第20話『旅での秘密(トイレと風呂)』
◇◇◇
そして朝が来た。
希望の朝だ……知らんけど。
昨日は石の床にバックパックから取り出したあんまりふんわりしていない毛布っぽい物を身体に巻いて横になった。
冬だったら底冷えと外気で死んでいた可能性すらある真似をしていた私だ。
ユーリはビー玉モード、リエリはアレリアちゃんメイドの状態で寝ずの番をしてくれていた。
別にゴーレムに睡眠は不要らしい。
「お早うございます、ご主人様」
「おはよう。リエリ」
(お早うございます、ご主人様)
「おはよう。ユーリ」
挨拶を済ませたところで……トイレに行きたくなってしまった。
歳を取ってからかね、朝起きるとぜったいにトイレに行きたくなるのは。
よしっあそこに行くか。
「ユーリ、リエリ。私は今からトイレ、それとお風呂に入ろうかと思いますが…」
(ならまずはリエリが)
「分かりました。先ずは私がご主人様について行きます」
「分かりました。なら魔法を使いますね」
話が決まったので私はある魔法を発動させる。
【我が力を持って、ホテルのワンルームへの道を!。
魔法が発動すると石の部屋の真ん中に緑色の魔法陣がバンッ!っとあらわれた。
これは転移の魔法陣である、乗るとある場所に転移する。
っと言う訳でその場所に行こう。
………よしっ到着だ。
移動はほんの一瞬、魔法陣に乗った瞬間視界が真っ白になると次の瞬間別の場所にいる。
この感覚は慣れが必要だな。
私が転移した場所は、まるで高級リゾートホテルの一室の入り口である。
そうっそこは地球にあるとある島国や外国にある様なタワマンタイプのホテルである。
まぁ私の魔法で造ったのは内装だけでそれ以外のホテルの外見とかは一切存在しない。
窓とか一切存在しない部屋である、外に出る出入口とかはないのだ。
それはこの部屋が魔法で作り出した亜空間に存在するからだ、故に泥棒とかの侵入もあり得ない。
とても安心出来るプライベートルームって訳だ。
………そしてなんでこんな物を私が用意しているのかと言うと……ぶっちゃけ最初の町リベロを出てから1日目でトイレとお風呂についての問題にぶち当たったからに他ならない。
冒険者になったんだし、旅をしてんだから風呂なんて1日入らなくてもっとかトイレ?男は黙って野ぐそだっ!……とか思っていたのだけど。
正直に言って、無理でした。
まずはお風呂についてだ。私は前の世界では基本的に毎日お風呂に入るしシャンプー、リンス、ボディソープも毎日当たり前だがしていた。
そんな私が、1日旅をしてずっと歩いて、時にはモンスターと戦って。汗もバンバンかいて……それでその日に風呂に入らなかったらどうなる?。
当然だが、その先は地獄だった。全身が臭い、全身が痒くて仕方ない。特に頭が痒すぎてどうしょうもないんだよ頭が!って感じであった。
そしてトイレ、モンスターが普通にいる世界で穴を掘っていたしますって予想以上に勇気がいる作業でしたよ。ケツプリ状態での奇襲を防ぐにはゴーレムツインズの力を借りればいい、しかしだ。
あのゴーレムツインズに見られながらとか小さい方ならともかく大きい方は……なんか嫌だ。恥ずかしい。死にたくなった。
そんな理由で不自由を楽しむってのを心情にしていた私は速攻で意見を変えてお風呂とトイレが完備された絶対に安全なプライベートマイルームが欲しい!って事になり……。
魔法でチャチャッと造ってしまった訳である。
おっとトイレトイレ……。
それから私はトイレを済ませ、固い床で固くなった身体をほぐす為にお風呂に入った。
朝風呂である、仕事に追われていた前の世界ではとてもしようとは思えなかった真似だが、仕事に追われなくなった異世界1人旅(ゴーレムが二体いるけど)では実はちょくちょく朝と夜の二回お風呂に入る様に様になった私だ。
………当たり前だが、中年のトイレや入浴シーンなんぞ全てカットである。二度言う、当たり前だ。
あんな汚な……いや残念な物を描写する価値なんてないんだよ。これは世界の真理だと自負する。
ちなみにリエリとユーリは1人ずつ交代でここに来て毎日入浴をしている、トイレは必要ないがお風呂は入るらしい。
