第9話『港町ナトリス』
そこは琵琶湖かって言うくらいデカイ湖が広がっていた。
その近くに1人の中年野郎がいた、白いシャツに革鎧を着込み、黒のズボンにブーツと言う冒険者なのか村人なのか微妙な格好をした中肉中背のおっさん。
そのおっさんは武器をらしい武器も持たずに魚を入れる魚籠だけを持って、モンスターが付近に現れる場所にのほほんと突っ立っている。
そう、私だよ。そんな中年野郎冒険者風味な私は今……。
「ギャアッギャアギャア!」
「いきなり現れて、何をぎゃあぎゃあと言ってるんだよこのサハギンは……」
がっつりモンスターに絡まれていますとも。
私の名前は
前いた町で色々あり、この魔法とファンタジーな異世界を渡り歩いてみるかと思い、ノリと勢いで旅をしているおっさんだ。
三日ほど前に港町ナトリスに着いた私はこれまたノリだけでなった冒険者として冒険者ギルドに登録をしたのだ。
この港町の事を殆ど知らない私でも出来る仕事を探した所、この町の水源となっている大きな湖に行って魚を釣ってきてと言う実に楽そうな依頼を見つけて引き受けた。
釣りは殆どしたことはないが、中年魔法使いのレパートリーの中には釣らなくても魚をゲット出来る魔法とかもあるので余裕余裕って感じでこの三日間は
……今日も湖に魚をゲットしに行ったら、何故か海にしかいない筈のサハギン。
要はマーメイドとかと違う、キモい感じの半魚人である。アレが敵意剥き出しで湖の中から現れたのだ。
確かに港町から少し離れた場所だが、今日までモンスターとか現れた事はなかったんだがな…。
「ギャアガァアアアアアアアアアアアアッ!」
そんな事を考えてるとサハギンが水掻きがある両手を広げて手のひらから水を噴射してきた。
私から見て右方向の地面に当たると地面の土や石をゴリゴリ抉っているので、人に当たると死んでしまいそうな威力であると判断する。
「ギャガアッ!」
サハギンが両手を思いっきり振る。
ウォーターカッター的な攻撃が私に直撃する。
……まぁ私は常に
「ガッガガギアッ!?」
「先に手を出したのはそちらですから……」
二足歩行だけどここまで人外要素強めなら、殺ってもいいかなって思うな。殺るか。
【不可視の刃よ、切り裂け。
スパンッ。
私の魔法はキモ怖なサハギンを首チョンパ。一瞬で絶命させた。
百パー向こうから売られた戦いだったので遠慮なく、しかしなるべく苦しませたりしない魔法をチョイスさせてもらったつもりだ。
「……魚を取って、今日はさっさと町に戻るか。またサハギンに喧嘩を売られるのもイヤだし…」
私は魚を入れる篭を湖に浸して魔法を使う。
【我が力を持って惑わせよ。
私は広範囲の存在に幻を見せる魔法を使った。
後は幻に追い立てられて魚は勝手に集まって来るので、私はゆっくり待つだけでクエストは完了である。
すると私のポケットから二個のビー玉がフヨフヨと浮いて出て来た。
私がゴーレム魔法で生み出した二体のゴーレム、リエリとユーリである。
(ご主人様、時間に余裕があるのなら私達はまた周囲の探索をしたいのですが…それとそのサハギンの死体も吸収しようかと思います)
(もちろん片方は護衛として残ります、もう片方がモンスターを倒してその素材をギルドで買い取ってもらっては如何ですか?)
