第32話『エレナちゃん』

◇◇◇


ゴーレムツインズ、と言うかリエリからの言葉で目が覚めた。


そうだよ、元々高卒止まりのおっさんがあれこれと考えてもその通りになんて話が進む訳がない。


一体何の為のチート臭い魔法だよ、こんな時は勢いに任せてパパッと行動、失敗したり大変な事態になったらその時は魔法でバッコンッ!と解決するでいいんだよ。


だから私はこれからはエレナちゃんに会いに行く、もう夕方で空の端には夜が近づいてるけど行く。


時は金なりおいなりさんだ!。


………ごめんおいなりさんは適当にくっつけました、しかし勢いは大事なのでこのままズンズン向かうよ。


実はエレナちゃんの家の場所、中年魔法使いは既に村人から聞いております。

キモいよな、ストーカーじゃんと言う幻聴が聞こえる~~…けど知らん顔。


エレナちゃんの家は島の村では幾つもある感じの少し小さめの木造1階建てである。


早速ドアをノックする。………何故かイオちゃんが現れたぞ?。


「……何故イオさんがこちらに?」


「わっ私は以前からエレナさんのお宅で寝食をお世話になって居るんですよ!」


マジかよ。イオちゃんとエレナちゃんがこんな小さな家で一つ屋根の下に住んでるだと?。

ベッドに横になるイオちゃんとエレナちゃん、最高じゃないか……。


並ぶのは4つの………くっ!いかん!。


今は妄想よ、鎮まれ!。鎮まるのだ!。

私は自らの身体に流れるオッパイ星人の血を押さえ込んだ!。


「すみません、実はエレナさんに少しお話がありまして。居場所をご存じありませんか?」


すると早々にイオちゃんからのジト目をいただいた。そう言えば以前バトってから碌にイオちゃんと会話らしい会話をしていなかった事に気付いた。


こんなおっさんがエレナちゃんと言う美女を探しまわっている、前の世界なら通報ものですな。


しかし生来の人の良さが出たのか、イオちゃんは素直にエレナちゃんの居場所を教えでもくれた。


「島の西の方の外れに、そう大きく無いですが砂浜があります。彼女は毎日夕方になるとその砂浜に散歩をしに行くそうです…」


正直に言っていいのかな?って顔で話すイオちゃん、それでもおっさんは君が嘘を言っていないと信じてるよ。


……だって魔力を感知すれば直ぐに分かる事だったからね、最初からそうすればよかったと内心恥ずかしくなる私だ。


「教えてくれてありがとうございます、イオさん。それじゃあ私はこれで……」


「え?あっちょっちょっと!?」


もちろん今回はイオちゃんの胸や太ももには一切視線を向けていない、以前のチラ見がバレていたからね。


おっさんもチラ見をするリスクには敏感なんだよ、ここはエレナちゃんの胸や太ももをチラ見するのを優先する。


何か話がまだありそうだったけどごめんねイオちゃん、私は今エレナちゃんと2人きりでの話がしたいから先を急ぐよ。



そして村を抜けてから少し歩いて飛行の魔法を発動する、何しろそろそろ暗くなる頃合だからな。

そんな時間におっさんがエレナちゃんの元に向かったら捕まってしまうかも知れない。


ここは夕方の内にエレナちゃんと会って話をしたいのでスピードアップだ。


飛んでから数分後には砂浜が見えてきた。夕陽によって白い筈の砂丘はオレンジ、海も似たような感じになっていて綺麗である。


そしてそんな砂浜にエレナちゃんはいた、桃色のサラサラロングヘアーも夕陽でオレンジ色に光輝いていて、とてもファンタジー。


服装こそ村娘なのに彼女はやけに神々しいのは何故だろうか。


まぁ中年魔法使いにも分け隔てなく優しく笑顔を向けてくれる程に徳が高いエレナちゃんだ。

女神的な存在だったとしても驚かないよ。


エレナちゃんは砂浜に1人立って夕陽を見ていた、風に長い髪が吹かれて流れるようになっている。

魔法を操作してエレナちゃんの少し後方に着地した。


「こんにちは、エレナさん」


「アオノさん?どうしたんですか、こんな時間に……」


私は速攻で話を切り出す。


「エレナさん、実は今日私は島のダンジョンに行って来ました……」


「………そうですか」


エレナちゃんが少しだけ悲しそうな顔をした。

思えば彼女は私を凄い魔法使いだと散々褒めてくれた、しかし島のダンジョンに向かう事だけには反対だった事を思い出した。


「なら、ダンジョンはどれくらいまで進んだんですか?」


「………最深部まで」


「…………!」


私の言葉にエレナちゃんは驚く様な顔をして、直ぐに落ち着いた様に笑った。


