第27話『魔法の使い方』

私の上半身から煙がもくもくと上がる。

ほぼゼロ距離でのガードには成功したからダメージはないけどこの煙のニオイは苦手だ。


オヤジの丸焼きなんて誰も見たくはないだろう?。


ちなみにイオちゃんとユーリは無言で突っ立ている、ユーリは私が無事なのに気付いてるのかもな。


ユーリのプリプリ具合だと本当に私が喰らっていたら速攻でイオちゃんに報復しそうな気配出してたから。


一方のイオちゃんは中年を見下ろす様に見ている、煙がまだもくもくなので分かりにくいが、あれば少々ガッカリしている顔かな?。


「……やはり、大した事ないじゃないですか」


イオちゃんがボソッと何事か呟く。

そしてユーリに向き直ると会話をし出した。


「魔法は無詠唱ですし、威力も抑えました。服が多少焦げ付いて気を失っているでしょうが命に別状はありません……それでは失礼します」


イオちゃんは言うだけ言うと転移の魔法で何処かへ姿を消してしまった。


それを見届けたユーリは無言でこちらに来る、その表情は少しムッとしている。

彼女を少し怒らせてしまったかな。


「……すみません、負けてしまいました」


「ご主人様、何故あの様な事を?ご主人様なら幾らでもあのオッパイ女を無傷でも圧倒する事など…」


んー、言いたい事は分かるけど。


「私が彼女に勝たなかったのが不満ですか?」


「………はいっ」


ユーリ的には私がなんこかこうっ適当な魔法でイオちゃんを適当にあしらって格の違いをバーンッて感じのを想定してたんだな。


しかし残念ながらそんな事にはならないんだよ。


「ユーリ、私はこの世界に来たときに自身の開花した魔法の才能だとか魔法の力を理解しました。その時に私は決めたんですよ、自身の魔法の使い方って言うのを…」


「魔法の使い方、ですか?」


そっ魔法の使い方である。


魔法なんて存在しない世界から来た身の上としては念じるだけだ火の玉だの氷の槍だの飛ばしまくれるとか殆ど拳銃の無断携帯と同じ位とんでもない事だと、どこぞの島国出身者はビビってしまうのさ。


まさかってあの映画の名言を実感する日が来るとは私も思わなかったよ、何しろ私の魔法は……。


いやっ話が逸れたな。


そんなだから私は事前にこの魔法を使うのに大まかなルールを決めたのだ。自分ルールってヤツである。



「へぇっその魔法の使い方って私も聞きたいですアオノさん!」


ん?いきなり現れたのはエレナちゃんである。


「エレナさん?」


「……すみません、イオさんがこちらに来たんですよね?私が余計な事を言ってしまったから…」


ああっそれでか、あのイオちゃんの魔法。かなりうるさかったしな、それでエレナちゃんが来たのか。

そして何故か今エレナちゃんは中年が語った魔法の使い方に興味津々だと言う。


ついさっきイオちゃんに負けた上に放置されたおっさんはことさら美人に優しくされたい気分なので普段は語らないけど語ってしまうのだ。


「いえっもうイオさんなら行ってしまいました、私では彼女の期待には応えられなかった様です」


「そうですか?その気になればどうとでも出来たんでしょ?あの村で見せた魔法でも見せればイオさんは早々に負けを認めたんじゃないかしら?」


「………それはそうかも知れませが」


エレナちゃんもユーリと似たような事を言ってくる、けどおっさんは美女に攻撃魔法とか見るからに危険そうな魔法を見せつけたりするのがそもそも嫌いなんだ。


「先程ユーリにも言いましたが私には既に決めた魔法の使い方がありますので……」


そして少なくともそれに、さえ在ればこれ幸いと俺ツエェだの俺スゲェェだのに使うのは含まれないだけの話だ。


あの青い太陽見たいなのも誰も私の魔法にルールを強制はしなかった、つまりそれは私たち自身でそのルールを作り守れって事に他ならない。


大人なんだからそれくらい自分で判断しろって話である。


「そういえばさっきも聞かれましたね、しかしそんな大層なものではない話ですよ?」


「フフフッそれでも聞いて見たいです」


エレナちゃんの笑顔が可愛い、だからおっさんはついつい口を開いてしまうのだ。


「……ただ私は、私の魔法は誰かを助ける機会を与えられた物だと考え、守りたいと思った人を守り。助けたいと思った人を助ける為に使うと言うだけですよ……まぁ精々多少の手助けが出来ればと考えている位ですけどね…」


