第14話『真のボス戦』

我々は領主パパの屋敷に向かう前にリヴァイアサンの素材について片付ける事にした。


確かにこんなヤバそうなヤツを屋敷運ぶとか普通はしないよな。


何でも冒険者ギルドの隣に大きなモンスター専門の解体業者の施設があるらしい。


……そう言えば、あの茶髪のイケメン。結局冒険者なんて一人も連れてくる事はなかったよな。

まぁ自分の身を守る事を1番に考えていた事は心意看破で確認済み。


恐らく口から出任せとかだったんだろうさ、仮にも領主の前でそんな事を言って大丈夫なのかと思わないでもない、まぁ相手は私より若く、私より遥かにイケメンだ。


………どんな目にあっても知らんがな。


そしてその施設にて何があったのかと言うと例の引っ捕らえたリヴァイアサン、アレからの素材ゲットタイムである。


まぁ生け捕り状態での素材の剥ぎ取りなのでどうなるかはわかる人にはわかるだろう。


そして何故に生け捕りにしたのか、それはあのウミヘビが生きてさえいれば私の回復魔法でいくらでも素材を……そんな話をしたら領主パパや素材の剥ぎ取り専門の業者、更にはリヴァイアサンさん当人からドン引きされた。


私の消失刃ロスト・エッジの魔法でリヴァイアサンの鱗を魚の鱗の様にアレしたり、尾びれや背鰭、そして牙やその血までと業者が素材になると言うものはあらかた頂戴した。


途中までリヴァイアサンが凄く偉そうにムカつく事を言ってきたので、このウミヘビ野郎!ってムッとした私が少し大人げなくなって少し乱暴に魔法で答えた。


するとしばらくしてそのリヴァイアサンが、もう勘弁してくださいって器用に目に涙を浮かべて泣き付いてきた、正直キモかった。


其を見た領主パパやお付きのジーさん、さらには業者の人達までもこれ以上は……って事を言ってきた。


一応コイツはナトリスの町を云々って話をしたが、リヴァイアサンがもう二度と人間に手を出したりしません、助けて下さい、お願いしますとあまりにも懇願こんがんしてくるので、仕方なくリヴァイアサンを解放した私だ。


大変な事になった身体を回復魔法一発で完治させてから(この時も領主パパや業者の人から軽く引かれたよ。まっ当たり前だよな)、その元いた住みかである外海とやらに転移の魔法で返した。


もちろん万が一同じような真似やこの町に復讐になんて来たら……っと脅しておいたから二度と現れる事はないだろう。


そしてリヴァイアサンの素材の買い取りの精算はとにかく今日中とかは無理との事、後日日を改めてからと言われた。


何でもこれだけ大量の海竜の素材が完璧に近い形で流通するなんてまずあり得ないとか金額が大きすぎて他所の組合からお金を集めないと払えないとか色々言われた。


まぁ領主パパの目の前でつまらない嘘は言わないだろう、それに私の魔法を見た後には私に不快感を持たせるのも躊躇したのかマッチョな解体業者の男たちは全員縮こまり必死に敬語で喋っていたので、あれが演技なら逆に大したものだと感心してしまうよ私は。


……っまとにもかくにもそんな感じでリヴァイアサンの素材剥ぎ取りタイムは終了した。


ちなみにリエリとユーリからその素材を少しだけ分けて欲しいと思念が来たので少しちょろまかしたのは私達だけの秘密だ。


そんな感じでリヴァイアサンとの戦いは完全に決着した。後は領主パパの家にお邪魔するのみだ。



そして馬車に揺られる事、一時間弱。私は何気に初めてこのファンタジーな世界の貴族様の屋敷に訪れる事になった。


「………………」


(………大きい家ですね、あれが屋敷ですか?)


(ユーリ、あれは屋敷ではなくてお城ではないですか?)


