第5話『山賊退治』
ベッドでのゴロゴロタイムを終了して、そろそろいい時間だと思い冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入ると何か二十人くらいの一団とその中心でこの冒険者ギルドのギルマスのジーさんとマッチョなオッサンが話をしていた。
「……本気か?いくらたかが山賊相手とは言え…」
「仕方ないさ、最近の山賊からの被害が……村の若いのも怒って……」
何やら物々しい雰囲気である、何かあったのか?。
取り敢えず近くにいるマッチョなギルドの受付のスキンヘッドに話し掛ける。
私の妄想するギルドの受付には美女がいるって妄想を破壊してくれやがった野郎である。
「今晩わ、クエストの完了を報告しに来たんですけど何かあったんですか?」
「……ん?ああっお前かアオノ、今日も無事にクエストを終わらせたか。アレか?あれは山賊を退治するかどうかを話し合ってるのさ」
スキンヘッドは話をしながらも私のクエストの精算をするぞっと言うのでギルドのカウンターに向かう。
日輪花とマクマ草をバックパックから取り出してギルドに買い取って貰う。
「ほうっどっちも状態がかなりいいな、まるでついさっき取ってきた見たいだ」
「ありがとうございます。大分時間が掛かったので出来るだけ早く町に戻れる様に急いだかいがありました」
………嘘である。
本当はゲットした後にちょちょっと
ユーリやリエリからはそんな事を理由に時間を操る人間は恐らくこの世界にもいないとか言われた。私がいるじゃないか。
「……よしっ精算が終わったぞ!日輪花は二輪で金貨二枚、マクマ草は金貨一枚と銀貨八枚だ」
合計で金貨三枚と銀貨八枚、約三万八千円である。
1日の日当とすれば悪くないと感じる私だ。
……だって安月給だったんだよ以前の仕事は、仕方ないじゃん。。
まあ身の危険とか諸々の事情を鑑みると意見は割れるだろうけどな。
「ありがとうございます」
お金は大事だ。しっかりと受け取った。
「……それであの野郎の集まりだが。実は近頃この辺りを縄張りにしてる山賊の活動が近頃活発でな、この町の人間にも被害が出ているらしい」
山賊。この世界に来たときに出会った三人が思い浮かぶな、野郎二人の面影は既にボンヤリしているが女山賊については今も鮮明に覚えている。
身長は百六十センチ程の茶髪で青い瞳が印象的な白人系の女性だった。スタイルも良かった。
殺されかけたけど。
そんな彼女の死体を吸収した私のゴーレムは彼女に変身出来る様になったのには驚いた。
そんな能力が我がお手製のゴーレムにあることまでは事前にインストールされた魔法の知識にはなかったんだよな。
……って話がそれた、今は山賊である。
「なるほど、被害が……」
「ああっそれで村の若い冒険者が山賊をどうにかしようって集まっていてな。しかしどいつもコイツも駆け出しに毛が生えた程度のヤツばかりでギルマスとしても考えこんでるのさ」
「実力のある冒険者はいないんですか?」
「もともとこんな田舎の町にそんな実力者はいないな。多少腕が立つのもいるが生憎出払ってる」
なるほど、冒険者って日帰りのクエストじゃ金になるのも少ないから何日かかけていく報酬が高いクエストに行く冒険者の方が多いんだろう。
見ると話がまとまったのか。ギルマスと名も知らぬオッサンは別れた。
オッサンと共に背後にいた二十人の男連中もギルドを出ていった。
スキルヘッドがギルマスと会話を始める。
「どうなりました?ギルマス」
「ああっ若いのだけだと心配だからってマルコフがついて行く事になった。山賊の根城には夜襲を仕掛ける事になった」
「マルコフって酒場のマスターですよね?」
「アイツは元は冒険者だ。新米連中よりは遥かに強い」
どうやらこちらはこちらで話があるようだ。
山賊なんて関わるのも面倒なので私はカウンターを離れた。
何故ならさっきの会話であの出ていったマッチョは酒場のマスター。つまりあのオッサンはマーブルちゃんのお父さんって事だ。
見るとマーブルちゃんはいつもよりもどことなく元気がない。
やはり実の父親が山賊退治に行くって事になって心配しているのだろう。
しかしそれでも健気に働いている所もポイントが高いな、やはり美少女はどんな立ち位置でも輝くものだ。
幸せの中で微笑む時も不幸の中でガクブルするのも同じくらい見るものを楽しませてくれる。
野郎と話してばかりなのも勘弁だし、ここはマーブルちゃんとのトークをさせてもらう為に話しかけてみるか、おっさんだって男なのだ、若くて綺麗な美少女との会話のチャンスとかは積極的に狙って行く私だ。
「すみませんマーブルさん。もしかして先程出ていかれた方は……」