本音を言えば私の魔法は、第1に人生のメインヒロインゲットの為に全力投球される。

これは絶対に、絶対である、大切な事なので二回言った。


そして第2にそのゲットしたメインヒロインを何が起きても絶対に守る為に使うのだ。


……まぁまだそのメインヒロインは影も形も無いから手が空いてたら助けたい人を助ける為にも使いますよ~って感じである。


「それじゃあイオさんとの勝負に負けたのは…」


「私の魔法は、つまらない自尊心を満たす為に使うものではありませんから。勝ちを譲ってもいい勝負なら幾らでも負けて構わないんですよ」


そもそもが凡人極まりない中年だ。そんな私が自身を誇示したいが為に魔法を使ってハリボテを大きく見せようとした所で直ぐにボロが出て見透かされるんだよ。


女性はその辺り、目の付け所が違うからな。


私的には目が節穴な女性ってマンガやラノベの中にしかいないと思うんだよね、男は結構な数リアルにも居るんだけどな。


私が俺ツエェとか俺スゲェェとかしないのはそんな赤っ恥を事前に回避したいからである、偉そうにしたい気持ちは普通にあるのだ。


「……後は、旅を快適にする時に少々便利に使う位ですかね?」


少しおちゃらけて話してみる、あまり堅い人間だと思われるのも嫌だからな。


「……フフッ!ならアオノさんとの旅はもの凄く快適な旅になりそうですね」


「はいっご主人様のお陰で私達の旅はとても素晴らしい物になっていますから」


「しかしユーリには悪いと思っています、貴女の主として情けない姿を見せてしまいましたね。すみません」


「まさか、ご主人様の心根の深さに私は自身の至らなさを再認識しました。私こそ申し訳ありません」


ユーリはそう言うと頭を下げてきた、私は頭を下げるのは慣れてるけど下げられるのには慣れていないんだよ。


ユーリには直ぐに頭を上げてもらった、そう言うのは私がしていればいいんだってば。


「けどやっぱりアオノさんは凄い魔法使いですよ、普通、魔法使いであれ誰であれ、大なり小なり力を持つと何かと理由を付けてはその力を誇示したがりますよ?」


「私はそう言う人間が格好いいと感じたことがないんですよ」


魔法見たいな力でも権力でもな、偉くも無いのに偉そうにする中小企業の上司とか……むしろ可哀想に見えてくる程である。


会社のガンだとか言われ続けた彼、一体何が彼をあそこまで歪めてしまったのかってさ。


「しかしご主人様。いくら相手が綺麗な女性でもあそこまでいいようにやられては…この世界には外見が美しくてとも内面は醜悪極まりない手合いなどいくらでも存在しているんですよ?」


「それなら問題ありません、私も救い様が無い方々にまで情けは掛けません」


その辺りは既に私の中でも決定事項である、何時ぞやのリヴァイアサンとかも遠慮なく対処した私だ。お陰であのリヴァイアサン、解放する時に心底恐怖してる様な事を言って逃げて行ったな。


「アオノさん、魔法使いにとって魔法の使い方とは生き方そのものだって話を聞いた事ありますか?」


「……いいえ、ありませんよエレナさん」


生き方ってそんな大層な話なのか?って思ったけど、確かに魔法使いってそんな感じかもって考えを改めた。


ファンタジーゲームには魔法の研究一筋見たいなキャラが結構いるのだ。


「生き方ですか、確かに私もいい年ですしそろそろ生き方位決めてなくてはいけませんよね」


「アオノさんは十分に若いですよ!それにもう十分に生き方を決めてます、魔法の使い方を決めるって言うのはそう言う事ですから」


エレナちゃんに言われるとお世辞でも嬉しい。

イオちゃんもこれくらいおっさんに優しさを見せて欲しいよ、魔法かましといてそのまま放置はないわぁ~。 


「それに私はそんなアオノさんだからイオさんの相手をして欲しかったんですよ。彼女は魔法に関係する才能や能力のある人には敬意を払いますが、それ以外の人には厳し過ぎる部分がありましたから」


