第25話『ビンゴ』
「………貴方は?」
オレンジ色の派手な髪に黒い瞳、そしてやたらと整った、いけ好かないイケメンフェイスの若者だ。
多分歳は二十歳かそこらだろう、真紅でファンタジー仕様な鎧と槍を装備していてなんか全身から炎の戦士を思わせる出で立ちだ。
全力で主人公な感じがしている男である。
なんか目の前にイケメンが現れると、反射的に身構えてしまう私だ。
この世界に来てからイケメンへの嫉妬と苦手意識が更に磨きが掛かった様に感じる。
「オレの名はビンゴ、コイツの他にもそれなりの数の部下を持っている者だ。詳しくは言えないがこのパイルラ王国所属の者とだけ言っておこう」
「ッ!?ビッビンゴさん!?何故そんなペラペラと話すんですか!?」
マイク(偽)の反応も分かる、この額から2本の角が生えた人外イケメンは何故に自身の所属なんてヒントを中年に話したのか。
「ん?何故も何も……あの姿も見えず気配も魔力も音すら発しない侵入者は貴殿の所の者だろう?」
…………え?どゆこと?。
彼らの基地的な場所に私の知り合いが行ったの?ユーリはお留守番だったしなぁ………っあ。
(リエリ、オレンジ色の髪をした男性を知りませんか?)
(………ついさっき探索していた場所でそんな男がいましたが……まさか)
(ええっ今目の前にいます、それと貴女が侵入していた事もバレてる様ですし私との繋がりも見抜いている様です)
(そんなバカな……異空法衣の魔法は完璧だった筈……)
おおうっリエリがここまで驚いている声は初めて聞いたぞ、そうかまさか異空法衣の魔法を使っていて尚見破る輩がいるとは、流石は剣と魔法な世界である。
世の中とんでもない化け物がひょっこりと出てくるものだ、あの魔法を使っていつかは大衆浴場の女湯に侵入してやろうとか考えてたけど自重しよっと。
「あれは魔法だろう?姿を消して気配も魔力も感知できなくなり更に術者が出す音すら遮断する。その上にある程度厚さの壁などなら通り抜ける事も出来る様になる」
すげぇなっまさか初見でここまであの魔法を理解するとか、ってか気配も魔力も感じないならどうやって気付いたんだよ、心眼とか天眼通とかってやつか?。
イケメンチートの上に他のチートまで持ってるとか反則だよ。羨ましいなチクショウ。
「幾つもの魔法による複合的な魔法か、まさか立った1つの魔法によるものか……どのみち凄まじい魔法の腕を持つ部下を連れているのが分かる。そして……」
ビンゴだったか?彼が村の方を一瞥する、そこには最早ついさっきまで数百単位のモンスター達との激しい戦闘があったとは思えない。
もうミミック達がモンスターの死骸を処理し終わって次々還って行ってるし、村の外の無数の大穴ももう処理してしまったんだ。
「あれだけ派手に魔法を連発する魔法使い等オレは見たことがない、まるで魔力に底がないかの様な使い方だ。まぁオレが見たのは最後にモンスターを殲滅した大魔法とそれで空いた穴を消し去った魔法くらいだが……それだけでも貴殿の実力は知れる。オレの部下が力を貸して欲しい言うのも分かると言うものだ」
マジでか?リエリがいた場所からこの場所までそれなりに距離があるだろうに、ビー玉モードのリエリならともかく人型のこのイケメンがどんだけかっ飛ばして来たんだよ。
魔法で空とかからか?見た感じ魔法を使いそうな感じはしないイケメンだが……。
「私の魔法について話す事はありません。それと私はそちらの彼に以前話したダンジョン探索について話をしていただけなんです」
「ほうっそれは初耳だ、あのダンジョンについて調べているのか?」
「いえっ一応冒険者なのでダンジョンがあったら行こうと思いますが……」
そこで私が話したのはマイク(偽)がやたらと村の危機だと吹聴して中年をダンジョンに行かせたがった事やらを話す。
「……っと言う話をされたんですが、流石に村にあれだけのモンスターが来る現状だと下手に村を離れるのは危険だと判断しました」
まぁ危険なのは私と言うよりは村の人々だ、もしもこの島がダンジョンから来るというモンスター達に埋め尽くされる様な事態になったら彼らを全員避難させられるのが私しかいないんだよ。
だからダンジョンについてはその辺りについて何かいい案が出るまで保留にしたい私だ。
「成る程な、元々この島はパイルラ王国の領土だ。故に本来ならこの島の島民を守るのもオレ達の仕事なのだが……恥ずかしい話、オレ達と島の人々は友好な関係を築くのに失敗しているからな……」
え?この島のやたらフレンドリーな人々に嫌われてんの?。