「サハギンは回りの飛び散った血もキレイにして下さいね……」
このゴーレム達は今は宙に浮き、思念を送ってくるだけのビー玉だが。いざとなると今まで吸収した生物に変身でき、その戦闘力や特殊能力をそのままコピー出来る実にチート臭いゴーレムである。
彼女達は生物の死体なら人間でもモンスターでも吸収出来る、ここ数日の探索で変身出来るレパートリーが増えた報告を何度か受けた。
探索でモンスターと戦って戦闘技術を上げて、モンスターを倒してその死体を吸収し、変身出来るレパートリーを増やし戦闘力も上げる。
そんな感じのサイクルをここ数日続けているゴーレムツインズだ。
「……そして私の事はいいので二人で探索をして下さい。ガイドブックに載っているこの辺りのモンスターなら1人でも対処出来ますから…」
(……どうしますか?リエリ)
(確かにご主人様に今の私達の力で護衛とは厚かましいですね。ここはお言葉に甘えさせていただきます、行きますよユーリ)
(分かりました)
ゴーレムが目の前で相談とかしてるよ。
本当にこの世界のゴーレムって感情豊かで癒される、声が綺麗な女性の声なのでついつい彼女達って女性扱いをしてしまう私だ。
リエリとユーリはビー玉モードのまま何処かに飛んでいった。
まぁあの姿なら奇襲されることもないだろうし、戦う時以外の時は見つかり難い姿でいる方が賢い判断である。
私は篭がどっかに流されて行かない様に見張りでもするか。
それにしても天気だ、思わず背伸びしてしまう私だ。
「……………ううんっ!……眠いなぁ」
何かピクニックとかしたくなってしまうわ。
◇◇◇
それから無事に魚も篭一杯に手に入れ、リエリとユーリも収穫があったと森で仕留めた角の生えたウサギや赤かて1メートルくらいあるアリの死骸を持って来たのでそれらを抱えて私は冒険者ギルドに向かった。
「クエスト完了の報告とこのモンスターの死体を買い取って頂けないかと持ってきました」
私は冒険者ギルドの受付カウンターでスタンバイしているギルドの受付嬢。
もう一度言う、ギルドの受付嬢にモンスターの死体を抱えて行った。
「分かりました。ではモンスターの死体を此方に、アオノさんは確か魚を取ってくるってクエストを受けていましたね、なら篭の中も見せて下さいね」
年頃は十代後半くらいの赤い髪のツインテールが特徴的な美少女だ。名前はシエラちゃん。
以前いた町では受付が強面のスキンヘッドだったからこの世界の冒険者ギルドは冒険者に嫌われるタイプの冒険者ギルドなんだと決めつけていた。
しかし天は私を見捨ててはいなかったんだ。
ありがとうございます、おかげで私はまだ冒険者を続けられそうです神様。
「……はいっクエストの精算が終わりました!全部で金貨二枚と銀貨五枚ですね、報酬をお受け取りください」
ハキハキとした言葉と元気いっぱいの笑顔がまぶしいぜ。若いって素晴らしいな。
そして可愛いは正義。
「ありがとうございました、いただきます…」
日本円で半日程で25000円の稼ぎである。前の世界での日当としてなら私の前職よりも遥かに高い。
まぁモンスターは町の外なら大抵の場所に出るので基本町の外での仕事は命掛けな上に収入は安定も何もあったもんじゃないのが問題なんだけど。
ゲームやラノベの冒険者って大抵そんな感じだしな。
むしろ安定してる冒険者ってそれ冒険してないだろうって私的に思ってしまうわ。
まぁ私も命は1つ、ドブに捨てる様な真似はしたくないのは同じだけどな。
「すみません、それと明日もクエストを受けようと思うんですが今日前もって受けておくことって出来たりしますか?」
「はいっもちろん出来ますよ?毎日クエストを受けにギルドに来るのも手間ですし、クエストは一個一個、個別に受ける必要はありませんから。但しっ!まとめて受けてクエストの期限を守れなかったりしたら普通に失敗として冒険者の方の評価は下がりますので自身の能力やパーティーメンバーとの相談が大事ですよ?」
確かに、冒険者はいつも自身の実力を念頭に置いてクエストを選ぶものだ、そこを間違うと本当に死んでしまうのが冒険者なんだと近頃認識した私である。
「そうですか、なら今日と同じクエストを受けようかと思いますが……」
「フフッこの依頼って湖にしかいない魚を食べたいって人達のクエストだから殆ど毎日貼り出されていますから問題ありません!また大量だったら喜ぶ人も増えると思いますよ!」
「……分かりました、なら明日も頑張ってみますね…」
「はいっなら受付はしておきますね、頑張ってくださいねアオノさん!」
シエラちゃんにそんな事を言われたら俄然やる気がわいてきたわ。
静かに情熱を燃やす私だ。
それから冒険者ギルドを後にした私は仕事終わりなのだが、まだ昼過ぎくらいなのでどこかで昼食でもと考えていたのだが。
不意に町の片隅に視線を向ける。
