第17話『夢を見る島ラブーン』
大海原を船が進む。
その船の上には何人かの乗組員がいた、そして彼らとは雰囲気……っいや見た目や人種から違う男がいた。
バックパックを背負い白いシャツに革鎧を着込み、黒のズボンとブーツをはいている。剣や槍といった武器の類いは見受けられない。
中肉中背のおっさんで乗組員が世話しなく動いているのをのほほんと観察したり青い水平線に視線を向けたりしている。
そうっ私だよ。
私は色々ありナトリスを速攻で脱出、次の行き先を『悪魔の島』と呼ばれる島にしたのだ。
まぁ島に行き先を決めたのは成り行きである、理由とかないよ。
「ようっアオノ、もう少しすれば島が見えてくるよ楽しみにしてるかい?」
「はいっもちろんです、タニアさん」
ボーイッシュな感じの短い黒髪と赤い瞳が印象的な姉御な感じの女性、それがタニアちゃんだ。
ボーイッシュでありながらお胸さんは女性らしさを十分に主張していますな。
…別に『悪魔の島』とか興味ないんだよ。
本当は私はこのタニアちゃんとの船旅に心を奪われたのさ。
しかしこの船に乗って数日の間に他の乗組員に聞いたのだ、彼女は実はレズビアンなんだってさ。
しかも意中の相手も決まっているらしく、野郎連中は残念がっていた。
残念である。実に残念である。その事を船に乗った後に知った私は既に後の祭り。
内心ガックリしながらの船旅であった。
「……………」
もしも私がエロいラノベの主人公だったら物凄い魔法に物を言わせてレズだろうが何だろうがもうっヒィヒィと……まぁやらないけどさ。
タニアちゃんとなんてことない会話をしながらも自身の良心と欲望が争う私だ。
「しかしいくら冒険者って言ってもあの『悪魔の島』に行きたがるなんて、アオノは中々見所があるね!」
「私などまだまだ駆け出しもいいところですよ」
「冒険者に駆け出しもベテランもないよっ!冒険して、生きて帰れるヤツが正義なんだ……」
「タニアーー!ラブーンが見えてきたぞー!積み荷の下ろし作業の準備にかかるぞ!」
「はーーいっ!そんじゃなアオノ。私は行くよ!」
「はいっ分かりました」
言うとタニアさんは船内に走って行った、ズボンが短いから健康的な太ももが……船の乗組員として働いてるからなのか日焼けした肌との相性は抜群だ。
「……おっとチラ見とかしている場合じゃないか。あれが『悪魔の島』とやらか?」
私は遠くに見えてきた島と自身が持つ一冊の本に交互に視線を向ける。
私はこの世界に来たときに貰ったガイドブックと言う名の魔導書を開く。
このガイドブックはぶっちゃけチートアイテムだ、私が行くと決めた目的地について出てくるモンスターの情報から周囲で取れる薬草とかのアイテムの一覧。
更にはそこにある町や村の情報まで載っている(ってか私が望む情報にページの内容が書き変わるのだ)。
………なのだが。
『夢を見る島ラブーン』
『この島は、夢を見ている……』
…これだけである。本来ならもっとずっと多くの情報が記される筈なのだが……。
それに島の呼び名すら違う。悪魔の島なのか夢を見る島なのかどっちなのだろう。
明らかに普通の島ではなさそうだ。
確かにタニアちゃんが言うように……冒険の気配を感じる私だ。
もうじき島に到着である。
◇◇◇
そして島に到着、降り立ったのだが島の人間は誰もいない、てっきり船着き場の近くにでも村とか作ってるのかと思ったのだが。
船着き場はあるがそれだけだ。他には村と呼べそうな物や家は何もない。
しかし船の乗組員達は特に疑問もないのかどんどん積み荷を下ろしている、その量も結構あるな。
取り敢えずタニアちゃんがいるから話を聞こう。
「すみませんタニアさん、この島の人々はどこにいるんですか?」
「ん?確かこの先の草原に村があるらしいよ?」
「そうなんですね、てっきり私は船着き場の近くに村があるものだと思ってました、それに船が来ることを知っているなら誰かしらいるものかと…」
「ああっそれはね。あたしらも金を貰ってこの生活物資を運んじゃいるが大半はイヤイヤやってんのさ、だからあたし達が船を出してから取りに来る様に話をつけてんのさ」
「そうなんですね、分かりました」
……一体どれだけこの島の人々は嫌われてんだろうか、なんか少し可哀想な気がして来たよおじさん。
小一時間程で積み荷をを下ろし終えた。
「それじゃあ、あたしらはもう次の島に行くよ。次にここに来るのは一月くらい後になるだろうけど、正直大丈夫かい?」
「私も冒険者ですから、自身の身の安全くらいは守れますよ」
「……そうだね。それじゃあアオノ今度来るまでに島の悪魔ってヤツラに食われるんじゃないよ!バイバイ!」
悪魔って人を食うの?なんかウワサに変な尾ひれが付きまくってる気配がするわ……。
「はいっ色々とお世話になりました」
言って私は軽く頭を下げる、タニアちゃんをはじめとした船の乗組員達は次々に船に乗って数分後には船は出発した。
「………さてっこれからどうすますかね?」
(恐らくここで待っていればこの島の人々が物資を取りに現れる筈です、そこで宿屋や冒険者ギルドの場所を聞くのはいかがでしょうか?)