「それはまたっ一体何を……」
なんかスゴイ気になる発言に私は聞き返した、するとそんなタイミングで……。
「ビンゴ隊長!」「一人で先行は勘弁してください」「部隊到着しました!」「イケメン死すべし」「村は!……なんともなっていない?」「モンスター達の襲撃とは誤報だったのか?」
なんか黒ずくめな連中がぞくぞくと来た。
しかも真面目なヤツとイケメンに文句や殺意を向けているヤツと様々だ、見た目は統一されているけどな。
流石は隠密部隊である、隊長が異常に目立ちすぎなんだよ。これだからイケメンは……。
「すまない、騒がしくなってしまった。実はオレ達も村にモンスター達が襲撃していると報告を受けてな、大急ぎで駆けつけようとしたんだ」
「村の人々とは関係が良くないのでは?」
「その通りだ、さっきも言ったがこの島の島民を守るのも本来オレ達の仕事なのだ、しかし関係が悪くなったのはオレがここに来る前の更に前……まぁそれなりに昔にいた責任者がした愚かな行動が理由だからな。島の人々に非はない」
成る程、以前いた責任者の尻拭い的な?私にも身に覚えがある話だ。きっとその責任者が島の人々にあまりにも横暴な態度取って反感を買ったんだろう。
まぁ実態は知らないけど、そんなもんだろう。
しかしこのイケメン、さっきからずっと心意看破の魔法で心の表層、感情止まりだけどずっと読んでいるのだが何一つウソとかは言っていない。
悪意や作為の意思もないし、本当に村の人々を心配してこのイケメンを始め隠密部隊の人々も来ている。おかげでどこが隠密部隊?って感じで集合しているのがなんか可笑しい。
ちなみにマイク(偽)が村の人を心配しているってのも本当である、じゃなければ一人でダンジョンに行けとか速攻でお断りしてるよ。
………しかし中年魔法使いを捨て駒同然でダンジョンに向かわせたいと言う考えはちょっとあったのは魔法で確認済みだからな、マイク(偽)。
所で本物のマイクは一体どこにいるんだろうか?私は1度も会っていないぞ。
野郎だから別に会いたくもないけど。
「お前達、悪いが既にモンスター達は駆逐された後だ。誰にかと言うと俺も直接見た訳ではないのだが……」
とか何とか言いながら自信満々の顔でこっちを見てくんなよイケメン、イケメンに見つめられてもこっちは苛立ちしか覚えませんぜ。
隊長の態度を見て部隊の人々の視線まで集まる、私みたいな冴えないおっさんは注目される事に慣れていないので早々に退場したい。
「すみません。そろそろ村に戻ろうと思いますので…」
「分かった、部下がもしや色々と失礼な真似をしたかも知れないからな。いずれ時間が空いた時にでも謝罪に向かおう」
「はぁっ……分かりました」
……って、え?今気付いたらこのイケメンとまた合うことになってたんですけど?。
(ご主人様、気をつけて下さい。この男は私に気付いていながらそれを悟らせなかった男です、腕も立つでしょうが頭も相当に回るかと……)
でしょうね、これっ恐らく気付いたらダンジョン探索に協力することになりそうで怖いわ。
私は別に誰かから極端に利用されるのを嫌がるタイプの社畜ではない、ちゃんとした対価と待遇さえあれば喜んで働くタイプの社畜だ。
だからこそ働きに見合った対価と待遇を一切用意しないブラックな人間が社長の会社に勤めるのはゴメンだけどな。
言うだけ言うとイケメンとその部下達は全て撤収していった。
私も村に……いやっイオちゃんと子供達を回収しなくちゃな。
(リエリはそのまま他のモンスターが来ないか巡回を、ユーリ。貴女はイオさんと子供達を連れて村に戻って来て下さい、村のモンスターは既に対処しましたから)
((分かりました))
そんな感じで事件は一段落である。
今日はもう頑張ったし残りの仕事は明日にしよう。
◇◇◇
そして翌日、私は魔法部屋に作った私の個室。
マイルームで一夜を明かした、部屋も広くてベッドも大きい、更に本棚には私好みの書籍(マンガにラノベ)ばかりが並んでいる。
昨日色々頑張ったから私自身へのご褒美に、前々から考えていたその手の書籍を私が元いた世界に存在する物を元に魔法で複製して召喚したのだ。
マンガもラノベも1巻から最新巻まで網羅されている、おかげで私は昨日は徹夜で色々な書籍を読みふけっていた。
私は子供の頃から本の虫だったのだ。
おかげで今は何時か知らないが、大分お昼に近い時間帯ではないだろうか?。
(おはようございます、リエリ、ユーリ)
(おはようございますご主人様)
(おはようございますご主人様……ッ!)
