第39話『魔神対魔法使い』
私は冒険者である、魔法職がメインなので紙装甲の非力だと、この世界に来た当初は私自身もそう思っていた。
何しろ魔法関連の知識と私自身の魔法に対する適正などは全て知識としてインストールされたが、自身の身体能力については碌に情報が供給されなかったからだ。
『このっ!人間……人間風情が私に……ッ!』
イヤッイシュリアス、お前ビンゴには上半身消し飛ばされたりリエリには全身を塵にされていた筈だろ?何故に私の右ストレートにはそれだけ怒りをあらわにする?。
……まさか私の顔が冴えないからか?。
いやっそれは無いな、私の顔面偏差値は平均値なのだからな。
私はそう自らに言い聞かせる。
私の内心を余所にイシュリアスは激怒して攻勢に出た。
『身の程を知れっ!切り刻んでやるぞ魔法使い!』
ヤツが両手を水平に一閃する、するとヤツの周囲に数十を超える数の禍々しい大剣が出現した。
正に邪悪な魔剣と言った感じのデザインだなってかまさかコイツの技……。
『食らいなさい!』
宙に浮いた魔剣どもが私に殺到する。
凄まじい勢いで襲い掛かる魔剣達だ。
……まぁ私は魔法鎧に守られているので無論平気である。だかな。
食らいなさいってそれ、ユーリがお前にかました攻撃の完コピじゃないか。
私の魔法鎧に歯が立たずにガキィンとかガガンとかうるさい音をたてる所まで同じだぞ。
ガキィンガキンガキガキィンッ!。
「…………………」
私の内心は、ん~微妙な攻撃をチョイスしたな、この魔神って感じである。
魔神だとか名乗っているんだし、魔法関係のアクションには独自の物を持っていて欲しいと考える私がおかしいのか?。
ガギギギガギィンッ!。
イシュリアスが操る魔剣は私の魔法鎧に触れると紫色の稲妻を発生させながら弾き飛ばされる。
魔剣の見た目も攻撃が当たったエフェクト……とでも言うのか?それは凄いのに一切私の魔法鎧を破れそうな気配がないな。
すると魔神はボソボソと何かを言ってきた。
『その魔剣は切りつけた者に呪いと雷撃によるダメージを与えるのだが……貴様のその魔法、有り得ないほどに堅いわね』
呪いと雷撃か、やはり見た目通り厄介で強力な魔剣なんだな。
しかし私の魔法が硬すぎてショボい物にしか見えなくなってしまう、少し不憫である。
『しかし何時まで防戦一方なんだ?見ろっ貴様に殴られた顔の傷はとっくに塞がってしまったぞ?何しろ私は不死であり不滅の存続、魔神ですからね』
さっきまで数秒毎に殺されまくっていたくせに偉そうに……。
「それでは少しだけ本気で行きましょう」
『フッ面白い……』
我々は2人同時に消えた、まるで瞬間移動の様な感じで。
それはお互いにダッシュしただけなのだが端から見るとあれだ……あの伝説の戦闘民族の近接戦闘みたいなものだ。
互いに接近、拳とか脚とかが相手を捉えた。
ドゴッボガッバギッと言う感じの音が立て続けにする、何しろお互いに素手で殴り合っているからな。
私はステゴロなどした経験がない、故に恥ずかしい話だが私の動きはよく読んでいたマンガ雑誌を参考にした物だ。
そんな動きも難なくこなせるこの中年ボディに驚愕、マジで当たり前の様に動く。
今までは外見に騙されて、そこまで大したアクションとかやる前から無理無理って思ってたけど。
もの凄い動くわ、気持ちいいね。
気分は完全にスーパーマンとかスーパーなんたら人だ、金髪にはならないけど。
身体の造りが最早超人なのだろう、むしろそれ故に出来る様な動きでイシュリアスを翻弄する。
拳と拳がぶつかる度に、脚と脚がぶつかる度に空気が破裂するような音が聞こえる。
徒手空拳上等の殴り合いだ、最早相手が見た目女性とか関係が無くなってきたわ。私も向こうも普通に顔に右ストレートをしたり、手刀で手足を落としたりしだしている(主に私が一方的にだけどな)。
……ただやはり私の魔法鎧の魔法が有能過ぎる、向こうの攻撃は全てかわすか、魔法で防げてしまう。お陰でまるで私が一方的に女性を虐殺してるみたいだ。