「貴方は、確かアオノさんでしたね?いつもウチを贔屓にしてくれてありがとうございます」
贔屓しているのに名前すら微妙な感じだな、ちなみに贔屓してる理由はこの町に来て一週間で町の飲食店を全て回った結果、全ての看板娘の中でこの酒場のマーブルちゃんが一番可愛かったからです。
「ここの酒場はお酒だけじゃなく料理も美味しいからつい足を運んでしまいますね」
「フフッそうですか?父も喜びます、それと先程の質問ですがさっきギルドを出ていった先頭の男の人が私の父です」
「なるほど、やはり心配ですか?」
「………はい」
「…………………」
これは私も山賊退治に同行して手柄を上げる事でマーブルちゃんの好感度的な物を上げるべきかと考えるが……。
「けどっ他にも冒険者の方が沢山いますし、お父さんも元は冒険者で今も腕っぷしには自信があるって言ってましたし、そこまで心配はしてないんですよ?」
「そうなんですか?」
「はい!」
じゃあ何でそんなに心配そうにしてたのってなる、まさかその他の冒険者連中の中に心配してしまう男子がいるとか?……まさかな。
しかしどうやらマーブルちゃんの好感度目的で今さら山賊退治に参加するのは手遅れな様だ、冒険者連中も出ていったし、夜襲とか言ってたから今夜にでも仕掛けるのだろうしな。
仕方ない。山賊は諦めて今後も冒険者ギルドに小まめに顔を出してクエストをこなす。そしてマーブルちゃんかこの酒場関係のクエストを積極的にこなして少しずつでも覚えをめでたくするのだ。
この一週間での活動で話しかけても邪険にされたりしないくらいには信用してもらっている筈だし、今後も気長にしていこう。
このリベロの町で出会ったヒロイン候補であるマーブルちゃんに良いとこを見せて惚れさせるのもこの町で冒険者をしている私の目的だったりするのだ。
「そうですか、少し元気がない様に見えたので心配になってしまい余計な事を聞いてしまいました、すみません」
「そんな事ないですよ!心配してくれてありがとうございます。けどそれよりもここは酒場なのでご注文の一つでもしてくれた方が嬉しいですよ?」
「分かりました。なら………」
どうやらこんなオヤジ相手でも多少言葉を重ねる事で気が紛れた様だ。美少女の看板娘が営業開始である。
私はそれから夕食を酒場で済ませる事にした。
◇◇◇
そして翌日の昼頃に冒険者達は帰還した。
その数は半数程に減り、顔には疲弊の色がありありと……聞かなくても分かるわ。これっ完全に失敗してるよ。
ギルマスのジーさんが狼狽えながら駆け寄る。
「おっお前達だけか?何があった!?」
冒険者の男が答える。
「予想外だ。山賊の中に何人か魔法使いがいた。連中の規模もこっちの予想よりも人数が多くて返り討ちにあったんだ」
「魔法使いだとっ!実践で魔法を使える手合が相手じゃあ駆け出し冒険者がいくら集まっても意味がない。残りは全滅したのか?」
ちなみにマーブルちゃんのお父さんの姿はない。ギルマスのセリフにマーブルちゃんの顔から表情が消えた。
冒険者がギルマスの質問に答える。
「少なくとも五人は殺られた。残りは捕まっていたからどこぞの奴隷商に売る気かもしれないな、俺達はマルコフさんのおかげで逃げる事が出来たんだ。彼も捕まった」
どうやらマーブルちゃんのお父さん生きてるっぽい。多分だけどな。
残りの話は冒険者をギルドの医務室に運んでから聞くって話になってギルマスとボロボロ冒険者達はギルドの奥に消えていった。
私はカウンターの近くにいたのだがスキンヘッドがこちらに来て話す。
「厄介な事になったな、山賊どもは捕らえた連中を人質にでもしてくるかもな。そうなりゃあ山賊退治のクエストの難易度ははね上がるぞ……」
「それは大変ですねそれに先程の冒険者が奴隷商がと言う話もありましたが……」
「完全に拐われた人間が相手でも犯罪者から平気で買い取るゲスな奴隷商人はどこにでもいるもんさ、労働奴隷に男を。性奴隷に女を求めるのさ」
流石はファンタジーな世界だ。女に縁のない、残念な顔面偏差値の連中にとって最後の頼みの綱である奴隷システムが完備とは。
私も人生のメインヒロインをゲットする目的がどうしょうもなくなればご厄介になる可能性は否定出来ないから奴隷システムの存在は覚えておこうかな。
………しかしマーブルちゃんルートが不可能っとかって話ではない。……弱気になるな!むしろ言い方は悪いがチャンスであると言えるのが現状である。
だってここでお父さんとか助けて山賊をドカンと退治したら彼女のおっさんへの好感度はうなぎ登りの筈だからだ。
……考えて見るとその可能性が案外いける気がしてきたな。
「……すみません、ガイスさん」
