第10話『情報収集』
場所を私がナトリスで寝泊まりしている宿屋の個室に移しての事。
アレリアちゃん達の会話をあらかた盗み聞きした私は、失踪事件とか関係なくかるく自己嫌悪中であった。
………何故に私は当たり前の様に二人からどちらかを選ぶ立場で物を言っていたのだろうか……。
そんなのアニメやラノベの異常なまでにモテまくる主人公の悩みだろうに。
現実を振り返るとシエラちゃんには名前を呼ばれるだけで舞い上がり毎日アホみたいに冒険者ギルドに顔を出しては働く中年、完全に働き蟻である。
いいように使われてるだけじゃん。
アレリアちゃんにいたっては自分と言う存在を認識すらされてねぇんだぞ、顔と名前も知られていない完全なるモブ。
この現状で何がどっちを選べばいいんだーだよ。どっちも選べないよ、選ばれないよアホが。
「…………酒を飲んでたりもしてないのに、何をやってんだよ私は」
もちろん全ては私の心の中での出来事である、じゃなければ死んでるよ、しかしまぁあれだな。
私のこれは最早病気だよ。
心の暴走を止める術はないのかもしれない、心だけはいまだに青春18きっぷである。
電車のスピードが上がり過ぎると事故って死ぬほど恥ずかしい気分になるのだ。
「……気をつけよう」
気をつけてどうにかなるものなのかは甚だ疑問だけどな。
いい加減、頭を切り替えて行こうか、今私が考えるべきは失踪事件とやらについてである。
この事件を無事に解決してアレリアちゃんに顔と名前を覚えてもらって好感度を上げるクエストを解放して見せるぞ!。
((…………………………))
「…しかし、失踪事件ですか。やはりここは聞き込みと言った調査が必要ですか」
けど探偵でもない私にそんな正攻法で結果を出せるとは思えないんだよな。
(……ご主人様、それなら私達が)
「……え?」
ここは個室な上に私の魔法で声が外に漏れる事もない、だから普通に思念ではなく言葉で会話をしている、しかし何やらリエリには考えがある様だ。
(ユーリ、ここは私達が…)
(なるほど、あれですね?)
すると宙に浮いたビー玉なゴーレム達がいきなり光だした。
「………!?」
その光が収まると、リエリとユーリがそれぞれ物凄い美少女に変身していた。
ユーリは金髪碧眼のスタイル抜群のウェイトレスに、リエリは茶髪で碧眼の美女でこれまたスタイルがいい、そして何故か服装が盗賊みたいな………って。
………この二人ってあれだよ、名も知らぬ女山賊とマーブルちゃんじゃないか。
女山賊は確かデカイ虎のモンスターに殺られた死体を彼女達が吸収して変身出来る様になったって話だった……。
「……まさかとは思いますが、マーブルさんに」
「ユーリ達は変身するのに対象の一部が必要です、しかし別に死体が丸々いる訳ではありません。血液なら数滴、髪なら数本あれば姿を真似る事や記憶を読み取るには十分です」
えっそうなの?てっきり変身出来るレパートリーを増やすには相手の命を奪う必要があると思ってた。
そう言えば最初の時は山賊の死体の掃除とかもお願いしてた様な、そうかその頼みも込みであんな感じの対処をしたのか。
どうやら私自身の勝手な勘違いだった様である。
「そうなんですか?ならあの時からモンスターを倒した時などで回りが汚れたりした時の掃除も込みで吸収をしていたんですね、私はてっきり変身にはその相手の死体が必要なんだと思ってました」
「リエリ達の能力なら余程特殊な能力を持った個体等でなければ死体まで必要になる事はありません。そして……」
何やらリエリがするようだ、ほんの一瞬、青い光が瞬くと衣服が変わっていた。
二人とも町の人がよく着てる女性用の衣服に変わってる、いわゆる村人の服ってヤツ。
「これならリエリ達は怪しまれずに必要な情報を収集出来ると思います」
なるほど、どうやらさっきの私の話を聞いて探偵役を彼女達がやる気な訳だ。
それにしてもである、それなら気になる女の子の髪とかさえ手にはいればこのゴーレムなリエリとユーリにお願いすることで私は毎日日替わりで美女や美少女を連れて往来を闊歩出来ると言う事だ。
あのラノベ主人公の中でも勝ち組にしか許されないあの偉業を私がっと考えるとテンション爆上がりだ。
しかも日替わり、日替わりである。
