第36話『青き光の指す道を…』
「エレナさん、その格好は一体……それに村の皆さんが何故こんな所に?」
見るとエレナちゃんだけじゃなく他の村人達もまるで神事を執り行う様な畏まった衣装をしている。
青を基調とした神官服、正にファンタジーゲームに出て来る真面目で徳が高そうな聖職者と言った雰囲気である。
そんな感じの格好を、村の人達全員がしているのだ。
村長達老人から若者まで、更にはイオちゃんが教えていた子供達まで村の人達がこの空間に集結している。
この空間は真っ白な何も無い空間である、当然空気すらないのでエレナちゃん達村の面々は本来なら死んでしまう、その筈なのに平然としているぞ。
何コレちょっと待って。いきなり色々と起きて理解が追いついていない、これは本当にどう言う事だ?。
「ふうっあの空間魔法、本当に意地が悪いんですよね、私や村のみんなは島に取り残されてアオノさん達だけが別の亜空間に引きずり込まれたんです。
私達は力を合わせて何とかその空間魔法に干渉して、アオノさん達を探していたんですよ」
「しかし空間魔法に干渉するなんて、並大抵な事ではないですよね?」
「アオノさん……私達島のみんなは魔法がとても得意なんですよ?」
エレナちゃんに呆れられながら言われてしまった、そうか数十人の上級魔法使いが集めれば案外何とかなるらしい。
ならば私はもう1つ気になる事がある、それはエレナちゃん達の素性だ。
元から何かあるのは知ってたけど、今の今まで聞く機会が無かったんだよな、ゴスロリ魔神って言う邪魔も入ったりしてな。
本当はエレナちゃんとイオちゃんの2人と共に食事を共にしながら聞きたかった話を今聞くことにする。
「エレナさん、空間魔法に干渉するのは危険が伴う行為です。それを平然とやれるのはとても素晴らしい魔法の腕前ですね……」
「アオノさん、本当はそんな話をするつもりも無いんでしょう?」
「……はいっすみません。エレナさんが言っていた貴方達に関する話をここでして貰っても構いませんか?」
「はいっ分かりました。先ずはあの存在が邪教と言っていた話からですが……私達は遥か昔にこの世界を救ったと言われる青天の魔法使い様に仕えた者達の意志を継ぐ者なんです…」
意志を継ぐ?確か青天の魔法使いって言うのは大昔の神話に居たとされる魔法使いだと話に聞いた。
え?、やっぱり剣と魔法の世界では神話に出て来る人物も実在するの?そりゃあそんな魔法使いの意志とか言われると変な宗教染みてくるけど……。
「青天の魔法使い様はその当時、世界を破壊し尽くす勢いで好き放題していた三体の悪神竜とその眷属を次々に打ち倒し、封印したりしました。しかし中には遠い未来へと魔法で逃げた者も僅かにいたんです…」
未来へ逃げる、過去に逃げるなら映画とかで見たことあるけど。未来とはまた凄い話だな。
「それがあの魔神と名乗る者ですか?」
エレナちゃんからは肯定の返事がきた、なる程あのチートパワー全開のゴスロリ魔神は青天の魔法使いさんとやらと同じ神話の世界の出身か。
それならある意味あのデタラメな魔力にも納得してしまうな、正に神話の中の存在と言っても過言ではない感じだもの。
そしてエレナちゃんが話を再開した。
「かつて、青天の魔法使い様と会話をした原初の女神の1柱は魔法使い様からその話をされたそうです。遠い未来にあの逃げた者達は必ず世界を奪いに来るだろうと」
逃げた先であの不遜な態度だ、馬鹿は死んでも直らないのは人間だけではないらしい。
「その話を聞いた女神は未来に訪れる邪悪な存在から、世界とそこに生きる命ある者達を守る為に長い時間を掛けて後の世を生きる者達にその事実と戦う為の術を伝えました」
戦う術か、やはり魔法云々って事になるのだろう。
「私達は長い……本当に長い旅の果てに、この島にたどり着きました、いずれこの島にあの存在が時を超えて現れる事と知っていた私達は出来る準備を全てして、あの存在を迎え撃ったんです……」
…………尊大過ぎる話だな、神話の時代から今までとか、時間的に見るとどれだけの時間を掛けての旅だったのか想像もつかないぞ。
しかも女神様である、やはりファンタジーな世界なら女神様も本物がいるのか。もしかしたらエレナちゃん達の遠い祖先様はその女神様を直接その目で見てたりしたのかも知れないな。