ゴーレムツインズ曰く、人間の姿でも汗などをかくわけではないらしいのだが、着ている服や髪の毛にはホコリ等がつくと汚れるらしく、そんな姿ではご主人様である私に失礼だとか。
交代しながらなのは元の場所に戻った時に、その場所に誰かいると余計な説明をする手間がかかるのでそれが起きない様に見張りとして残ってもらっているのだ。
「おっこれこれ……」
トイレもお風呂も済ませた私はマイルームの冷蔵庫から缶ジュースと軽く食べられる物を口に入れる。
普通に冷蔵庫がある。中身も充実しているし、エアコンもあり冷房や暖房も完備されている。
更に私の自室として一室用意もした、そこにはベッドと本棚があり、私の魔法で前の世界からマンガやラノベやら雑誌やらを召喚して既に本棚は本が並んでいるのである。
本当に、一度ここに来ると毎度もうここに引きこもってしまいたくなる誘惑に抗うのが地味に大変だ。
朝の用事を手早く済ませて私はマイルームを後にする、私が向こうに行けば待っているユーリも直ぐにこっちでお風呂に入れるだろう(ここの風呂場はかなり広いんだよ)。
ってな訳で今お風呂に入ってるリエリはほっておいて向こうに移動する。
そしてユーリに話をすると二つ返事で向こうに転移した。
あの二人は本来私の護衛って立ち位置で召喚した筈なんだけど、近頃は私も魔法での護身術にも慣れてきて彼女達も自由にしてもらう事がしばしばである。
本当に最初は『私達は……』見たいな機械的な言葉遣いだったのにいつの間にか普通の人間見たいに話してくるから私もいつの間にやら普通に知人と話している感じになっている。
しかもいくらでも美少女や美女に変身出来るもんだから最初は囮や盾としてゴーレム魔法で創ったのに、人情的にもうそんな真似とか出来ない私だ。
さてっマイルームで朝御飯も済んだ事だし、今日は何をしようかね……ダンジョン?それはもう少し後でもいいだろう。
野郎との、それも身分とかを偽るヤツとの約束とかそこまで律儀に守るわけないじゃん。
そうだっイオちゃんの授業とか覗いて見てもいいのかな?是非ともあのおっぱ……いやっ彼女の教師としての働きとか見てみたいのだ。
「………よしっ聞いてみるか」
今日の行動が決まったぜ。イオちゃんのOK次第だけどな…。
そして私は昨日イオちゃんとその生徒達を見かけた場所に歩いて向かう。
するとその場所にはイオちゃん達の姿はなかった、あれ?どこか別の場所で授業をしてるのか?それともお休み?。
私は近くにいた村人の青年に話を聞く。
「すみません、昨日ここで授業をしていた子供達とその先生は今日はここにはいないのでしょうか?」
「ん?先生?ああっあの島の外から来たエルフの女の人かい?」
どうやらイオちゃんは本物のエルフの様だ。
まぁ美女の耳が尖っていたらラノベ好きは自動的にエルフと認識する様に出来ているのさ。
「はいっそうです」
「あの人なら確か魔法の実習をするとか言って村の近くの森に行ったよ」
なるほど森か、確かに船から荷物を運ぶのについてきてこの村に来たときに道中で森を見かけた。
「あの魔法に強い、この森のモンスターは大丈夫なんですか?」
「あのモンスターのなら滅多に現れないよ、だからこそ現れたら大変なんだけどね」
そうかっ島の人が言うなら心配ないな、それならイオちゃんってどうしてこの島に来たのかとか聞いてもいいかな?以前イオちゃんに聞いた時は何となくそんな雰囲気じゃなかったからな、気になってたんだよ…。
「それなら安心ですね、それとイオさんは何故この島で教師の様な事を?」
この島って学校とか無いんだよ、そんな場所に教師の仕事で来たとは考えにくい。
あの獣人の事もある、まさかとは思うけどその辺りについて最小限でも調べて起きたい私だ。
「教師?ああっそれはね。何でもこの島の子供達が魔法の才能があるって話を聞いてどっかの国から一人で来たらしいよ?」
確かに他の国から来てたとは言ってたけど、まさかそんな噂一つで?それが本当なら凄い行動力だ。
「そんであの子達が本当に気に入ったらしくて、自分の国の学校に通わせたいって子供達の親に色々と相談しているって聞いたな」
