第16話『青き旅人は海を越えて』
「マレクセイ様?どうしてここに……」
「ああっすまないな、アオノよ。屋敷では満足に話せないし下手に他者に聞かれるのも困る、だから貴殿の居場所を勝手に調べさせてもらった」
「いえっこちらも宿の場所を話さずにいたことを謝ります」
「何を言う…あの場でその話をすれば娘にも聞かれた、そうすれば……いやっこんな話をしに来たのではないな…」
流石にあそこで宿屋がどこか話すのはな、アレリアさんのあの剣幕では怒鳴り込んで来たかも知れないからな。
「話は浮浪者達の生活への支援について、ですね?」
「……そうだ、やはり浮浪者への生活支援にあれほどの大金を出すなど正気とはとても……ならば何か思惑の1つでもあるのかと疑う者もいるのだ」
「……………」
「その様な状況ではいくら資金が潤沢でも、これだけ大掛かりな計画を成功させるのは難しいだろう…」
……正論だ。私はお金だけを用意してこれで全て丸くおさめて下さいっと無責任にいきなり言ってきた、このナトリスでは完全なる部外者だ。
町のホームレスへの勝手なアプローチも本来ならどこからともなく現れる横槍で直ぐに邪魔が入るんものだ、それを嫌ったからこのマレクセイに直接話を持っていったのだ。
しかしその手の活動に前の世界でも何一つとして参加してこなかった私には、知識や能力で彼らに出来る事などない、そもそもホームレス達がそんな助けを求めてる訳でもないかもしれない。
あくまでも私の自分本意のお節介と自己中な理由での真似でしかない。
「……分かりました。私が彼らを無視できなかった理由を説明します」
「…………………」
「……っといってもそんな大した理由はありませんよ?ただこの歳になると何度か命について考える機会と言うものがありまして……」
会社の誰かの親や昔から付き合いがある人間の家族の葬式とかな。
………私の場合両親もすでに他界している。
「そうすると考えてしまうんです、今の彼らが無為に過ごす今日と言う時間について……命、人生、それらがどれだけ有限だと言ってもそれを本当に理解出来る人は殆どいません……」
私自身も本当はどうなのかっと考え出すときりがない話だ。
「しかしそれでも私は思ってしまうんです、もしもあの方達がその人生を今より遥かに有意義なものにしたその時、自身が何も考えずに生きていた今日からの日々とは、昨日より過去に逝ってしまった人達にとってどれ程の努力を労しても辿りつきたかった未来なんだと言う事に……」
少々芝居かかった物言いだな、言っていて相当にキモく感じる。
それでも言い切るけどな。
「……いつかその事には気づいてくれる、そう信じたいと思ったからこその、あの人々への未来への投資っと言ったところです……かね」
残念ながら本来私は人様の為に何かしたい、なんて考えて動く人間じゃない。それでもこの世界で魔法なんて力を持って生きていくと決めたのなら、せめてこの魔法は………。
「しかし何故それほどの魔法の腕を持つ貴殿がその様な考えを……」
「……それは私が、この魔法は誰かを助けると言う
「……………………」
おこがましい考えだよな。私もそう思う。だからそれとなく事実も混ぜておく私だ。
何故ならこの魔法はほぼ貰い物だから。
やがてマレクセイが口を開く。
「………分かった、アオっいやアオノ殿。貴殿の話に私も乗ろう」
アオノ殿っか、何かこのおっさんの私への株が大分上がってないか?アレリアさんの好感度もこれくらい……ん?何故私はゲームの事なんかを…。
まぁいい、領主である彼の言葉なら信じれるだろう、怪しいと感じたら心意看破の魔法で全てを丸裸にすればいい訳だし問題ない。
……ただ個人的にはマレクセイを信じてみたいのであくまでもその時はの話だが……。
今は素直に礼を言おう。
「ありがとうございますマレクセイ様」
「礼など……本来なら私自身が動いて彼らの様な人々への救済を思案しなければならなかった物を……アオノ殿に尻を叩かれようやくと言う、この体たらくがむしろ情けない位だ」
「マレクセイ様は私の様な何処の者とも知れぬ旅の者の言葉にも耳を傾けてくれたではないですか、これに礼を言わないなどとんでもございません」
