第35話『古の魔神イシュリアス』

やっぱりな、あの美人は悪い美人であった。

まぁこの島に来る以前に出会った美人は大体悪い美人だったからな、経験則である(被害妄想なのは自覚しております)。


まるで羽虫でも見るように周囲の人々を睥睨している、まるで女王か何かがスラムの乞食でも見下ろす様だな……。


そこには人格やらなにやらを持ち合わせている相手に向けるものではないと断言出来る程に冷たい視線、そして赤い瞳と髪が怪しく輝く姿はとても美しくて怖い感じがする。


その視線を向けられてイオちゃんとかはペタンと尻もちをついてしまった、膝をガクブルと震わせてとても恐ろしい者を見ている様だ。


イオちゃんは魔法に詳しい人だ、あの美しい姿をした怪物の魔力にでも感づいたのかも知れない。

……いつもはクールビューティなイオちゃんがビビりまくっている、ある意味レアな体験を目撃出来てラッキー。


………いやっそうじゃなかったな、このシリアスな場面を見てもエロを優先する自分の心に私は初めて恐怖を覚えたぞ、私は視線をシリアスイベントの現場に戻す。


あの美人の視線はイオちゃんだけだなく隠密部隊の面々をもビビらせている。

ちなみにユーリまで向こうにいた、メイド姿で腕を組んでいる。ビビりまくりのイオちゃんを横目に呆れ顔だ。


……恐らくリエリも向こうにいる筈だ、異空法衣の魔法で姿と気配を完全に消していると思われる。

賢い選択だ、あの美女相手には不意打ちアリで行かないと危険だからな。


そしてそんな美人のヤバイ視線にも引かずに一歩踏み出す者がいた。


そうっ角イケメンである。


「話をしてくれるのなら有難いな、ならアースとの関係と何故彼が裏切り、そして死んだのかを知りたいのだが?」


イケメンマジスゲェ、こんな場面でも堂々とし過ぎだろう。イオちゃん惚れたりしないだろうな?そんな事になったら泣くよおじさんは。


角イケメンの質問にクスクスと馬鹿にした様な笑いを浮かべて美少女は答える。


『簡単です、彼はどうしても故郷に帰りたかったそうですよ?何でも数日後に結婚を控えた相手を残してこんな遠くの小島に左遷されたとか…』


マジかよ、あのマイク(偽)の野郎まさかの結婚間近でこんな所に飛ばされたの?それはいくら何でも可哀想じゃないか。


「まさかアースのヤツが裏切ったのか!?」「バカなっ!確かにアイツは常日頃から俺はこんな島に来たくなかったとか言ってたが……」「ああっ上司に無理を言われたとか言ってたな」「そうだっ確かあんまり鬱陶しいから、ダンジョンへの調査が進めば帰れるかもとか話をしたことがあったな…」「俺がさっさと島のダンジョンの調査を終わらせるとか言ってたけど……」


黒ずくめ達のコソコソ話で何故にあのマイク(偽)が中年魔法使いをダンジョンに行かせたかったのか分かってきたな。


そして悲しい事に、どうやらマイク(偽)は自分達隠密部隊が島に来た本来の目的はダンジョンじゃなくて島の人々の不老長寿についての調査だという事を知らなかった様だ。


下っ端故に仕事の本来の目的を話される事なく現場入りさせられるってわりとあるよな。


ダンジョンをいくら調べても故郷には帰れなかっただろうに……不憫である。


もしかしたら角イケメンとその側近しか知らない的な話だったのだろうか?どの道結果を見るとマイク(偽)と言う獣人は本来のミッションとは関係ないダンジョン関係で1人相撲で頑張って、なんやかんやあって死んでしまったと……。


悲しい、悲しすぎるぞマイク(偽)。

故郷に嫁さん候補までいて、結婚間近でこのラブーンって島に来させられるとか。


私なら仕事を辞めていてもおかしく無いな。

この世界、飛行機も高速道路もあるとは思えないし長距離移動にどれだけ時間と手間と準備が掛かるのか。


私がマイク(偽)にごめんなさいって思っていると、元封印されし美少女は更に言葉を続けた。


『彼が死んだ理由は、既にあの魔法使いから聞いていたのでしょうが、あの封印魔法ほ解いた者が死ぬと言うものでした。もちろんそんな事は話したりしませんでしたけど……』


角イケメンが話をする前にマイク(偽)を魔法かなんかで呼び出したんだろうに、ダンジョンの中のモンスターを駆逐してしまったのが裏目に出たな、ブラック君達には人には手を出すなと言っていたのも不味かったか?。


