第37話『激闘』
◇◇◇
私の名はユーリ、ご主人様に生み出されたゴーレムでありメイドです、炊事洗濯は何もしたことはありませんが……。
どうやらご主人様がいないのにボス戦の予感です。
相手は1人、こちらは数十人と言う案配ですが戦力的な物では………正直かなり不利であると思えます。
あのオッパイ女は完全に戦力になりませんし、あの角が生えた男の部下は戦うつもりではありますが、あれは力の差がありすぎて力量を全く測れていないからではと思いますね。
一番槍と言った感じで突っ込んで行った角の男は今あのイシュリアスと言うゴスロリ魔神とバトっています。
角の男が槍で無数の突きを繰り出し、それをゴスロリ魔神は余裕の笑みを浮かべ全てを素手、しかも手のひらで受け止めています。
「………ハァッ!」
横に薙ぎ払う様に槍が振るわれます。
『フフフッ避ける必要もありませんよ?』
「ッ!?……」
ゴスロリ魔神の周囲には防護結界らしきものが展開されています、あの炎の属性が付与された槍の一撃を容易く受け止めました。
予想以上の強度ですね、あの余裕からすると余程の事自信があるようです。
「仕方ありません……」
大地を蹴ってゴスロリ魔神に接近します、ユーリも戦闘に参加です。
ゴーレムとしての能力で吸収した人間やモンスターの姿を再現する以外にも剣など武器も新品で再現して扱う事も出来るのです。
その能力で両手に両刃の剣を生み出して斬りかかります。
「……シッ!」
ガキィンッ!。
チッやはり剣では厳しいですか?。
何度切りつけてもビクともしません、角の男の槍のの追撃もまるで応えていませんね。
仕方なく一旦距離を取りました、あのまま続けてもジリ貧ですからね。
そしてジャンプで下がった私と角の男、ゴスロリ魔神は私に話し掛けてきました。
『へぇ?随分身軽なのねとても早くてビックリしたわよ?』
結界は平然としていますけどね。
「助太刀感謝するアオノ殿の従者よ…」
「アレは相当に危険な存在です、勝ち目はありますか?」
私の言葉に角の男はフッと笑いました。
「どの道逃げ場はない、ならば何としても活路を開く。俺の部下やあの女性を死なせはしない!お前達!陣形を組め!」
男の言葉に応える様に男の部下が何やら動き出します。
「何名かはあのエルフの女性の護衛を!それ以外はあの女の討伐に加われ!」「後方支援準備出来てます!」「同じく攻撃魔法も準備完了!」
あのオッパイ女の守りが強化され、角の男の部下も本格的に戦闘に参加する様です。
『ふぅん……人間がどれだけ束になっても私には勝てませんよ?その程度の事も分からない程に力の差がひらいているんです、分かりましたか?』
ゴスロリ魔神の挑発です、私は思わず手にする剣を投げつけてやろうかと思いましたが、あの角の男は冷静に言い返します。
「勝利は自ら掴みに行かねば掴めはしない、言った筈だ。何としても活路を開くとな」
槍を構える男、後方の黒ずくめ達も何やら動きがあります。
魔法を発動するための詠唱を完了した様です。
「……俺の一撃であの結界を破る。援護を頼めるか?」
「………分かりました」
角の男が私にだけ聞こえる声で言ってきました。
どうやら何か打つ手がありそうなので乗っかっておきます。
数秒後に後ろの黒ずくめから魔法が飛んできました。
「ファイアーボール!」「サンダーアロー!」「ライトキャノン!」「フレアランス!」「サンダーストーム!」「ファイアーアロー!」
「……………………」
仮にも隠密部隊と言う1個の部隊の者達が、何故にこうも別々の魔法ばかりを使うんですかね?それぞれの1番強力な魔法って事ですか?。
私の勝手なイメージではこう言う部隊による一斉攻撃魔法と言うのは同じ魔法で揃えてドンって感じのを想像していた私です。
ドドォオンッ!バゴォオンッ!ボゴゴォンッ!。
無論あの結界には何の効果もありません、ゴスロリ魔神も動きもせずに全ての魔法を受けています。
……当然ですが、アレはただの目眩ましです。
本命は後方支援とやらの黒ずくめが放つ支援魔法です。
「俺達の全ての魔力を渡します!」「ハァーッ!」「ビンゴ隊長頼みます!」「エンチャント・パワード!」「フィジカルアップ!」「マジック・ライズ!」「ハイスピード!」
支援魔法とは術者本人、或いは別の誰かを魔法で強化する魔法ですね。