おっこのタイミングでマーブルちゃんが何故かスキンヘッドに話かけてきた。
私も素知らぬ顔で会話に耳を傾ける。
「………親父さんの事は済まなかった。山賊の規模の調査不足はギルドの責任だ、俺はギルマスじゃねぇが謝る」
「いえっお父さんも元は冒険者です。危険は承知の上でしたから。だけどこのまま何もせずにお父さんの無事を祈るのは違うと思うんです」
「……どういう事だ?」
「私の家にも多少は蓄えがあります。だからお父さんと他に捕まった冒険者の救出を依頼したいんです」
「それはかなり高くつくぞ?そもそも冒険者がさっき失敗したクエストを受けるとは……」
ここだ。ここで一歩を踏み出せるのが主人公だろ。行けっ
「ガイスさん、マーブルさん少しいいですか?」
二人はそろってこちらを見る。思えばスキンヘッドの名前とか初めて聞いた、ッイヤ最初にあったときに名乗ったかもしれないが野郎の名前とかあれだし……忘れてても仕方ないよな。
「ん?どうしたんだアオノ」
「すみません、私達は今大事な話を……」
お呼びでない感が半端じゃないな。
しかしここで引き下がってはマーブルちゃん攻略など夢のまた夢なんだよ。
故にここはずいっと行こう。ずいっとな。
「その山賊ですが、私に任せてはくれませんか?」
「…………は?」
「…………え?」
二人は何を言い出すんだコイツはって顔をしている、まぁ採集クエストしかしてこなかった冴えないおっさんが山賊をどうにかしますと言い出したんだ。
変に思うのも仕方がない、私の見た目って百パー荒事に向いてるとは思えないからな。
「すみません二人の話が聞こえてきまして」
「………アオノさん」
「アオノ、相手は山賊だ。それも平気で人も殺すな、話し合いなんてのは不可能だし人質までいるんだぞ?採集クエストしかしていないお前にそんな危険な連中の元に行かせるわけがないだろう」
スキンヘッドの言葉を正論だ、いくら全ては自己責任なライフスタイルの冒険者でもギルドなんて組織があるんならせめて無謀なクエストに冒険者が行こうとするなら一言くらいは何かあるだろうと思った。
しかしここは引けないのだ。マーブルちゃんの好感度がかかっているから。
「この町では採集クエストばかり受けて来ましたが、私も多少は荒事に経験があります。ですのでどうか一つ任せてはくれませんか?」
「多少といわれてもなぁ……」
「マーブルさんの依頼ですがクエストの報酬は今回は入りませんから、ただ私は一人で動きたいと考えています」
「ッ!?ひっ一人でですか!?それはいくら何でも……」
「ああっそれに報酬が要らねぇってどういう事だ?まさかボランティアだとでも言うのか?」
似たようなもんだな、マーブルちゃんの好感度欲しさにする下心ありありのボランティアだ。
「……まぁそんな感じですね、どこまでやれるかは分かりません。その場に行ってまだ生きている人は救出したいと考えています」
「相手には魔法使いもいる。一人でなんて自殺行為だぞ」
反発が強いな、やはりラノベ主人公みたいに話がトントン拍子には行かないか。
ならここは引き下がって勝手にやってしまうか?どのみちギルドからの報酬は要らない訳だし。
「……しかしその口振りからすると、本気で何か秘策があるのか?あんたくらいの歳で冒険者をやって生きてるなら若いだけのバカとは違うのかと思うが……」
おっ流石強面のスキンヘッド、会話の裏を読んでくれて助かる。
「……はいっ詳しくは言えませんが、私一人なら山賊もどうにか出来ますし人質も恐らくみんな救出出来ると思います」
「……………」
こちらをじっと見てくるスキンヘッド、自分の歳がいってるから勝手な勘違いをされたけど今回はそれに乗っかる私だ。
「………ガイスさん?」
「分かった、アオノ。山賊退治はまかせる」
なんかスキンヘッドがやけに物分かりがいいのが気になるがおかげてクエストは受けられそうである。
「アッアオノさん!?危険ですよ!しっ死んでしまうかも……」
「冒険者ですからね。覚悟の上です」
嘘です。けれどここでこの嘘を言えないと……きっと私はこの世界で何も出来ない。
自分で自分をこれ以上嫌いになりたくないってのもここで一歩踏み出す理由である。
「マーブルさん、約束します。必ずマルコフさんを連れて帰って来ますね」
「ッ!?……………アッアオノさん……」
もしもマルコフさんが死んでたら……あれだな死者蘇生の魔法とかで無理矢理にでも万事解決してやる。
ボランティアなのでクエストの受注手続きとかは一切無しだ、私は山賊退治に出発した。
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