そうっ貴族様の家って屋敷とかって考えてたけど目の前に現れたのは完全に城であった。


ナトリスの港町から少し離れた所に建てられていたからあの町にいるときは気づけなかったが、本当に大したお城である。


こんなのを貴族様って建てちゃうんだな、少し引いた、けど素直に言うと羨ましい。


前の世界での家を建てるとは次元が違うわ、まぁ生活してる階級が違うんだから当たり前か。

我々が領主パパの城に圧倒されているとその屋敷の主様から一言。


「どうした?アオノ。呆けてないでついてくるといい」


「はっはい、分かりました」


「……あまり見栄えが大したものでなくてガッカリしたか?我が一族は質実剛健を家訓としていてな、屋敷と言ってもこんなものなのだよ」


「……………そっそんなまさか。素晴らしい屋敷、いえっお城にございます」


「城?はははっ!確かに王都にある別邸の方がまだ見れるな、しかしあそこの貴族街にある家々と比べるとやはり我が家の屋敷は数段見劣りするぞ?」


「……………………………」


貴族様って最強なんだな。


私はこの異世界に来て初めて圧倒的な何かを感じていた。


そして普通に何十人って仕用人、メイドさんとか執事とかが列を成して領主パパを出迎えている、何故か凄いアウェー感がするわ。


そして外見も内装もお城な貴族様のお家を進む。


世界的に有名な城とかを観光とかしてみたかった。しかし1度もそんな経験がない私には比べる事も出来ないが、廊下に絨毯がひかれ、何階建てなのかも不明。何か超高そうな絵とかツボとかが飾られているわ。


……これ別にお金とか困ってたりしないよな?リヴァイアサンからの素材から得た利益をエサにナトリスの町のホームレスを支援してって話が無事にまとまるのか不安になってきた。


そんな事を考えていたら、あっという間に客間に到着。


飾られてる各種美術品どころかソファーや椅子にテーブル、どれか1つ取っても、とてもお高そうだ。


具体的に言うなら人の人生がダース単位で買えそうなレベルのお値段がつきそうな物ばっかりである。


そんなソファーに普通に座る領主パパ。

更にお付きのジーさん以外の人間を全て人払いしてしまった。


何か始まりそうな予感。


「……さぁっそちらに座るといい、貴殿は客人だ」


「はいっ分かりました」


言われるがままに座る、この手のマナーなんて皆無な私だ。誰か助けて……。


「……あの時の話の続きだがその前に1つ、私はナトリスの港町を含めたこの周囲一帯を治める領主だ。私には多くの領民、はては国を守る貴族としての義務がある」


「…………」


いきなりそんな事言われても……まぁファンタジーなラノベが好きな私は貴族ってそれが仕事なイメージがありますよ?。


クズな貴族のイメージもあるけど。


「故に我が領土の町に突如として邪教のサハギンやリヴァイアサン。そしてそれらを容易く退ける程の魔法使いが現れた事に、私は少々困惑している。意味は分かるな?」


「……………」


これっ私の魔法アピールのし過ぎで私まで超危険人物にカウントされてるって話じゃん。


マジかよ、けど……普通に領主パパの立場ならそんな事を考えてしまうのも仕方ないのか?まぁ確かに私の魔法ならナトリスでもこの城でも一発で巨大なクレーターに変えるくらいわけないのは事実だ。


もちろんそんな事するつもりは全くないけど、領主パパ達は心意看破の魔法とか使えないだろうからな。


「……つまりマレクセイ様は、私が何者かを知りたいと?」


「そうだ、アオノよ貴殿がこの町に来た目的はなんだ?そして何故ナトリスの浮浪者の支援をしたいなどと酔狂な事をいきなり言い出して来たのだ?それらについて話をして欲しいのだ」


まぁ私自身の姿もそうだが、完全に顔立ちだな。どうみても彼らとは人種が違うんだよ。


向こうは白人で目鼻立ちの彫りも深く美形ばっかり、対するこちらは彫りが浅く基本的に美形は稀少種である。


明らかにこの大陸の出身だとは思われていないだろう。しかも旅の者だ、そんな得体の知れない中年をこうして屋敷まで招待してくれるのは私への感謝と畏れが半々ってとこかな。