ご主人様曰くバフ魔法とか付与魔法と呼んでいましたね、強化される能力の上げ幅は術者の力量によりますが、それでも並みの術者の支援魔法でも子供が大人に力負けしなくなるくらいの効果はあるとか。
そんな魔法を十数人の魔法使いから何重にも重ねがけされる角の男。
本来なら支援魔法の重ねがけなども過度にすれば人体に危険な影響があるはず、しかし角の男は平然としています。
………まぁやせ我慢でしょうね。
「トドメを頼みますよ?」
「………ああっ任された」
私達は同時に跳躍、一気にゴスロリ魔神に肉迫します。
目眩ましの煙の先にいたゴスロリ魔神は相変わらず余裕の化身の如き、人を見下した様な笑みが光る女です。いけ好かないゴスロリですね。
『フフッ準備はもう済んだのかしら?』
このゴスロリ。
「お待たせしました、それでは死んで下さい」
「貴様が重ねた罪を、全てここで裁く!」
ほぼ同時のタイミングから、僅かに角の男が意識的にずれて遅れます。
それに合わせて私はスピードを上げてます、両手の双剣で切りつけますよ。
ガキンッ!ガキギィンッ!。
無数の剣戟は全て防護結界に弾かれます、本当にふざけた強度ですね。しかし……。
「
私は更に数十本の剣を生み出して、それを宙に浮かべます、それらはまるで意思を持つようにゴスロリ魔神に向かって突撃します。
ガキンガキンっと見えない結界に剣が当たり、阻まれる音が鳴り響きます。全く傷1つつきませんね。
『そんな物何ですか?ガッカリですね』
「勝手にガッカリでも何でもして下さい」
私達の会話に割り込む様に角の男が叫びます。
「食らえっ!
槍による渾身の突き。その先端が結界に触れると同時に凄まじい爆炎が吹き荒れました。
そして……結界が砕ける音をユーリは聞きました。
「………どうやら、破壊出来た様だな」
『……………ッ!』
角の男の槍は、確かに結界を突き破っています。支援魔法を受けた槍の一撃は結界を破壊しました。
ゴスロリ魔神も驚愕を……。
『……そんなに甘いわけ無いでしょう?』
「ッ!?」
「………まさか」
私は見ました、あのゴスロリ。結界の中に更に結界を……。
逆に角の男の方が驚愕の表情を晒す羽目になってますね。
「まぁ予想通りでしたが……」
あの余裕が結界魔法1つによる物だとは、流石に私は考えてはいませんよ。
むしろ本当に結界魔法を1枚破壊した事の方に驚いた私です。
そしてここからは私達のターンです、追撃を開始します。
「
リエリが前に使った魔法です。
青、赤、黄、緑色の十数メートル級の魔法陣が出現しました、以前リエリはリヴァイアサンの鱗すら破る事が出来なかった魔法ですが。私とリエリは以前のままではありません。
吸収能力による能力向上によってゴーレムとして戦闘能力は飛躍的に高まっているのです、今の私達の魔法は以前とは物が違いますよ。
『っな!?まさかあれ程の魔法を人間が!?』
人間ではありません、ゴーレムでありメイドです。
四つの巨大な魔方陣からはそれぞれ異なる魔法が発動してゴスロリ魔神に襲い掛かります。
巨大な雷光により結界が1枚破壊されました。
爆炎と暴風が更に二枚の結界を破壊します。
そして氷嵐がもう1枚破壊しました。
私の魔力感知ではこれ以上の結界は存在しない筈です。
『このっ!図に乗るなぁーーっ!』
ゴスロリ魔神は全ての結界を破壊されて余裕を失ったのか私に攻撃を仕掛けてきました。
右手の爪がニューッと伸びました、それを武器にして攻撃するつもりの様ですね。
しかし私のゴスロリ魔神の間に割り込む者が。
………まぁ角の男しかいませんよ。
ヤツは冷静に槍を構えています、しかし既にゴスロリ魔神は槍の間合いよりも中に、懐に入られていますよ?。
『邪魔ですよっ!』
怒鳴るゴスロリ魔神、しかし角の男は構えを崩しません。
角の男は静かに言い放ちます。
「………
角の男は槍を片手で一気に引きました、刃先をもう片方の手に乗せてその先をゴスロリ魔神の顔にロックオン。
更に槍の後ろに小さな魔法陣が、それから槍を高速で押し出す様な魔法が、それにより槍が一気に前方に発射されました。音速の突きがゴスロリ魔神に迫ります。
『フンッ!』
しかしその槍を紙一重ゴスロリ魔神は躱して。
ボッゴォオオオオンッ!
