第33話『青野の肖像』

大して長くもないが私、青野只人と言う人間について話させて欲しい。


だってエレナちゃんからの希望であるからして。


とっいっても……本当に大した過去なんてあるわけもなく、普通の家庭に生まれて普通に育ってタダの冴えないおっさんになるまで歳を取っただけの男である。


まぁ今時その普通が幸せなんだと言うのには概ね同意するので、やはり幸せだったんだろうな。


そして……悲しい事に私には、1度も彼女が出来た事がございません。

故に……故に…………わっ私は、童貞なのであります!(この辺りは絶対にエレナちゃんに話は……しない!)。


うんっそんなの興味ないよおっさん!っと言う声が世界を越えて聞こえてきそうなので話を両親についてに戻しますはいっ。


私の両親も普通だった、お金持ちとはお世辞にも言えなかったけど私は生活に困窮すると言う経験をせずに大きくなれた。


そんな両親は喫茶店を経営していた、地震によって色々とあった年は大変だったがそれでも何とか生き残り。私も少ないながらも両親にお金を渡して何とかやってこれていたんだ。


しかし……世界的に経済が回らなくなる様な、正に大災害と言っても過言ではない事が起きた。


あの悪疫である。あれによって多くの人が職を失い、命を失い、家族を失った。


私の両親の場合は……喫茶店を遂に畳まざる得なかった。

当時普通の社会人として社畜をしていた私はそんな大変な事態の両親に会っても、安月給故に生活費を抜いたら数万円しか残らない金を渡して、多少の話を聞くことしか……出来なかった。


その頃の私を思い出すと、バカすぎて頭が痛くなるよ。


何故なら当時の私は両親の話を聞きながらも、その本心がどれだけ疲弊しているのかすら考えず、ただ私が当時好んでいた、アニメやマンガンやゲームやラノベやらで聞きかじった様な前向きな言葉を口にして、それで慰めている気になっていたからだ。


やまない雨はないとか、不幸の後には幸福が必ず来るとか、なんかそんな言葉ばっかり言っていた私だ。


そして、三十路を過ぎても大した職にも就けずにオタク趣味に傾倒する男の言葉は……両親には届かなかったのだろうなぁ。


考えてみれば当たり前で、至極当然の事だった。


私はマンガの主人公じゃない。ゲームの主人公でもアニメの……あんなに格好いい主人公でも何でもないんだから、そんな私の言葉が人に届かないのなんて、当たり前なんだよ。


まぁ……主人公が全然格好良くもなければ、好きにもなれないタイプのラノベやマンガも割と読んできたけど……この話は関係なかった、ごめんなさい。


そして、そんな事が世界から、私は来たんだ。


そして両親は共に一線を越えた、私は1人になった。


それからの私は抜け殻だった、やはり恋人もいない私にとって、両親は大きな存在だったのだろう。


私が異世界に来て、魔法を得て、人の為になんてっと言う理由はこの過去にある。

本来私は、誰かの為になんて言う人間なんかじゃない。自分の事だけで精一杯なタダの凡人だ。


前の世界において、誰かの為になんて1度たりとも行動出来たのかすら怪しいね……。


ただ両親との別れで私は。自分がどれだけアホで、バカで、何の力も能力ない人間かを思い知らされたんだ。そんな事は分かり切っていると思っていたんだけどな。


ああっ決定的に思い知らされた。


そして私は願った……………ってか妄想した!。


世界には、どれだけ自分が傷付いて、苦しんでも、それを誰にも見せないようにして……そして一線を越えてしまう人がいる。

そんな…そんな人達をも助けられるような……。



魔法のような。力が欲しい。



…………………………………………………ハァッ。


そんな事ばっか考えてるからいい歳してファンタジーな世界に中年魔法使いとして転生する事になんだよ、アホか。


ちなみに私が狂った様に言っているメインヒロイン云々って言うのは、私には恋人の1人もいなかったから両親が、孫の顔が~みたいな事をたまに言っていたからかも知れない。多分。


……ゴメン両親せいにしてしまった。

この悪癖はオタク趣味を拗らせたアホな私自身が全ての原因ですテヘペロ。


コホン、両親の葬儀を終えてその後は簡単に話す。

ただ社畜として働いて。そしてある日に死んで異世界に転生する事になったのだ。以上である。


本当に我が過去ながら、短くて嫌になりますな。


◇◇◇


「……っとまぁそんな訳であっさり死んだ私は神様みたいな存在と邂逅。魔法の才能とやらを開花させてもらってこの世界に来たんですよ?」


「いやっ!流石にそこまで話されても意味が分かりませんからね!?」


え~?エレナちゃんが知りたいっていうから中年魔法使いの過去から異世界から来たことや1度死んだらしいって事まで話したのに……。


「まぁそうですよね。私も証明出来る様な物でもあればと思うんですが……っあ私の魔法で私が前にいた世界に行ってみます?ただ向こうの世界は魔法も魔力も存在しないので行ったら帰れなくなるかも知れませんけど……」