「……私はただの風来坊です」


「ふうらいぼう?」


「……旅の者だと言う意味です、故に目的などありません。このナトリスに来たのもサハギンやリヴァイアサンを対処したのもタダの成り行きです」


「…………ならば浮浪者の件についてはどうなのだ?巨万の富を棒に振ってまであのもの達に投資する理由があるのと?」


投資?株の投資すらしたことがない私にはそんな未来を見る先見の明とかないってば。


けど何かそれらしい理由をでっち上げないと納得してくれない予感。


こっちはアレリアちゃんに会えるかもって理由だけでこのお城に来たからそんな理由何も考えてないよ。


コンコンコンッ。


すると客間の扉を鳴らす音がする。

ワザワザ領主パパが人払いをした所に訪れるとは、一体誰何だ?。


「……私は今大事な話をしているんだ!下がりなさい!」


ピシャリといい放つ領主パパ、しかし扉の向こうから聞こえた声が反論した。


「……父上?私ですアレリアです。件の失踪事件について解決したと聞きました、何があったのか話を聞かせて欲しいのですが……」


「アレリアか!直ぐに入って来なさい!」


領主パパさん、ずっと娘さんが心配だったんだな。


扉を開けて現れたアレリアちゃんは赤いドレスを着ている。胸元は谷間が見えていてエロいな、金髪ロングヘアーとつり目、そしてボインなスタイルに赤いドレスとか。正に貴族令嬢の王道スタイルである。


最高じゃん。


そしてアレリアちゃんと遂に出会いを果たす事になった私である。


しかし領主パパが一歩進み出て愛しい娘に抱擁する。家族の再会とかいいよね。


いいなぁ私も……アレリアちゃんを抱きしめたい、やったら打ち首とかになりそうだからやらないけど。


「……アレリア!本当にぶ無事でよかった……本当に心配したんだぞっ!?」


「……もうっ父上?心配性が過ぎますよ?」


完全に空気である自分、ここは空気を読んでどっかに行った方がいいのか?……取り敢えず数歩離れるとする。


するとアレリアちゃんから鋭い言葉が飛ぶ。


「ッ!何者ですか!この男は……!」


何者ってさっきまで君のお父さんと大事な話をしていた客人でございますが。


領主パパからフォローが入る。


「アレリア。こちらはあの失踪事件を解決し、拐われた者達、つまりお前を助けた恩人だぞ?その様な言葉づかいはいかんな」


「………そうなのですか?つまりこの者は客人であると?」


「その通りだ」


「………確かにその話は父上のお付きの者に聞きました……」


領主パパからの支援を受けてアレリアちゃんと対面する私だ、少し怖かったけど領主パパからの話を受ければそう邪険には……。


「……正直に言って、全く信じられません。その冴えない男が私が遅れを取ったサハギンを退け、しかも召喚されたリヴァイアサンを無力化し、それを生け捕り?バカも休み休み言うべきかと……」


「……………………………」


……………おや?。


おやおやおや?。


「あっアレリア!お前、いきなりなんと言う事を……!」


「父上もお付きの者も魔法か何かで幻でも見せられていたと考える方がまだ現実的です。私にはそこの男がリヴァイアサンを圧倒する程の魔法使いだとはどうしても思えません。そもそも大した魔力を感じないではないですか」


魔力?それは魔法鎧の魔法効果で魔力感知が阻害されているのだ。


しかしそれ以外は私自身の胡散臭い外見が故の、ある意味正論な意見である。


…………………………ふぅ。


どうやら私は誤解してきたようである。


ボス戦はリヴァイアサンなんかではなかったのだ。


真のボス、アレリアちゃんとのボス戦が今、始まった様である。









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