第6話『山賊退治(2)』

山賊がいるのは異世界転生で最初にいたあの森である。


根城の特定には例によってガイドブックを開いて山賊のアジトの場所を教えてっと念じると地図にマルで記されるので、そこに向かっている途中だ。


移動は飛行の魔法と姿を消す為に異空法衣の魔法を発動する。


隠密行動にこれほど向いている魔法のコンボだ、わりと便利。

空を行くと三十分程で根城の真上に来た。


見えるのはただの洞窟で左右に見張りが立っている。


その風貌はまさに山賊って感じで共に野郎である。


「……さてっ確か山賊の規模はかなり多いと言う話だった筈ですが、ここからでは洞窟の内部までは分かりませんね」


(ならばユーリか、リエリのどちらかを潜入させて貰えれば中の様子を思念でお伝えします)


(ご主人様の魔法で我々の姿は見えません、更に物体を透過する事も出来るのでまず気付かれる事はないかと…)


確かに、人質の数も知りたいが私が直接行くのは普通に怖い。


ここはこのビー玉ゴーレムちゃん達を信じて見るか?。何気にこの一週の冒険者生活でこの子達にも愛着の様なものを感じる様になってきた私だ。


おっさんがチョロくてもだれも攻略してくれないんだけどな。


「分かりました。バレる事はないかも知れないですが、この山賊達の中には私と同じ様に魔法を使う魔法使いがいるらしいですから、私の魔法も絶対ではありません。もしも危険と判断したなら直ぐに退避してくださいね?」


(………恐らくご主人様の魔法に並ぶ様な魔法使いが山賊になることはないかとユーリは思いますが…)


(リエリも同じ意見です。ご主人様の魔法の腕に並ぶ存在が果たしてこの世界に本当にいるかどうか……)


……何か自分が生み出したゴーレムにヨイショされると、私が深層心理で誰かに持て囃されたいって考えているんじゃないかと思ってしまう。


そんな事はない、そんな事は深層心理じゃなくて日常的に考えている。


美女や美少女にチヤホヤされたい。


……バカな事を考えるのはここまで、とにかく作戦は決まった。


今回はリエリに潜入を任せる、しかし全くおんなじビー玉モードだからいい加減見分けをつける為にどっかに違いを出して欲しいな。


別の人間の女性の死体があれば……いかんね、この思考はアウトな感じがする。


そのうちどうにかしようかなっうん。


そして待つこと数分後にリエリから連絡が入った。


(ご主人様。今この洞窟にいる山賊は全員ではありません、恐らく日のあるウチに獲物を探して何割かが広い範囲に散っている様です)


「……分かりました。では夜になって山賊が全員集まってから人質の救出と山賊退治を開始します」


(はいっそして人質は五人で疲労が見られますが命に別状はありません、それと数人の死体が洞窟のゴミ捨て場の様な場所に身ぐるみを剥がされて捨てられていました)


「………そうですか」


やるせないな。分かっていたし覚悟もしてたつもりだけど。


やはりまだまだ私は安全だけが取り柄の島国から来た平和ボケしたオッサンなのだろう。


(そして恐魔法使いと思われる人間も数名いました)


恐らく根城の守りとして残されているんだろう。


分かっていた事だが山賊は明るい間に行動するんだろうな。モンスターが当たり前の様に出てくる世界だし暗くなると活動するのは彼らであっても危険って訳だ。


(……ご主人様どうかしたんですか?静かになられましたが)


「いえっ出来ればその散らばった山賊の被害者が出る前に山賊をどうにかしたいのですが……」


下手に動くと山賊に動きを気取られる可能性がある。悔しいがここは被害者が出ない事を祈るしかない。


もうっ昨日夜襲されたくせにどんだけバイタリティ高いんだよ、少しは用心して引きこもれよ。


(…………ユーリはご主人様の意思は理解しました)


(…リエリもです)


「……え?」


何やらゴーレムちゃん達が意識も新たにした様子である、彼女(私的には女性として扱っている、だって声は普通に女性だし)達の心境に何か影響する事でもあったのか?。


(夜の時間迄待つ必要はありません、ここはリエリを山賊の根城に待機させてユーリとご主人様が散らばっている山賊を倒して来ればいいのでは?)