ん?なんかユーリの方が少し騒がしい感じである。
(ユーリ、何かありましたか?)
(………いえっ少しお待ち下さい、すぐにこのオッパイ女を黙らせますから)
え?イオちゃんが拠点にきてんの?昨日はユーリからチクられた、使えない魔法使い扱いが妙に響いて子供達と共に安全を確認すると後はエレナちゃんに任せて早々に拠点に撤収した私だ。
その後は魔法部屋の魔法でこの外見が存在しないが内装が超高級ホテルの広々とした部屋を思わせる部屋で一夜を明かしたのだ。
流石にまだこの部屋には村の人やエレナちゃんでも呼べないからな、そしてまたモンスターが来ないかを警戒してユーリには拠点の方に残って貰ったのだが……。
どうもその拠点にイオちゃんが訪れた様だ、しかもユーリの言葉遣い的に何やら一悶着ありそうな予感。
(ユーリ落ち着いて下さい、私が支度を済ませてそちらに向かいますからそれまで待って下さいね?)
服装をラフなシャツとズボン(これらはナトリスとかで買い集めた)を脱いでいつもの冒険者装備である革鎧やブーツを着込む。
「……っと着替える前に歯磨きと顔も洗わなくては」
つい急いでいると身だしなみが疎かになるのって中年の人には割と多い気がする。
本当は落ち着いて朝食とか取りたいっとか考えながら部屋に出現させた魔法陣に乗って拠点に転移した。
そして部屋に到着。
見るとユーリがイオちゃんを拠点には一歩も上げずに外で何か言い合っていた。
おかげで拠点になんて殆ど住んでいない事がバレないですんだ、一応魔法陣は消しておこうかね。
(リエリ、魔法部屋への魔法陣を消していいですか?)
(はいっ私は既に村の回りを巡回していますので問題ありません)
……どうやら仕事を始めていないのは私だけだった様である。
なんか悪い事をしたなって感じながら私はイオちゃんと言うこの拠点初のお客様をお迎え……。
「流石にここに女性は呼べないな」
拠点を見回すと床は地面、壁と天井は石という牢屋みたいな内装に、それを用意した私自身が絶句した。
こんなファンタジーゲームの牢屋みたいな場所にあの巨乳美女は呼べないだろう、リエリもユーリもその辺りの突っ込みをしてくれないのが唯一の不満である。
仕方ない、近くにイオちゃんがいるから目立たない感じの魔法でこのあり得ない内装を改造だ。
そこで私は幾つかの魔法を発動させる。
【世界よ、その時を停めよ。
魔法が発動、世界の時間が停まる。
時間を停めてしまえばイオちゃんに気付かれる事はないだろう、そして……。
【彼の世界に在りし物を此処へ。
魔法が発動すると目の前にイスとテーブル、そしてその上にお菓子の類いとコーヒーカップが出現した。
私が前の世界から書籍を召喚した魔法もこれだ。これは要は此処とは違う世界に存在する生物や道具を召喚する魔法である。
元となった物を複製した物を召喚するので泥棒ではない。
ジャンボジェット機とかも喚べるから大抵の物は喚べる、人も喚べるけど……私は決して誰も喚ばない事を此処に誓う。
だってこの世界に喚びたい人とか、いるにはいるが迷惑行為になると私も嫌なのでしない、絶対にしない。
ちなみにこれは召喚魔法だから私が他の世界に行くことは出来ない、そんな魔法があるかどうかは……ノーコメントである。
だって前の世界なら私は既に死んでんだし、あの島国にこれと言った未練もないから興味もないんだよな。
「おっとそれよりも先ずはもう少しこの部屋を見れる様にしなきゃな…」
と言う訳でおっさんの一人でビブォーアフターの開始である。
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