第12話『救出劇(笑)』

そして湖に到着した我々だ。

まぁ湖である、別にサハギン達が出て来て臨戦態勢を取ってもいない。


「カサゴとやら、その邪教徒になったサハギン達は何処にいるのだ?」


「ヤツラはミズウミのチュウシンにギシキのタメのシンデンをツクッた。ソコがヤツラのネジロだ」


「……やはり湖の底か、それでは我々だけではどうしようも出来んのか?」


「いえっそれなら私が何とか出来ると思います」


「何?それは本当か…!」


無言で頷き、私は魔法を発動する。


【我が力持って、水を統べる。水支配アクアルーラー


発動したのは水と言う水を完全に支配する魔法である。


魔法が発動すると同時に大きな湖から水が消えた。気体にするのも一瞬である。


「これで歩きでもその神殿に行けるはずですよ、地面も乾いているので十分硬い筈です」


「…………なっ……何と……」


「もちろん事が終わったら湖も元に戻しますから問題はありませんので、それでは行きますか」


領主パパもそうだがお付きの人達もビックリ仰天って顔をしている、ワザワザ大袈裟な魔法をかまして正解だったな。


そして我々は湖の底を歩いてサハギン達の神殿に向かった。


「……こっこれ程の魔法を使えばサハギン達にも勘づかれるのではないか?」


「それは問題ないかと……」


「なぜだ?アオノよ…」


「この魔法の前に、サハギン達の目を誤魔化す魔法をこの湖に発動しています。ですからその邪教徒になったサハギンには未だに神殿は湖の底にあると思っている筈です」


「なんと、貴殿は本当に優秀な魔法使いなのだな。私はこれ程の高位魔法を、今まで生きてきて見たことがないぞ…」


「お褒めにあずかり光栄です」


アレリアちゃんのお父さんと会話をしながらも歩みを進める私だ。


ちなみに事前に魔法を使ったってのは………嘘である。当たり前だろ?。


そもそも私が事の真相を知って何もせずに二日間の間失踪した女性達の身の安全を考えない訳がないだろう。


ゴーレムツインズがサハギンに変身して事件の真相と根城の情報をとっくの昔に仕入れていた私は二日前にこの湖に訪れている。


そしてユーリとリエリを異空法衣の魔法を発動させてから根城に侵入させ、拐われた女性達の存命をまず確認したのだ。


何しろ生け贄を必要とする儀式だからな、手遅れの可能性もあったのでこの時は心底急いだよ。


しかしサハギンユーリからの情報が入り、何でも生け贄はまとめて1度に必要とされるらしく、みんな湖の底の神殿に閉じ込められていた。


湖の中だから逃げ道もなく、武器の類いも持っていなかったが食事くらいは用意されている様だとリエリから説明された、そして私自身の眼で確認を怠った結果アレリアちゃんも捕まっている事に気が付かなかったのだ。


本当はその場で救出すれば解決だったのだが、アレリアちゃんの好感度を意識したクエスト攻略にチャレンジしたかった私は事件の解決を一旦棚上げして、二日間のクエスト打ち合わせとセリフを考える事に使った。


無論ただ放置した訳ではない、領主パパに説明した魔法は既にこの時に使ってあるのだ。


幻影領域ミラージュ・フィールドである、あの魔法はかなりの広範囲にかける事が出来るし、その効果時間も私が解除するまで、さらに見せる幻も私の意のままなので発動させたら最後、まず私の勝ちとなる魔法の1つだ。