槍がゴスロリ魔神の顔に最も近づいた瞬間、槍の刃から爆発が起きました。
槍を持つ角の男も多少のダメージがあったのか、爆風に飛ばされて少し後ろの方に後ずさりしています。
「………随分無茶な真似をしますね」
「仕方ない、アレは無理をしなければどうにもなりそうになかったからな」
見るとゴスロリ魔神の上半身がなくなっています、至近距離だった事もそうですが、かなりの威力の爆発でしたね、明らかにこっちが本命ですよ。
私の奥の手を読まれていた訳ですか、やりますね。
そんなタイミングでした……。
『フフフッ……』
「「!?」」
私達は同時に後方にジャンプをして上半身が消えたゴスロリ魔神から距離を取ります。
今の声はあの女の声でした、間違いなく。
「………今の声は、まさか」
『もちろん私ですよ?』
するとゴスロリ魔神の身体が発光し出しました。
そして一瞬でなくなっていた上半身が復活しました、それと当たり前の様にゴスロリドレスも復活しています。
『この程度で私が倒せるとでも?』
「上半分が消しとんで平気な方がおかしいと思いますよ?」
「ああっ全くだな……」
どうやら一連の行動全てが演技だったと言う訳ですか……。
『フフッ次は私の姿を完全に消し去れるように頑張りなさいね?』
「…………分かりました、ではそうしますね」
ゴスロリ魔神が何か言う前に、彼女に巨大な光の柱がズンッと落ちてきました。
何が起きたかと言うと、ずっと
光が収まるとそこには、十メートル近い大きさの円形の大穴がポッカリと空いていました、ゴスロリ魔神の姿は影も形もありません。
「………貴方は気付いてたんですか?」
「以前にも、似たような感覚があったことを思い出してな。もし俺がミスをしてもトドメは任せられそうだと考えていたよ」
食えない男ですね、あの最後の槍の戦技も躱したと思ったらやられる様ないやらしい技でしたし。
この男は頭の中ではかなり計算して戦うタイプなのかも知れませんね。
「流石に身体を完全に消しとばされればどうしょうもありませんよね」
「お疲れ様ですリエリ…」
「むっ貴殿が先程の魔法の使い手か、その姿と言う事は貴殿もアオノ殿従者なのか?」
異空法衣の魔法を解いて現れたリエリは、マーブルと言う女性の姿のメイド服着用で現れました。角の男の言葉に『そうです』と返事をしました。
これでボス戦はお終いですか、ご主人様が居ないのに倒してしまって良かったのでしょうか?。
『2度ある事は3度あるのよ~』
………そんなフラグになる様な事を考えていたのが不味かったですね。
3人で大穴の方を見ます、すると大穴の中心で何かがピカッと光りました。
するとその光が収まった中心には……あのゴスロリ魔神が余裕の笑みを浮かべていました。
リエリも眉をひそめます。
「全身の再生にコンマ1秒も掛かりませんか」
「ふざけていますね、アレじゃ殆ど復活魔法ですよ」
「化け物だと理解しているつもりだったが、その予想を上回る化け物だという事か」
身体を大穴の真上で宙に浮かせながら、ゴスロリ魔神は口を開きます。
『私は魔神イシュリアス、魔神とは魔を司る神であり、私は無限の魔力を持つ不死の存在なのだ。だから最初から貴方達に勝つ可能性なんて無いと言ってるのよ…』
これはアレですね、ご主人様が前に話していたゲームのチートキャラと言うヤツではありませんか?。
『まぁ十分に楽しめましたよ?後は貴方達を殺して、その魂を食らうとしますね。何分随分と長い間碌に食事をしていなくて……お腹が空いてるんですよ』