本来はもっとこうっ主人公とラスボスとの決戦風味になって欲しいんだけどな。これだとレベリングの為のボス戦か何かだよ。
しかし戦いは尚も続く。何しろ相手の再生だか復活能力が半端じゃない。
何人にも分身したり空中での多段ジャンプからの拳が何個も見えるガトリングパンチをヤツに叩き込む、しかしイシュリアスは私の攻撃で身体が消し飛んでも最早怒りを表す事も無くなった。
機械的にこちらの動きを学習するのが目的の様な動きだ。
何か考えがあるのか?。
時に蹴りをしたりフェイントとかも入れたりしながら超高速での殴り合いを続ける、まぁ私の攻撃もヤツの再生能力に、ヤツの攻撃は魔法鎧の防御に防がれているので有効打とかないのだが……。
『…………ッ!?』
そんな戦闘を何度かするとイシュリアスはハッとした表情になり一瞬で距離を取った。
『貴様、小賢しい真似を……』
「もちろんしますよ、私は人ですので」
この魔神、先程から口調が変わっている。
恐らく余裕が無くなっているのだろう、不死を語るヤツの生の中でここまで追い詰めたのは例の青天の魔法使い以来ではないかと私は考える。
ならばあの私が生還した時の驚き様にも理解が出来る、予想を超えた事態にはヤツも人と大差ない反応をするのだろう。
ちなみにヤツが言った小賢しい真似とは魔力除去の魔法である、アレを私はパンチやキックと同時にヤツにかましたのだ。
私は魔法鎧の魔法のお陰で直に殴られてもダメージは一切ない、しかしイシュリアスの防護結界を私は素手で破壊出来るのだ。
つまりヤツは私の全ての攻撃を躱せないと判断して受けたダメージはあのふざけた再生能力でカバーしていたに過ぎない。
そこで私は魔力除去を発動して自身の手足に付与した、つまり私に殴られたり蹴られたりするだけで相手の魔力がバンバン消費されていったのさ。
まぁいきなり魔力ゼロにするとかは出来ない、ヤツの魔力は今だに底が見えないからな。しかし……。
その消費量は身体を完全に消し去られた上での再生なら100とするなら、私のパンチは1回のヒットで5000は削っていった筈である。
つまりヤツは今の攻防で数千回以上再生能力をフルで使わされたって事だ。
「貴女の魔力は無限なんですよね?なら減りもしないのでは?気にせずに掛かってくればよろしい」
『ッ!………』
不死?無限の魔力?そんな物があるわけがないだろう、どうせ人間や他の種族と相対的に比べて桁が2つ3つ程違うとかって話でしかないんだ。
あの再生能力と寿命が数万年ですとなれば私達人間からすれば殆ど不死じゃんっと言う事だ、単純にゲームでもリソースなどには限りがあるし本当の意味での無限の魔力とかはない。
カードとかに記されてる数字を『∞』とでも書き換えるくらいしか無限なんて物は造りようがないのだ。
子供の落書きレベルの話である。
「貴女の魔力は凄まじい量なのでしょう、しかし有限だ、限りはある。不死も不滅も無限の力もあまねく世界には存在しない」
多分だが。あの青い太陽とか全く見当がつかないんだけどね果たしてあの存在にそんな話は通用するのだろうか。
そして私がイシュリアスの顔を見ると……。
『…………フッ』
………笑っている?。
『フッフフフッアハハハハッ!』
イシュリアスは嘲笑するように笑っている、私の顔を見ながら語りはじめた。
『人間ッイヤ魔法使いよ、何故私がこんな空間を作ってまで貴様らを閉じ込めたか分かるか?』
「………………」
『別にエサを逃がさない為だとかオモチャで遊ぶ為とかでは……それもちょっとはあるか?』
「私達がオモチャであると?」
『そうです、この島で生きている者は全てこの空間に引きずり込んだ。貴様は目障りそうだから虚無の空間に捨てた…まさかそこから出て来るとは驚きましたが、それ故に貴方は知ることになるのです』
イシュリアスの足元に魔法陣が現れた。
『私の真の力と姿をね!』
「………ッ!?」
私は咄嗟に飛行の魔法を発動、空に浮かび上がった。