……なんかエレナちゃんがイオちゃんの先生見たいに見えてきた、そしてその話は正しい。


イオちゃんの物差しってハッキリしている分には良いんだけど、あの感じがおっさんだけでなく彼女が受け持つ生徒さん達、その中でもいまいちぱっとしない子供達にも向けられたりするのなら大問題だ。


この世界にパワハラやモラハラなんて概念があるのか怪しいしな、是非とも彼女にはその辺りに柔軟性を持った先生であっては欲しいと考えてしまう私だ。


「……しかしそれなら私はエレナさんの期待にも応えられなかったと言う事ですよね?」


だってボロ負けしてしまったもん。

しかし私の言葉にエレナちゃんは左右に首を振る。


「まさか!アオノさんはやっぱり凄い魔法使いですよ。私は尊敬します」


「……あっありがとうございます」


そんな真っ直ぐな目をされる事を何一つしていないのですけど……。


一体何が彼女に尊敬される様な行動だったんだよ、おっさんには全く分からないぞ。

とっ取りあえず村の方の問題を片付けに行こうかな、ここにいても居心地があれだし…。


「所でこれから私は村の方に行く用事があるんですが」


「あっなら私も行きますよ!」


「……ご主人様、私も行きます」


そして私達は村に向かった。

もちろんこれからの安全策的なのを考える為にである。


◇◇◇


それから数日間程掛けて、私は魔法で村にモンスターが侵入しない様に強力な結界を張ったり、島のモンスターを退治するファントム君達を追加で召喚したりした。


もちろん異空法衣の魔法で姿は完全に隠してるから村の人々にも変に緊張とかしない様に配慮してある。


他にはマイルームで休んで読書とかを楽しんだし、他にはリエリやユーリにマンガやラノベを勧めたりした、結構好感触だったからきっと読んでくれると思う。


そしてイオちゃんには完全に空気さんとして扱われる様になってしまった、彼女は今は村の中の広場で青空教室を子供達にしているのだが中年魔法使いには挨拶以外何も会話をしてくれないよ。


まぁ異性に空気として扱われるのには慣れているけどな、冴えない中年とかそんな風によく扱われる物だ。………悲しいね。


エレナちゃんはその村1番の魔法の腕で中年魔法使いを何度もサポートしてくれたり島の地図を貸してくれたりした、まぁガイドブックという名の魔導書があるので村の詳しい地図は持っているんだけど。


そんな事はどうでも良いんだよ、だって美女と一緒に何か出来る。その事自体が中年には嬉しいんだから。


思わず惚れそうになるよな、イオちゃんと違ってツンツンじゃなく笑顔で接してくれる時点で彼女以来歴が年齢な私なんてイチコロだよ、今は何とか年上としてカッコをつけているが。


これ以上優しくされたら……多分どんなお願いされても中年は魔法で叶えてしまう存在になってしまいそうだ。


この世界のどんなお宝でも国でもゲットして来ちゃうし南の島とか無いなら作ってあげますよっとかしたり顔で言っている私が思い浮かんでしまう。


そんな感じで私もそれなりに島に馴染み、リエリとユーリも交互にこの島で活動する、まぁ島の人々には同一人物だと思われてるんだけどな、だってどっちもアレリアちゃんメイドの姿をしてるから。


そんな感じで過ごしながら、割と顔見知りが増えて来てたりしている。


そしてそんな頃合いを見て。


1人のイケメンがおっさんの元を訪れた。


「こんにちは、ビンゴさん」


「ああっよろしくだアオノ、率直に言う。貴殿の力をオレ達に貸してくれ」


イケメンの手助けかぁ~、まぁ人助けも私の魔法の使い方である。

自分ルールだしな、気乗りしないけど守るとするか。


それじゃあ遂に……この島のダンジョンに向かいますかね。














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