お腹がですか、魂を食べているとか意味が分かりませんね、ただキモイです。
しかしそれが私達をこの亜空間に閉じ込めた理由ですかね、1人も逃がさない様に的な。
『それじゃあバイバイ』
ゴスロリ魔神が片手をかざして魔法を発動、無詠唱でも和達を殲滅出来る魔法くらい幾らでもありそうですね。
赤色の魔法陣からの発光が強くなっていく刹那、私は走馬灯的な何かでご主人様の事を思い出してました。
魔法部屋から出て行く時、リエリからの言葉で元気を取り戻し、その視線をリエリと私の胸や太ももに一通り向けてから出発しました。
その時私は、私も何か言葉を掛けられなかったかを考えていたんですが、何も思い浮かばなかった私です。
しかしご主人様の背中を見たときとある会話を思い出しました。
それは以前私はご主人様によく感謝をする事が大事だという話をされた事です。
「感謝ですか?ご主人様が感謝されると言うのは分かりますが……」
「はははっ感謝をされるだけの人間ではまだまだですね……私は感謝を言える事が大事だと思うんです。
人間は1人で生まれて、1人で生きて、1人で成長する様には出来ていない生き物ですから」
ご主人様は何やら話す内容を思案する様にして、再び口を開きました。
「例えば……私が前にいた世界での話ですが、私は毎日車に乗って会社に行ってました、そこで自分が事故を起こすこともなく、無事に会社に着けたのは何でだと思いますか?」
その問いかけに私は『交通ルールを守っていたからでは?』っと答えました。するとご主人様は。
「それだけではありません、何故ならその交通ルールを守ったのがもしも私だけだったなら、いつか大きな事故に巻き込まれていた筈ですから…」
いつかは、ですか。
「私が無事故無違反で会社まで行けて、そして自宅に帰れていたのは、私以外の多くの人達もちゃんと交通ルールを守っていたから、その結果なんです」
「要は、私個人の努力や行動だけでは私個人の身の安全さえ碌に守る事も出来ないんですよ、それは私が魔法使いになった今でも何も変わりません」
こう言う所で魔法を使えなかった時の感覚を忘れないのは、ユーリのご主人様の好きな所だったりします。
「だから自分だけや身近な人間だけは特別で、世の中を生きていけるなんて考えに傾倒する事は私は愚かだと考えているんです……」
ご主人様が私を見ていました。
「……私もユーリも、人は誰でも、多くの他人あっての自分だと言う事です。……本当に多くの人の助けがあっての私達です、だから私も人を助けられる人間になれるようにこの世界を歩み、生きていこうと考えているんですよ…」
『まぁ、そんな生き方が理想なだけですけど……』っと自信がいまいち足りない感じの笑みを浮かべているご主人様でした、しかし……。
……おっと走馬灯はそこで終了です、何故ならゴスロリ魔神の魔法は発動し………それと同時に消滅したのですから。
『ッ!?…………まさか、そんなバカな』
上空を見上げるゴスロリ魔神の顔、その表情に常にあった余裕は完全に消えています。
すると上空に突然青い魔法陣が現れました、その中心からは………。
『貴様……あの虚無の空間からどうやって脱出した!?』
「もちろん、多くの人々の助けられたからに決まっているでしょう?」
そこから現れたご主人様はいつも通りの自信がいまいち足りない感じの笑顔で言いました。
しかしその瞳には、今までとは違う。強い光が宿っているように見えました。
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