まさか外の様子を探るヤツまで召喚してるとは思わなかった。

あの封印魔法はそれだけ強力の物だった、しかしあの美人さんの実力はこちらの予想よりも更に上をいっていた訳だ。


「やはり貴様が……」


『フフッ落ち着いて下さい。彼は願いがありました、私はそれを叶えてあげる事を条件に封印魔法の解除をしてもらったんですよ。もちろんその願いについては叶えて差し上げるつもりでした…』


美人の表情が悪い感じの笑みに変わった。


『彼の願いは、故郷の恋人との再会と永遠に一緒に平和に過ごしたいと言う物でした。ですから死体を魔法でモンスターに造り変えて、あの魔法使いとこの島の人間を全て葬ったら故郷に行くように命じるつもりだったんですよ?」


それが約束を果たす事になるのかよ。


「…そして故郷の恋人を彼のエサにすれば2人は再会を果たした上に永遠に一緒にいられて、私も約束を守れて満足。

お互いに素晴らしい結末になる筈だったのに……やはりあの魔法使いは侮れませんでしたね、まさかアレを瞬殺するとは……』


話を聞けば聞くほどこの美人が嫌いになりそうな話をお綺麗な笑顔のまま淡々と話す。


隠密部隊の面々は怒気を抑えるのに必死だ、そして角イケメンは表情こそ冷静だが…。


「………………」


『あっちなみに彼が貴方達を裏切った理由ですが……単純に私の魔法で私の言う事を好意的に受け取る様にしただけですよ?』


それをこの世界では洗脳魔法とか魅了の魔法とか言うんだよ。

どうやらあのマイク(に……もう可哀想なヤツだしアースって本名で呼んでやるか)……そのアースは完全に被害者であった様だ。


恐らく私をダンジョンにってのは、誰でも良いからダンジョンに送ってあの美人の封印魔法を解かせる様に仕向けたかったのだろう。


本当は簡単に解けるけど、解くのが難しい魔法とでも説明して生贄を用意する様に誘導してアースを利用、しかし尻に火がついて手駒を使い潰して復活したと。


『しかし、あの魔法使いにはしてやられましたよ?まさか……』


「………どう言う事だ?」


『本来、あの部屋に入った時点で私の術中にはまり、封印を解く様に動く筈でした。しかしあの男は平然と部屋に施した魔法を解除したばかりか、下手をすればあの場で身動きを取れない私を打倒するだけの力を持っていましたからね。

流石にあの場で余計な真似をするのは危険でしたから、折角きた貴方達を見逃すしか無かったと言う訳です』


元封印されし美人の言う事に角イケメンが多少面食らった顔をしている。

あの美人の言う事は本当である、そもそもエロが服着て歩いてる私みたいな人間が囚われの身の美女を速攻で助けないのには理由があって当たり前じゃん。


あの部屋に入ろうとした時、直前でかなり禄でもない魔法を張っているて気付いたからな、私も平然としながらその魔法を無効化したのだ。


最初は速攻で精神支配関係の魔法をかましてくる相手だったので直ぐに倒したかった、しかし角イケメン達がいるとなると中々……ごめんなさい。相手が美人だから一旦お持ち帰りを選択してしまったのは私だ。


その結果としてアースと言う獣人が死んでしまった。本当にごめんなさい。


何とかあの空間に侵入出来ないか、今もインストールされた魔法の知識と私が使える魔法から探しているが、何分魔法の数自体が多すぎて手間取っている。


『…フフフッけどその魔法使いも、自分が顔見知りを殺したとでも思ったのか。そもそも人殺しの経験が少なかったのか知りませんが、かなり内心は動揺していました。お陰で私の魔法に巻き込んで虚無の空間に葬り去る事が出来る隙をつくる事が出来ました……』