(私も同じ意見です)
リエリの意見にユーリ、そして私も賛成だ。
ナトリスもそうだがこの辺りは昼も夜も気温があまり下がらず寒くない、過ごしやすいお陰で旅の道具もあまり買い揃えずにすんでいるのだ。
旅の防寒着とか、あるのか知らないけどそんなのまで用意してたらこのバックパックも直ぐにパンパンになってしまうだろうし。
………そう言えば船の旅なんてのも、随分と久しぶりだったな、いやっ旅なんてしたことないから船に乗ること自体が久しぶりなんだ。
「………今度船に乗る時は綺麗な女性と一緒がいいなぁ~」
((……………………))
思わず本音が口をつくな。
そして待つことしばらく。
(……ご主人様、どうやら島の人々が来たようですよ?)
「ユーリ教えてくれてありがとう、それなら……ん?あれは……」
ユーリが私のポケットから出てフヨフヨと宙に浮いて現れた数人の一団を教えてくれた。
しかし何やら慌ただしいぞ?ってかデカい何かに追われてね?まるで…。
(ご主人様、ユーリ。あれは恐らくモンスターか何かに襲われています)
………マジか。そう言えばこの島にも何種類が出てくるモンスターの記載がガイドブックに載ってたわ。
「……急ぎましょう。リエリは人の姿に変身して私と一緒に戦闘に参加して下さい、ユーリは念の為ですがその姿のままで魔法で姿を隠して島の人々達の方にも注意を払って下さい」
悪魔だなんだ言われてるからな、一応である。
((分かりました!))
私の指示にしたがってユーリはビー玉モードのまま姿を消した、そしてリエリはその姿を変える。
なんとアレリアちゃんに変身した。綺麗な長い金髪と碧眼の美女で年齢は二十代前半、スタイル抜群だ。
「………なんでメイド服何ですか?」
「……嫌でしたか?この女性に変身出来る様になる為にあの城に潜入した時にメイド服も再現出来る様にしていたのですが……」
嫌じゃないです、メイド服最高だと思います。
スカートが短くて太ももパーン、胸の谷間がドドーンって感じのブロンド美女メイド。
素直に言う。最高ですよ、当たり前だろう。
「嫌だなんてとんでもない。素晴らしいと思います、それでは行きますよ!」
「はいっ!ユーリも見えませんがしっかりついてきてくださいね」
(当然ですよ)
さてっ少しバタバタしたが助っ人おっさんのお出ましだ。
一応この世界でモンスターと戦ってレベルアップ的な作用が働いたのか中年オヤジの身体が大分軽く感じる。
ダッシュしても息切れしない身体って最高だよな。肘も痛くならないこの中年ボディこそ、この世界で一番のファンタジーの産物である。
視界も良好だ。どうやら狼っぽいモンスターに襲われているようだ。
よしっここは私の魔法で……。
「助太刀しま」
「グロリアスフレア!」
「フリージングトライデント!」
「ライトニングキャノンボール!」
ボゴォオオオオオンッ!。
パキィイイイイインッ!。
バガァアアアアアンッ!。
……え?今の魔法って全部この世界で上級魔法って呼ばれてるクラスの魔法じゃん。
金色の凄まじい勢いの火炎放射や三ツ又の氷のデカイ槍に光る巨大な玉がモンスターに直撃である。
狼型のモンスターなんてレベルに使うとか完全にオーバーキルだろ、見ろよ跡形もなく……。
「ガロォオオオオオオッ!」「グルルルルルルルッ」「ヴぅヴヴヴヴヴヴヴヴヴっ!」「グルルルル」「ガゥガァアアアアアッ!」
嘘だろ、全くの無傷じゃん。
どうなってんだよ。
「くっ!コイツらどんどん魔法が効かなくなってきている!」
「ああっこのままでは……」
「まだだ!そう簡単に諦められるかっ!」
……え?魔法が効かない?そんなんアリかよ、魔法が効果ないんなら中年魔法使いの出る幕じゃ……ええいっ!こうなりゃあ出たとこ勝負だ!。
【不可視の刃よ、切り裂け。
「ッ!?誰だお前は!」
「私の魔法で足止めをします!ここは逃げて下さい!」
魔法が効かないって言っても少しは効果があるかも知れない、ここはおっさんの頑張りどこ…。
ボタタタッ。
「……ご主人様、敵戦力の全滅を確認しました」
……あの狼ども、普通に私の魔法で首チョンパされたぞ?つまり普通に雑魚だった?。
私の魔法一発で全滅しちゃったぞ?。
どうなってんだこれ…あっ島の人々がこちらを見てるな。
取り敢えず愛想笑いを浮かべてトークだ。
「……すみません、助けは必要だったでしょうか?勝手に攻撃してしまいましたが…」
「………アンタは、もしかして島の外から来たのか?」
すると人々の中で一番ガタイがいいマッチョな獣人が話をしてきた。
何気に獣人と話すのは初である、どうせならケモミミの可愛らしい獣人との会話を初めてのトークにしたかったんだけど。残念ですな。
「はいっ今日ここに来た船に乗せて貰ってこの島に来ました」
「何をしに来たんだ?」
「私は冒険者です、この島にダンジョンがあると聞いて一つ挑戦をと…」
「……その歳で冒険者?見た目によらないな。別に来る分は構わないが、そのダンジョンも特に何もないぞ?」
「まぁ腕試しといいますか…」
「……ふんっあの厄介なモンスターを容易く片付けた腕前なら、そんな気も起きるか。いいぞっ助けられた礼もしたい、生活物資を運ぶついでだ村まで案内するぞ、そして助かった!礼を言う」
すると皆が同時に頭を下げた。
何だよ普通にいい人達じゃないか?。
「ありがとうございます」
助けたのにいきなり戦闘とかにならなくてよかったわ。悪魔なんて噂は訳の分からないデマの可能性に一票を入れようかな。
島の人々は降ろされて放置されている物資とやらに近づきそれぞれが背負ったりして運ぶつもりらしい。
そして私はこの島の住人とともに村に向かうことになった。
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