「……アオノ殿、その言葉づかいを……っいや失礼した、せめて様をつけるのをやめてくれないか?貴殿程の方に敬語を使われては叶わんのだ」
……さっきのは敬語自体をやめろって言いかけて止めた様だ。
昔読んだいくつかの小説で、主人公の言葉づかいをもっと砕けた感じに喋る様に言う登場人物がわりといたのだが、アレは私にとって意味が分からないな。
人の喋り方に一々注文をつける様な事を何故面と向かって言えるのか、彼らの精神は鋼鉄か何かで出来ているのではないかと思っている私だ。
それに直ぐに順応する主人公にもわりと引くがな……。
「……分かりました。マレクセイ…さんでどうでしょうか?」
「まっまぁそれでも構わない。……では少ないがこれを」
ドサリッと大きめの麻袋をベッドに置かれた。
「中には、金貨五百枚が入っている。今すぐに渡せるのは私個人の持ち分しかないのだ、しかし数日中には……」
「いえいえっむしろ貰いすぎですよ。これ以上は貰えませんよマレクセイさん」
「ハッ!?イヤイヤイヤッあれだけの獲物だ、どう安く見積もっても金貨数万枚は……」
「それらも含めて彼らの支援とマレクセイさんの領地の発展にお役立て下さい」
「ッ!……しっしかし」
まさか私の人生でお金を貰う貰わないでゴネる日がくるとは思わなかった、逆なら何度も経験しているのだがな。
……仕方ない。ここはアレリアと言うカードを使うか。
「あって困るものではないかと存じます、ああそれとっ娘さんが冒険者ギルドのギルドマスターと何やら噂が立っていましたよ?もう少し家族に目を向けて見るのも言いかもしれませんね」
「……………………………ほうっ?」
アレリアの話が出た途端、静かにっそして明らかに怖い気配が……どうやら親バカ疑惑は本物の様だ。
「……分かった、貴殿の話なら疑う余地もないのであろう?」
「………………」
「私はこれから仕事に取り掛かるとしょう、迷惑をかけたなそして色々とありがとうアオノ殿。失礼する」
「はいっお願いしますマレクセイさん…」
……イケメンめ、ざまぁみろぉ~~。
ん?何か呪詛の様な何かが聞こえた気がしたが、気のせいか?。
まぁこれで私に出来る事は終わりだ、後はマレクセイとホームレス達次第である。
実のところ人間1人の力なんてたかが知れてる、人からの手助けがないとどうしょうもない事は幾らでもあるのだ、しかし結局のところ、自分の人生は自分で切り開くしか方法はない。
この矛盾があるところが人間社会の面倒くさいところなんだよな。せめてどっちかだけが正論なら分かりやすいのだけど。
まっ兎にも角にもこれでナトリスでの仕事は終わったな。
「……やることがいきなりなくなってしまったな」
仕方ない、今から冒険者ギルドに行く気も起きないし。また昼寝でもするか、考えて見るとこの世界に来て私は冒険者として毎日クエストばかり受けていた気がする。
それの理由がこのナトリスのシエラと言うギルドの受付嬢にいい格好を見せたいと言うバカな学生みたいなのノリでだ。
本当にさっきまで私は何を考えていたのか理解出来ないな。
「…………寝るか」
私は少し眠った。
それから一時間程はたっただろうか。
私は目を覚ました。
「……んっんん~~っ!よくね……た?」
ムクッ。
ムクムクッ。
ムッキィーーーーーーンッ!(意味深な擬音)。
……何故だろう、今私は無くしていた何か大切な物を取り戻した様な安堵を覚えております。
………って言うか魔法が切れたんだコレッ、そんでっていうかオイッ………。
私は領主パパを前にして……。
「……何を……何を、あんなアホ丸出しな事を言ってしまったんだ私は!?」
眠気は一瞬でぶっ飛んで、次に訪れるのは圧倒的な羞恥心。
まるで舞台の上のイケメン極まる役者のごときやたらと長文なセリフ。
お前は何様やねんと突っ込んでしまいそうなその内容。
「何が未来だよ。何が世界だよ……頭おかしいだろ?」
ふとっ自身の現状を整理する。
アレリアちゃんからはゴブリンのごとく嫌われて。
シエラちゃんからは全く男として視界に入る事もなく。
そして領主パパにはキメ顔で恥ずかしすぎるセリフをブッ放つ中年。