「しかし下手に動くと向こうに気付かれる恐れがありますよ?」


(その時はリエリがいれば山賊も魔法使いも蹴散らす事は容易かと、そしてご主人様とガイドブックがあれば外の山賊はユーリが全滅させます、恐らく小一時間も掛からないかと)


「……………」


小一時間か……山賊を一々捕らえて村に運んでいたら無理な時間だ。転移テレポートの魔法も実は使えるが、ユーリはその事を知らない筈だ、だってこの世界に来て使った事はまだない魔法だから。


つまり時間的に考えると山賊はその場で殺すって暗に言っている訳だ。


まぁ夜襲を仕掛けたのは村の冒険者である、実力が足らなくて返り討ちって話だったからそこは何も私からは言えない。


しかしそもそもの話、山賊なんて輩は以前あった見たいに、出会ったら問答無用で殺して奪うな連中だろうから極端な話、自分達が突然の不条理に晒されても文句を言える立場ではないだろう。


要は今回山賊連中に起こる不幸は当人達の日頃の行いの結果と言う事で一つ勘弁していただこうかなと。


私も一週間とは言えお世話になった町の人間と出会い頭に殺されかけた人間のお仲間、どっちの命に重きを置くかなんて分かりきっている。


とまぁごちゃごちゃと考えた末だが、私達は行動を開始した。


◇◇◇


相変わらずの空の移動で数分で山賊数名からなる一団を発見。


(いました、ではご主人様ここはユーリにお任せを……)


「…少し待って下さい」


(……分かりました)


私は魔法を一つ発動させた。


【我が力を持って、あの者達の心を見通す。心意看破マインド・ハック


これは対象者単体又は複数人の心の中を読む事が出来る魔法である。

これで彼らの思考を読み取り説得出来るかいなかの最後の確認をする。


「……………」


「………」


「…」


(ご主人様?)


「………いえっ」


彼らの心の中には昨日の冒険者をどの様にいたぶったかとか出会った人間の命を奪う方法くらいしか考えていなかった。


これはもうっどう考えても手遅れな手合である。


……………但し。


【我が力を持って意識を奪う。気絶魔法スタン・マジック


ドサドサドサッ。


私の魔法で気絶した山賊達である。

更に…………。


【我が力により新たな僕をここに。創造生物召喚サモン・クリエイトモンスター


私は召喚の魔法で宙に浮く宝箱みたいなモンスターであるミミックを召喚した。

ミミックが気絶した山賊に近づき宝箱を開くと山賊がミミックの中に吸い込まれていった。


(ご主人様、これは……)


「あのミミックは私の魔法で無から創造した特別なモンスターです。だから生み出す際に色々と役立ちそうな能力を付与してから召喚されるんですよ。今回のミミックには『宝物庫アイテムボックス』と言う特殊能力アビリティを与えてから召喚しました」


(……………)


宝物庫。要は中にいくらでも入れられる魔法の箱って訳だ、ラノベならお馴染みである、今回は生きてる人間も放り込める様にしてあるのでこれで残りの山賊も、どれだけいてもこのミミックに入れられるぞ。


(……ご主人様、彼らを生かすのですか?)