だから私も前の世界には行こうとしないんだよな、現実世界を無双するのは大変みたいです。


「え!?う~ん、行けるのなら行きたいですけど……やっぱり戻れないと困りますよ」


「フフッそうでしょうね、まぁ先ほど話した通り。そこまで行って楽しい場所でもないので少なくとも今は私も行く気にはなれないんですよ」


何しろ私、死んでいるらしいからな。

見つかったらどうなるとかって考えるとちょっと怖いもの…。


「それは、やはり両親の事が?」


ん?エレナちゃんが少し勘違いをしているな。

私の両親は関係ない、とは言えないかも知れないがそこまでどうこう言っても……。


「確かに父と母との別れは悲しかったですね。しかしどんな別れ方をしてもそれは変わりません、だから……」


そんな事は、もう気にしていないっと言おうとしたら……。


「変わりますよ……悲しみの深さは。きっとアオノさんにとって、その両親はとても大切だったんですね。だから悲しみが大きすぎて考えないようにしているのでは?」


…………え?。


「いえっ私は……」


「大切な誰かが静かに逝く。そんな別れを私も何度もしてきました、そして突然の別れもです。だから分かりますよその2つには本当にとても大きな差があります……そして」


エレナちゃんが何処か遠くを見るような視線を夕陽に向ける、そして私の方に向き直った。


「その別れに僅かでも救いがあれば、残された人達もきっと前に進めます」


「………………………なら。それなら救いが無かった人は、どうなりますか?」


何を言ってるんだろうな、私は。

そんなの私が1番よく分かってるだろうに……。


「私は貴方の事を、貴方が話してくれた範囲でしか知りません。ご両親にいたっては殆ど分かりませんよ、けど1つだけ確かな事があります」


エレナちゃんの言葉に耳を傾ける。


「その2人と共に合ったのは貴方です、その2人が生きて笑っていた記憶はこの世界で貴方しか持ちえません。その記憶を貴方を縛り過去へと縛る『呪い』とするのか……」


彼女は私を真っ直ぐ見て言った。


「それとも……その2人を、未来への『希望』とするのか、全ては貴方次第なんですよ?」


「ゆっ許す……ですか?」


許すも何も、両親は私を産んで育ててくれた。バカな事をすれば叱って、努力すれば褒めてくれた。


そんなどこにでもいる、けどたった2人しかいないそして掛け替えのない………っあ。


「そうか、私は……」


そうっ……だよな、当たり前だ。


やっぱり、悲しかったんだな。とても、とてもつもなく、どうしょうもないくらいに。悲しかったのだろう。


そしてやっぱり……少し、いやっかなり怒っていたんだ。


どれだけ過去の両親が正しく、優しく、大好きな2人でも。そのたった一つの黒い何かが、その色んな物を台無しにしてしまいそうになって……。


だから私は、考える事を辞めた。

ただ、1人の大人としてやるべき仕事を片付けるように、機械的に全てを片付けた。


だって兄弟もいない私には、職場にも気持ちの捌け口がない私には、それしかなかったのだ。


まさかエレナちゃんはそこまで気付いて?いやっそれだとこの子はどれだけの別れを……まさか、そんな筈ないよな……。


「エレナさん、貴女の言葉は正しい。確かに私の中には両親への黒い思いがあります、しかし今更許すと言っても私の両親は……」


「そうです、だからその許すと言うのはアオノさん自身の為にするんですよ………前に進むために」


エレナちゃんの瞳が真っ直ぐ私を見据えている。本当に何もかもを見透かされてる様な、そしてそれが不快に感じない。


何で会って数日しか経ってない彼女に、何でこんな話をしたのか、何となく理解した私だ。


もしかしたら、本当に彼女には多くの別れを経験した過去があるのかも知れない、そんな気がしたのだ。


呪いか、希望か……そうだよな、もうっ父も母もあの世界にはいない。そして当然この世界にも、何処にもいなのだ。


ならばエレナちゃんの言うとおり、今ここに生きている私が決めるしかないんだよな。

両親の記憶をどうするのか、この気持ちにどう折り合いをつけるのか……。


彼女が言いたいのは、きっとそう言う事。


人生は生きた時間の長さとかじゃない、何故なら人間は歳を取るだけで成長する様には出来ていない生き物だからだ。


エレナちゃんを見ているとその事を思い知らされる思いだ、彼女は一体どれだけ多くの事を感じて1日、1日を生きてきたのだろう。


「エレナさん。私は……私は両親を許したい、たとえどんな別れであっても私の記憶の中の両親は……笑っていた時間の方がずっと多い人達でしたから、私の誇りだと思える両親でしたから」