しかも範囲内なら建物中にいようがかける事が出来る魔法なので神殿の中のサハギンも女性達も完全に幻影の世界の中である。


後は二日間の間は適当な幻影を見せてサハギンには女性達の食事の世話からなにからさせていた。

女性にしても私の魔法でいつでも、しかも一瞬で救出可能な状態で待機している。


リエリは何か問題が起きたら報告するようにと神殿の中に侵入してもらっているのだ。


要はこの救出劇(笑)は既に敵さんも魔法で無力化させて拐われた女性の安全も確保済みと言う後は無事にクエストをクリアするだけの状態なのである。


本当にここまで仕込んでいて肝心のアレリアちゃんがここにいない事が残念でならない。


絶対にアレリアちゃんも無傷で助けてその好感度をゲットするからな。


「……そろそろミエテくる、アレがレンチュウのネジロにしているシンデンだ」


おっといつの間にか目的地が見えて来た様だ、歩きで移動したのは初だから移動時間の感覚がずれていた。


見えた神殿は石を積み上げて作ったもので規模も中々のものだ、三階建て建物くらいはある。


少し遠目から眺めた時はアンコールワットの遺跡を縮めたイメージを私は感じたな。


「………うむっ後は中にどれだけのサハギンがいるのかだが……」


「それなら私が魔法で探りましょう」


私は片手をかざして無言で魔法を発動させる……ふりをした。

確かにその手の魔法はあるがサハギンの数は事前に確認している、確か全部で二十体程だったな。


「……数は二十程ですね、しかし大体四人程で移動していますし、私の魔法の効果で正面から攻撃しても向こうのサハギンは気づかれません。まず問題はないかと」


「その言葉が事実なら……おいっライド、マーガ」


「「……はっ!」」


領域パパのお付きの人から二人が前に出た。

私のそれとなく自身の魔法アピールに思うところでもあるのだろう、神殿の入り口に近づくと直ぐに見張りのサハギンが入り口に左右に二体いた。


それに音もなく近づき、わざとか片方だけを首を切り落とした。


「…………これは」


「……どうやら真の様だな、本当に大した魔法使いがいたものだ」


「「「「………………」」」」


残ったもう片方は何も気づいていない様に欠伸とかしていた。

これが幻影領域の魔法の凄い所である、私が魔法を解くまでどんな音がしようとサハギン達は気づけないのだ。


これにはお付きの人達も絶句である。


直ぐに残りも処理して私達は神殿の奥に侵入した。



中年魔法使いとその他野郎連中(お付きは全員男だ、だから見た目の感想とか殆どないのだ)は突き進む。


出会うサハギンはみんな現実を認識出来ない状態であるので出会い頭に首チョンパで一撃だった。


身体運びとかで領主パパのお付きがかなりの使い手だと言う事は私でも分かった、きっとアサシンみたいな事とかもしてるんじゃないかとオタク中年な私は考えるね。


そんなサーチアンドデストロイを何度か繰り返すと領主パパから私に質問がとんできた。


「……おまっ…アオノよ、これだけの凄まじい魔法を使える貴殿なら1人でもサハギン達を始末出来たのではないか?我々は来る意味が本当にあったのか、疑問すら浮かぶのだが……」


領主パパの言葉に回りのお付きの人達も静かに頷いている。

いやいやっ勝手についてきたの貴方達だからな?私は別にソロだと無理とか一言も言ってないぞ。


まぁ流石にそれを面と向かっては言わないけどな。


「何事にも絶対はありませんからね、それに拐われた女性達を確実に助けるのなら他者の助けは必要だと考えていました」


「……………そうか」


……本当は救出の手立ても完成してるんだけどな、流石に領主がでばって来たのなら少しは花を持たせた方がいいって言う気づかいとかである。


私の説明に納得したのかは知らないがそれ以降はこれといった質問もなく奥に進んでいった。


やがて生け贄とやらを必要するおっかない儀式が行われているであろう大部屋に我々は到着した。


道中のサハギンは漏れなく全て倒した、従って残りはこの大部屋にいるフードを被った五体のサハギンだけだ。


そしてその大部屋の隅には拐われてきた女性達が気絶している。数は全員で五人程だ。


同じ部屋にいる事を知っていた私が彼女達にスプラッタなトラウマが植え付けられるのを危惧して幻影領域の魔法を操作して眠ってもらったのだ。


そして直に拐われた女性を観察すると、アレリアちゃんも普通にいた。


よかった。リエリに確認してここにいるのをさっき知った私だ。本当に細かい報告を今後は徹底させる様にしよう。


こんなドッキリはおっさんの心臓にも悪いんだよマジでさ……。ちなみに領主パパも娘を発見して安堵顔だ。


そしてここが最後だと判断した領主パパが少し格好つけて部下に指示をする。


「……お前達」


「「「「「はっ!」」」」」


あのお付きの人達、はっ!しか言ってなくないか?よくそれで意思の疎通が出来るもんだ。


ぶっちゃけるとここも楽勝だろうと、私は考えていた。



しかし、ここで予想外の事態が起こる。



神殿の大部屋の1番奥には何も物が置かれていない空間があった。


そこにいきなり紫色の巨大化魔法陣がドーンっと現れた、おいおい何あれ……。


「………ッ!?バカな、儀式はまだ生け贄も残っている筈なのに……」


ユーリがサハギンユーリから素に戻っている、つまりこれはゴーレムな彼女としても油断ならない状況って事だ。


咄嗟に私はゴーレムツインズに思念を飛ばす。


(ユーリ、サハギンが執り行っていた儀式とは何なのか、分かりませんか?リエリこの場にいる女性達の安全は確かなんですよね?)