この島から他の国へ?……イオちゃんってクールで理知的なイメージあったけど、もしかして熱くなると回りが見えなくなる性格なのかね?。
そんなん親御さんが首を縦に振るわけないじゃん。
「……ここだけの話、何度断ってもしつこく勧誘してくるし、しまいには勝手に子供達を集めて授業とかしてるって今じゃ呆れ半分感心半分って話してたよ」
「なっなるほど……」
イオちゃん。せめて親御さんから許可を取ってから授業をしてあげて。
島の外から来る人間の印象が悪くなるから。
なんか一気にイオちゃんの事を知れて少し戸惑ってしまった、まぁ本人から聞いた話じゃないしこれはオフレコだな。
私は話を済ませて青年と別れてイオちゃんがいる森に向けて歩いて行く。
ちなみに私は1度合った相手なら本人の魔力を感知出来るのである程度離れていても森の何処にいるかくらいなら分かるので余裕なのだ。
森に入った。ゲームとかなら何とかの森とかってカタカナな名前が名付けられてそうだがそんな物はなくただの森である。
見渡す風景は前の世界での田舎の森と大差ない、しかし木々が密集して生えているから武器とかは取り回しが大変そうだ。私は手ぶらだから関係ないけど。
バックパックは拠点に置いてある、リエリかユーリが残ってお留守番とかしてくれているだろうから心配ない。
「むしろ問題があるとすれば、それはイオちゃんにあった時だよな……」
だって今イオちゃんは生徒である子供達を本当に学校だか学園だかの生徒にしようと頑張っている最中だ。
そこにこんなブサイクな中年が授業参観とかしたらその仕事の邪魔になるのではと心配になる。
視界の端におっさんがいるだけで気分を害してしまう女性とは世界を変えてもいるもんだよ。
おっと、そんな事を考えていたらイオちゃんの青空教室を発見……ん?。
「ウワァアッ!モンスターだっ!」「何でモンスターがいんの!?」「昨日モンスターを倒したって言ってたのに」「そうだよ!だからしばらくはこの森も安全な筈なのに」「おかあさーーん!」
見ると子供達がパニックを起こしている、何故か?それは完全にあの子達の向こう側に見えるデッカイ蜘蛛のモンスターの群れが原因に違いない。
「落ち着きなさい!あの程度のモンスターなら貴方達の魔力と魔法の才能があれば十分に打倒出来ます!」
イオちゃん、流石に子供達にそれは無理な注文だよ。
子供達は完全にビビっている、それを見たイオちゃんは自身が魔法でモンスターを打倒する事で子供達を鼓舞しようと考えたのか前に出た。
「我が魔法の前に散りなさい!ストームブリンガー!」
イオちゃんの魔法は魔力で生み出した風を集約させて1本の巨大な風の剣を召喚する魔法の様だ。
それをイオちゃんが操り、風の剣は独りでに宙を動き回る。
そして風の刃は蜘蛛をなぎ払う!。
ゴォオオオオオオオオオオオオォンッ!。
「ふん、これで……………なっ!?」
しかし残念ながら魔法に異常なまでに強いこのラブーンと言う島のモンスターは平然と突き進んで来ている。
これにはイオちゃんも驚愕だ。
「そんなっ!風の上級魔法で傷ひとつつかないなんて、あり得ない……」
これは………来たかもしれないな。
何が来たのかと言うと、私の魔法を披露してイオちゃんに一目置かれるイベントがだよ。
魔法の才能のある子供達には熱心にコミュニケーションを取る彼女、なら魔法の才能やらその威力をこれ見よがしにかませば……。
或いはこんないい歳こいた中年でも彼女に異性として見てもらえる可能性が……コンマ1パーセントくらい有るかも知れないのだ。
それは本当に微かな、僅かばかりの可能性だ。
しかしその可能性に私は全てを賭ける!。
私が打算と下心満載で魔法を発動しようとした時である。
「ライトニングバースト!」
ボッガァアアアアアアアアアアアンッ!。
………………………え?。
「大丈夫ですかイオさん!それにみんな!」
そこには輝く笑顔が眩しいエレナちゃんが立っていた。
君……強かったんだね。
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