日替わりって聞くと弁当を思い浮かべる歳である。美女や美少女が日替わり弁当…コホン。
いかんな、これでは異世界を旅して各地の美女達の好感度をコツコツ上げてメインヒロインゲットやハーレムをゲットすると言う私の目的が揺らいでしまうぞ?。
平然と1度諦めたハーレムを夢見る中年童貞、それが私だ。
ヤバイな、まさか異世界でやりたい事の全てを成しえるポテンシャルを秘めた存在を一番最初に生み出していたとは……。
まさかここでおっさんの異世界物語は終了のお知らせ?お知らせしてしまうのか?。
そんな事を考えているとユーリ(見た目マーブルちゃん)が少し自慢気に語りだした。
「…更にこの身体は見た目、体温など全てがまるで人間そのもの何ですが、その体表硬度は金属の類いを軽く凌駕するほど硬いんです。この女の身体の胸の部分でもモンスターを撲殺出来る程に!」
「……………………」
え?おっぱい硬いの?モンスターを殺せるくらい?じゃあ下半身も……そんな性能いらないよ。
「それは凄いですね」
………夢はいつも儚いもの、現実に一瞬で戻った私はアレリアちゃんクエストの話の戻る。
確か二人が聞き込みとかするって話だったよな。
まぁ私の様なおっさんより今の彼女達の様な美女達に聞き込みをされる方がナトリスの町の人々も様々な情報を話してくれる可能性は高い。
「分かりました、では二人に情報収集を任せてもいいですか?」
「「はい」」
良い返事を返すと彼女達はある魔法を発動させて、その姿を消した。
異空法衣の魔法は姿を消すだけでなく壁などの物体をすり抜ける能力も与えられるので隠密行動とかする時には心強い魔法だ。
多分彼女達は既にこの部屋を後にしているだろう、私もついていくべきか考えていたけど、これは任せて欲しいって事なんだろう。
「……待つとしますか」
何もやることが無くなったおっさんは、宿屋のベッドで昼寝する事にします。
◇◇◇
私はリエリ。ご主人様に創られたゴーレムです。
今は同じくご主人様に創られたユーリと共にこの町で起きている失踪事件について調べています。
どうしてご主人様がこの事件について調べようとしているのか、それについては不明です。
リエリ達はご主人様の忠実な僕、理由など大した問題ではありません。
必要なのはご主人様の意思を察して働く能力だけです。
………しかしご主人様は美人に弱いと言うか、わりといいように使われるのも、相手が美人だとつい許容してしまう節があります。
そこには目を光らせる必要がありますね。
………あくまでもご主人様を守るゴーレムとしての意思です。
「ユーリ、ご主人様には聞き込みをすると言う話でしたが……」
「それなら私達にはご主人様から与えられた
なるほど、ご主人様は気にしてましたが私達ゴーレムには人間のプライバシー等に何の感心もありませんから効率を重視すれば妥当な案です。
あの魔法は知性のある存在なら、その心の中を丸裸に出来る一方で心の表層だけを読み取り、必要な情報を持っている人間を広い範囲で探す事も出来ます。
「分かりました。では先ずはリエリがしますね」
私は魔法を発動します。
このナトリスの町くらいの規模なら一度に調べられます。
「どうですかリエリ、失踪事件について知っている者は見つかりましたか?」
「ええっ見つかりました、何人かいますから二手に別れてそれぞれ該当する人間に心意看破をかけて情報をいただきましょう」
私達は個人の自我を持つが元は一つであった存在だ、それ故に片方が得た情報、能力などはもう片方にも共有される。
つまり先程私が知り得た失踪事件の事を知っている該当者の顔と居場所はユーリにも伝わっている。
「それでは一時間もあれば全員から情報は得られますか?ユーリ」
「三十分で構いませんよリエリ、ご主人様を待たせる事はあってはなりませんから。効率的に行きましょう」
「分かりました」
私達は別れて行動を開始しました。
しばらく歩き、失踪事件について知っている人間を見つけては魔法を発動してその情報だけ勝手にいただく事を繰り返します。
一々話を聞くだけ時間の無駄ですからね、そしてしばらくするとユーリから思念が届きました。
(リエリ、この町を女の姿で歩いてると男から何度も声をかけられてしまいます。始末してもいいでしょうか?)