何しろ女神様である。どれだけの美貌を持っているのだろうか……。
ファンタジー世界の光を垣間見たな。
「まぁっ………あっさり返り討ちにあった私達は何とかあの存在を島のダンジョンに封印するのが関の山だったんですよねぇ……」
エレナちゃんの話に村長さん達も全然歯が立た無かったと同意している。
子供たちもである。
え?まさか子供たちも戦ったの?確かに魔力はみんなイオちゃんよりも高いとは思ってたけど、まさか現役で魔法使いしていたとは……。
まさか最初に会った時にやたらと群がわれたのは私の魔力に勘づいていたからなのか?。
恐ろしい十代世代である。
そして彼女たちの話が本当だとすると………。
「なら、もしかしてダンジョンを攻略したのは不味かったですか?」
「いえっ!本当の事を言うと封印自体持って後1年くらいだったんですよ。アオノさんが気にする事はないですから……それに青天の魔法使い様が言っていた言葉に……っとこれは秘密ですね」
ん?エレナちゃんが少しボソボソと何やら呟いたぞ?。
そして聖女様な感じの衣装によって更に美女レベルがアップしたエレナちゃんは私を見る。
「むしろ、このタイミングでアオノさんみたいなもの凄い魔法使いがこの島に来てくれたのは正に青天の魔法使い様の思し召しだって私は思ってしまいましたよ?」
「いやいやっまさか……」
この島に来たのなんてただの偶然だよ、この世界に来たのすらあの青い太陽みたいなとんでも存在の気まぐれがなければ。
……………………いやっまさかな、あり得ないだろう、そういう事にしておこう。
「それに、もの凄い魔法使いと言われても情けない事にこの空間を脱出してイオさん達を助けに向かう術が中々思いつきません」
「……それなら私達に任せてくれませんか?」
エレナちゃんと後ろの村の人々が頷く、え?マジで?。
するとエレナちゃんを先頭に左右の村人が別れる、そして列を作り丸いサークルの様な並びになった。
「それじゃあみんな!行くわよ……ハァッ!」
「「「「「「「……ハアッ!」」」」」」」
エレナちゃん達が魔法を発動した。
その魔法は数メートルサイズの青く輝く魔法陣である、それが中年魔法使いの目の前に面を向ける様に出現した。
更に魔法陣は変化する、その幾何学模様の中心から亀裂が入るとそこからゴゴゴって感じにまるで扉が開くように、魔法陣の中心部が開かれた。
その中は青い光のトンネルの様である、とてもファンタジーで魔法的な光景だ。
こんな魔法、私にインストールされた知識の中にあったか?もしかしたらエレナちゃん達が独自に開発した魔法かも知れないな。
あ然とする私の隣立ったエレナちゃんがもの凄くイイ笑顔である。
「アオノさんがビックリする顔、初めて見れましたね。これは空間魔法の干渉を全て無視して目的地に定めた場所に必ず到着出来る魔法…っと言えばいいんでしょうね。何しろ名前もついていない魔法ですから」
「……………」
なんかもの凄い話をされた、この世界の魔法、空間魔法然り私が使った即死の魔法も然り、全ての魔法は先ずは魔力を持って干渉が出来るのが殆どだ、だからこそ格下の魔法使いが私に即死の魔法や空間魔法を仕掛けて来ても、或いは不意打ちであってもまずそれらは通用しない。
格下の能力が格上に作用する事はない、この世界はゲームではないのだ。
しかしこの魔法はその格上の魔法をまるっと無視して効果を発揮するらしい。
つまりラノベの主人公が持つチート能力とご都合主義と言う無敵のパワーを合体させたような魔法って事だ、マジで最強って訳だよ。
例えばこの魔法なら私のあらゆる魔法を阻害する魔法鎧すら無視して私の身体の内部にファイアーボールを放り込んだり出来るかも知れない、そうすれば私は死んでしまうよ。
………或いは少し熱いなって思う程度かもだけど。
そして相手がどれだけ格上でも問答無用で通用する魔法ってのは基本的にそれだけで脅威である。
まぁエレナちゃん達みたいな人々が集まって何とかかんとか生み出した魔法だ、他に同じ様な魔法がそう易々と生み出されるとは思わないけどな。