「…………………」
そこにはガリガリな人達がボロ布みたいなのを身につけてうなだれていた。
……この世界でもいるんだよな、やっぱり。
(彼らはホームレスですね)
(この港町は人の出入りも多く比較的豊かな町ですそれ故に貧富の差が大きく現れているんです)
私が前にいた世界でも、豊かな国だ先進国だといくら言っても住所不明な人達は存在した。
世界が違ってもそう言う人達が出て来てしまうのが人間の社会なのかもな。
思わずため息が出てくるよ、なんとなく情けないと言うか、元は社会人としても切なくなる。
見るとまだ小さな子供までいるしさ……。
彼らの身の上など知らないからあんまり適当な事は言えないけどさ。
しかし彼ら彼女らをどうにかするには魔法じゃなくて大金が必要だ、魔法使いだが貧乏な冒険者の私にはどうする事も出来ない。
……どっかに儲け話とかあったりしないかと考えながら私はその場を後にした。
◇◇◇
三日後、私は湖に魚を取りに行ったり、ゴーレムツインズ達に新しい魔法を付与して戦力アップさせたりと色々していた。
冒険者ギルド内にて、今日も無事にクエストも終えて、財布の中身もそこそこって事で港町のどこかにありそうな魚料理屋にでもと考えていた。
ここの冒険者ギルドって酒場が併設されてないんだってさ……。
そんな時である。
バタンッ!。
ギルドの両開きの扉を結構な勢いで開ける者がいた、冒険者ギルドの中であーだこーだと話していた多数の冒険者もそちらの方に注目。
中に入って来たのはかなり美人な女性であった。
長い金髪に碧眼、整った顔立ちとボンッキュッボンなスタイル。
年頃は二十代前半のブロンド美女ってヤツだな。
衣服はこの港町で生活する人々に比べかなり上等な部類に入るであろう、まるで中世を舞台にしたロープレゲーに出てくる貴族とかが着ている様な、所々に装飾がされた物で、まさにファンタジースーツとスカートって感じのヤツ。
美人秘書をファンタジー仕様にしたみたいな?目付きがキリッとしてるから出来る女感が半端じゃないな。
そんな美女の登場に、ギルドの奥から三十代中頃の茶髪のイケメンが出て来て対応する。
てっきりギルドマスターとか偉い人が出てくると思っていた、だってあの美女、多分だけど貴族かなんかだと思ったからだ。
私がよくしていたゲームとかで、あんな感じの美女は貴族令嬢とか女貴族って立ち位置にいると相場が決まっているのだ。
……まさか女山賊とかじゃないよな?私は女山賊にはあまりいい思い出がないんだよなぁ。
すると美女とイケメンはギルドの奥の方にある密談の為に用意された一角に向かった。
いわゆる密談スペース、何でも防音の魔法を発動する魔道具ってので音もれをしないようにしてるんだそうである。
【言霊を我に届けよ。
「ハイレル、例の失踪事件について、そろそろ分かった事はないのか?」
「すみませんアレリア様、あの事件ですが失踪するのが若い女性である以外なんの共通点もなく、ギルドでも冒険者を雇って夜間に警備をさせたりもしているのですが……」
「夜間の警備は父上が兵士にやらせているから、冒険者は必要はない。それよりも失踪した女達の足取りを追えていないのか?」
「そちらについてもさっぱりです……やはりアレリア様のお父上、領主マレクセイ様の力を借りるしか……」
「………言うな、父上には私の力で事をおさめて見せると既に啖呵を切っているのだ」
「しかし……」
ちなみに私がその防音の仕掛けを無視して離れた彼女達の会話を聞けるのは私の魔法の効果です。
要は盗み聞き魔法だ、ショボい効果だしあんまり多用したくはない魔法である。
そんな魔法を使ってまでアレリアちゃんとやらの話を盗み聞きする理由、それは一つだ。
何とか…アレリアちゃんとお近づきになりたい。
やはり貴族の御令嬢だったよアレリアちゃん、まぁ貴族とかどうでもいいがあれだけの美女が関わるクエストなら、何とか自分も参加して金髪美女に良いとこ見せてあの男は何者なのっ!?的な感じから一気に有能な魔法使いをアピールとかしたい。
やはり出来る女は出来る男が隣にいるのがしっくりくる。
しかしシエラちゃんの好感度も少しずつ稼いで遂に名前まで呼んでくれる所まで来たのに……。
まさかこの期に及んでこれ程の美女が現れるとは。
おっさんは……。おっさんは……どっちを選べばいいんだぁあああああああっ!。
美女と美少女を前に私の心は激しく迷う。
(リエリ、ご主人様から、混乱の思念が溢れてますよ?何かにパニックを起こしている様です)
(……ユーリ、恐らくご主人様は落ち着くとしばらく自己嫌悪……ではなく少し1人になりたいと言い出すかもしれません。その時は何も聞いてはいけませんよ)
(?………分かりました)
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