アウトだ。全てがアウト過ぎるぞ青野よ……。
バカすぎてアホすぎてマジで泣けてきた。
私は頬に一筋の涙を流しながら、決断する。
「……もうっこのナトリスには居られない」
一刻も、1分1秒でも早くこの港町からマジで出ていきたい。
その意思に従い、私は新たな旅路に向かうと決めた。
◇◇◇
ここは港町ナトリス、つまり海に面した町で数多くの船が船着き場には並んでいる。
つまりとっととこの町を後にしたい私はこれから出る船のどれかに飛び入りで入れて貰うしかないのだ。
幾つもの船があるので私にはその辺りがさっぱりである。
だから誰かに話を聞こうか……。周囲を行き交う船の乗組員的な格好をした人々がチラホラとする中で……結構好みの女の子を発見。
速攻でターゲットを決めた私は、なるべく自然な感じで話し掛ける。
「すみません、少し教えて欲しい事がありまして、お時間をよろしいですか?」
「ん?なんだいおっさん。アタシに聞きたい事?別にいいけど……」
よかった、アレリアちゃんの件があったから見た目がどうしょうもないと言う理由だけで嫌われるかもって少しばかり心配していた私だ。
「実は今から町を出ようと考えているんですが、正直ここから行ける場所で冒険者が集まる様な町に心当たり等ありませんか?」
「あんた冒険者なのかい?ふーん人は見かけによらないねぇ。このナトリスから出る船で寄る町や行ける都市ってんなら『迷宮都市』や、『大湿原』があるハートライトかね?後は……『悪魔の島』……イヤッ彼処は……」
「……悪魔の島、ですか?」
「ああっいやっそう呼ばれてる小島があんのさ、一応アタシが乗る船が金を貰ってるから現地の連中に生活物資を運んでるんだが、どうも気味の悪いウワサが後を立たない島さ」
「なるほど、出来ればその島について詳しく知りたいのですが…」
「あん?確かにあの島にゃダンジョンが1つあるらしいが、かなり寂れてるって聞くよ?それとも……何か冒険の気配でも感じたのかい?」
「………フッそうかもしれませんね」
………嘘だよ。
ただ単にこの娘が乗る船がって言うから、話を弾ませる為に言ってるだけですな。
「本当に見かけによらないね、イイ冒険者じゃないかい。ならアンタも乗るかい?金は貰うが乗せてやるよ?丁度今から出発だよ!」
「…………お願いします」
その場の勢いで次の行き場所と乗る船を決めた私である。
これも旅の醍醐味ってヤツだ。
◇◇◇
私の名はユーリ。ご主人様によって生み出された意思持つゴーレムである。
現在の私はゴーレム・コアの状態で異界法衣の魔法を発動して空を移動しています。
私は今、ご主人様が気にしていたシエラと言うギルドの受付嬢と、アレリアと言う貴族の娘に私達がいつでも変身出来る様にその身体の一部(まぁ髪の毛で良いんですが)を無事にゲットしてご主人様の元に向かっていました。
これも出来るゴーレムの仕事です、ご主人様の好みの女性に変身するとご主人様は相当に嬉しそうな顔をしていましたからね。
それにしてもご主人様は女性にかなり興味津々な様子でした、まぁ相手を見る目がない連中ばかりでしたから悲しい事になってしまう事が殆どでしたが……。
ご主人様は絶大な力を持った魔法使いです、その気になればあらゆる女性を従え、侍らせるなど造作もありません。
ただそれを良しとしないお方なんです、しかし自分が造り出したゴーレムも見るだけとはどういう事でしょうか?。
確かに以前リエリが戦闘する際は私達はその身体を金属よりも硬くする事が出来ると言う話はしてましたが、それはあくまでもそうしょうと思えばであってそれ以外は……。
うーん、まさかご主人様が私達の性能を把握していないなんて事は……。
(……うんっありませんよね)
しかしのんびりするわけにも行きません、なんとご主人様は領主との話を終えてからしばらくするといきなり町から船に乗って出ていってしまった様なんです。
寝ていた様なのでリエリに護衛を任せて勝手に行動してたのが裏目に出ましたね。
しかし勝手に行動した私は万が一にも怒られたくありません、だからリエリには私が今急いで戻っている最中であることを秘密にしてもらっています。