「そうですか、それはきっと素晴らしい両親だったんですよ。胸を張ってアオノさん!」


「………はい」


これは彼女が言うとおり、私個人の為にする心の整理だ。

簡単に言えば二者択一で決めれば良い。


人を助ける云々は、他人助けるのにやたらと理由をつけて二の足を踏み、まるで仕事をさぼる口実でも探す人間と。黙って一歩前に出る人間なら私はどちらの自分を誇れる?。


メインヒロインゲット云々は、女性にモテない事を外面と貧乏、何より自分の思い通りならない事のせいにして何も行動をしない人間と異性に誇れる物を1つでも磨こうとする人間ならどちらの自分を誇れる?。


…………両親の事を、何年経ってもネチネチとブーたれる人間と両親を好きで多少なりとも誇れて、何より素直に許せると思える人間ならどちらの自分が誇りを持つことが出来るだろうか?。


遠い過去の自分に問えば、その答えは簡単だろうと返ってくるだろう。


子供の様なバカ正直な言い分なのは百も承知、けれどそれらを何も口に出来なくてなった人間に果たして魔法使いなんて務まるのだろうかね?。


無論私は既に子供ではない、歳食ったおっさんである、全てをシンプルに簡単にっとはいかない。

しかしそれでも私は。


私を誇れる私でいたいんだ。


………答えは出た…………っと思うことにする。


それから私は憑きものが落ちたように、私の故郷やこの世界にきてからの話をした。


中年の過去話にエレナちゃんが飽きないか、内心ヒヤヒヤしていた私だ、しかしエレナちゃんはリアクションが良くて分からない事はよく質問してくれた。


おかげで大したトーク力もない私の話も弾んでしまった。気付けば辺りは真っ黒である。


「………っとそろそろ切り上げましょうか」


「はいっけどやっぱり私の人を見る眼は冴えてました、アオノさんは人の為に魔法を使える優しくて凄い魔法使いだったんですね!」


「いやいやまさかっ私が言う誰かの為にと言うのも、どのみち自身の為にしているだけの自己満足でしかありませんよ」


「それが普通ですよ?全てを相手の為になんて言い始めたら誰も誰かの為になんてしまいます。自己満足ありきで良いんですよ」


「そう言って貰えると私も楽になります」


……なんかエレナちゃん、どんどん大人びて見えてくるな、私の精神が子供くさい所を差し引いても彼女の懐の深さには感嘆してしまった。


「そうだ!アオノさん、私まだアオノさんに私達について話をしてませんよ!」


ああっそうだよな、エレナちゃんにはこのラブーンって島関係で色々と聞くために私の中年過去話を発動させたのだから。


「そうですが、既に日も沈みました。私は日を改めて伺いますから……」


「え?なら私の家で晩御飯をご馳走しますよ?っあイオさんも一緒なんですけど……」


「………………」


…………………なっなななぬぅんだとぉッ!?。

何という事だ!。

何という事だコレはッ!?。


コレはアレか!?私が自分の過去と向き合った事(笑)で一気に主人公力が天元突破。

ヒロインホイホイが発動したのか!?。


エレナちゃんとイオちゃんの2人がいる、大して大きくもない家、そこにこんな中年が突入だなんて……。


うれしい……嬉しすぎるぞ!。


とかバカな事を考えていたのがアレだったのか。


近くの茂みがガサゴソ……。


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオっ!」


なんかいきなり全身から赤いオーラの様なモノを纏った、ライオンの頭とマッスルな熊のボディが合体した様なモンスターが、弾丸の様なスピードでこちらに突っ込んできた。


完全にこちらを殺し来ているスピードだ。


「ッ!?ア、アオノさん!私も見たことがないモンスターが現れました!気をつけて下さ」


「………………」


………流石にこのタイミングは、ウザイよ?この空気読まないモンスターめ、悪いが速攻で黙らせるぞ。


【彼の者の生の根源、その命脈を断て。即死滅デッド・エンド


これは即死の魔法である、使われたヤツは死ぬ、以上。

ズゥウウンっとぶっ倒れる名も知らぬモンスター。


「………え?」


「さてっでは村に帰りますか」


そこにはエレナちゃんてイオちゃんとの晩御飯と一つ屋根の下での幸せタイムが待っている~。


しかし世の中……そんなに甘く無かったわ。


「あっ!アオノさん!モンスターが…」


「………はい?」


その即死させたモンスターの死体が、何故が縮み始めた。すると………。


「え?彼は……」


マイク(偽)、マイク(偽)である。

死んだモンスターの死骸がマイク(偽)になったんですけど。

当然死んでおります。


…………………コレやばくね?


「じっ獣人の方がモンスターに化けていたんですか?」


「分かりません、ただ……」


コレは、何やら起きそうな予感である。











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