……そんなの隙作ってたかな?正直私は死にはしてないから勘違いをしている事は間違いないんだけど。

すると角イケメンが静かに赤い装飾が目立つ槍を構える。


「細々とした説明、感謝する……お礼はこの槍で構わないか?」


『フフフフフフッ!いい顔をしていますね、首を切り落として飾ってあげましょうか!』


角イケメンの額に血管が……どうやらマジ切れっぽいな。

……これがイオちゃんが怒髪天とかだったらおっさんは嬉しいんだけどな、イオちゃんは未だにペタンと尻もちをついた体制のまま震えている。


すると隠密部隊の数名がイオちゃんを守る為に彼女の前に立つ、それ以外は角イケメンの後ろに隊列を組む。


どうやら本気でやり合う気である。


「パイルラ王国軍所属、紅蓮槍のビンゴ……参る!」


『…我が名は魔神イシュリアス。古の時代より時を超えこの世界を食い潰す為に現れし者なり……』


角イケメンが突進する、持っていた槍からいきなり炎が噴き上がった。そのまま炎の塊となって真っ直ぐ突っ込んでいく。


魔神とか名乗ったのでゴスロリ魔神だな、ゴスロリ魔神は片手を静かにかざしてその突進を受け止め様とする。


両者が激突。

凄まじい轟音が辺りに響き渡った。


しかしそれを見た私の心にはとある感情が溢れる。


これっ完全に主人公とラスボスの決戦をする演出じゃん、このまま角イケメンが活躍したらイオちゃんの好感度を全て持ってかれるぞ!?。


私はそんな思いに突き動かされ、さらに急いで使えそうな魔法を探しまくる。イオちゃんの好感度を守るには中年魔法使いが現場に登場するしかない。


必死である、必死で私はこの空間から向こうの空間に渡る術を探した。


ちなみに角イケメンもその部下も、あのゴスロリ魔神には絶対に勝てない、彼我の実力差がとんでもないからな。


具体的とは言えないが、イオちゃんなら戦える兵士を数十人とか相手に圧倒するくらいはいける、イオちゃんって本当に強いんだよ。


角イケメンは100人……いやっ200人はいけるだろうと思う、あのイケメンは本当に超人ってヤツだよな。

島の人々はそれぞれ100人くらいはいけるって感じで隠密部隊は10人くらいかな?どの道みんな普通に……メッチャ強いんだよ。


こんなモンスターがわんさかといる世界で戦える人間での計算だからな、前の世界なら更に桁が1つ増えるかもな……。


そして、あのゴスロリ魔神は……多分いても全然足らない。


本当に単体で世界取れるんじゃないかな?魔王を超えて正に魔神って感じだわ。


そんなの相手に角イケメンもユーリも隠密部隊もわーわーとバトルを仕掛けているしている。


角イケメンが炎の槍で素手のゴスロリ魔神とガンガンせめぎ合っている、部下の黒ずくめも遠距離から魔法や支援魔法で角イケメンを援護しているな。


中々のチームワークである。

そしてユーリも加勢して2人掛かりで挑む、ユーリは両手に剣をだして二刀流だ。


しかしゴスロリ魔神は防護結界で2人の攻撃と遠距離からの魔法とかを無効化しだした。


完全に遊ばれてる。殺されたりはしてないがいつあの気まぐれが終わるのかを考えると、気が気では無い私だ。


イケメンの主人公ムーブからイオちゃんの好感度を、そしてゴスロリ魔神からあの場の面々を守る為に必死である。


「……………クッ!」


くそっ空間魔法って下手するとその空間の中にいる人々をみんな死なせてしまう恐れがあるから嫌なんだよ。


こちらも慎重にならざるおえないからな、落ち着いて、確実に成功できる様に準備をしなければ……。


あっ角イケメンとユーリが張られた防御結界を破壊し始めたぞ、しかしその結界の奥には更なる強度の防御結界を張っていた模様だ。


ちなみにそんな感じで5重の結界を張っているゴスロリ魔神は今も余裕の表情である。


「……何かここから支援魔法を、いやっいっそ無理矢理あの空間内の人々を外に転移させるか?しかし失敗する可能性が高すぎる。

やはりこの空間魔法そのものを破壊するしかないか?ならあの魔法で……」


少々賭けになるが、仕方ないか?。


「やっと見つけましたよ、アオノさん」


「……………ッ!?え、エレナさん」


後ろから声を掛けられた、振り返るとエレナちゃんがいたぞ。

何故がついさっきまで村娘って感じの服装だったのに、今は聖職者っというか……聖女の様な気品のある装備をしている。


そして当たり前の様に村の人々までいるし……。


一体コレはどう言う事なのだろうか?。






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