第40話『魔神対魔法使い(2)』

世の中に絶対なんてモノは無い。


私の魔法でもそれは変わらないのだろう、だから絶対の自信を持った防御魔法も案外あっさり破壊されたりもする、それは有り得る話だった。


真っ赤な骨の巨人は赤いオーラの大剣を振り下ろして地面に突き刺した体勢のまま制止している。


『やった……やったぞ!この私を見下すからだ魔法使いが!ハハハッハハハハ!』


一瞬で復活したイシュリアスの女タイプが吠える。


『ハッ!ハハハッ……まさか本当にここまでの化け物がこのタイミングで偶々この島に?有り得ない。あの忌まわしい魔法使いが何か仕組んでいたの?しかし全ては失敗に終わっ……』


その辺りの話は私も同意だ、あの青い太陽と青天の魔法使いとやらはに繋がりがあるのだろうな。

恐らくは……いやっ今はそれよりも私の行動をってか本当に未来を覗いていたんじゃないかと言うレベルでご都合展開しているのはきっと無関係じゃない。


ちなみに私、魔法使い青野は無事である。


何故か、それは私が自分の魔法が全能でも万能でも無いと知っていたからだ。普通に気にするだろう?この守り破られたらどうしょう位はね。


まさかボス相手に単身で、しかも何の策もなく喧嘩を売るわけがない。


まずやられたあの魔法使いは私が魔法で創り出した実態を伴った分身である。様子見の為に用意した物である。


そうっ私はあのビンゴと言う男じゃない、主人公ムーブをするのなら安全マージンくらいは取ってから行動する。


私はイオリアやビンゴ達と別れて直ぐに時間停止の魔法を使って誰にも感知されない場所で幾つか魔法を発動していた。


それが私のそっくりさんを創り出す魔法だ、そして異空法衣の魔法で私自身は姿を隠した。


そもそも私が魔法を連発したりステゴロなんて経験がないのにイシュリアスを挑発したのは万が一にも私のをさせない為である。


異空法衣の魔法は基本的に発動すればあらゆる攻撃が透過するので何をしても効かない、だが強力な魔法を使うと解除されてしまう魔法なのだ。

リエリとかもそうだったし私も何度か魔法を使うと解除されてしまうんだよ。


なら時間停止の魔法が発動している時にさっさと倒してしまえっと言う話もあるが、アレに半端な魔法は無意味だ、時間停止を解除したら直ぐに復活してしまう。


色んな魔法が使えるのに、思いのほか不便な魔法使い、それが私だ。


魔力除去で魔力を完全にゼロにしてもあの再生能力が特殊能力なら無駄な行動でしかないしな。


ならどうするか?簡単だよ。


『…………バカな、貴様生きて……ッ!そっそれよりもそれは、その魔法は何だ!?』


あっ隠れてんがバレてしまった、まぁ仕方ないなだって今私が用意してる魔法の魔力が大きすぎて、異空法衣の効果が薄れたんだろう。


私は異空法衣を解除した。


「貴女の自慢の魔力と再生能力を封じる魔法ですよ……」


私の魔法には、こう言う手合いをどうとでも出来る魔法がある。

ただ……


呪文の詠唱を頭の中だけで済ませる私でもそれだけ手間が掛かり時間停止や異空法衣の魔法とは同時に発動出来ない魔法って事だ。


だから私は魔法が完成するまでずっと異空法衣の魔法で隠れていた、発動する手前で異空法衣の魔法を解除しなければこの魔法は発動すら出来ない、だから準備完了した私はイシュリアスの前に出て来た。


……本当は勝って気分が最高潮なヤツに背後からバーンとしたかったのだが、そこまで余裕を持って扱える魔法でもないからな、妥協である。


目の前で発動してやろう。


【万象の願いを叶える奇跡をここに。青き光を放つ賢者の石ラピス・ラディアント・フィロフォルム


名前が長くなりすぎた、けど命名に後悔はない。


これは私のオリジナル魔法の1つである、その効果は……。


何でも願いを叶えるチートア……いやっ賢者の石を3個召喚するって言う魔法である。


賢者の石、星の聖杯とか運命のアルゴリズム、まぁマンガで言えばドラゴンな玉が有名だが要はあれな感じのアイテムを無から創って呼び出そうと言う実に……何というかな魔法だ。