「やっぱり、アオノさんは凄いですね。あのダンジョンには島の私達でもとても先に進めない様な強力なモンスターが沢山いたでしょう?」


「はいっいました。しかし既に全て倒しました」


ブラック君がな……。

部下の手柄を横取りする最低な上司みたいな事をしてゴメンねブラック君。


「そして、その奥で封印されている女性を発見しました。そしてその女性は自身を島の守護者だと語り……」


そして私は……女性からもたらされた情報を全てエレナちゃんに話した。


邪教云々。不老長寿云々。全てである。


私は彼女達、島の人々の力となる事を決めたんだよ。

何故ならリエリに言われた初志貫徹っと言う言葉に従うなら、やはり彼女達こそが私がこの島に今もいる理由で最も大きいからだ。


あの封印されし美女は、その封印が解かれれば間違いなく島の人々に何かする。

何しろ自身を封印して力を奪ったとか言ってたからな、穏便に済ませられるとはとても思えない。


万が一エレナちゃん達が本当に邪教徒とかってなら私も手を引く事を考えた。

しかしそれらはあくまでも封印されし美女の話が本当だったらだ。


既に封印されし美女は1つ確定でウソを言ってるので私の信頼は今はエレナちゃん達側に傾く。


………まぁぶっちゃけると、私に1番優しくしてくれたのがエレナちゃんや島の人々だったのが1番大きな理由です。そこにウソはつけないよ。


だからこそ今、中年魔法使いは全てを話している。それはこれからは彼女に真実を聞くためだ、私はエレナちゃんや島の人々を信じる。


その為には先ずはこちらから腹の底を見せなくちゃなって話だ。


「………以上が、私が聞いた話です」


「そうですか。あの存在はそんなことを言ってきたんですね……」


「やはり、あの封印されていた女性と面識があったんですね。エレナさん不躾な事は理解してますが私に全ての真実を話してはくれませんか?」


私はしがない元社畜だ。

しかし自身が守ると決めた者が信頼出来ると出来ないとではその働きが天と地程に変わってくるんだよ。


私はエレナちゃん達を信じたい、信じられたら何が相手でも中年魔法使いの魔法が炸裂するからね。


そしてエレナちゃんの返事は…。


「分かりました。この島と私達の事について全てお話します」


「………エレナさん」


私自身も、顔が笑顔になるのを感じる。

するとエレナちゃん、人差し指を1本立てて何やら笑顔になる。


「た、だ、し。もちろんタダでとはいきませんよ!」


「………………」


「やはり女性の秘密を聞こうと言うのなら、そこは先にアオノさんの秘密を教えて貰わないと割に合わないと思いませんか?」


もの凄い笑顔だ。反射で思いますって言いそうになった。

こっこの状況でなんでここまで笑顔になれるのエレナちゃん、おっさんには分からないぞ。


「わっ私の秘密ですか?そんな物は何も……」


「嘘が下手すぎますよアオノさん……アオノさんの顔立ちはこの大陸の人間のものではないですし、名前もおよそ聞いたことがない響きですよ?それこそ鬼人族の故郷と言われる極東の国くらいですかね?それでもやはり違いますけど……」


何しろその鬼人族の角イケメンの名前はビンゴだからね。私の故郷の島国とは全く繋がらないよ。


そもそも異世界人な私だ。


「そして当然ですがそのとんでもない魔法ですよ。私はアオノさんが人間だと言うから信じますけど、他の人は人に化けた怪物や何かだと考えても不思議じゃないですよ?」


「え、そんなにですか?」


「そんなにです!」


言い切られてしまった。おっさんは悲しい。


「そんなアオノさんだから、本当は色々聞いて見たいと思っていたんですよ?けど会って数日の人にあれこれと聞くのも失礼ですし、けれどアオノさんも何かどうしても知りたいご様子。ならここはお互いに知りたい事を全て聞いてしまいましょうって事ですよ!」


「はっはぁ……しかし私の話なんて本当につまらない物ですよ?話を聞いても気分が悪くなるだけで……」


多くの異世界ラノベにおいて、割と主人公の人間性とか過去について全くと言っていいほど触れない物も少なくない、或いは触れてもほんの数行止まりなんてのが殆どだ。


何故ならハーレム野郎が重い過去なんて語ってもあっそう?とかにしかならないし、逆にハーレム野郎が輝く様な過去を持っていてもあっそう?っとしかならない。ちなみに私はこっそり舌打ちとかしちゃうね、間違いなく。


