第11話『進行するクエスト』

私はなに食わぬ顔で冒険者ギルドで大きなボードに張り出されているクエストを見ていた。


……やはり失踪事件に関するクエストは一切出ていないな、多分貴族の令嬢であるアレリアちゃんがでばってるので、余計なのがしゃしゃり出て来ない様にするためだろう。


それをしたのがアレリアちゃんか冒険者ギルドかあるいはアレリアちゃんの両親が娘に悪い虫がつくのを嫌ったのか知らないけど、これって私がアレリアちゃんに事件の情報を持ってますって近づいても安全なのか微妙かも知れないぞ。


くそ~、失踪事件の全容を知った私がアレリアちゃんに自身の活躍をしていたのに……。


…っいや、まだそうだと決まった訳ではない、あくまでも私の想像でしかないのだから。


もしかしてこの二日間の仕込みの間に失踪事件が解決したとか?それはない、だってリエリとユーリを使って失踪事件の犯人であるサハギン達の動向は……。


おっといけないな、あくまでも私は今回の事件についてたまたま情報を持っていて、それを善意で提供する冒険者ってスタンスで行かなければ。


ここはギルドの受付嬢であるシエラちゃんや他にもいる可愛い受付嬢達がいるのだ、っと言うよりも可愛い子しか受付嬢をしていない。


ここの冒険者ギルドのギルマスは分かっているな、そして絶対に野郎がギルマスだと私は断言する、会ったこともないけど。


「……けど、話をするならシエラちゃんのところに行こうかな」


まぁみんな可愛いけど、メインで攻略するのはシエラちゃんだとこの港町に来て彼女を一目見たときから決めてる私だ。


だってスタイル一番よかっ……おっとそれよりも受付に、シエラちゃんの元に行こう。


ギルドの中をトコトコ歩く、ここは冒険者ギルドだからか集まっている連中も強面のマッチョとか女ボディビルダーみたいな女性が多いんだよな。


正直、そんなマッスルな女性はちょっと……やっぱ女の子は身体も表情もやわらか~いって感じの娘が良いよね。ポッチャリちゃんは勘弁。


「すみません、少し町の人達がしていた話で聞きたい事があるんですが良いですか?」


「聞きたい事ですか?アオノさんには日頃からギルドもお世話になってますし、相談には出来る限りお応えしますよ?」


「ありがとうございます、それでは……」


まず私はこの町の人が拐われる失踪事件について町の人が話をしてるのを聞いたと話した。


するとシエラちゃんは少し顔をしかめた。


「……その件に関しては、既に冒険者ギルドでも人を動かしてるから近い内に解決すると思いますよ?」


これは嘘だな、リエリとユーリからの報告では冒険者達がこの失踪事件を解決出来るとは思えないって言っていたのだ。


何でも同じ人間に聞き込みをするとか女性が拐われた場所に行ってはありもしない事件の手掛かりを必死に探してるらしい。


私も魔法とゴーレムツインズがいなければそんな感じの事をしていただろうな。


仕方ない、ここは私が有力な情報を持っている事を話すか…。


「そうなんですか?実はたまたま知り合った方にその失踪事件について犯人に思い当たる相手がいると話をされまして、もしかしたら役に立てるかと思ったのですが……」


「……失礼ですけど、その人をここに連れてこれますか?」


「そこまで親しくはないから無理ですね、と言うよりもこの港町に入る事もない方です」


「……………」


少し長めの沈黙の後、シエラちゃんはおもむろに口を開いた。


「…アオノさん、こちらに来てもらって良いですか?」


「………分かりました」


シエラちゃんに受付の奥に案内される、このギルドの奥に案内される流れって異世界物のラノベじゃあわりと見るテンプレの1つだ。


そして通された先の個室にはこの前アレリアちゃんと話していた茶髪のイケメンと金髪のオッサンがいた。


若い頃はさぞかしモテまくっていたであろうナイスミドルなオッサンだ。立派な顎髭あごひげと着ている服の上等さからかなり上流階級じゃないか?。


「僕はこの冒険者ギルドのギルドマスターのハイレルだ、そして…」


「……私はガエルス=マレクセイ、このナトリスを治める領主である。お前が失踪事件について何か情報を持っていると言うのは本当か?」


マジかよ領主様か、貴族様じゃん。

しかもマレクセイってアレリアちゃんのお父さんだよ。


「……はいっただ私は今回の事件は町の噂から聞いたくらいのものでしかありません。正直な話をしますと領主様が直接動いているなんて知りませんでした。今回の事件はそれほどのもの何ですか?」