そんな帰宅途中な私の近くについさっきまでご主人様と会話をしていた男、この町の領主とその付き人が一隻の船をそれとなく見送っていました。
あの船はご主人様が乗っている船です。二人は何やら会話をしているのでもしもご主人様に何かしようと企んでいないかと聞き耳を立てる私です。
「……やはり、既に行ってしまったか」
「申し訳ありません、マレクセイ様との会話の後、少しして突然船に乗ってしまいました。止める間もなく…」
「構わん、あれほどの者が一ヶ所に留まるとも思っていないさ……」
「……失礼ながら、アレリアお嬢様ではありませんがマレクセイ様がそこまで相手を敬う様に振る舞うのを私は初めて見ました」
「フフッゴードンよ、あの男が魔法を使う時の姿を見たであろう?」
「……確かに、あれはまるで……」
ご主人様が魔法を使う時の姿?。
ああっそう言えば、ご主人様は気合いと魔力を込めて大掛かりな魔法使う時は決まって青い魔力をオーラの様に纏い。髪と瞳が青くなるんですよね。
あれがどういった物なのかは分かりませんが、私は格好いいと思っています。
ご主人様は自身の変化に気づいているのでしょうか?まぁご主人様ですし、きっと気づいているんでしょう。
一々確認する必要もありませんね。
「あの姿、私が子供のころお前に聞かされた古い神話を思い出したよ…」
「世界創成の神話ですね……恥ずかしながら私もです」
世界創成の神話。それならこの町で人々の記憶を失踪事件で調査している時に私も知りました。
確かどんな話かと言うと……。
遥かなる過去、命と呼ばれる物が殆ど生まれる前の世界には三柱の神と呼ばれる悪竜と、その眷属だけが存在していました。
何故なら悪竜はそれ以前にいた神々を力ずくで排除し、世界を奪ったからです。
三柱の悪神竜は仲がとても悪く、果てしない時を争い、空は赤く染まり、海は荒れ狂い、大地は不毛の砂漠と化した。
そんなこの星に、何処からか一人の魔法使いが現れた。
魔法使いは青い髪と瞳の持ち主であり、魔法使いは3つの魔法を使った。
1つ目の魔法によって荒れ狂う海に『静寂』を与えて静かな大海原に変え、大海の悪神竜を滅ぼした。
2つ目の魔法によって不毛の砂漠に『生命』を与えて深緑の大地に変え、砂漠の悪神竜を滅ぼした。
3つ目の魔法によって赤く染まった死の空に『悠久』を与えて永遠の青空に変え、赤き悪神竜から力を封じた。
そして最後に魔法使いは世界に『癒し』と『祝福』の魔法を与え、世界は時を歩み始めた。
……これがこの世界に伝わる世界創成の神話です。神話なのに神はみんな悪者か負けてますね。
神話の事を私が思い出していると、ゴードンと呼ばれた老人が話しはじめました。
「…神話に謳われる赤き悪神竜は天の全てを司ると言われた絶対神、それを封じると言う偉業と空に青天を取り戻した事からその魔法使いは『青天の魔法使い』と呼ばれた……しかし神話に出てくる魔法使いとはまた……」
「あれだけの魔法を見せておきながら、まるで底が知れん。何よりその魔法は他者の為に使う物だと、何の迷いもなくと言うのだぞ?……私などとは視点が違うのだ…」
(この大陸の国々にいる多くの貴族や上流階級にいる者は街の浮浪者など道端の石ころ程にしか見えていない。しかしアオノには当たり前の様に1人の人間に見えている…)
「あの神話を垣間見る程の力を持つ者が、まさかそのような視点を持つ者だとはな……フフッ世の中とは案外捨てたものではないらしい」
「はいっその通りかと…」
あの領主はご主人様が乗る船に視線を向けています。
心意看破の魔法で確認しましたが敵意等はありませんね。なら良いのです。
(……貴殿との約束は必ず果たす、いつかまた、このナトリスに訪れたならその時はより栄えた町にしてみせるぞ)
「……その時までさらばだ。青き旅人よ」
どうやら杞憂だったようですね……おっと私もご主人様の乗った船を追わなければ。
……今度魔法を付与して貰う時は転移の魔法を付与して貰える様にお願いしようと決めました。
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