それなのにエレナちゃんは……。


「構いませんよそんなこと、私はアオノさんの事を知りたいだけですから!」


こんなおっさんの過去にまで興味があるとか言われると嬉しい。

コレがその手のお店のプロか……いやっ違う、エレナちゃんは風俗の譲ではない。


「例えば~アオノさんは冒険者なんですよね?ならどんな場所から来て今までどんな場所に行ったとか、っあそれと冒険者って格付けみたいなのってあるんですか?」


「…………いえっありませんよ?冒険者は冒険者ギルドに行けば誰でもなれますから、しかしそれから先は全て自己責任ですし……」


取り敢えずエレナちゃんの頼みを聞くか、だって相手は美女であるからして。

冒険者については基本的に上下とか無いことを話した。以前聞いた話だと、冒険者なんて基本的ゴロツキの集まりであり、下手に冒険者ギルドが上だ下だとか決めるとマジのケンカをしかねない手合いばかりだから、そう言う格付けとかはどこの国でもしていないんだそうだ。


「へぇ~やっぱり冒険者も大変なんですね……あっけど私が知っている事で、魔法使いには魔法使い自身が使える魔法の等級でランク付けがされてるんですよ?」


「それは知りませんでしたね」


……嘘だよ、知ってた。

この世界にある魔法は等級分けされている、実にラノベ的だよ。

エレナちゃんのお話は続く。


「例えば下から初級魔法、中級魔法、上級魔法とあって、それと同じように初級魔法使い、中級魔法使い、上級魔法使いって感じですね。

そしてその上にあるのが超級魔法使いや特級魔法使いですね。この世界における魔法使いの頂点だと言われています……」


するとエレナちゃん、何やらイタズラを思いついた様な笑顔をした。


「実はその上にもう一つ呼び名があるんですよ?」


うん?その手の称号みたいなのって特級や超級辺りがトップじゃないのエレナちゃん?。


「それは……青天の魔法使い。最古の神話に現れて世界を蝕んだと言われる神たる悪竜とその眷族を討ち滅ぼして、世界に平和と青空を与えた始まりの魔法使いです」


「それはまた、物凄い魔法使いがいたんですねぇ」


聞くとその青天の魔法使い然り、神たる悪竜とその眷族然りどいつもこいつもぶっ飛んだ存在だったらしい。


まぁその魔法使い1人でその神だか悪竜だかとその眷族はコテンパンにされたらしいけど。


流石本物の魔法が存在する世界だ、本場の魔法使いは途方もないな。


私も魔法関係ではチートを貰ったつもりではいたけれどそんな神話の人物、とても敵いそうにないよ。

瞬殺だろうね、うん。


「実は私、アオノさんはその青天の魔法使い様のお弟子さんかもって思っているんですよ?」


「………何でそんな話に?」


「フフフッ!さぁてっ何ででしょうかぁ~」


エレナちゃんがノリノリで話を進める、夕陽に染まる砂浜で色々と話せて、彼女の事を少しだけ知ることが出来た気がする中年だ。


そしてその後はやはり私の故郷とか過去について知りたいと言う話になった。

ファンタジー要素の欠片もない世界の話とか何も面白いモノとか無いのに……。


しょうがない、エレナちゃんが話を進めるので私も自身の事を少なからず話をするか。


「分かりました、話しますから……まずっ私の故郷は先進国、まぁ豊かな国ではあると自負出来るには文明も栄えていました。私は勉強は人並みでしたが身体は見ての通り大した物ではなくて……」


「やっぱり!身体の筋肉の付き方がとても農業や肉体労働をしたりしたことがある人には見えませんでしたからそうだと思ってましたよ!」


エレナちゃんの笑顔に、中年ボディ保持者は傷付いた。


「ただし問題の方も山積みで、私は衣食住には困ることのない家に生まれましたが現在から将来にかけては中々厳しい国でした……」


私の言葉にエレナちゃんが少し眉をひそめる。


「そっそんなにですか?」


「何がどう悪いのかを言う事は私にも出来ません。私もそこまで大した学がある訳ではないので……しかし端的に言うなら、その故郷では年間で数万以上の人々が……一線を越えています」


「…………」


……やっぱりエレナちゃんって村娘の筈なのにとても頭が良い、私が少しだけでもボカした様に言っても直ぐに理解した様だ。


いやっ大してボカしてもないか。


「……そして、私の両親も。そんな人達でした」


「………………アオノさん」


うんっだから言ったじゃん。


私の過去話なんて、本当につまらないと、聞いても気分が悪くなるってさ……。

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