「………………」


「………………」


一応私はただの中年冒険者だとはっきりと伝えておこう、だって変に偉い人が絡んだ案件って炎上するもんだからな。


そしてアレリアちゃんパパは重い口を開く。


「……そうだ。何しろその事件にはアレリアも関わっている」


「…関わっている?」


え?アレリアちゃんがサハギンと組んでいたとでも?それはない、だってゴーレムツインズが…。


「…………拐われたのだ、アレリアは。それも自分からこの事件に首を突っ込んだ結果な……」


「……なっなるほど」


マジかいな。アレリアちゃん拐われちゃったの?。

彼女には私と共にクエストに参加して、私の活躍を見てもらって、そんで私への好感度をぐんぐん上げてもらうって言う大事な仕事とがあったのに……。


とっとにかく話を聞こう。


「理由はまぁつまらん物だ、何でも私に認めてもらい、何か願いがあったとか。もちろん護衛もつけていたし、娘のアレリア自身も剣の腕は中々の物だった。まさか町の賊に遅れを取るとは…」


親バカ的な信頼があだになった的な?アレリアちゃんの願いってのも気になる、それを私が叶えたら惚れてくれないかな?。


その後はまぁ、パパさんの娘への愚痴とか拐った連中への怒りをくどくどと語っていた。


「領主様、そろそろ彼の話を……」


「ん、おおっそうだったな、それでアオノとやらお前が持っている情報について話せ」


「はい、分かりました…」


本当はここでアレリアちゃんに有力な情報を渡して出来る男アピールをする筈だった、人生上手く行かないもんだ。


これが相手が自分よりもオッサンやイケメンが相手だと、この情報に対する対価はどれくらいになりますか?っと考えてしまう私だ。


いやっ相手はアレリアちゃんのお父さんだし、恩を売っておいて損はない、そう言う事にしておこうか。


「……私が掴んでいる情報はとある方がその失踪事件について真相を知っていると言う事です」


「………なんと!」


「その人物は信用出来るのかい?」


「私が話を聞いた限りですが、つじつまも合う内容でした。ですので話を聞いてみるだけでもと…」


「今はとにかく情報が欲しい、その者をここに呼べるか?」


「……それは出来ません。あの方は町に来ることは出来ませんので」


「……町に来ることが出来ない?何故だ?」


「それはその方が人間ではないからです」


「「……………ッ!?」」


私の言葉に絶句する二人である。


しかし野郎だけで集まっているこの会合に時間を割くのもゴメンなのでさっさと話を進める。


「私がその方と知り合ったのも完全に偶然からのもの何ですが、案外話せる方でした。おそらく他の人間も邪険にはしないだろうと、もちろんこちらの出方次第でしょうが……」


「まさか知能が高いモンスターの類いかい?」


「……その話は本当か?」


「はいっそれとお話を聞く限り時間に余裕もないかも知れません、ですので私はこのままその方の元に向かい真相について話を聞こうと考えています。ついて来るのならご自由に…」


話すことは終わった、自分はアレリアちゃん救出と言う新たな大仕事が出来たので行くとする。


「まっまて!私も行くぞ!領民だけでなく娘も拐われたのだ。これ以上手をこまねいてられるか!」


「………っ!わっ私は冒険者ギルドの冒険者を集めてから向かいますから!」


領主のパパさんはついてくるが茶髪のイケメンは後から来るのか、心意看破で軽く感情を読み取るとどうやら私の言葉にいまいち信用出来ないのと、単純に自身の身の安全を優先しての言葉の様だ。


見た目がイケメンでも中身が全然イケメンじゃないヤツって異世界でもいるのか。


ギルドでは貴族令嬢相手にも面識があったしそのアレリアちゃんのパパさんの身の安全とかも気にしてもよさそうなものだけど……。


まぁいい、そこは領主とその他の人間の判断の違いだろう。私の知ったことではない。


私と領主アレクセイは私の案内でとある人物(人間じゃないけど)に会いに行く。


ちなみにアレクセイの付き人(武装済み)がギルドから出ると何処からか、いきなり現れて無言でついてきた。


五人程いきなり後ろにいたので少しビビった。



そしてナトリスの町から出て南の方にある草原地帯に向かう、地肌をさらす一本道を歩いていくといつぞやの湖にたどり着ける道である。


そんなファンタジーにありがちな道を少しそれると小さな森がある、そこで落ち合う約束だ。


「……本当にここにそのモンスターがいるのか?」


「マレクセイ様、出来れば相手が現れたらモンスターと呼ぶのを控えて下さい」


私の一言に無言で付き人の1人がずいって出てきた。


それを領主パパが片手で制す。


「……確かに余計な一言で相手の不興を買っている暇はない、お前の言葉を聞き入れる」


「ありがとうございます。それと向こうとの会話は私が行いますので質問がある時以外はお付きの方達と共に静観して頂きたく存じます」


「……わかった、任せたぞ」


よしっこれで準備は整った。


(……それじゃあ。お願いします)