「偽善なのは分かっています。確かに私には倒す手段も殺す手段もいくらでもあります、しかし無傷で捕縛する手段もいくらでもあるのなら、私はただの偽善でも後者の手段を取ります。私はそう言う人間ですから」


山賊連中は昨日の冒険者意外にも相当数の人々の命を奪っているだろう、ならここで命を取らなくても町へ連れていけばほぼ死刑確定だろうさ。


それも分かっていながらこの場でどうこうするのは気が引ける、だから殺さないってだけだ。偽善とはそう言う事である。


それからは山賊を発見、気絶魔法、ミミックに収納するの繰り返し。


一連の作業を何度かすると、本当に小一時間も掛からず外に散らばっていた山賊をガイドブックで見る限りだが全滅させた。


(ご主人様、これでは私が一緒に来た意味がありません)


仕事が無さすぎて部下に不満が溜まってる時みたいになってしまった。


人に仕事をさせるのが下手な私だ。今度料理でも教えてあげたら喜ぶか?。


まっ以前住んでいたお国柄が出るのは仕方ない。


思考を切り替えて根城の山賊の対処について考えようか。


「ハハハッすみませんなら山賊の根城では何かしら働いてもらおうかと思います」


(………はい)


うーん、ついたら気絶魔法で速攻をかまそうかと考えていたのに、仕方ない。ここはビー玉ゴーレムズに頑張っていただこうか。


空をどんどん進む。

大分、飛行フライトの魔法にも慣れてきてスーパーマンさながらに飛んでいく。



山賊の根城に到着し、ビー玉モードのリエリに何か山賊に動きがなかったかを尋ねる。


(リエリ、根城の中の山賊に何か変化とかありましたか?ガイドブックを見ながら来たので更に外に出て行った山賊はいないと思いますが…)


(いいえっ山賊は相変わらず根城の中で酒をあおったりしています。魔法使い達もリエリに気付くこともありません)


魔法使いって魔法で周囲の確認とかしないのか?侵入されても魔法使いが誰も気付かないとか、最悪直ぐにバレて山賊と真正面からバトルも考えていたからかなり拍子抜けだな。


(……いやっまさか気付いていながらあえて泳がせてる可能性もありますね、リエリ気を抜かないで……)


(……ん?魔法使いの酔っ払ったのが他の魔法使いにくだをまいていますよご主人様)


「………………」


(………………)


魔法使いも飲んでんのかい!。

本当に山賊連中は余裕があるな、それともそれくらい神経が図太くっいやおかしくないと山賊なんて出来ないって事か?。


少なくとも彼らをとは分かりあえる気がしないし、する気もないからいいけど。


取り敢えず中のリエリに作戦(笑)の説明をするか。


(リエリ、貴方は人質を守って下さい。私とユーリで山賊達は無力化しますから)


((………ご主人様?))


(………山賊のボスは残しますから)


本当にこの異世界のゴーレムってこんな感じなのだろうか、自己主張が強くてビックリだ。

私達は姿を消したまま山賊の根城である洞窟の前に着地する。


別に姿は消したままでも攻撃出来るからこのままやってしまおうかな。その方がリスクも少ないしさ。


【我が力を持って意識を奪う。気絶魔法スタン・マジック


見張りの山賊が無言で倒れる。

複数の相手に、同時に、バンバン使える気絶の魔法って超便利だよ。


(…………………)


ゴーレムの不満な気配さえなければな。

さてっとそれでは気絶の魔法で魔法無双でもしようかとした時である。


「うゎあああああああっ!?」「しゃっ大影虎!?なんでいきなりあんなのが…」「知るかよ!突然洞窟の奥に現れやがった!」「お頭ー!魔法でどうにかしてくださいよ!」「無理言うなっ!クソッ!おの糞虎がぁっ!少し前にいなくなったと思ったからこれからは自由に動けると思ったのに……!」


何やら騒がしい連中がゾロゾロと出てきたな。

なんとなく隣のビー玉に視線を向ける。


(………あれはリエリがこの前吸収した大影虎シャドータイガーに変身して威嚇した様です)


(この辺りの生き物で大影虎に勝てる者はいないので少し脅せばより人質が安全になると思ったのですが……人質が泡を吹いて気絶しました)