(リエリです、彼女達は私の魔法で守っていますので安全かと、そしてあの魔法陣からはとても大きな魔力が溢れています…)


(ユーリはあのサハギンの記憶を探りました、そこで1つ分かった事があります……)


リエリの方は心配なさそうで安心した、しかしユーリの話には続きがありそうだ。


(……サハギンがしていた儀式は、生け贄の命を代償に強力な力を持った何者かを召喚する儀式です)


……なんともそれは凄そうな儀式だな。


儀式で召喚とか、成功すれば一発逆転の切り札的なアクションだぞ?邪教徒がそんなんで喚ぶ存在とかきっとろくなもんじゃない。


しかし生け贄にされる予定の女性達は私とリエリが魔法で保護している、例え儀式の何らかの力が彼女達に作用しても全て遮断する自信がある。


そして生け贄がいる儀式なら生け贄が供給されなければ儀式は失敗する筈だ。


しかしそんな私の予想は見事に外れた。

なんと、サハギンどもが苦しみ出したのだ。


(……まさかと思いますけど、あのサハギン達って……)


(………全員がメスではあります)


マジかよ………。


サハギン達は紫色の粒子になって光る魔法陣に吸い込まれてしまった。


ズゥウウウウウウウウウウウウウウウウンッ!。


まるで大地震が発生した様な、或いは底が見えない谷底から響く様な。とにかく耳に入ると不安感を煽る音が重く、長く響いた。


マジで勘弁してほしい。


そして魔法陣から何か紫色の何かが現れたのをチラッと見えた瞬間。


私は速攻で魔法を発動させた。


【空間を超越せよ。転移テレポート


ファンタジー世界の頼れる大御所な魔法代表。転移の魔法だ。

私と拐われた女性達、それと領主パパとそのお付きの人達もまとめて脱出した。


◇◇◇


我々は湖の近くに瞬間移動していた、取り敢えず態勢の立て直しである。


「……アオノ、まさか儀式は完成していたのか!?まさかアレリアは既に……」


「落ち着いて下さい、あちらを見て下さい」


「ッ!……アッアレリア!」


領主パパが眠っているアレリアちゃんに駆け寄って行く、片方は魔法で寝てるのでまだ起きるには時間がかかるが親子の再会ってヤツだ。


「………アオノ殿、生け贄として拐われた女性達の生存は我々が確認しました。ならば我々が見たあの得体の知れぬ者は一体」


領主パパのお付きの人、その中でも1番歳を上のジーさんが口を開いてきた。


何気に初めてまともな会話をする相手だ。

私は現状の説明をこのジーさんにする事にした。


「人間の女性を生け贄する儀式は失敗しました、しかしあのサハギン達は自分達を生け贄に、無理矢理儀式を成功させたものかと」


「……連中は貴方の魔法でそれらも気づけない状態であったのでは?」


それはごもっとも、儀式にしてもあれはサハギン達が納得していたのか命の重さに対しても凡庸な意見した持たない私には理解が出来ない。


そこでサハギンユーリがフォローをしてくれた。


「……オソラク、あのドオホウにジャキョウをヒロメたナニモノかはハジメからコウナルことをシッテイたカモシレナイな」


「……貴方の同胞もはめられたと?」


サハギンユーリがこくりと頷いた。


それがサハギンの記憶を客観的に見たユーリの感想なのかもな。


「……しかし今はそれについて論じる時間もありません。この場にいる女性達とマレクセイ様を一刻早く避難させて欲しいんです」


「………承知した、避難は我々だけでも出来るが…」


「任せても構いませんか?」


「……此方にも魔法の使い手はいる、貴殿と比べられる者はいないがな。しかしそれなら貴殿はまさか……」


「私は神殿の方に戻ります、まだ湖の水を戻す訳には行きませんからね」


「……本気かアオノよ、あの魔法陣から召喚された存在だが生半可な手合ではない筈だ。人の身で敵う相手だとは…」


「……今は私の魔法であの神殿があった場所に留めていますが、それがどこまで持つか分かりません。出来れば早急に処理をしたいのです」


「……………!」

(なんと、あの一瞬でそんな魔法をも使っていたのか!?この男。本当に何者なのだ、王城の宮廷魔導師ですらこの魔法使いとは比肩する相手にもならんレベルではないか!?)


ぶっちゃけるとあの場に残したリエリに召喚された化け物の相手を丸投げしてきた。

流石に申し訳ないので早くヘルプに入りたい私だ。


「……それではマレクセイ様、ここに人々を頼みます、もしも冒険者ギルドから増援が来ても決して此方に来る事がないようにしていただければと」


魔法で巻き込んだりしそうで怖いからな。


「………分かった」


「…………」


無言で頷き、私は転移の魔法を発動した。






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