ヤツの魔法陣は大きくなる、どんどん大きくなっていく。
100……200……もっとか?。
全長が今一分からないが、恐らく500メートル以上はあるであろう魔法陣が出現する。
ズンッと大気が震るえた。
…………何かが、来る。
そしてその魔法陣から、何かが迫り上がってきた。
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!。
それは全長数百メートル以上ある超巨大なスケルトンだった、真っ赤な骨の巨人だ。
空洞の瞳には赤い光が灯り、こちらを捉えているな。
私よりも頭が高い巨大スケルトンの頭上、そこにイシュリアスがいた。
「まさかそれが?」
『………刮目しろ』
私の言葉を無視したイシュリアスは魔力を高め、私がたまに魔法を使うとなるようなドフッとオーラの様な物を纏った。
シュワシュワと言う音はしないが、あんな感じである。
赤い……血の様に赤いオーラだ。
そのオーラが巨大スケルトンにも広がる、まるで赤い光の塔の様になった、その魔力は正に魔神……あらゆる魔法やら魔力やらを司る神だと言われても何ら不思議じゃない気配を感じた。
そして、巨大スケルトンが動く!。
その赤いオーラがまるで武器の様な形を取る、大剣だ。それを私に振るおうとしている。
当然私は躱すために転移の魔法を……。
『そこです!』
使おうとしたタイミングでイシュリアスの女タイプの攻撃である、ライダーキックされた。やはり2対1と言う訳か?あのデカいのは本体と言う事か?。
しかし魔法鎧があるのでヤツのライダーキックも効きはしない、私はこの女を無視してデカいだけの的に魔法を放つ。
あの巨大スケルトンが本体ならこれでお終いだ。
「ハァッ!」
消失刃の魔法である、巨大スケルトンは細切れサイコロカットだ。これで。
『だから無駄ですよ』
イシュリアスが私を両腕で拘束してきた、魔法鎧の魔法は私の服なども守れる様に素肌から数センチ離れて展開している、だからこう言う密着して動きを封じると言う戦法が私には通用するのだ。
魔法鎧にオートカウンターの能力とか無い、そして武術の心得などない私は間接技とかを決められたら身動きが取れない、しかも近距離まで接近して私の魔法の発動を妨害までしている。
あの魔法を無効化するとかって領域をギリギリまで狭くする事でその効力を極限まで高めたな?完全じゃなくても私が直ぐに魔法を発動出来ないくらいの邪魔にはなっている。
当てが外れた。てっきりあの巨大スケルトンが本体か何かでこの女の方がやたらと無敵なのは分身か何かだからだろうと思っていたのに。
そして巨大スケルトンは何事もなかった様に再び赤いオーラの大剣を振り上げる様にして構える。
まっ魔法の発動が間に合わない。
私の顔を横目にしたイシュリアスが心底楽しそうな顔をかましてきた。
ちょっこれは、まずい……。
『ちなみにあの魔力剣には魔法の守りを無効化する
だからゲームじゃないんだからそんなメタな能力は……。
「…………………ッ!」
ここで1つ気づいた事がある、それは私の魔法にも同じ事が言えるっと言う事だ。
つまり絶対に破られない防御魔法もまた有り得ない。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!。
スローモーションの様なゆっくりとした動きで大剣が振るわれた。
少しずつ、しかし確実にスピードを上げながら迫る大剣はさながら倒れる赤い巨塔か何かの様だ。
ズガンッと言う音がなり私の魔法鎧に大剣が直撃する、どうやらイシュリアスの女タイプごと殺る気のようだな。
バギンッ。
何かが割れるような音がした。
それは、私の魔法鎧が砕ける音だ。
迫る赤い光の奔流が私とイシュリアスを飲み込んだ……魔法鎧が、破られてしまったか。
大剣が地面に叩きつけられると共に凄まじい轟音が辺りに響いた……。
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