「(当たり前です)」


これはおふざけなのか天然なのか、本当にこの世界のゴーレムって性能高いよ。


まぁいいか。もうここまで来てしまったらサクッと終わらせてしまおう。


【我が力を持って意識を奪え。気絶魔法スタン・マジック


二十人くらいいる、多いので頭一人を残して気絶させてもらう。問答無用で気絶させるだけの魔法だが事情を理解出来ない向こうからすれば恐怖しかないだろうな。


ちなみに頭が誰なのかはリエリに特徴を聞いていたので直ぐに分かったのだ。なんでもドレッドヘアーの大男だそうだ。


更に召喚してた異空法衣の魔法で見えなくしているミミックが気絶した山賊を収納して頭の目の前から手下が一人残らず消える。


倒れた子分がドンドン消えていくのだ。正に悪夢の中にでも放り込まれたもんだろう。


「なっ何だよこれっ!?なんなんだよぉおっ!助け、助けてくれぇーーーー!」


聞くに絶えない声色で悲鳴を上げる強面ドレッドだ、やたら大きな声なのでうるさいな。


さてっそろそろ出て行くとしますか。


「助けなんて貴方に来るわけないでしょう?山賊の頭さん」


「ッ!?なっ何者だテメェッ!。どっどっから現れやがった!」


「………答える必要はありませんよ。リエリ、ユーリ姿を見せてあげなさい」


((………はい))


私の言葉を聞い二体のゴーレムが姿を現す。

後方は既に大影虎として現れてるが私の隣のユーリも大影虎の姿で出て来てもらう。


これならバカでも一目で私が手引きしたと分かるだろう。


「なっ!?ま、まさかお前が……!俺の山賊団になんのつもりだコラァッ!」


なんのつもりって……コイツら人殺しの犯罪者って自覚とかないのか?イカれてるね。


「私は昨日、貴方と貴方の手下達に返り討ちのされた冒険者と同じギルドに所属する冒険者ですよ。貴方達を始末しに来た理由は……理解出来ますよね?」


「ヒッ!」


流石に冴えない見た目の塩顔でも隣に平然と大影虎を従えているのだ、ドレッドも無意味に噛み付く様な真似をするほどバカでもなさそうだ。


「まっ待ってくれ!アレは俺じゃなくて部下がやった事だ……俺は何も指示はしていない」


「…………」


あ?何を言ってんだこのドレッド野郎、頭が指示してないとかどの口が言ってんだよ。


「そっそれに俺は魔法も使えるんだぜ!?生かせば必ず役に立つ!どうだ!?アンタもただ者じゃなさそうだし俺と組まねぇか!?」


「お断りします」


即決でノーだよこの野郎。


「なっ!?何でだ!?アンタのその力と俺が組めば田舎の冒険者ギルドじゃ稼げない大金が手に入るぜっ!?それに……」


言い訳のレベルが酷いな、ごちゃごちゃとうるさいし。


悪いが私のこの魔法って力の使い道は、実はとっくに決まってるんだ。


「私の力は、とある方からの貰い受けた物です。故にこの力はその方と自身に誇れる使い方しかいたしません。貴方の様なゲスの力とはその重さが違うんです」


………ちなみにメインヒロインゲットの為に使うのも十分に自身に誇れる使い方である。誰が何と言おうともな。


自身の才能云々って話はこの際置いておく、殆ど貰い物見たいなもんだ。


この魔法はきっと………誰かの手助けをする為に与えられた『機会チャンス』そのものだと。

そのくらいに考えておけば、容易に道を間違える事はないと思うんだよ。


「ふっふざけんなぁあ!エアロバレッド!」


「………終わりです」


【我が敵に風の意思を示せ。青嵐ストーム


ドレッドの風の弾丸が打ち出される。


私の魔法の風は青い光を帯びながらその魔法の弾丸をぺしって弾き飛ばした。


「…………え?」


すっとんきょうな声を上げる山賊の目の前で更に勢いを増していく風はまるで大気の爆弾の様に膨れ上がり……。


ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!。


「ぎゃっぎゃああああああああああっ!?」


ドレッド野郎を飲み込んだ。コイツには手酷い仕打ちくらい許されるだろう。


「部下の分まで罰を受けなさい。それが悪行で頭を張った貴方の責任だ」

















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