チート魔法ここに極まれりだな。


私の頭上に現れた七色に輝く二メートルサイズの魔法陣から3つの七色に輝く球体が出現する。

大きさはビー玉くらいしかないが、これの性能は正に反則的だ。


賢者の石を目撃した魔神は、一目でこれの危険性を理解したのか吠え始める。


『何だ、その魔力の塊は!?それは……人間が生み出せる様な物ではないはずだ!』


まぁ確かに、このビー玉1つ創るのにあの魔神の魔力全てを使っても全然足りない、桁が後10か20は必要だろうな。


………何でそんな代物を私は1度に3個も創り出せるのかとふと疑問に思うが…それは後にする。


さてっ始めるか……。


「1つ目の賢者の石よ、彼の者を黄金に変えよ」


『ッ!?』


私の1つ目の願いが一瞬で現実に成った。


イシュリアスの女タイプも巨大スケルトンも瞬く間に黄金の像に変わっていく……。


『バカな、こんなっこんな事が起こる訳があるかぁあアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


不死の能力も無限だという魔力も、命を持たず魔力も持たない、私が前にいた世界のただの黄金に作り変えてしまえば平気なんだよ。


しかも金に換える事も出来ると言う素晴らしい方法である。冴えてるな私。


実に魔法使いらしい戦法だと自負する私だ。反則じゃないかと言う意味でな。………ん?。


黄金…ゴスロリドレス……回収……回収だぁあっ!。


「………………ハァッ」


黄金の像になって地面に落ちて行ったイシュリアスの女タイプの姿が消えた、恐らく私の魔法部屋マジック・ルームにでも転移させたんだろう。


誰が?言うまでもない……どうやら魔法で封じられた筈のスケベ根性が勝手に動いた様だ。

正直ナトリスの時からそんな気配はあった、無視していたが……。


今の私には殆ど理解出来ないがエロに対するこの執念にはある意味凄いと感じるよ、本当に……バカみたいな話だけどな。


ズズンッ………………ッ!。


「………………ほうっ」


『ぬぁあアアアアアアアアアアアアッ!』


地響きがまたした、私が地面を視線を向ける。

すると真っ赤な巨大スケルトンが次から次に荒野の大地の下から地面を破壊しながら現れた。

その虚空の眼光は私を確実に捉えている。


『アァオォノォオォオオオオオオオオオオオッ!』


……やはりな、あの女もスケルトンも全てがただの囮、ハリボテなんだ。

だから私の魔法すら通じなかったと、私は更に上空に魔法でギュンッ!っと駆け上がりながら考えた。


最初に接触した時の対応がミスったかもな。もっと普通の魔法使いを演じとけば良かった。


この魔神は本当に私に対して油断を一切していなかった、だから最後の最後まで自身の底を見せない様に力を小出しにしながら戦っていたのだ。


「……………が、本体で間違いありませんね」


雲と肩を並べる程の高度に達して、ようやく敵の本体、その全容を確認出来た。

本体は全長1キロメートル以上は確実にある巨大なシャレコウベ、頭蓋骨であった。


大地からメリメリと出した顔、それが魔神イシュリアスの本体だ。口から無数の巨大スケルトンを吐き出している、しかもあのスケルトン共は飛行の魔法まで使って私に迫ろうとしている。


『人間風情がぁっ!人間風情がぁっ!人間風情がぁアアアアアアっ!。貴様だけは……ココで確実に……コロス!』


凄まじい怒声だな、それにしてもあの図体で空もありとは恐れ入る、あの本体のシャレコウベまでこちらに向かって浮かびはじめたぞ、反則だな。


しかし何故今まで硬くなに小出しにしてきた手札を全て晒してまで決着をつけようとしているのか。


恐らく気づいたんだろう、私が全ての手札見抜いていることにな。


だって私には相手の心を読む心意看破の魔法がある、敵だと分かった相手に使わない訳がないだろう?。


手の内は全て、す~べ~てお見通しである。


あの封印部屋ならともかく、ここから使いたい放題なのだから、出合い頭にかましてやったよ。

おおかたずっと違和感はあったが確証はなかった、しかし此方が洒落にならない魔法を使ってきた事でようやく理解したのだ。



私がこの空間を破壊するつもりなんだと…。



オオオオオオオオオオオオオオオオッ!。

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!。

オオオオオオオオオオオオッ!。


大量の巨大スケルトンが空を駆け上がってくる、当然その全てが赤いオーラを纏っていて臨戦態勢だ。

真正面からやり合えば私の魔法鎧すら破壊されるのはさっきの戦いを観察した私は知っている。


必死だな、まぁそれも仕方ない事だ。ネタばらしをしよう。


ヤツの不死にも魔力にもこの空間にその秘密がある、要はそのフィールド内において殆ど無敵になる魔法或いはそんなルールがこの空間にはあるんだだ。

味方だけを強化したり敵だけを弱体化出来るフィールド魔法的なヤツか、ステージギミックだとでも説明すれば分かる人もいるかも知れないな。


しかしその効果が見ての通り反則だ。


有り得ない速度でのHPとMPリジェネに加えて無限復活とでも言えばその手のゲームをしたことがある人間なら分かるだろう、そしてそれがどれだけふざけてる仕様なのかも。


殆ど悪質なバグか何かだと思いたくなるレベルの酷い仕様だ。しかもそのフィールドの解除条件がその反則な加護を受けているボス本人を倒すしかないとかいうな。


そんな物に付き合っていられるかと言う私の意見にも賛成してくれる人がいると思う、なので私はこの賢者の石を使ってボスを倒さずにこの理不尽フィールドを破壊するとしたのだ。


『まぁほぉうツカぁあイイィイッ!』


巨大なシャレコウベが咆哮する、そして無数の巨大スケルトンが赤いオーラを様々武器に形を変えて私に迫る。


しかし悪いな……チェックメイトだ。


「2つ目の賢者の石を持ってこの世界を打ち砕き、そして最後の石を持って新たな世界を創成せよ」


『ほぉざぁけぇえッ!』


2つの賢者の石が七色の輝きを強める、その光は徐々に大きくなっていく。


バキンと言う音が真紅の空から聞こえ、そして上を見ると空にヒビが入っている。


オオオオオオオオオオオオオオオオッ!。

オオオオオオオオオオオオオオオオッ!。


「無駄ですよ」


オオオオ……。

オオ………………。


更に魔力を無効化するという魔力剣を持っている筈のガイコツ達が賢者の石が発する魔力によって消し飛ばされた。


『!?』


やがて空の果てまでヒビが広がると同時に賢者の石の発光現象も一気に強くなり全てを光が満たす。


魔神が創り出した仮初めの世界は打ち砕かれた。












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