「ん?どうしましたアオノさん?黙ったりして……」
「いえっ本当に素晴らしい魔法だと感嘆していました」
何しろこの魔法、エレナちゃんの話が本当なら行ったことないどんな場所にも行けるし、誰かを行かせる事が出来るんだ。
私の転移の魔法よりもずっと凄い魔法だよ。
「褒めてくれて嬉しいです、けどこの魔法って魔力の燃費が凄く悪いんですよ。成人した大人が通れる大きさの『光の門』を創り出すだけでもこの場にいるみんなで協力してするのが限界ですから」
「……そんな魔法を私の為に?」
「アオノさん。今ここにあの恐るべき存在をどうにか出来るのは貴方しかいません、だから…どうかっイオさんやビンゴさん達を助けてあげて下さい」
エレナちゃんの真っ直ぐな瞳がおっさんに向けられる。
…………………ハァッ。おっさんは美女にも美少女にもすこぶる弱いのだ。
「分かりましたっ……絶対に守って見せます」
返事なんて、はい一択に決まっている。
絶対なんて言葉を自身の人生で子供時以外で口にする事になるとは思わなかった。
こんな顔の作りなので悲しいのだが、ここはエレナちゃんの目を見てハッキリと返事をさせていただくよ。
するとエレナちゃんは輝くスマイルで返事をしてくれた。
「頑張ってねアオノさん!勝ったら私がチューしてあげます!」
「……………………」
………………。
……………………………。
…………ドフッ!!(私の身体から青色の魔力がとあるマンガみたくオーラの如く立ち上った音)。
「あっアオノさん?身体からアオノさんが大きな魔法を使う時にたまに出てた魔力が溢れてますよ?それに目や髪まで青く……」
エレナちゃんが何かボソボソ言ってるけど、今の私には聞こえなかった。だってもの凄く興奮してたからな。
マジかよ、それマジかよエレナちゃん。
エレナちゃんは二十歳過ぎだ、大人の女性だ。つまりチューとは大人なチューである筈である。
大人なチュー。即ちベロで更にチュー的なヤツではなかろうか、あのチューしたまま継続的にチューチューしている、あんな感じのヤツだ。
もう一度言う、エレナちゃんは大人の女性だ。そして私もいい歳したおっさんだ。
ならばチューチューだけで全て完了ですお終いですなんて少年じみた戯れ言はあり得ない事を知っているだろう。
即ち、これはもしかするとお……大人な夜の時間に誘われてると言うわけであるとも言えなくもないだろうか!?。
無言の私はエレナちゃんをガン見する。
するとエレナちゃんが顔を赤くして背中に回る。このアクションに私の予測は当たっていると確信した!。
そして背中を両手でグイグイとエレナちゃんに押される、速く行くように急かされているのは分かったので。軽く混乱しながらも魔法陣に私は飛び込んだ。
振り返る、すると……。
エレナちゃんは真っ赤な顔の満面の笑みで中年魔法使いを送り出してくれた。
「……その青き光の指す道を行って下さい。アオノさん」
「…………分かりました」
青い光のトンネルに入ると、まるで見えない力に引き寄せられる様に身体は宙を突き進んでいく。
もう後には引けない、ボスまで一直線である。本当はエレナちゃんのほっぺにチューについて激しく話を聞きたいけど、我慢だ。
……約束したからな、絶対に守るよ。
中年魔法使いの本気をお見せしてやるんだ。
………そして青野が光の先に消えた後。
「……………くっ!」
エレナは崩れ落ちる様に膝をついた。
それを見た村人はエレナを支える為に集まる。
「エッエレナ様っ!」「やはりこの魔法はエレナ様に負担が大きすぎたんだ」「私達が未熟なばかりに……くっ!」「エレナねぇちゃん!」「大丈夫!?しっかりして!」「気をしっかり持って下さい!エレナ様!」「早く、回復魔法を!」「もうっ俺達の誰も魔力が残ってないんだ!」「だったら早く休ませるんだよ!」
『光の門』を生み出す魔法は凄まじい魔力の負担があった、エレナの額に汗が浮かんでいた。
「信じてます……アオノさん………」
そして指先1つ動かせない程の疲労を感じながら、彼女はただ真っ直ぐに、青野が消えた青い光の指す道の先を見ていた……。
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