比べればあまりにもちっぽけな塵にも劣る存在である。
(バカな………何をどうしたら。そんな存在に至れるというのだ?あの魔法使いといい……!)
『いやっやはり貴様の差し金だったか!青天の魔法つか……』
『終わりです』
太陽は光を放った。
『ペギャッ』
魔神は青い光に飲まれて消えた。無限の魔力も不死の再生能力も、そして転生すらも意味はなく。
全て虚無だけを残して消え失せた。
魔神の消滅を見届けた青い太陽は眼下に広がる青く小さな星に立つ1人の魔法使いに、聞こえる事はない言葉を投げかけた。
『青野さん、貴方は暖かい光が指す道を進んで下さい。私も…そして彼女もそれを見守りますから…』
◇◇◇
………ん?今何か声が聞こえた様な、気のせいか?。
ウユニ塩湖をモデルにして創り出された私のオリジナル空間魔法には、あの魔神が消えてから数分間静寂が訪れていた。私は水面に立っている、深さはないのでブーツも濡れない。
そして当たり前の様に私の隣にはイオリアが立っていた。
「………んっ。どうやらあの魔神イシュリアスは消滅した様ですね」
「あれだけ離れていても分かるんですか?私に貴方が生み出した、あの青いファイアーボールの魔力が大きすぎて魔力による感知が殆ど働かないのですが……」
イオリアの意見は最もだ、私自身の魔法だからこそ分かるのだと考える。
………あっ青いファイアーボールが消えて空が元の感じに戻っていく。
あの邪悪な魔神の魔力は完全に消えた。不死だとか散々抜かしていたが案外あっさりとくたばったものだ。
あの蒼空天火の魔法は不死やら精神生命体やらというファンタジーな世界観にありがちなチートだとか言われそうな連中に対するメタ魔法と言う感じの効果を持った魔法らしい。
何でもインストールされた知識によると生命の存在の根幹を成す物、要は魂である。それを消し飛ばす事も可能な魔法だとか、そして指定したもの以外には何の影響も及ぼさないらしい。
あの魔法なら炎の鎧とかも出来そうだ、そしたら私は無敵かもな。
………まぁそんな魔法に自分からダイブさせられたら消滅するのも仕方ない事かも知れないな。さらばだ魔神イシュリアス。
さっきかららしいとよく言うのは私が使える魔法の中にはその詳しい情報やその詳細がイマイチ分からないのも少なくない。
自身の魔法使いとしてのポテンシャルとかはほぼ完全に把握のに魔法の方はたまに意図した様に要領を得ない魔法がチラホラとあるのは何故だろうか?。
まぁ魔法だからな、ファンタジーに科学的な説明など不要だと私は考える。
そして無事にユーリとリエリ、イオリアやビンゴと合流した私だ。
私と魔神の戦いは遠目からでも自分達が割って入れる様な戦いではないと判断して巻き込まれない様にしていたようだ。
その行動のお陰で私も全力を出せたのだ、礼を言おう。
私はその場の全員の方を向いてお礼を言った。
「皆さんのお陰で、あの魔神イシュリアスと言う存在を倒せました。ありがとうございます」
私が頭を下げるとむしろその場の人々を混乱させてしまった、曰く私が頭を下げるのは変だろうって事らしい。
ペコペコするのは島国出身の職業病みたいなものだ、ユーリもリエリもヤレヤレと言う感じである。
一悶着あったが落ち着きを取り戻した私達だ。
するとビンゴがおもむろに口を開く。
「アオノ殿、これで本当に終わったんだな」
「……………そうですね、戦いは終わりました」
「……戦いは?それはどう言う事だ?」
「はいっそれでは説明を……っとそれは私の仕事ではありませんね」
私の言葉にビンゴの部下達やイオリアだけでなく、リエリやユーリまで少し戸惑っている。
「この世界なら姿を現す事も出来るでしょう?エレナさん、そして島の皆さん」
私の言葉に回りの人々はハ?っという感じだ。
しかし私の言葉に応える様に水面に魔法陣が現れる。
そしてその魔法陣からはエレナ達このラブーンと呼ばれる島の人々が現れた。
彼女達の助力によって私は魔神を倒すことが出来たのだ、そう言う意味では彼女達は今回の戦いのMVPと言う所か。
「フフフッ!やっぱりバレてましたか、流石はアオノさんですね」
エレナがいつものにこやかな表情で話掛けてきた。
しかしその表情はどこまでも穏やかな…まるで慈愛に満ちた女神の様に見える。
彼女の聖女然とした格好と後ろの村人達の神官の様な姿の影響だろう。
あの姿を始めて見た私以外の面々は固まっている。
「アオノさん、本当にあの存在を倒してしまいましたね」
「私が、イヤッ私達が負けると思っていたんですか?」
「フフッいいえ!………信じていましたから、私達はアオノさんや皆の力があれば必ずあの魔神を倒せると思っていましたから…」
まぁ試合内容を見れば殆ど私のワンマンライブだったのだが、しかしあのイシュリアスと戦って死者がゼロな事が大した事だと言う話だ。
「いえっ冗談ですよ、私もエレナさん達の言葉に嘘なんてないと思っていますから」
「アオノさん……」
ユーリやリエリ、そしてイオリアの視線が私達に…いやっ私に集まった?取りあえず話を進めよう。
「エレナさん、この場にいる皆さんに何か言う事はありませんか?」
「アオノさん?それはどう言う……」
イオリアが私に訝しげな視線を向ける、どうやらまだ自体を理解していない様だ。
対するビンゴは目を細めて何か引っかかる物があるようだな。
「アオノ殿、彼らや彼女らは貴殿と共に別の亜空間に閉じ込められていて、それを貴殿が予め救出していたのか?」
「………いえっむしろ私がエレナさん達に助けられました、私があの戦いに参戦出来たのは彼女達のお陰なんです」
「そうなのか?確かにこの島の人々は魔法に精通している事は知っているが、貴殿でも脱出する事が困難な空間魔法を越えてみせたと?」
「…………」
エレナや島の人々は無言だ。
しかし私は聞いたんだよ、あの魔神は確かに言ったのだ。
『この島に生きている者は全てのこの空間魔法な引きずり込んだ』っと。
なら島の人々がその魔法の対象外となったのは何故なのかを考えるのは自然な事だ。
「そうですね、分かりました。なら私の口から全てをお伝えしますね」
「…全てを…伝える?」
エレナは言った自分達はあの魔神と戦って返り討ちになったと。
「私達は20年前にあの魔神に戦いを挑み、そして敗れました」
あの腐れ外道な魔神が自身を封印しようとした連中を生かしておく訳が…………ない。
「………私達の命はその戦いの時に既に失われているんですよ」
エレナは真っ直ぐにこちらを見て、そう言った。
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