ガサゴソと森の茂みから音がする、そして何者かが現れた。


「……アレはっサハギンか?」

「そうです、彼がサハギンのカサゴさんです」


「………ヨロシク、ワタシはカサゴだ」


謎のサハギン、カサゴさんの登場である。


………うっそっだっよ~~ん!。


あのサハギンはユーリが変身したヤツである、そもそも私が以前倒してユーリとリエリに吸収させたサハギン、何とあれが犯人の一味だったのだ。


何故に本来なら海にいる筈のサハギンが湖にいたのか、それも含めて失踪事件の犯人に変身してその記憶を知れる我がゴーレムによって私は全ての真相を知れたと言う訳だ。


何故に名前がカサゴなのか、それは顔が魚の中でもカサゴに近いからだ、顔や身体の所々がトゲトケしているからな。


「……カサゴさん、それでは私に話してくれた事をこちらのマレクセイ様にも話してくれませんか?」


「…………………………ワカッタ」


ちなみにユーリはサハギン役になるのもカサゴと言う名前もガチで嫌がっていた。そこを頭を下げて頼み込んだのだ。


……何故なら本来ならここにいるのは領主じゃなくてアレリアちゃんの予定だったからである。


真相を知ってからの二日間、私が一体何をしていたのかと言うと……。


………仕込みである。マッチポンプだよ。


この二日間でユーリにはサハギンで何かカタコトに近い発音で話してクエストの最中に重要な情報を与えてくれるモブ役になってもらうための練習とリエリには犯人が湖の近く、或いは湖の中にでも根城があると見たのでそれの探索に、それぞれ頑張ってもらっていたのだ。


特にユーリのサハギン指導には熱が入って二日間と言う時間をかけてしまった。


何故なら私とのこのやり取りも全て劇の台本よろしく全て事前に打ち合わせ済みの物である。


全てはモンスターとも交渉出来て、事件を解決に導く輝く中年魔法使いを演じてアレリアちゃんに(以下略)。


サハギンユーリによる事の説明に戻る。


「……モトモト、あのレンチュウはオナジウミにスマウドウホウだった、しかしイツゴロかヤツラはジャキョウにソマリ。ドウホウをギシキのイケニエにしようとした、それユエにダトウしたのだ。だがそのイチブがニゲノビてここのミズウミにヒソンでいたのだ」


ちなみにサハギンユーリの説明には少し修正を加えている。


元々海にいたサハギン一族の一部が邪教に染まり同じサハギンをろくでもない儀式の生け贄にしようとして同じサハギンに一族を追い出されたのは本当だ。


けど別に追い出した邪教サハギンをワザワザ追い掛けて打倒するなんて真似は海のサハギンはしなかった。


こんな連中を野放しするとか、流石はモンスター扱いされる連中だ。迷惑過ぎるぞ。


「……ソシテ、ニゲタヤツラをオッテココマデキタがテキのカズがオオク、ワタシイガイはミンナヤラレタ、ワタシもコレマデだとオモッタトコロをアオノにタスケられたのだ」


「……なんと、アオノとやらお前は腕も立つのか?サハギンは高圧水流で岩も容易く両断するといった能力を持っているとも聞くが…」


「……偶然居合わせたので対処したまでですよ」


この一言のヨイショの為に、アレリアちゃんにえ?実はこのおじさんは凄いの?ってリアクションを期待しての仕込みだったのにな……。


野郎からの褒められても少ししか嬉しくない。


「……っとまぁそんな理由で私はカサゴさんと知り合い、そんなサハギンがいる事を知りました。更にその儀式の生け贄には女性しか許されないと言った話も聞いて……」


「なるほど、それで近頃ナトリスの町で起こる女性の失踪事件についても耳にはさんでいたお前は……」


「はい、最初はあくまでも1つの可能性として考えていましたが、まさかマレクセイ様のところの御嬢様や護衛の方々までとなると。町の人間やただの賊である可能性よりは高いかと考えを改めたんです」


「確かに、サハギンは身体能力も高く近接、中距離共に油断出来ない戦闘力を持っている。万が一水中に引きずり込まれればおよそ人に勝ち目はない相手だ…」


領主パパって案外モンスター、或いはサハギンに詳しいのな。


お陰で後ろの武装した付き人達からの余計な言葉とかがなくて助かる。


そして事前の打ち合わせ通りに話をして、サハギンユーリも私と領主パパのパーティーに加入。


付き人は不満気だったけど領主パパからは了承を貰ったので構わないだろう。


そして我々は進む、湖に潜む邪教サハギン達からメインヒロイン候補アレリアちゃんやその他にもいる可愛い子達を残さず助けておっさんの活躍をアピールするのだ。



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