(あまりにもしつこい者には魔法で幻でも見せてあげなさい。それと人を傷つける行為はご主人様がいい顔をしませんよ?)
(………そうですね。魔法で適当にあしらっておきます)
ユーリは私より単純に物事を解決しようとする節があります、私も以前山賊を根城から追い出した時に
別の話なんですよ。
(……リエリ、失踪事件の被害となった者の住んでいた場所について分かりました)
それは助かりますね、私達なら一度変身出来ればその生物の記憶くらいなら手に入れられます。
つまり行方不明の者達の家に行き当人の部屋から行方不明者の髪の毛でも見つける事が出来れば、この事件、解決ですね。
(分かりました、場所の情報は今私にも来ましたから近い場所からそれぞれ当たって行きましょう)
(了解しました)
よしっこれでこの事件も終わりで……。
「おっ可愛いネェチャンじゃねぇか?」「俺達とお茶しねぇかい?」「なんならいいとこでも行くかぁ?」「ヒヒヒッまさか嫌とは言わねぇよな?」
「………………」
実際に目にするとあまりのウザさについ攻撃魔法を発動しそうになった私です。
無論この連中にはリエリ必殺の一撃が……。
(リエリ?ご主人様に迷惑はかけないようにって話を貴女がしましたよね?)
(……もっもちろんですよ、ユーリ)
仕方ありません。
ここは攻撃魔法ではなく精神攻撃魔法で片付けましょうか。
「なぁいいだろう?こっちに来いよ……」
私は躊躇なく魔法で答えました。
◇◇◇
ベッドでゴロゴロする事しばらく、ゴーレムツインズが帰還した様だ。
魔法で消していた姿を表したのは二人の美女達だ。
その姿はどこからどうみてもマーブルちゃんと女山賊である。
「「ご主人様。只今もどりました」」
「ご苦労様でした。それでは話してもらってもいいですか?」
気がついた事が一つある。
マーブルちゃんにしろ女山賊にしろユーリとリエリがその自我を担当していると、見た目はともかく雰囲気がかなり変わるんだよな。
例えばマーブルちゃんとか元気はつらつ看板娘って感じがユーリだとどことなくつり目で勝ち気な印象に変わってるし女山賊とか生きてる時にあった時は完全に犯罪者って感じで雰囲気は最悪だった。それが中身がリエリになると出来る女秘書感が凄い事になっているのだ。
中身が変わると外見まで変わるとは、やはり女性って生き物は凄いなぁ。
私なんて魔法が使えても、冴えない感じも貧乏な雰囲気もそのまんまである。
貧乏人なのも事実だ、だって財産の類いなんてゼロですからな。
………っとそろそらリエリ達の話が始まる。
「………っと言う事になり、私達はそれぞれ失踪した人間達が住んでいる家に行き、部屋に侵入してその拐われた当人に変身する事に成功しました」
リエリからの話によると変身した相手の記憶とかも普通に知ることが出来るので、拐われた当人になれた以上、犯人は特定出来たとのこと。
……え?じゃあもう終わりなの?推理も何もおっさんはしてないぞ?。
失踪事件を追っていたアレリアちゃんや冒険者ギルドの人達に申し訳ないくらいのスピード解決である。
まぁ事件に巻き込まれた本人になれて、その記憶も知れるとかってファンタジーな能力持ちがいる時点で推理小説的な展開は無理って事だ。
なら気を取り直してチャッチャと話を進めてしまおう。
「……なら既に犯人に目星が?」
「はいっ既に犯人は分かっています」
やっぱ分かってんだ。
「その犯人は……サハギンです」
「………サハギン?」
「はいっ半魚人の異種族で主に海中に集落を形成する水棲生物です。知能も人間並にあり人語をはなす個体もいる筈です。稀ですが……」
……サハギンねぇ、う~んどっかで見たことがあるような……。
中年魔法使いの記憶力は、興味のない事はとんと記憶してはくれないのだ。美女や美少女の姿とかなら忘れない自信があるのだが…。
あっ思い出したわ……。
「……って、え?サハギン?それってあの湖で…」
見るとリエリもユーリもその通りって感じの顔でニコリッとされた。
美少女と美女って笑うと無敵だよな。
私は今回の事件の真相をゴーレムツインズに聞かせてもらったのだ……。
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